2027年度介護報酬改定|口腔・栄養の論点は?嚥下調整食・低栄養・歯科連携を整理
2027年度の介護報酬改定に向けて、「口腔」と「栄養」のあり方が改めて議論されています。
厚生労働省は2026年9月3日に開催した第264回社会保障審議会介護給付費分科会で、「口腔・栄養、一体的取組」を議題として取り上げました。
公表された資料4では、歯科専門職との連携、低栄養状態の評価、嚥下機能に応じた食事、リハビリテーション・栄養・口腔の一体的な取組、さらに複雑化した加算体系そのものまで、幅広い論点が示されています。
まず確認しておきたいのは、今回示されたのは「2027年度改定で何を検討するか」という段階だということです。
新しい加算の創設、既存加算の廃止や統合、単位数の変更などが決まったわけではありません。
- 口腔・栄養・リハビリを一体的に支援する方向は、さらに重視されている
- 一方で、専門職不足、地域連携、業務負担が実施の壁になっている
- 低栄養の評価方法そのものが見直しの論点になっている
- 嚥下調整食を介護報酬でどう評価するかが新たな論点になっている
- 算定率の低い・高い加算を含め、加算体系そのものも検討対象になっている
つまり、議論の焦点は「口腔や栄養が大切かどうか」から、「必要な支援を現場で実施できる制度にどうするか」へ移りつつあります。
口腔連携強化加算|2024年度に新設されたが算定率はまだ低い
現在の課題を象徴するのが、2024年度介護報酬改定で新設された「口腔連携強化加算」です。
訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、短期入所サービス、定期巡回などで、介護職員等が利用者の口腔状態を評価し、歯科医療機関や介護支援専門員へ情報提供する取組を評価するもので、50単位、1月に1回を限度として算定できます。
しかし、2025年10月サービス提供分の事業所ベースの算定率を見ると、現時点ではかなり低い水準です。
口腔状態を評価することで、歯科受診につながった例も
では、取組そのものに意味がないのでしょうか。
ここは数字を慎重に読む必要があります。
2024年度調査では、口腔連携強化加算を算定したことがある事業所のうち、この設問に回答した28事業所中11事業所、39.3%が「口腔の健康状態を評価するようになったことで、新たに歯科受診につながったケースがあった」と回答しています。
一方、より規模の大きい介護保険施設の調査では、口腔状態の評価を行うようになったことで「新たに歯科受診につながったケースがある」と回答した施設が、1,795施設中846施設、47.1%でした。
歯科受診につながった内容では、「入れ歯が壊れている」60.5%、「歯肉の腫れ・出血」42.8%、「歯の汚れ」26.5%などが挙げられています。
なぜ広がらない?「必要性」と「実施できるか」の間にある壁
口腔連携強化加算を算定していない理由として最も多かったのは、「時間や手間がかかる」33.4%でした。
この調査は全国10,006事業所を対象に実施され、回答した1,629事業所のうち、加算を算定していない1,557事業所を対象とした結果です。
さらに、「連携歯科医療機関が見つからない」とした事業所に理由を聞くと、「どの歯科医療機関が訪問診療を実施しているかわからない」が41.1%でした。
単純に歯科医療機関の数だけではなく、介護事業所から「どこと連携すればよいのかが見えにくい」という地域連携上の問題もあります。
歯科専門職の介護分野での就業は多くない
もう一つ無視できないのが、専門職の配置です。
2024年度の全国の届出歯科医師103,652人のうち、主たる就業場所を介護老人保健施設と回答した歯科医師は44人、介護医療院は6人でした。
また、就業歯科衛生士149,579人のうち、「介護保険施設等」で就業している歯科衛生士は1,533人、1.0%です。
専門職をすべての介護事業所に配置することには限界があります。
だからこそ、2027年度改定では「専門職を配置する」だけではなく、地域の歯科医療機関とどうつながるのかという仕組みそのものが重要になります。
