障害者虐待の5類型とは?具体例と通報の基本をわかりやすく整理

本人と支援者が同じ目線で対話するイメージ。「障害者虐待の5類型」の見出し。
アイキャッチはChatGPTで制作したイメージです。実在の人物・施設を示すものではありません。(画像を押すと拡大できます)

第1章|障害者虐待防止法とは

障害者虐待防止法は2012年10月1日に施行され、虐待の予防・早期発見、本人の保護や自立、養護者への支援を通じて権利と尊厳を守る法律です。障害者手帳のない人も対象になり得ます。(出典:障害者虐待防止法第1~3条、厚生労働省・施設向け手引き(令和6年7月)・5頁、厚生労働省・自治体向け手引き(令和6年7月)・3頁)

虐待を行う主体は、①現に本人を養護する家族などの「養護者」、②障害福祉施設・サービスの業務に従事する「障害者福祉施設従事者等」、③雇用する事業主や事業主のために労働者に関する事項を扱う「使用者」の3区分。この主体3区分と、行為の5類型は別の分類です。養護者は親族に限らず、使用者には国・地方公共団体を含みません。(出典:障害者虐待防止法第2条)

第2章|障害者虐待の5類型と具体例

以下は施設従事者等についての条文の要約と、国の手引きに掲載された具体例です。(出典:障害者虐待防止法第2条第7項、厚生労働省・施設向け手引き(令和6年7月)・5、8~10頁)

①身体的虐待

けがを生じさせる、またはそのおそれのある暴行や、正当な理由のない身体拘束。例は、殴る・蹴る、職員の都合で身体を押さえつける行為です。

②性的虐待

本人へのわいせつな行為や、わいせつな行為をさせること。例は、性器への接触、性的行為の強要です。

③心理的虐待

著しい暴言、著しく拒絶的な対応、不当な差別的言動など、著しい心理的外傷を与える言動。例は「施設から追い出す」と脅すことです。

④放棄・放置(ネグレクト)

衰弱させるような著しい減食や長時間の放置、他の利用者の暴行等の放置など、養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。例は、健康を悪化させるほど水分補給を怠ることです。

⑤経済的虐待

財産を不当に処分するなど、本人から不当に財産上の利益を得ること。例は、年金や預貯金を無断で使うことです。

施設従事者等についての条文を軸に、身体的・性的・心理的・放棄放置・経済的虐待の意味と国の具体例を並べた図。主体ごとの要件差があり、疑いの段階で通報する。
5類型の要約。主体ごとの違いと身体拘束の注意点は続く本文も確認してください。出典:障害者虐待防止法第2条、施設向け手引き5、8~10頁。(画像を押すと拡大できます)

主体によって要件は異なります。養護者の心理的虐待には「不当な差別的言動」の明記がなく、放置の対象は養護者では同居人、施設従事者等では他の利用者、使用者では他の労働者による暴行等です。使用者の放棄・放置には、施設の「職務上の養護義務」と同じ文言はありません。養護者の区分の経済的虐待は、養護していない親族による行為も対象です。(出典:障害者虐待防止法第2条第6~8項)

身体拘束は原則禁止。緊急やむを得ない場合も、切迫性(生命・身体への危険が著しく高い)、非代替性(他の方法がない)、一時性(必要最短時間)の3要件すべてを満たし、組織で慎重に判断し、本人・家族への説明や記録等が必要です。家族の同意だけで正当化できません。(出典:厚生労働省・施設向け手引き(令和6年7月)・34~36頁、指定障害福祉サービスの運営基準)

不適切な関わりが直ちにすべて法令上の虐待となるわけではなく、個別の状況と要件の確認が必要です。一つの事案が複数の類型に当たることもあります。B型の工賃は雇用契約に基づく賃金と同じ制度ではありません。ただし、不当な金銭の扱いを見過ごしてよいわけではありません。(出典:障害者虐待防止法第2条、指定障害福祉サービスの運営基準第201条)

第3章|虐待の疑いに気づいたとき

施設従事者等による虐待を受けたと思われる人を発見したら、確定していなくても速やかに市町村へ通報する義務があります。上司への報告や虐待防止委員会の検討を理由に、法定の通報を先延ばしにしてはいけません。本人の安全を確かめ、生命・身体に危険があるときは警察・救急にも連絡します。(出典:障害者虐待防止法第16条、厚生労働省・施設向け手引き(令和6年7月)・11、19頁)

通報先と行政の役割は次のように異なります。(出典:障害者虐待防止法第7、9、17、19、22~26条)

  • 養護者:市町村へ。市町村が安全・事実を確認し、本人の保護や養護者への支援につなぎます。
  • 施設従事者等:市町村へ。市町村から都道府県へ報告され、市町村・都道府県が連携して確認し、福祉関係法令の権限で対応します。
  • 使用者:市町村または都道府県へ。市町村から都道府県への通知、都道府県から都道府県労働局への報告につなぎ、労働関係法令による対応を行います。

養護者による18歳未満の子への虐待の通告・対応には児童虐待防止法が適用され、児童相談所等につなぎます。学校や病院、児童福祉施設などは別法の枠組みもあるため、すべてを上記と同一の経路には扱えません。窓口は自治体の公式案内で確認してください。(出典:厚生労働省・自治体向け手引き(令和6年7月)・4~6、17、43頁)

疑いへの気づきから安全確保、速やかな通報、行政による確認、継続支援までの流れ。養護者・施設従事者等は市町村、使用者は市町村または都道府県へ。内部承認を待たず通報する。年齢や施設により別法の経路がある。
通報者が確定判断をする必要はありません。本人の安全を守り、外部の窓口につなぎます。出典:障害者虐待防止法第7、9、16~19、22~26条、施設向け手引き11、19頁、自治体向け手引き4~6、43頁。(画像を押すと拡大できます)

第4章|日々の支援で何を確認するか

福祉教育ラボの実践上の問いとして、①本人の希望を確かめているか、②支援者の都合だけで制限していないか、③安心して意思を表明できるか、④必要な支援が届いているか、⑤金銭管理を説明できるか、⑥職員が懸念を声にできるかを提案します。これは法令上の虐待を判定するチェックリストではありません。

第5章|福祉教育ラボの視点

虐待が起きていないことだけで、本人の権利が守られていると言えるでしょうか。ここからは私たちの考察です。虐待防止に加え、意思決定、生活の選択肢、人との関係、自分らしい暮らしを支えることも大切です。

障害福祉サービスの運営基準では、虐待防止委員会の定期開催と結果の周知、定期的な職員研修、これらの担当者の配置が義務とされています。(出典:厚生労働省・施設向け手引き(令和6年7月)・14頁、指定障害福祉サービスの運営基準)その仕組みを土台に、本人の声を振り返りに取り入れ、責任者だけに任せず組織で支援を改善することを、福祉教育ラボは提案します。