ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチとは?|違い・具体例と介護予防でのつなぎ方
「ハイリスクアプローチ」と 「ポピュレーションアプローチ」。 保健・医療、介護予防について学んでいると よく出てくる言葉です。
まず簡単に整理すると、 ハイリスクアプローチは リスクの高い人を把握し、その人に重点的に働きかける方法。
ポピュレーションアプローチは、 一部の人だけではなく、集団全体へ働きかけ、 集団全体のリスクを下げる方法です。
ただし実際の地域支援では、 「個別支援か、地域づくりか」 という二者択一ではありません。
地域で気づいた人を個別支援へつなぐ。 個別支援を受けた人を地域へつなぐ。 そして個別支援から分かった課題を、 地域の仕組みへ返していく。
今回は、二つのアプローチの違いと、 「個別 ⇄ 地域」を循環させる意味まで整理します。
最初に結論|まずは「誰に働きかけるか」で分ける
リスクの高い人へ深く
リスクの高い人を把握し、 本人の状態や生活背景に応じて 重点的・個別的に支援します。
集団全体へ広く
低リスク層も含めた地域・集団全体へ働きかけ、 集団全体のリスクを下げます。
ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの違い
| 比較 | ハイリスクアプローチ | ポピュレーションアプローチ |
|---|---|---|
| 主な対象 | リスクの高い人 | 低リスク層を含む集団全体 |
| 基本 | 対象者を把握して重点的に支援 | 集団全体のリスクを下げる |
| 介護予防の例 | 低栄養の人への個別訪問・相談 | 地域全体へのフレイル予防、通いの場 |
| 強み | 本人に合わせた支援ができる | 多くの人へ働きかけられる |
| 注意点 | 集団全体への波及は小さくなりやすい | 一人ひとりへの効果は小さくなりやすい |
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健康日本21の総論では、 より危険度の高い人の危険を減らす方法を 高リスクアプローチ、 集団全体で危険因子を下げる方法を 集団アプローチ(Population approach) と整理しています。
そして、どちらか一方ではなく、 両者を適切に組み合わせる必要があるとしています。
ハイリスクアプローチとは?
ハイリスクアプローチは、 疾病や生活機能低下などのリスクが高い人を把握し、 その人に重点的な支援を行う方法です。
高齢者保健事業では、 たとえば次のような人への個別支援があります。
- 低栄養のリスクがある
- 口腔機能が低下している
- 身体的フレイルがみられる
- 生活習慣病等の重症化リスクが高い
- 健診・医療等につながっておらず健康状態が分からない
保健師、管理栄養士、歯科衛生士などが、 本人の状態に応じて個別に関わります。
ハイリスクの人だけ支援すればいい?
ここで大切なのは、 リスクは「ある人」と「ない人」に きれいに分かれているわけではないということです。
たとえば血圧なら、 非常に高い人、高い人、少し高い人、 標準的な人というように、 集団の中に連続して分布しています。
一人ひとりのリスクはそれほど高くなくても、 中程度のリスクを持つ人が非常に多ければ、 集団全体で発生する疾病の数は大きくなることがあります。
だからこそ、 ハイリスク者だけではなく、 集団全体へ働きかける必要があります。
一緒に覚えたい「予防パラドックス」
公衆衛生では、 疫学者Geoffrey Roseの議論として 「予防パラドックス」が知られています。
これが予防パラドックスの基本的な考え方です。
「中程度のリスクの大きな集団から、 結果として多くの疾病が発生する」という現象は、 ポピュレーションアプローチが必要となる背景として 関連しています。
ただし、この現象そのものを 予防パラドックスの定義とするのではなく、 「集団の利益」と「一人ひとりの利益の大きさ」が 一致しないこととして理解すると整理しやすくなります。
ポピュレーションアプローチとは?
