2027年度介護報酬改定|認知症ケアはどう変わる?本人の意向・社会参加・研修が論点

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2027年度介護報酬改定に向け、「認知症への対応力強化」が論点になっています。本人の意向、社会参加、認知症ケア研修、若年性認知症、算定率の低い加算まで、厚生労働省の一次資料から整理します。

最初に結論|問われているのは「認知症に対応できるか」だけではありません

厚生労働省は2026年9月3日の第264回社会保障審議会介護給付費分科会で、 「認知症の人の意向を尊重した生活」 を目標に、ADLや社会参加をどう支えるかを2027年度介護報酬改定の論点として示しました。 [1]

認知症ケアの評価を、「対応できる体制があるか」だけでなく、 「その人が、そこでどのように暮らせているか」 まで広げるのか。今回の議論では、その問いが見えてきます。

注意|まだ決まった制度ではありません 今回示されたのは2027年度改定に向けた「論点」です。新しい加算、既存加算の廃止、単位数、研修要件などが決定したわけではありません。
2027年度改定で示された4つの論点
1 本人の意向・社会参加

本人の意向を尊重した生活を、ADLや社会参加の向上へどうつなげるか。

2 認知症ケア研修

加算要件となっている認知症対応力向上のための研修をどう考えるか。

3 若年性認知症

就労・所得・医療・障害福祉・介護を横断する支援をどうつなぐか。

4 算定率の低い加算

利用者の分かりやすさと事業所の事務負担を踏まえ、どう整理するか。

認知症とMCIは、2040年に約1,200万人へ

今回の資料では、議論の前提として認知症とMCI(軽度認知障害)の将来推計が示されています。 [1]

認知症・MCIの推計
2022年|認知症 443.2万人 有病率12.3%
2022年|MCI 558.5万人 有病率15.5%
2040年|認知症 584.2万人 推計
2040年|MCI 612.8万人 推計

2022年時点では、認知症とMCIの有病率を合わせると約28%です。

2022年の年齢別有病率が今後も一定と仮定した場合、2040年には認知症とMCIを合わせて約1,200万人となり、高齢者のおよそ3.3人に1人と推計されています。

MCIは認知症そのものではありません。

もの忘れなどの軽度な認知機能低下が認められる一方、日常生活は自立しているため、認知症とは診断されない状態です。

大切なのは、この数字を単に「認知症の人が増える」という話だけで読まないことです。

厚生労働省自身も、 「誰もが認知症になり得る」 という認識のもと、認知症バリアフリーや社会参加機会の確保などを進めることが重要だとしています。

独居で認知機能が低下した高齢者も増える

本人の意向を尊重する支援を考えるうえで、もう一つ重要なのが「独居」です。

認知症またはMCIがあり、一人暮らしをしている「独居認知機能低下高齢者」は、今後さらに増えると推計されています。 [1]

2025年 250万人 独居認知機能低下高齢者
2050年 349万人 推計

認知症のみで見ても、独居認知症高齢者は2025年の121万人から2050年には171万人へ増える見込みです。

これまで介護の場面では、本人の意思を確認しにくいとき、「ご家族はどう考えていますか」と家族へ確認することも少なくありませんでした。

しかし、家族が近くにいること自体を前提にできない人が増えていきます。

本人が何を望んでいるのか。どのように暮らしたいのか。誰とつながりたいのか。

本人自身との対話や日々の生活から、その意向をどう捉えるかという課題は、さらに重要になります。

認知症基本法が変えた「制度の出発点」

2024年1月に施行された認知症基本法では、認知症の人を単に「支援される人」として位置づけてはいません。

認知症の人も基本的人権を持つ一人の個人として、自らの意思によって日常生活・社会生活を営むこと、社会のさまざまな活動へ参加する機会が確保されること、本人の意向を十分に尊重した保健医療・福祉サービスを受けられることなどが基本理念に置かれています。

さらに2024年12月には認知症施策推進基本計画が閣議決定されました。

そこでは「新しい認知症観」として、認知症になってからも一人ひとりにできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で希望を持って自分らしく暮らし続けることができる、という考え方が示されています。 [1]

