制度・ニュースメモ03|認知症基本法を読み解くために 

本メモは、「認知症基本法」を制度改正として読む前に、当事者やその家族らが紡いできた声に耳を傾けて、尊厳、意思、社会参加、家族支援、現場の葛藤から、認知症ケアを深めていきます。

認知症の当事者が考えていること

・できない人として扱わないでほしい

・家族だけに背負わせないでほしい

・危ない人、分からない人と見ないでほしい

・私たちを入れて決めてほしい

・自由に外出できる社会であってほしい

・守る対象としてだけ見ないでほしい

当事者の声は、「認知症基本法」をより深く読むための、大切な問い掛けとなります。

本人たちの声は、社会への問いでもある

認知症になると、本人の生活にはさまざまな変化が起こります。

  • できていたことが難しくなる
  • 言葉がすぐに出てこない
  • 約束や予定が分からなくなる
  • 家族や支援者の手助けが必要になる

この身体的、精神的な変化だけを見てしまうと、残っている力や、続けたい暮らし、守りたい誇りが見えにくくなります。

本人の声が聞こえないと起こること
  • 「洗濯物はぐちゃぐちゃになるし、食器は洗えてないし、二度手間だからやらないで!」と止められる
  • 「言っても分からないでしょ、どうせ混乱するだけだから言わない方がいい」と説明されない

こうした経験の積み重ねが、本人の自信や意欲を弱め、残っている力を発揮する機会を奪ってしまうことがあります。

じゃぁ、どうしたいの?

当事者の声は、単なる個人の願いではなく、地域やコミュニティへの警告ともなり得ます。

  • 認知症があっても、自分の人生の主人公でいたい
  • 地域の中で、役割やつながりを持って暮らしたい
  • 家族だけが抱え込まないための、社会的な助けがあるか

認知症ケアは、「本人の望む生活」とそれを叶えることができる「安全と安心」の環境が必ず必要となります。「希望と安全」は相反する概念にもなるため、どちらか一方だけでなく、現実的な支援を見出して、チームで支えることが必要となります。

当事者の声が、制度の文言として結び直された

認知症基本法では、認知症の人の尊厳、意思、社会参加、共生社会といった考え方が示されています。もちろん、この法律は、行政、議員、専門職、関係団体、家族団体など、さまざまな立場の調整を経てつくられたものです。それでも、当事者や家族が訴え続けてきた声が、法律や基本計画の中で、制度の言葉として結び直されていることには、重要な意味があります。

  • 「本人抜きで決めないでほしい」は、本人参画や意思決定支援という言葉に。
  • 「できない人として扱わないでほしい」は、ストレングスやエンパワメントの概念へ昇華。
  • 「自由に外に出られる社会であってほしい」は、地域の見守り、バリアフリー、社会参加の保障へ。
  • 「家族だけに背負わせないでほしい」は、家族支援、地域包括ケア、多職種連携の必要性に。

つまり、認知症基本法は、その背景にある本人や家族の声を聞くことで、制度の言葉が、現場の支援に関わる問いとして立ち上がってきます。

けれど、現場では簡単に割り切れない

理想はわかるが、やっぱり日々のケアとなると割り切れない。

  • 本人は「サービスはいらない」と言うが、少しずつ生活は不安定になっている
  • 自由を尊重したいが、転倒や事故が起きれば、事業所や家族の責任も問われる
  • 家族の負担軽減をしたいが、本人の意思、同意は得られるのか
  • 見守りのためにGPSを使いたいが、本人の同意やプライバシーは?
認知症ケアの難しさ

ここに、認知症ケアの難しさがある。意思の尊重とは、本人の希望どおりにすることなのか。安全を守ることは、危険行為を禁止することなのか。家族の不安を受け止めることは、本人の声を後回しにすることではありません。

現場では、いつも複数の価値がぶつかります。

  • 自由と安全
  • 本人の意思と家族の不安
  • 尊重と責任
  • 見守りと監視
  • 生活の継続とリスク管理

この葛藤を正面から受け止めて、それでも本人主体の意思決定支援の観点から考え、実行し、もがきながらも見直して支援を継続していくことが、認知症ケアの専門性なのだと思います。

「本人の声を聞く」とは、聞いたことにすることではない

本人の声を聞く。この言葉だけが一人歩きし、何が希望で、何が課題なのかを見失えば、真の意思決定支援とはなり得ない。担当者会議で本人の意向は共有すべきだが、その声が支援の判断に影響を持っているかどうか。結局は職員都合の意思決定になっていないか、業務都合で理想どおりにはいかない、それが現実なのは重々承知ではあるが、それでも、本人の意向と現場の現状を勘案しながらも、ギリギリのできるラインをどのように、分けるのか。

現場実践と学術的知見の橋渡し

ここで必要になるのが、学術的知見の専門性です。

  • アドボカシーは、本人の声になりきれていない声を一緒に探す視点
  • エンパワメントは、本人の能力を最大限発揮できるよう、選択できる環境を整える視点
  • ストレングスは、その人の経験、役割、関係性の中に入り込み、できることを探していく視点
  • 意思決定支援は、現状と本人の能力を鑑み、選択しやすい環境を整える視点
  • チームケアは、個別ケアを原則に、本人理解をチームで共有し、支援方針をそろえる視点

専門用語は、覚えるための言葉ではありません。現場の迷いや違和感を整理し、本人の暮らしを支える判断につなげるための言葉でもあります。

認知症基本法が「現場実践」に問いかけていること

このように考えてくると、認知症基本法が現場に問いかけていることが見えてきます。本人の声を、聞いたことにしていないか。本人の希望を、安全管理の名のもとに最初から小さくしていないか。家族の不安を受け止めながらも、本人抜きで決めていないか。できないことだけでなく、まだ残っている力や、続けたい暮らしを見ているか。

この問いを、日々の支援の中にどれだけ組み込むことができるのか。その実践こそが、制度改正を現場の実践に変えていくための分かれ目になるのだと思います。

認知症ケアは、理念だけでは進みません。けれども、理念を持たないままでは、いつの間にか管理や制限に寄ってしまうことがあります。忙しいから、誰がやるのか、そこまで支援できない。そうした現場の事情は確かにあります。けれども、その積み重ねが、本人の日常や選択肢を少しずつ狭めていないかは、立ち止まって考える必要があります。

認知症基本法を読む意義は、そこにあるのではないでしょうか。

参照先

日本認知症本人ワーキンググループ「認知症とともに生きる希望宣言」

共生社会の実現を推進するための認知症基本法

厚生労働省「認知症施策推進基本計画」

厚生労働省「認知症施策を本人参画でともに進めるための手引き」

公益社団法人 認知症の人と家族の会「認知症の人が自由に安心して外出できる取組や対策の充実を」

2023年9月/認知症基本法施行への期待と提案