特定施設では2027年3月が一つの節目に
特定施設についても動きがあります。
2024年度介護報酬改定では、従来の口腔衛生管理体制加算を廃止し、その取組を一定程度緩和したうえで基本サービスとして位置づけ、3年間の経過措置が設けられました。
2025年度に実施された調査では、口腔衛生管理への対応状況は次のようになっています。
この調査は全国1,516の特定施設を対象に行われ、回答は238施設、回答率15.7%でした。
回答率の低さには注意する必要がありますが、少なくとも経過措置終了を前に、まだ対応途中の施設が一定数存在することが分かります。
2027年度改定は、2024年度改定で進めた口腔管理を「制度として導入する段階」から「実際に定着させる段階」へ移す時期とも重なっています。
栄養では「低栄養をどう評価するか」が大きな論点に
栄養については、低栄養状態の評価方法そのものが見直しの論点になっています。
LIFEデータでは、低栄養リスクが中・高リスクとされた入所者の割合は、次のようになっています。
対象は、LIFEへ「栄養・摂食嚥下スクリーニング・アセスメント・モニタリング」の情報を提出している入所者338,775人です。
介護現場において、低栄養は一部の利用者だけの問題ではないことが分かります。
2005年以来、大きく変わっていない評価方法
現在の介護保険制度で用いられている低栄養リスクの判断方法は、2005年に制度へ導入されて以来、大きな見直しが行われていません。
現在はBMI、体重減少、食事摂取量などに加え、血清アルブミン値などが判断に使われています。
しかし厚労省は今回、血清アルブミン値について、「炎症等の影響も受けることから、国際的な低栄養の判断には用いられなくなっている」と整理しました。
一方、国際的にはGLIM基準が低栄養の診断に用いられ、診療報酬でも栄養状態の評価に導入されています。
では、介護でもGLIM基準になるのか?
現時点では、そこまで決まっていません。
80床以上の特養・老健を対象とした調査では、回答した特養368施設の86.7%、老健281施設の87.2%が、GLIM基準による低栄養診断を「実施していない」と回答しました。
導入上の課題では、「職員の業務負担が大きい」が特養52.6%、老健55.5%と5割を超えています。
低栄養は施設だけの問題ではない
今回の資料では、通所サービスの状況も示されています。
低栄養の評価を行っていない事業所は、通所介護23.9%、通所リハビリテーション19.5%、看護小規模多機能型居宅介護8.4%でした。
この調査の回答数は、通所介護92事業所、通所リハ41事業所、看護小規模多機能107事業所です。
また、栄養アセスメント加算・栄養改善加算を算定していない理由として、「人手が足りない等により時間を割けない」が約6割、「管理栄養士との連携が難しい」が約5割でした。
在宅生活を続けている高齢者の低栄養をどこで発見し、誰につなぐのか。
施設だけではなく、通所介護や通所リハなど地域の介護サービスにも同じ課題があります。
嚥下調整食|医療では2026年度から評価が始まった
今回、特に注目したいのが「嚥下調整食」です。
LIFEデータでは、嚥下調整食の必要性がある入所者の割合は、特養57.5%、老健48.8%、介護医療院75.3%でした。
嚥下調整食は、単に「刻む」「柔らかくする」というものではありません。
利用者の摂食・嚥下機能に合わせ、安全性だけでなく、栄養量、食感、味、香り、温度なども含めて食事を調整する必要があります。
施設への調査でも、嚥下調整食を提供する場合、常食と比較して「総コスト」「栄養・食事ケアの時間」「ミールラウンドの時間」が増えると回答する施設が大半でした。
さらに、フードマネジメント上の困りごととして「食材費の高騰」を挙げた割合は、特養88.7%、老健83.2%に達しています。
医療と介護では、現在の評価方法に違いがある
この議論には、医療側の制度改定という背景があります。
2026年度診療報酬改定では、入院時の特別食加算について、摂食機能や嚥下機能が低下した患者に提供する「嚥下調整食」が新たに評価対象となりました。