今回の2027年度介護報酬改定で注目したいのは、この理念が「介護サービスを何によって評価するのか」という制度論へ接続し始めていることです。

ADLは「目的」なのか、「生活のための手段」なのか

介護では、ADLの維持・改善は重要な評価項目です。

歩ける。食べられる。着替えられる。排泄できる。

こうした生活動作を支えることはもちろん重要です。

しかし、「歩けるようになること」自体が本人の生活の目的とは限りません。

1 歩ける 身体機能・ADLだけを見る。
2 何のために歩きたい? 近所の店へ行く、庭を見る、友人に会うなど、本人の生活目標を確認する。
3 生活・社会参加へつなげる ADLを本人が望む暮らしを実現するための力として捉える。

今回、厚生労働省は「本人の意向を尊重した生活を目標」としたうえで、ADLや社会参加の向上へどうつなげるかを論点にしています。

ADLを「できる/できない」で終わらせず、 「その力を、本人は何のために使いたいのか」 まで考えることが求められます。

社会参加とは「レクリエーションを増やすこと」ではない

資料には、通所介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護で行われている社会参加活動の実践例も掲載されています。

雑巾を作り、地域へ寄付 使い古したタオルを活用し、ボランティア活動へ。
小学校の登下校を見守る 地域の子どもたちとのつながりや役割を持つ。
作品をフリーマーケットへ 手芸・木工など、これまでの力を生かす。
販売収入で慰労会 「してもらう」だけでなく、自ら生み出す活動へ。

ここで行われているのは、「高齢者に楽しい活動を提供する」という一方向の支援だけではありません。

地域のために何かをする。誰かに必要とされる。昔から持っていた技術を使う。役割を持つ。

これも社会参加です。

社会参加活動には肯定的な結果も|ただし因果は断定できない

調査では、社会参加活動を行っている事業所において、「生活における充実感・満足感の向上」「他者とのコミュニケーションの増加」を効果として挙げた割合が、活動類型ごとに7~8割程度でした。

また、週1回未満の参加と比べ、週1回以上参加している場合、「ADLが大幅に改善した/やや改善した」と回答した割合が12.8ポイント高かったとされています。 [1]

生きがい・やりたいこと、機能訓練へのモチベーション、身体状態についても、週1回以上参加している場合の方が高い結果でした。

この数字は慎重に読む必要があります 調査対象10,000事業所のうち回答は679事業所、回収率は6.8%です。社会参加へ積極的な事業所ほど回答している可能性もあります。この調査だけで「社会参加をすればADLが改善する」という因果関係を証明することはできません。

現時点では、 「社会参加活動を行っている事業所では、ADL、生きがい、意欲などに関連する肯定的な結果がみられている」 と読むのが適切です。

「社会参加が良い」が、新しい強制にならないために

社会参加が介護報酬で評価されるようになったとき、注意したいことがあります。

「社会参加が良い」という考えが、

  • 全員に外出してもらう
  • 全員に役割を持ってもらう
  • 全員に同じ活動へ参加してもらう

という別の強制へ変わってしまえば、本来の本人中心の支援とは逆方向になります。

資料のヒアリング事例でも、本人の興味・関心を確認し、活動を希望しない利用者には別の過ごし方を提案している事業所が紹介されています。

重要なのは「社会参加させること」ではありません。

その人は何をしたいのか。誰とつながりたいのか。どのような過ごし方なら心地よいのか。

そこから支援を考えることです。

BPSDへの対応も「行動を止める」だけではない

認知症ケアでは、BPSDへの対応も重要なテーマです。

BPSDとは、認知症に伴ってみられる行動・心理症状を指します。

2024年度介護報酬改定では、BPSDの発現を未然に防ぐことや、出現時に早期対応する取組を評価する「認知症チームケア推進加算」が新設されました。

加算Ⅰは150単位/月、加算Ⅱは120単位/月です。 [1]

