「本人のために、こちらで決めておきました」

福祉や介護の現場では、専門職の判断が必要になる場面があります。転倒リスク、混乱しやすい、家族の心配、説明しても理解が難しいかもしれない。

けれども、その判断の中に、本人の声はどれくらい入っているでしょうか。

「本人のため」という言葉は、支援の出発点になる一方で、本人を置き去りにする言葉にもなり得ます。この記事では、パターナリズムと意思決定支援の違いを整理しながら、本人中心の支援を考えていきます。

「本人のため」という言葉の危うさ

支援者の善意が、本人の選択を小さくすることがある

・「本人のために」と判断する場面が多い
・転倒予防、服薬管理、金銭管理、外出制限、食事内容、施設入所などは、本人の生活に大きく関わる
・支援者や家族の判断が必要な場面もある
・「危ないから」「分からないから」「混乱するから」という理由で、本人の選択が消えてしまう

善意の何がいけないのか

・問題は、支援者が悪意を持っていることではない
・むしろ、善意や責任感が強いほど、本人の代わりに決めすぎてしまうことがある

「守ること」と「奪わないこと」は同時に考える必要がある

・支援には、安全を守る責任がある
・一方で、本人の希望、習慣、こだわり、生活の意味を奪わない視点も必要
・安全だけを優先すると、その人の生活は小さくなる
・自由だけを優先すると、危険や不利益が大きくなることもある
・大切なのは、安全か自由かではなく、本人が納得できる生活をどう支えるかである

パターナリズムとは何か

「あなたのために、こちらで決めます」という支援

・パターナリズムとは、本人の利益になると考えて、本人の意思よりも支援者や家族の判断を優先する考え方
・日本語では「父権主義」「温情的干渉」などと説明される
・本人を守るために、本人の選択を制限する場面で現れやすい
・「危ないから外出はさせない」「混乱するから説明しない」「本人は分からないから家族に聞く」といった判断のこと

なぜ起きるの?

・これらは、必ずしも悪意から起きるわけではない
・むしろ、責任感、心配、不安、事故防止、苦情予防から起きることが多い

福祉現場でパターナリズムが起きやすい理由

・支援者と利用者の間には、知識や情報の差がある
・制度、医療、介護、契約、リスクについて、支援者の方が多くの情報を持っている
・認知症や障害がある場合、本人の意思が分かりにくいと判断されやすい
・家族の意向が強い場合、本人の声が後回しになることがある
・事故やトラブルを避けたい現場の事情が、本人の希望より優先される
・忙しい現場では、本人に説明し、待ち、確認する時間が削られやすい

パターナリズムの問題

・本人の人生を、他の人が決める
・本人の意思を確認する努力が省かれる
・「どうせ分からない」という偏見
・本人の拒否や不安が、問題行動として処理される
・支援者の安心が、本人の希望より優先される
・本人の意欲や自尊感情を弱めることがある

意思決定支援とは「本人の好きにさせること」ではない

本人が選べる条件を整えること

・意思決定支援は、本人が自分で決めるための必要な支援
・「本人が言ったことをそのまま実行する」ことではない
・「本人の自由だから、あとは自己責任」と放任でもない
・理解しやすい情報を用意する
・選択肢を分かりやすく示す
・考える時間を確保する
・不安や遠慮を受け止める
・言葉にならない希望を、生活歴や表情、行動から読み取る
・大切なことを、周囲が一緒に考える

場面1 危ないから、歩かせない
転倒リスクがあるため、歩行や外出を制限してないか

・歩くことが本人にとって楽しみ、習慣、役割、気分転換の場合がある
・「危ないから禁止」から、「安全にするには」を考える
・付き添い、時間帯、場所、靴、歩行補助具、休憩場所などを調整する

場面2 本人は何でもいいと言ってい

・本人が「何でもいい」「任せます」と言うことがある
・そのまま「希望なし」と受け取ると、本人の意思が消えてしまう
・遠慮しているかもしれない
・選択肢が分からないかもしれない
・これまで自分で選ぶ機会が少なかったか
・「何でもいい」の裏にある気持ちを察してみる

場面3 家族の希望が、本人の希望として扱われる

・家族が本人を心配して強く言う
・家族の不安や負担も、支援の対象
・家族の希望と本人の希望は、同じとは限らない
・家族が「施設に入ってほしい」と思っていても、本人はどうなのか
・本人の声、家族の声、支援者の判断を分けて整理する
・そのうえで、現実的な支援の形を探る

