介護におけるストレングスとは|入浴拒否の具体例・アセスメント・支援への生かし方
介護におけるストレングスとは
入浴拒否の具体例・アセスメント・支援への生かし方
介護における「ストレングス」は、本人のできることや得意なことだけを探す考え方ではありません。 これまでの経験、希望、役割、習慣、人との関係、地域や環境にある資源まで見つめ、 それを本人らしい生活を支える介護へどう生かすかまで考えます。
2026年8月23日確認・更新介護におけるストレングスとは、本人のできることだけではなく、経験、希望、役割、習慣、関係、環境にある資源を見つけ、それを本人が望む生活を支えるために生かすことです。 課題やリスクを見なくなるのではなく、それだけで本人全体を説明しないことが重要です。
このページは介護実践を中心に扱います。Strengths Perspectiveの成立、提唱者、Strengths Modelとの違い、6原則、批判は理論記事で整理しています。
1|介護におけるストレングスとは
ストレングスを見るとき、「この人には何ができますか」と尋ねることは大切です。 しかし、それだけでは十分ではありません。
手先が器用であること。人と話すことが好きであること。昔から料理をしてきたこと。 近所に顔なじみの人がいること。家族との関係が続いていること。 こうした力やつながりは、支援を考える大切な手がかりです。
そして、そこからさらに、本人が何を大切にして生きてきたのか、どのような役割を担ってきたのか、 どのような関係の中で安心してきたのか、今どのように暮らしたいのかまで見ていきます。
「良いところ探し」だけではない
ストレングスは、本人を前向きな言葉で飾るためのものではありません。 病気、障害、ADL、認知機能、生活上のリスクなど必要な情報を確認しながら、 それだけで本人全体を説明しないために、見る範囲を広げる視点です。
どのような一日を心地よいと感じるのか。何を大切にされると安心できるのか。 何を失うとその人らしさが揺らぐのか。こうした問いが、介護におけるストレングスの入口になります。
2|具体例|「入浴拒否」をストレングスの視点でどう見るか
ある利用者が入浴を嫌がっています。現場では「入浴拒否あり」と記録されるかもしれません。 清潔を保ちたい、皮膚状態を確認したい、予定どおり入浴してほしいという支援者の思いも自然なものです。
しかし、「入浴拒否」という一つのラベルだけで終わらせると、問いは「どうすれば入浴してもらえるか」に狭まりやすくなります。
本人の行動
その言葉や行動を、一つの意味に決めつけていないでしょうか。
羞恥心
人前で服を脱ぐことや、身体を見られることへの恥ずかしさがあるのかもしれません。
自分のペース
急かされることが苦手で、自分のタイミングで入りたいのかもしれません。
生活習慣
長年、決まった時間や方法で入浴してきた習慣があるのかもしれません。
浴室環境
湯温、音、照明、広さ、においなどが本人にとって落ち着かない可能性があります。
身体的不快
痛み、疲労、寒さ、皮膚の違和感など、身体的な理由があるかもしれません。
介助関係への不安
他者へ身体を委ねることや、担当職員との関係に不安がある可能性もあります。
「きっと恥ずかしいのだ」と新しい答えを決めるのではなく、本人の言葉、表情、身体の動き、生活歴、時間帯、職員による反応の違いなどから確かめていきます。
仮説を持つことと、本人の気持ちを決めつけることは違います。
支援の目的を「入浴してもらうこと」だけにしない
入浴が必要であっても、「どうすれば予定どおり入浴させられるか」だけではなく、 「どうすれば本人が安心して入浴できるか」へ問いを変えることができます。
- 入浴時間を本人が選べるようにする
- 急かさない
- 同性介助を検討する
- 自分でできる部分は本人に任せる
- 浴室環境を調整する
- 長年の入浴習慣に近い方法を探す
本人を支援者側の予定へ合わせるだけでなく、本人のペース、尊厳、習慣、自己決定を生かせるよう、支援の側を調整する余地が生まれます。
3|できることだけがストレングスではない|生活歴・役割・習慣を見る
本人ができる部分を支援者が奪わず、本人の力を発揮できる場面をつくることは大切です。 しかし、支援の手がかりは能力だけにあるわけではありません。
本人自身にあるストレングス
技能、経験、知識、好きなこと、こだわり、役割、希望、困難を乗り越えてきた経験など。
人との関係にあるストレングス
家族、友人、近隣、昔からの知人、地域の仲間、職員との信頼関係など。
環境にあるストレングス
安心できる場所、なじみの家具、使い慣れた道具、地域の店、散歩道、制度やサービスなど。
その人らしさは、日常の小さな場面に表れる
