アドボカシーとは何か|認知症ケアの視点から

はじめに

「本人の声」は、支援に届いているか

制度・ニュースメモ03では、「認知症基本法」を読み解く前に、本人の声を聞くことの大切さについて考えましたが、そこで出てきた問いは、次のようなものでした。

・本人の声は、「希望を聞く」ことだけなのか
・本人の声や思いを「記録すること」、「活かすこと」はどう違うのか
・意向の共有は、チームケアに活かされているのか
・安全や家族の不安、業務の都合で、本人の希望が小さくされていないか

現場では、「本人の声を聞いています」と言いながら、実際にはその声が「支援方針」や「実践」に反映されていないことがあります。この現場の課題を「アドボカシーの視点」で考えていきます。

1. 本人の声が小さくなる場面

本人の声は、いつもはっきり聞こえるわけではない

本人の声は、いつも分かりやすい言葉で出てくるとは限りません。

たとえば、こんな場面があります。

・「デイサービスにはいきません」と言うが、お風呂に入れていない
・「ケアをされたくない」と言うが、本当は人見知りで話せるか不安
・「生活はできている」と言うが、転倒や服薬忘れが増えている
・「帰りたい」と言うが、安心できる場所を探している

このような場面は、高齢者に限らず、人としての防衛反応の一つとも言えます。この時に、相手の表情や声のトーン、周囲の環境を見ながら、声に出されていない思いを察することがアドボカシーの重要な考え方となります。

現場では、本人以外の声が大きくなりやすい

支援の場では、本人以外の声が大きくなることがある

・家族の「危ないからやめさせてほしい」
・職員の「人手が足りないから難しい」
・事業所の「事故が起きたら責任が取れない」
・制度の「このサービスでは対応できない」
・医療職の「状態から考えると難しい」

どれも現実的で、大切な声です。

アドボカシーは、まさにこの場面で必要になります。

家族の不安も、職員の負担も、事業所の責任も、それぞれの葛藤の中で、本人の声が後ろに下がってしまうことがあります。

2. アドボカシーとは何か

アドボカシーは、一般には「権利擁護」や「代弁」と説明されます。

ただ、現場の言葉で表現すると、本人の声が埋もれそうになったとき、その声をケアの場に戻す働きです。

言葉に出せない思いを察しながら、小さな点をつなげていく作業とも言えます。

・言葉にできていない思いを一緒に探す
・生活歴や表情、しぐさから意向を読み取る
・本人の希望が消えていないか確認する
・会議や記録、計画に本人の声を入れる

つまり、アドボカシーは、本人の声が、支援の判断から抜け落ちないようにすることです。

3. 「本人がそう言ったから」で終わらせない

意思尊重と放置は違う

現場では、「本人の意思を尊重する」という言葉がよく使われます。

これはとても大切なことです。

ですが、この言葉が、支援する者の考える力を止めてしまうことがあります。

・本人が「困っていない」と言ったから
・本人が「サービスはいらない」と言ったから
・本人が「家にいたい」と言ったから
・本人が「何でもいい」と言ったから

これらの言葉は、本当に意思を尊重しているのでしょうか。

アドボカシーでは、本人の発言を大切にしながら、その奥にある背景を見ます。

・なぜ「いらない」と言ったのか
・何に不安を感じているのか
・誰に遠慮しているのか
・何を失うことを恐れているのか
・どのような形なら受け入れられるのか

本人の言葉を疑うのではありません。

本人の言葉を、生活の文脈の中で丁寧に受け止めるのです。

4. 認知症ケアで問われるアドボカシー

認知症があっても、意思は消えない

認知症ケアでは、本人の声が小さく扱われやすい場面があります。

・どうせ忘れてしまう
・判断できない
・説明しても分からない
・家族に確認した方が早い
・事故が怖いから制限した方がよい

こうした判断が、本人の声を後ろに押しやり、認知症というカテゴリーに当てはめてしまうことにつながってしまいます。

言葉がうまく話せない、その時々で気持ちが変わることもあります。

それでも、本人の意思や願いは、生活に表れます。

・安心する表情
・嫌がるしぐさ
・繰り返し話す言葉
・落ち着く場所
・繰り返す習慣
・家族や職員への反応
・拒否の仕方
・笑顔になる場面

アドボカシーは、そうした小さなサインを拾う視点でもあります。

本人抜きで決めないために

認知症ケアでは、本人の意思確認が難しい場面がありますが、だからといって、本人抜きで支援内容を決めてよいわけではありません。

むしろ、より丁寧に考える必要があります。

・これまで何を大切にしてきた人なのか
・どんな暮らしを続けたい人なのか
・何に安心し、何に不安を感じる人なのか
・どんな関係の中で、その人らしさが出るのか
・今の支援方針に、本人の声は入っているのか

認知症ケアにおけるアドボカシーは、本人の言葉だけでなく、本人の生活全体から声を拾うことだと言えます。

5. アドボカシーとパターナリズムの境界

「本人のため」が、本人を置き去りにすることがある

本人のためにケアしているつもりが、いつの間にか職員都合や業務優先になることがあります。

・この方がにはこのケアが必要だ
・この選択をした方が安全だ
・家族より本人の意向を優先すべきだ
・本人はこう思っているはずだ
・専門職としてはこちらが正しい

こういったケアが多くなると、アドボカシーではなく、パターナリズムになります。

パターナリズムとは、支援者側が上から決めてしまう関わりです。

アドボカシーは、本人の代わりに支援者が正解を決めることではありません。

本人の声を中心に置きながら、家族の不安、安全、制度、事業所の責任、支援者の見立てを調整していく視点です。

6. 現場で使えるアドボカシーの問い

会議・記録・計画に入れるための視点

アドボカシーを現場で使うには、日々の支援の中で、問いを持つことから始まります。

現場で確認したい問いは、次のようなものです。

・本人の声は、支援方針に反映されているか
・本人抜きで決めていないか
・本人が言えない理由を考えたか
・本人の希望が消えていないか
・本人の生活が小さくされていないか
・安全管理が優先されていないか
・介護拒否と決めつけていないか
・役割、暮らし、関係性を見たか
・言葉にならない声を、代弁しているか
・支援計画に、本人の希望や不安があるか

この問いを持つだけでも、支援の見え方は変わります。

7. アドボカシーは、現場の違和感から始まる

違和感を言葉にする

アドボカシーは、日々の小さな違和感を言葉にして共有することから始まります。

・言葉にする
・記録に残す
・会議に出す
・チームで考える
・支援方針に反映する

この流れの中で、アドボカシーは現場の実践になります。

関連記事

制度・ニュースメモ03
認知症基本法を読み解くために

この記事では、認知症基本法を制度の説明としてだけではなく、本人の声、制度の言葉、現場の葛藤から考えています。