ポピュレーションアプローチは、 特にリスクの高い人だけではなく、 低リスク層や境界域も含む 集団全体へ働きかける方法です。
高齢者保健事業では、 たとえば次のような取組があります。
- 通いの場等での健康教育・健康相談
- フレイル予防の普及啓発
- 身体計測や体力測定
- 後期高齢者の質問票等による状態把握
- 日常的に健康について相談できる環境づくり
「本人に頑張ってもらう」だけではなく、環境へ働きかける
たとえば、 「運動しましょう」と伝えることはできます。
しかし、
こうした環境で、 「本人が運動しないから」とだけ考えても 問題は解決しません。
歩きやすい環境をつくる。 参加しやすい場を増やす。 移動手段を整える。 一人でも入りやすい場をつくる。
食生活であれば、 健康的な食品を選びやすくする、 地域の飲食店で減塩メニューを選びやすくする、 栄養バランスの取れた食品へアクセスしやすくするといった 「食環境」への働きかけも考えられます。
ポピュレーションアプローチにも限界がある
地域全体へ同じ情報を届ければ、 すべての人に同じように届くわけではありません。
健康への関心が高く、 時間や経済的余裕があり、 情報へアクセスしやすい人ほど 参加しやすい場合があります。
一方、本当に支援を必要としている人ほど、
- 外出しづらい
- 情報へアクセスしづらい
- 経済的な困難がある
- 地域とのつながりがない
といった状況に置かれていることがあります。
大切なのは「個別 ⇄ 地域」の双方向
ハイリスクアプローチと ポピュレーションアプローチは、 二つの事業を別々に行えばよいというものではありません。
個別支援と地域づくりを行き来する
厚生労働省が掲載している研究班の取組推進ガイドでも、 両アプローチの双方を連動させ、 「双方向の流れを意識した連動の仕組み」 をつくることが示されています。
たとえば、 通いの場で健康・生活上の困難に気づいた人を 個別支援へつなぐ。
反対に、 個別支援を受けた人を、 本人の希望や状態に合った地域活動へつなぐ。
さらに、 個別支援から分かった共通課題を 地域の事業や環境づくりへ返していく。
これが「個別 ⇄ 地域」の循環です。
令和9年度の後期高齢者医療制度の 保険者インセンティブでは、 ポピュレーションアプローチで把握した ハイリスク者を個別支援へつなぐことと、 ハイリスクアプローチで把握・介入した人を ポピュレーションアプローチへつなぐことの 両方が評価項目に位置づけられています。
ただし、保険者インセンティブの評価項目は 年度によって変更される可能性があります。 後から読む場合は最新年度の通知を確認してください。
後期高齢者の質問票は、何を見ている?
高齢者保健事業では、 「後期高齢者の質問票」も活用されています。
15項目からなり、 病気の有無だけではなく、 身体・心理・生活・社会面まで確認します。
健康を血圧や疾病だけで見るのではなく、 外へ出ているか、 人とつながっているか、 困ったときに相談できる人がいるかという 社会的な側面まで確認していることが特徴です。
高齢者の保健事業と介護予防の「一体的実施」とは?
現在、高齢者の保健事業では、 医療保険側の保健事業と介護予防を 一体的に実施する仕組みが進められています。
法的な基盤となる指針は、 高齢者の医療の確保に関する法律第125条に基づき、 2020年3月27日に告示され、 同年4月1日から適用されています。
一体的実施では、
- 医療の情報
- 健診の情報
- 介護の情報
- 地域の状況
などを組み合わせながら、 高齢者の健康課題を把握し、 個別支援と地域での介護予防をつないでいきます。
令和7年度の一体的実施実施状況調査では、 受託中・受託予定の1,730市町村が集計対象となっています。
ポピュレーションアプローチでは、 フレイル予防の普及啓発や 運動・栄養・口腔等の健康教育・健康相談が 広く実施されています。
現在は「一体的実施を行うか」という段階から、 個別支援と地域支援をどうつなぎ、 取組の質を高めるかという段階へ進みつつあります。
例で考える|78歳のAさんの場合
ここからは架空の事例です。
Aさん|78歳
最近、体重が減り、 以前より外出の機会も少なくなっています。 後期高齢者の質問票や健診情報などから、 低栄養や身体的フレイルのリスクがあることが分かりました。
一人を見る。
そこから地域を見る。
地域を整える。
そして、もう一度一人の暮らしへ戻る。