調査では、チームで情報を共有しながらケアを行うことで、職員側にも「BPSDを問題行動として見るのではなく、その背景を考える」という変化がみられたとされています。

小規模な実践調査ではBPSD25Q得点が低下
初回 26.47
最終 14.24

対象は17人の特定施設での実践です。小規模な調査のため、この結果だけでチームケアの効果を一般化することはできませんが、背景を捉えたチームケアの可能性を示す一つの材料です。

ところが、認知症チームケア推進加算は広がっていない

認知症チームケア推進加算の事業所ベースの算定率は、低い水準にあります。

サービス 加算Ⅰ 加算Ⅱ
認知症グループホーム 1.0% 6.0%
特別養護老人ホーム 1.0% 4.6%
介護老人保健施設 1.3% 7.9%

ただし、この数字だけを見て「現場がチームケアに取り組んでいない」と考えるのは適切ではありません。

算定には、研修修了者の配置、人員体制、定期的なカンファレンスなど複数の条件があります。

また、認知症専門ケア加算を算定している場合、認知症チームケア推進加算は併算定できません。

加算が広がらない理由は「研修不足」だけではない

資料を詳しく見ると、算定の障壁は研修修了者の不足だけではありません。

認知症グループホーム

40.5% 人手不足
39.7% 定期的なカンファレンスが困難
26.4% 単位数に対して労力が見合わない
22.3% 認知症専門ケア加算で対応

介護老人保健施設

59.6% 人手不足
51.9% 定期的なカンファレンスが困難

「研修を受けさせれば算定できる」という単純な問題ではありません。

必要な職員がいるか。カンファレンスを開く時間があるか。記録や評価を続けられるか。加算単位が労力に見合うか。

制度で良いケアを評価しても、それを実際に行う人と時間がなければ、制度は現場に根付きません。

認知症ケア研修|質を保ちながら「受けやすく」できるか

認知症関連の加算には、認知症介護実践者研修、認知症介護実践リーダー研修、認知症介護指導者養成研修、認知症チームケア推進研修など、複数の研修が関係しています。

70分 認知症チームケア推進研修
eラーニング
23,608円 認知症介護実践者研修
平均受講料
33,936円 実践リーダー研修
平均受講料

資料では、オンライン形式と集合形式について、実施主体が評価した学習効果を比較したところ、有意な差は認められなかったとされています。研修未修了者数についても有意差は確認されませんでした。 [1]

一方、2024年度は対面のみで実施する自治体も多く、実践者研修では半数超、実践リーダー研修では約7割となっています。

これは「すべてオンラインにすればよい」という話ではありません。

実習や対話、演習を対面で行う意味もあります。

その一方で、

  • どこに住んでいても必要な研修へアクセスできるか
  • 勤務を休んで受講できるか
  • 受講費用を負担できるか
  • 必要な定員が確保されているか

という問題もあります。

研修の質と、アクセスのしやすさをどう両立するのかも今後の論点です。

若年性認知症は「増えている」と単純には言えない

若年性認知症については、数字の読み方に注意が必要です。

平成21年調査 3.78万人 47.6人/10万人
令和2年調査 3.57万人 50.9人/10万人

推計人数そのものは3.78万人から3.57万人へ減っています。

一方、18~64歳人口10万人あたりの有病率は47.6人から50.9人へわずかに上昇しています。 [1]

厚生労働省は、有病率が上昇した一方で実数が減少した背景として、18~64歳人口そのものの減少を挙げています。

したがって「若年性認知症が増えている」と単純に表現するのは適切ではありません。

若年性認知症は「介護保険へつなげれば終わり」ではない

若年性認知症では、生活上の課題も高齢期とは異なります。

調査では、約6割が発症時点で就業しており、そのうち約7割が退職しています。

また、世帯の約6割が「収入が減った」と回答しています。

さらに65歳未満の若年性認知症の人の 約3割は介護保険を申請していません。 [1]