朝はゆっくり過ごしたい
人前ではきちんとした服装でいたい
食事の前には手を合わせたい
家族の話になると表情がやわらぐ
昔の仕事の話になると背筋が伸びる
誰かの役に立つと少し誇らしそうにする
一つひとつは小さな姿です。しかし、そこには本人が何を大切にしてきたか、どのような役割を持ち、何をすると「自分らしい」と感じられるかという情報があります。
4|ストレングス・アセスメントでは何を見るのか
ストレングス・アセスメントは、アセスメント用紙の「長所」欄を埋めることではありません。 本人の生活全体から、これからの暮らしに生かせる力・希望・関係・環境資源を体系的に探します。
これまでの経験
仕事、家事、地域活動、趣味など、本人が積み重ねてきた経験。
大切にしていること
本人が守りたい習慣、価値観、こだわり、生活上の優先順位。
希望
今したいこと、続けたいこと、これからどのように暮らしたいか。
役割
家庭、仕事、地域、人間関係の中で担ってきた役割や、今も持ちたい役割。
関係
誰といると安心するか。本人を支えている人や関係は何か。
環境
どのような場所、時間、道具、雰囲気なら本人の力を発揮しやすいか。
これまでの対処
困難に直面したとき、本人はこれまで何を使って乗り越えてきたか。
守ろうとしているもの
拒否、怒り、沈黙などの行動の背景に、本人が大切にしているものはないか。
アセスメントで使える問い
本人の表情、日々の行動、家族から聞いた生活歴、過去の記録、介護場面での反応なども重要な情報です。本人が言葉で多くを語れない場合も、生活の中には手がかりがあります。
5|ストレングスを介護過程・支援計画へどうつなげるか
ストレングスを見つけても、「この人にはこんな強みがあります」と記録するだけでは介護は変わりません。 本人の希望や生活に結びつく具体的な支援へ変換する必要があります。
ストレングスを介護へつなげる6ステップ
本人の生活を知る
言葉、行動、生活歴、役割、習慣、関係、環境を受け取ります。
ストレングスを探す
本人の能力だけでなく、希望、関係、環境資源まで探します。
本人に確かめる
専門職の解釈だけで決めず、本人の希望や反応から理解が合っているか確認します。
支援へ組み込む
介助方法、日課、活動、環境、役割、家族との関係、ケア計画へ反映します。
本人の反応を見る
表情、発言、安心感、選択の増加、役割を感じられているかなどを見ます。
再評価する
想定と違えば理解や支援を修正し、再び生活を知るところから見直します。
Kansas大学が提示する固有の6段階モデルではありません。Strengths Perspectiveの原則、介護過程の考え方、旧記事の実践整理を踏まえ、介護で使いやすい流れとして整理しています。
入浴の例を支援計画へ変えると
6|課題・リスクとストレングスはどう両立するか
ストレングスを大切にするからといって、病気やリスクを見なくてよいわけではありません。 介護職には安全を守る責任があります。
課題・リスクを見る
転倒、誤嚥、服薬、身体状態、認知機能、虐待や権利侵害などを専門職として確認します。
同時に、本人の生活を見る
本人の希望、役割、経験、関係、環境資源を含め、「どのように暮らしたいか」も捉えます。
「安全」と「本人らしい生活」を二者択一にしない
たとえば転倒リスクのある人が「自分で近所の店へ買い物に行きたい」と希望しているとします。 「危ないから行かないでください」だけでも、「本人の自己決定だから自由に行けばよい」だけでも十分ではありません。
- どの時間帯なら安全か
- 歩行補助具を使えるか
- 一緒に行ける人はいるか
- 経路を変えられないか
- 移動サービスは使えるか
- 本人はどこまでのリスクを受け入れたいと考えているか
「安全か、本人らしさか」ではなく、「本人らしい生活をできる限り安全に続けるために、何を整えられるか」と考えます。
7|その人らしさは生活の中に残っている
その人らしさは、特別な言葉で語られるものばかりではありません。 日々の小さな行動、表情、習慣、好み、沈黙の中にも表れます。
それに気づくと、介護の問いは「何をしてあげるか」だけではなく、 「どう関わると、その人が自分らしくいられるか」へ変わります。
待つ時間。
選択肢の示し方。
本人にお願いする小さな役割。
なじみのある言葉。
生活の中で大切にしたい習慣。
一つひとつは小さな工夫かもしれません。しかし、その小さな工夫によって、 「自分で決められた」「まだ自分にもできる」「ここでも自分らしくいられる」と感じられることがあります。
本人の生活歴を、支援へ戻す
福祉の支援では、アセスメントを行い、目標を設定し、支援計画をつくります。 そこには専門知識や制度理解が必要です。
