ストレングスとは何か

その人らしく生きてきた物語から、支援の手がかりを見つける

ストレングスは、本人の中にある長所や力を見つめながら、その人がその人らしく生きてきた物語の中に、これからの支援の手がかりを見つけていく視点です。

福祉や介護の現場では、「本人のストレングスを見ましょう」という言葉がよく使われます。
ストレングスは「強み」と訳されることが多く、本人のできること、得意なこと、残されている力、周囲の支えなどを見つける考え方として広がっています。

たとえば、手先が器用であること。
人と話すことが好きなこと。
昔から料理をしてきたこと。
近所に顔なじみの人がいること。
家族との関係が続いていること。

こうした力やつながりは、支援を考えるうえで大切な手がかりになります。

そして、ストレングスの視点は、そこからさらに深まっていきます。
本人の「できること」を見るだけでなく、その人が何を大切にして生きてきたのかを見ようとします。
どのような役割を担ってきたのか。
どのような関係の中で安心してきたのか。
困難の中で、何を守ろうとしてきたのか。
今の言葉や行動の奥に、どのような願いがあるのか。

その人の生活の歴史に触れていくと、支援は単なる援助の組み立てから、その人らしい暮らしを支える営みに変わっていきます。

課題を見ることから、人生を見つめることへ

介護や福祉の現場では、本人の状態を丁寧に把握します。
病名、障害、認知機能、ADL、生活上のリスク、家族関係、経済状況、サービス利用の必要性。
これらを確認することで、安全な支援や必要な配慮を考えることができます。

支援には、状態やリスクを見つめる目が必要です。
転倒しやすい人には、転倒を防ぐ環境づくりが必要になります。
飲み込みに不安がある人には、食事形態や姿勢への配慮が必要になります。
認知症のある人には、混乱しにくい関わりや、安心できる生活の流れが大切になります。

そのうえで、支援者のまなざしはもう一歩奥へ向かいます。

この人は、どのように暮らしてきた人なのか。
どんな一日を心地よいと感じる人なのか。
何を大切にされると、安心できる人なのか。
何を失うと、その人らしさが揺らいでしまうのか。

ここに、ストレングスの大切な入り口があります。

本人を「支援が必要な人」として見るだけでなく、「これまでの人生を生きてきた人」として見る。
そのまなざしが、支援の質を変えていきます。

行動の奥にあるものを見つめる

たとえば、ある人が入浴を嫌がる場面を考えてみます。

現場では、「入浴を拒否された」と記録されることがあります。
支援者としては、清潔を保ちたい。皮膚状態も確認したい。できれば予定どおりに入浴してもらいたい。
その思いは自然なものです。

そこで少しだけ立ち止まります。

その人は、なぜ入浴を嫌がっているのだろう。
人前で服を脱ぐことに恥ずかしさがあるのか。
急かされることに不安があるのか。
湯の温度や浴室の音が苦手なのか。
自分のペースを大切にしたいのか。
これまでの生活の中で、入浴の時間や方法にこだわりがあったのか。

そう考えていくと、「入浴拒否」という一つの言葉の奥に、その人の感覚や尊厳が見えてきます。

支援の目的は、ただ入浴してもらうことだけにとどまりません。
その人が安心して身を委ねられる関係をつくること。
その人の恥ずかしさや不安を小さくすること。
その人のペースを大切にしながら、生活を整えていくこと。

そこに支援の手がかりがあります。

できることだけが強みではない

ストレングスという言葉を聞くと、「本人のできること」を探すイメージが浮かびやすいかもしれません。
できることを見つけることは、とても大切です。
本人ができる部分を支援者が奪わず、本人の力が発揮される場面をつくることは、自立支援にもつながります。

同時に、支援の手がかりは、能力だけにあるわけではありません。

好きだったこと。
大切にしてきた習慣。
安心できる場所。
なじみのある人。
何度も語られる思い出。
その人なりのこだわり。
怒りの奥にある悲しみ。
帰りたいという言葉の奥にある願い。

こうしたものも、その人を支える大切なストレングスです。

たとえば、何度も「家に帰りたい」と話す人がいます。
その言葉の中には、単なる場所への希望だけでなく、家族との記憶、自分の役割、安心できる空間、自分が自分でいられた時間が含まれていることがあります。

その人にとっての「家」とは、建物だけを意味しているとは限りません。
自分が母であった場所。
仕事を終えて帰ってきた場所。
近所の人と挨拶を交わした場所。
自分の茶碗や座る場所があった暮らし。

そうした物語に触れると、「帰りたい」という言葉の聞こえ方が変わります。

支援者は、その言葉をきっかけに考えることができます。
今の生活の中に、安心できる場所はあるだろうか。
本人が役割を感じられる時間はあるだろうか。
なじみのある物や習慣を取り入れられるだろうか。
その人が「ここにいても大丈夫」と感じられる関わりができているだろうか。

ストレングスの視点は、本人の言葉や行動を、支援のヒントとして受け取るまなざしです。

その人らしさは、生活の中に残っている

その人らしさは、特別な言葉で語られるものばかりではありません。
日々の小さな行動、表情、習慣、好み、沈黙の中にも表れます。

朝はゆっくり過ごしたい人。
人前ではきちんとした服装でいたい人。
食事の前に手を合わせたい人。
家族の話になると表情がやわらぐ人。
昔の仕事の話になると背筋が伸びる人。
誰かの役に立つと、少し誇らしそうにする人。

そうした姿の一つひとつが、その人の生活の歴史を伝えています。

支援者がその人らしさに気づくと、関わり方が変わります。
「何をしてあげるか」だけでなく、「どのように関わると、その人が自分らしくいられるか」を考えるようになります。

声をかける順番。
待つ時間。
選択肢の示し方。
本人にお願いする小さな役割。
なじみのある言葉。
生活の中で大切にしたい習慣。

一つひとつは小さな工夫かもしれません。
しかし、その小さな工夫が、本人の尊厳を支えることがあります。

支援の中心に、本人の物語を戻す

ストレングスの視点は、本人の人生に敬意を向ける視点です。

この人は、どのように生きてきたのか。
何を大切にしてきたのか。
誰との関係に支えられてきたのか。
今、何を守ろうとしているのか。
これから、どのように過ごしていきたいのか。

その問いを持つことで、支援は本人の物語に近づいていきます。

福祉の支援では、計画を立て、目標を決め、サービスを調整します。
そこには専門的な知識や制度の理解が必要です。
そして、その専門性は、本人の物語と結びついたときに、よりあたたかい支援になります。

本人の状態を知る。
本人の生活を知る。
本人の言葉を聴く。
本人のこれまでの歩みを大切にする。
その中から、これからの支援の手がかりを見つけていく。

それが、ストレングスの視点です。

おわりに

ストレングスは、本人を前向きな言葉で飾るための考え方ではなく、本人の人生に近づくための考え方です。

本人の中にある力。
本人を支えてきた関係。
本人が大切にしてきた習慣。
本人の言葉や行動の奥にある思い。
その人らしく生きてきた物語。

そこに目を向けることで、支援者は「何を補うか」だけでなく、「その人らしい暮らしをどう支えるか」を考えることができます。

ストレングスを見ることは、その人の人生を大切に見ることです。
そして、その人の物語の中から、これからの支援の手がかりを一緒に見つけていくことです。

福祉教育ラボ 編集室