場面4 カンファレンスで本人の声が出てこない

・会議では、ADL、病状、リスク、家族意向、サービス調整が中心になりやすい
・本人が何を望んでいるのかが記録や発言に出てこない
・「本人はどう言っているか」
・「どんな表情をしているか」
・「大切にしてきた生活は何か」
・「嫌がっていることは何か」
・これらを会議

場面5 認知症ケア

・「帰りたい」という言葉がよく聞かれる
・それを「帰宅願望」とだけみると、本人の気持ちが見えにくくなる
・安心できる場所に行きたい
・役割のある生活に戻りたい
・不安や孤独を表している
・本人の言葉を、生活歴や現在の環境と結びつけて考える

「嫌だ」は拒否ではなく、意思表示かもしれない

・入浴拒否、食事拒否、服薬拒否などは、現場で「拒否」と記録されやすい
・拒否は、理由のある意思表示かもしれない
・寒い、痛い、恥ずかしい、怖い、説明が分からない、相手が嫌、時間が合わないなど
・「拒否がある」で終わらせず、「何に対する拒否なのか」
・支援方法を変えることで、本人が受け入れやすくなる

「本人の意思」と「その場の反応」を分けて考える

・その場の反応だけで本人の意思を決めつけない
・疲れているとき、痛みがあるとき、不安が強いときは反応が変わる
・相手や場所によっても反応は変わる
・一回の発言だけで判断しない
・言葉、表情、行動、生活歴、家族情報、支援記録をつなげてみる

意思決定支援で大切にしたい視点

視点1 本人の声を消さない

・本人の言葉を記録に残す
・選んだことを共有する
・が嫌がった理由を考える
・沈黙や迷いも、支援の手がかり
・家族や支援者の意向と混ぜない

視点2 選択肢を分かりやすくする

・選択肢が多すぎると選べない
・抽象的な説明では伝わりにくい
・写真、実物、短い言葉、具体例を使う
・「AとBならどちらがよいですか」と聞く

視点3 本人が安心して話せる関係をつくる

・本音を言える関係性が必要
・否定される、急かされる、説得されると感じると、話しにくくなる
・「どうしたいですか」と聞くだけでなく、「迷いますよね」「心配なことはありますか」と受け止める
・聞き方によって、意思の出方は変わる

視点4 リスクを理由に生活を小さくしすぎない

・リスクをゼロにはできない
・リスクを理由に制限すると、生活の意味が失われる
・大切なのは、リスクを共有し、調整しながら支えること
・「できない理由」だけでなく、「できる条件」を探す
・本人にとっての生活の価値を、支援計画に反映

視点5 チームで支える

・意思決定支援は、一人の職員だけで抱えるものではない
・本人の声を、介護職、相談員、看護職、ケアマネジャー、家族などで共有する
・職員によって見えている姿が違うこともある
・チームで情報をつなぐことで、本人の意思を立体的に捉えやすくなる
・記録とカンファレンスは、本人の意思を守るための道具

アドボカシーとのつながり

本人の声が届きにくいときに、代弁する

・アドボカシーは、本人の権利や声を守るための働きかけ
・本人が言葉にできないとき、支援者はその背景を読み取り、周囲に伝える役割を持つ
・代弁は「本人の代わりに勝手に決めること」ではない
・言葉、表情、生活歴、価値観をもとに、本人の立場に近づこうとする姿勢

現場で使える確認の問い

支援前に確認したい問い

・本人の希望か、支援者の安心か
・分かる形で説明したか
・選べる選択肢を用意したか
・考える時間を確保したか
・拒否や迷いの理由を考えたか
・安全を守りながら、本人の生活を広げる方法はないか

本人を守ることは、本人を小さくすることではない

「本人のため」を問い直すことから始まる

・「本人のため」という言葉は、支援にとって大切な出発点である
・しかし、その言葉が本人の声を消してしまうこともある
・本人を守ることと、本人の選択を支えることは、どちらも大切
・意思決定支援は、本人にすべてを任せることではない
・選べるように、情報、環境、時間、関係性を整えること
・パターナリズムを完全になくすことは簡単ではない
・支援者は「本人のためなのか」と問い続けること

最後に・・・

本人のために考えることは、福祉職にとって大切な姿勢です。けれども、「本人のため」と言いながら、本人の声を聞くことを省いて仕舞えば、本人中心の支援から離れてしまいます。

・本人を守ること
・本人の意思を支えること
・本人の生活を小さくしないこと

この三つを同時に考えるところに、福祉実践の難しさと専門性があります。

「本人のため」と思ったときこそ、もう一度立ち止まって考えたい。

その判断の中に、本人はいますか。

福祉教育ラボ編集室