特別食加算は1食76円、1日3食までで、2026年6月から適用されています。
一方、介護保険の療養食加算の対象食種は、糖尿病食、腎臓病食、肝臓病食、胃潰瘍食、貧血食、膵臓病食、脂質異常症食、痛風食、特別な場合の検査食などで、現在の対象食種に嚥下調整食は入っていません。
もっとも、介護報酬で嚥下調整食がまったく評価されていないわけではありません。
例えば再入所時栄養連携加算では、医療機関への入院中に特別食や嚥下調整食が必要となった場合、介護保険施設の管理栄養士と医療機関の管理栄養士が連携する取組が評価されています。
厚労省は今回、「入所者の嚥下機能に応じた食事の提供を含め、施設で提供される食事を適切に評価するためには、どのような方策が考えられるか」と正式に論点として提示しました。
リハ・栄養・口腔の「一体的取組」には一定の手応えも
2024年度介護報酬改定では、リハビリテーション・機能訓練、栄養、口腔を一体的に進める取組がさらに評価されるようになりました。
これは、利用者の生活を考えれば自然な考え方でもあります。
本来、「動くこと」「食べること」「口から摂ること」は切り離せません。
実際、一体的取組を実施している事業所・施設では、「関係職種が必要時に相談し合う体制を作っている」「情報連携を行うカンファレンスを実施している」とする回答が8割以上でした。
また、カンファレンスの効果として「関係職種と話し合うことで、共通の方針・目標について検討できた」とする回答は7~8割でした。
利用者への効果としても、老健・介護医療院・地域密着型特養では「口腔衛生状態の維持・改善につながった」が4~5割、特養では「誤嚥性肺炎の予防やリスクが高い利用者の早期発見につながった」が5割と報告されています。
それでも算定率は高くない
一方、制度として十分に広がっているとは言えません。
非算定の理由を見ると、老健、介護医療院、特養、地域密着型特養では「口腔の専門職の確保が困難」が約3割。
通所リハでは「管理栄養士の確保が困難」「口腔の専門職の確保が困難」がともに約5割でした。
2027年度改定は「加算を増やす」だけの議論ではない
そして今回、もう一つ重要なのが「加算体系そのもの」の見直しです。
介護報酬は改定を重ねる中で加算の種類が増え、取得要件も複雑になってきました。
厚労省は今回、利用者の分かりやすさや介護事業者の事務負担軽減という観点から、「算定率が低い加算や算定率の高い加算についてどのように考えるか」を口腔・栄養分野の論点に掲げています。
リハ・栄養・口腔の一体的取組についても、「一体的取組の推進をどう考えるか」とともに、「加算についてどのように考えるか」が論点になりました。
今後、加算の整理や統合、要件の簡素化などが議論される可能性はあります。
福祉教育ラボの視点|「口腔」「栄養」「リハ」は利用者の生活では分かれていない
介護報酬を見ると、口腔、栄養、リハビリテーションは別々の加算や要件として整理されています。
しかし、利用者の生活はそうではありません。
口が痛ければ食べられない。
噛めなければ食形態が変わる。
食べられなければ低栄養になる。
低栄養になれば筋力が落ちる。
筋力が落ちれば、動くことや生活そのものにも影響します。
反対に、適切な口腔管理によって食べることが保たれ、栄養状態が整い、活動や生活につながることもあります。
「食べる」「動く」「話す」「暮らす」は、本来一つの生活の中にあります。
2027年度介護報酬改定の口腔・栄養をめぐる議論で注目したいのは、新しい加算ができるかどうかだけではありません。
専門職が少ない地域でもどう連携できるのか。
利用者の状態をどう早く見つけるのか。
適切な食事を提供するためのコストをどう評価するのか。
そして、複雑になった制度を、現場が実際に使える仕組みにできるのか。
今回の資料から見えてくるのは、「望ましい支援」を示す段階から、「どうすれば現場で実現できるのか」を考える段階へ、議論が進みつつあることです。
2027年度介護報酬改定で具体的な報酬案や算定要件が示されれば、福祉教育ラボでも引き続き、「何が決まったのか」「何がまだ議論中なのか」を分けながら整理していきます。