これが、個別支援と地域づくりを つなぐということです。
試験・研修では、ここを見れば区別しやすい
問題文では「誰を対象にしているか」を見る
・低栄養の人へ個別訪問
・重症化リスクが高い人へ保健指導
・通いの場の整備
・集団全体が健康になりやすい環境づくり
ポピュレーション=「集団全体へ広く」
ただし実務では、
「深く」と「広く」をつなぐ。
よくある誤解|「個人」と「地域」は別々ではない
ハイリスクアプローチだから、 「本人の問題を直す」。
ポピュレーションアプローチだから、 「地域イベントを開く」。
それだけではありません。
低栄養やフレイルの背景には、
- 疾病
- 孤立
- 経済状況
- 交通
- 住宅環境
- 家族関係
- 地域資源
などが影響していることがあります。
個別支援だからこそ、 本人だけを見るのではなく、 その人を取り巻く環境まで見る。
地域支援だからこそ、 「地域全体」という言葉の中で、 一人ひとりの違いを見失わない。
その往復が大切です。
最新動向|高齢者保健と介護予防の一体的実施
2026年9月10日には、 第21回「高齢者の保健事業のあり方検討ワーキンググループ」が開催され、 「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の進捗等」が 議題となりました。
現在は資料1 「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施の進捗状況」 も公開されています。
まとめ|「誰に働きかけるか」から「どうつなぐか」へ
ハイリスクアプローチは、 リスクの高い人へ重点的に働きかける方法です。
ポピュレーションアプローチは、 低リスク層も含む集団全体へ働きかけ、 集団全体のリスクを下げる方法です。
二つは対立する考え方ではありません。
支援の循環
「個別か、地域か」ではなく、 「個別と地域をどう行き来するか」。
ここまで理解すると、 二つの言葉が単なる試験用語ではなく、 実際の支援の姿として見えてきます。
本人の努力と、地域の環境を切り離さない
「運動しましょう」
「しっかり食べましょう」
「外へ出ましょう」
健康や介護予防では、 よく使われる言葉です。
どれも間違いではありません。
けれど、
運動できる場所はあるでしょうか。
一緒に食べる人はいるでしょうか。
外へ出るための交通手段はあるでしょうか。
初めて参加しても安心できる場所でしょうか。
困ったときに相談できる人はいるでしょうか。
人の行動は、 その人の意思や努力だけで決まるものではありません。
生活する環境。 人との関係。 地域の仕組み。
それらにも影響されます。
だからといって、 地域全体だけを見て、 一人ひとりの違いが見えなくなってもいけません。
そこから地域を見る。
地域を整える。
そして、もう一度その人の暮らしへ戻ってくる。
ハイリスクアプローチと ポピュレーションアプローチをつなぐ意味は、 そこにあるのではないでしょうか。
一人ひとりが、 自分らしく暮らし続けられる地域をつくるために。
個別支援と地域づくりを 行き来しながら考える。
福祉教育ラボでは、 この二つを別々の技法としてではなく、 つながりのある支援として捉えていきたいと思います。
主な一次資料
-
厚生労働省
「健康日本21(総論)」
高リスクアプローチと集団アプローチの基本的な考え方。
資料を確認する -
厚生労働省
「高齢者の保健事業について」
ガイドライン、質問票、法令、実施状況調査等を掲載。
資料一覧を確認する -
「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」の
取組推進ガイド-実証からの推進ヒント-
令和7年度厚生労働行政推進調査事業補助金による研究班成果物。
ガイドを確認する -
厚生労働省
「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン 第3版」
後期高齢者の質問票や高齢者保健事業の考え方を確認できます。
ガイドラインを確認する -
厚生労働省
「令和9年度 後期高齢者医療制度の保険者インセンティブ」
ハイリスク・ポピュレーション両アプローチの接続を評価。
通知を確認する -
厚生労働省
第21回「高齢者の保健事業のあり方検討ワーキンググループ」
2026年9月10日開催。
会議資料を確認する
2026年9月10日時点の公表資料を確認して作成