39.2% 必要を感じない
19.4% サービスについて知らない
13.0% 利用したいサービスがない
12.2% 家族がいるから大丈夫

支援が必要な人を「介護保険サービスへつなげればよい」と考えるだけでは足りません。

医療、ハローワーク、障害者雇用、障害福祉サービス、障害年金、介護保険などを横断して支える必要があります。

算定率の低い加算をどうするのか

今回の4つ目の論点が、算定率の低い加算です。

厚生労働省は、「利用者にとっての分かりやすさ」と「介護サービス事業者の事務負担軽減」の観点から、算定率の低い加算をどう考えるかを論点として示しています。

資料では、事業所ベースの算定率が3%以下の加算を機械的に赤色で表示しています。

若年性認知症受入加算や認知症行動・心理症状緊急対応加算には、サービスによって1%未満、あるいは0%台のものもあります。 [1]

ただし、「算定率が低いから廃止する」と決まったわけではありません。

対象者が少ないのか。要件が厳しいのか。制度を知られていないのか。事務負担が重いのか。他の加算で対応しているのか。

なぜ低いのかによって、必要な見直しは異なります。

2027年度改定で、認知症ケアは「何を評価する制度」になるのか

これまで介護報酬では、

  • 研修修了者がいる
  • 専門的な体制がある
  • BPSDへ対応できる

といった「体制」が評価されてきました。

もちろん、こうした体制は重要です。

一方、今回の資料には、

本人の意向/社会参加/生きがい/やりたいこと/役割

といった、生活そのものに関係する言葉が入っています。

これは、

「認知症へ対応できる事業所か」から、「認知症になった人が、その場所でどのように暮らせているか」へ

制度の評価軸を広げるのか、という問いにつながります。

福祉教育ラボの視点

理念を制度にするには、「現場の条件」まで見なければならない

「本人の意向を尊重する」「社会参加を支える」「BPSDの背景を見る」。

どれも大切な考え方です。

しかし、理念を掲げるだけでは現場は変わりません。

一人ひとりの話を聞く時間があるか。

本人の希望をチームで共有する時間があるか。

カンファレンスを開けるか。

必要な研修を受けられるか。

必要な人員がいるか。

医療・障害福祉・就労支援とつながれるか。

そこまで整って初めて、理念は実践になります。

だから2027年度改定で問われるのは、 「良い認知症ケアとは何か」だけではなく、「良い認知症ケアを現場で続けられる制度にできるか」 という問いでもあります。

まとめ|「新しい認知症観」が介護報酬の具体論へ

2027年度介護報酬改定に向けて、認知症では4つの論点が示されています。

  • 本人の意向を尊重した生活とADL・社会参加
  • 認知症ケア研修
  • 若年性認知症への支援
  • 算定率の低い加算の整理

まだ、新しい加算や単位数、研修要件などは決まっていません。

一方、今回の議論では、認知症ケアの評価を「症状へ対応できるか」だけでなく、

本人は何を望んでいるのか。どのような役割を持っているのか。人や地域とどうつながり、その人らしい生活をどこまで続けられているのか。

という方向へ広げようとする動きが見えます。

しかし、理念と実践の間には制度設計があります。

研修要件を増やしても、受講機会や人員がなければ実践できません。

加算を作っても、カンファレンスや記録の負担に見合わなければ広がりません。

2027年度改定で「新しい認知症観」が、現場で実行できる介護報酬・基準としてどのように形になるのか。

福祉教育ラボでも、決まったことと議論されていることを分けながら、引き続き確認していきます。

主な一次資料

本記事は、厚生労働省が2026年9月3日に開催した第264回社会保障審議会介護給付費分科会の一次資料をもとに整理しています。

  1. 厚生労働省|第264回社会保障審議会介護給付費分科会 資料1「認知症への対応力強化」 認知症・MCIの将来推計、独居認知機能低下高齢者、認知症基本法・基本計画、社会参加、認知症チームケア推進加算、研修、若年性認知症、2027年度介護報酬改定の論点などを確認できます。 資料1「認知症への対応力強化」(PDF)を確認する 第264回介護給付費分科会の資料一覧を確認する
注意:社会参加活動の調査は10,000事業所に対して679事業所が回答し、回収率は6.8%です。またBPSD25Qの実践結果も小規模調査です。本記事では、これらを因果関係が確立した結果としては扱わず、厚生労働省資料に示された参考材料として整理しています。
FROM POLICY TO PRACTICE 制度改正を、「現場でできる形」へ。

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