しかし、専門職がつくる計画が本人のこれまでの人生と切り離されてしまえば、 「支援者にとって合理的な生活」になってしまうことがあります。
この人はどのように生きてきたのか。何を大切にしてきたのか。誰との関係に支えられてきたのか。 今も続けたいことは何か。これからどのように暮らしたいのか。
その情報を支援計画の中へ戻す。それが、ストレングスを介護へ生かす一つの意味です。
その人がこれまでどう生きてきたのかを、これからの支援へ戻すことです。
まとめ|ストレングスを見るとは、その人の人生を支援へ戻すこと
介護におけるストレングスは、「本人のできること」だけではありません。 本人が培ってきた経験、役割、好きなこと、大切にしている習慣、安心できる関係、地域や環境にある資源、そして本人自身の希望まで含めて見ていきます。
だから「入浴拒否」という行動も、ただ解決すべき問題として見るのではなく、 本人が何を嫌がり、何を守ろうとし、どのような環境なら安心できるのかという問いへ変えることができます。
課題やリスクを見なくなるわけではありません。安全を見る。病気を見る。ADLを見る。生活上の困難を見る。 そのうえで、本人が持っているもの、本人を支えてきた関係、本人が大切にしてきた暮らし、環境にある資源を見る。
「この人は、どのように生きてきた人なのだろう」
「その人生の中に、これからの暮らしを支える何があるのだろう」
その問いが、一人ひとりの生活に合わせた介護へつながっていくのだと、福祉教育ラボでは考えます。
介護におけるストレングスについてよくある質問
介護におけるストレングスとは、簡単にいうと何ですか?
本人のできることだけでなく、経験、希望、役割、習慣、人との関係、地域や環境の資源などを見つけ、本人が望む生活を支えるために生かすことです。
ストレングスとは「できること」のことですか?
できることもストレングスですが、それだけではありません。大切にしてきた習慣、本人の希望、人との関係、安心できる場所、これまで困難を乗り越えてきた経験などもストレングスになり得ます。
入浴拒否もストレングスとして考えるのですか?
「拒否すること自体がストレングス」という意味ではありません。なぜ嫌なのかを考えることで、本人が守りたい尊厳、自分のペース、習慣、意思などが見えてくることがあります。そこから支援方法を考えます。
ストレングス・アセスメントでは何を聞けばよいですか?
本人の生活歴、経験、役割、好きなこと、大切にしている習慣、希望、安心できる人や場所、これまで困難をどう乗り越えてきたかなどを確認します。質問だけでなく、日常の表情や行動、家族からの情報なども重要です。
ストレングスを見れば、課題やリスクは見なくてよいですか?
いいえ。病気、生活上の困難、安全上のリスクなどは専門職として確認する必要があります。重要なのは、それらだけで本人全体を説明せず、本人の希望や資源も一緒に見ることです。
ストレングスは介護計画へどう書けばよいですか?
単に「明るい性格」「料理が得意」と書くのではなく、その情報を本人の希望や具体的支援へ結びつけます。たとえば「自分のペースを大切にしてきた」という情報から、「入浴時間を本人が選択できるようにする」といった支援へつなげます。
ストレングス・パースペクティブの理論を詳しく知りたい場合は?
成立史、提唱者、Strengths PerspectiveとStrengths Modelの違い、6原則、エンパワメント、批判については、理論記事「ストレングス・パースペクティブとは」で詳しく整理しています。
主な参考資料
-
University of Kansas School of Social Welfare「Principles of the Strengths Perspective」
Strengths Perspectiveの現在の定義、本人・関係・環境のストレングスと資源、体系的アセスメント等を確認。
Kansas大学公式資料を見る -
厚生労働省「相談支援(障害児者支援)の基本的視点」
本人中心、自己決定、エンパワメント、リカバリー、ストレングス、権利擁護、地域づくり等の基本視点を確認。
厚生労働省資料PDFを見る -
福祉教育ラボ旧記事「ストレングスとは何か」
入浴拒否、生活歴、役割、習慣、その人らしさの具体例を、本改訂記事の基礎素材として再構成。
本記事で示した「本人の生活を知る → ストレングスを探す → 本人に確かめる → 支援へ組み込む → 本人の反応を見る → 再評価する」という6ステップは、Kansas大学が提示した固有の手順モデルではありません。Strengths Perspectiveの原則、介護過程の考え方、旧記事の実践整理を踏まえて、福祉教育ラボが介護実践へ接続するために整理したものです。


