夏休み明けの子ども・若者の「こころのSOS」|小中高生538人、8月20日からこども・若者への支援を強化
夏休みが終わり、学校生活が再び始まる時期を迎えます。
新学期を楽しみにしているこどもがいる一方で、学校生活や人間関係、進路、家庭での出来事、心身の不調など、さまざまな不安や負担を抱えながら、この時期を迎えるこども・若者もいます。
こども家庭庁は、学校の夏休み明け前後にこどもの自殺が増加する傾向があることを踏まえ、2026年8月20日から9月9日までを 「こども・若者の自殺対策集中取組期間」 と位置づけ、支援や啓発を強化します。
この記事では、自殺に関する統計を扱います。ただし、数字を不安や恐怖を強めるために使うのではなく、 「いま何が起きているのか」を知り、そのうえで、こども・若者の周囲にいる私たちが何を考えられるのかを整理します。
2025年の小中高生は538人――1980年以降で最多
厚生労働省と警察庁が2026年3月27日に公表した確定値によると、2025年の日本全体の自殺者数は19,188人でした。 前年の20,320人から1,132人減少しています。
その一方、19歳以下は前年の800人から830人へ30人増えました。
さらに、学生・生徒等のうち小学生・中学生・高校生を合わせた人数は538人。 前年の529人から9人増え、統計のある1980年以降で最も多くなりました。
日本全体では自殺者数が減少している一方、小中高生では高い水準が続いています。 「日本全体で増えているから、こどもも増えている」という状況ではありません。
この10年間で、どのように変化してきたのか
2025年だけを見るのではなく、少し長い時間軸で確認してみます。
| 年 | 小中高生の自殺者数 |
|---|---|
| 2016年 | 320人 |
| 2017年 | 357人 |
| 2018年 | 369人 |
| 2019年 | 399人 |
| 2020年 | 499人 |
| 2021年 | 473人 |
| 2022年 | 514人 |
| 2023年 | 513人 |
| 2024年 | 529人 |
| 2025年 | 538人 |
2016年の320人から2025年の538人までを比較すると、218人増えています。
特に2019年の399人から2020年には499人へ大きく増加しました。 その後2021年には473人へいったん減少したものの、2022年514人、2023年513人、2024年529人、2025年538人と、500人を超える水準が続いています。
この推移だけから「2020年に起きた一つの出来事が原因だった」と結論づけることはできません。 統計から確認できるのは、2025年だけが突出した一年なのではなく、近年、高い水準が続いているということです。
2025年は小学生10人、中学生172人、高校生356人
2025年の538人を学校段階別に見ると、小学生10人、中学生172人、高校生356人でした。
人数としては高校生が最も多い状態が続いています。
一方、中学生は2019年112人、2020年146人、2021年148人、2022年143人、2023年153人、2024年163人、2025年172人と推移しています。
年代によってどのような背景や特徴が考えられるのかについては、別の記事で、発達段階、学校との関係、家庭環境、援助要請などに関する研究を踏まえて整理します。
人口当たりの数字も確認する
人数を見るときには、人口そのものが変化していることにも注意が必要です。
厚生労働省が公表する人口10万人当たりの「自殺死亡率」では、2025年の10〜19歳は7.8でした。
年齢による統計と学校段階による統計は対象が完全には一致しないため、直接同じものとして比較することはできません。 数字を見るときには、対象となる集団の定義も確認する必要があります。
2025年は9月が62人――ただし「9月が原因」ではない
2025年の小中高生538人を月別に見ると、1月51人、2月36人、3月36人、4月33人、5月47人、6月43人、7月48人、8月45人、9月62人、10月52人、11月50人、12月35人でした。
2025年では9月の62人が最も多くなっています。前年2024年も9月は59人でした。
2024年9月
59人夏休み明け前後に人数が多くなる傾向が確認されています。
2025年9月
62人2025年の月別人数では最も多い月でした。
月別統計が示しているのは、この時期に支援を厚くする必要性です。 一人ひとりが抱えていた背景や経過は異なり、学校の再開だけを原因と考えることは適切ではありません。
「学校問題」だけを見ても、2025年の増加は説明できない
夏休み明けという言葉から、「やはり学校の問題が原因なのではないか」と考える方もいるかもしれません。
しかし、2025年の統計を丁寧に見ると、もう少し複雑な姿が見えてきます。
警察庁が把握した小中高生の原因・動機では、2025年は「学校問題」が251件と最も多くなっています。
内訳には、学業不振58件、入試に関する悩み28件、入試以外の進路に関する悩み55件、いじめ16件、いじめ以外の学友との不和53件、教師との人間関係3件などが含まれます。
| 原因・動機の区分 | 2024年 | 2025年 | 前年差 |
|---|---|---|---|
| 学校問題 | 272件 | 251件 | −21件 |
| 家庭問題 | 108件 | 147件 | +39件 |
| 健康問題 | 164件 | 174件 | +10件 |
| 交際問題 | 44件 | 54件 | +10件 |
2025年に小中高生の自殺者数が529人から538人へ増えた一方で、学校問題の件数は前年より減っています。
そのため、 「学校問題が増えたから、小中高生の自殺者数が増えた」 と一つの説明だけで捉えることはできません。
原因・動機の「件数」は、538人を分類した人数ではありません
警察庁の原因・動機は、遺書など本人の生前の言動を裏付ける資料に加え、家族等の証言などから把握されています。
また、2022年以降は一人について最大4項目まで計上できます。
したがって、 「学校問題251件=538人のうち251人は学校だけが原因だった」 という意味ではありません。
一人について、学校、家庭、健康、人間関係など複数の領域が重なって計上される場合があります。
厚生労働省・警察庁も、自殺の多くは多様で複合的な原因や背景を持ち、さまざまな要因が連鎖する中で起きていることに注意が必要だとしています。
一つの数字から、一人のこどもの生活や経験を説明しきることはできません。
国の対策も「本人に相談を求める」だけではない
2026年にこども家庭庁が示した「こども・若者 自殺防止総力戦略」では、こども・若者を早期に支援へつなぎ、関係機関が連携して継続的に支える体制づくりが進められています。
1人1台端末などを活用し、こどもの変化を把握して支援につなげる取組。
電話やSNSなど、本人が利用しやすい複数の相談手段を整備。
スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の活用を促進。
学校、自治体、医療、福祉など、一つの機関だけで抱え込まない体制を整える。
8月20日からの集中取組期間でも、こども・若者本人へのメッセージだけではなく、周囲の大人に向けたゲートキーパーの啓発などが行われます。
本人が助けを求めることだけでなく、そのSOSを周囲が受け止め、必要な支援へつなげられる環境をつくることも重要な対策として位置づけられています。
この数字を、どう受け止めるか
538人。
この数字を見れば、重く感じるのは自然なことだと思います。
けれども、この数字を使って不安を大きくしたり、 「危険なこどもを探さなければ」 と考えたりすることが、この記事の目的ではありません。
統計から分かるのは、近年、小中高生の自殺者数が高い水準にあり、2025年には1980年以降で最多となったこと。
9月には人数が多くなる傾向がみられ、国も夏休み明け前後の支援を強化していること。
そして、その背景は学校問題だけでは説明できず、家庭、健康、人間関係など、複数の領域を見ていく必要があることです。
一方、統計だけでは見えないものもあります。
538という数字の一つひとつには、それぞれ異なる生活があり、関係があり、言葉にできなかった思いがあったはずです。
だからこそ、数字を知った私たちができることは、恐れることだけではないと思います。
「話してもいい」
「うまく説明できなくてもいい」
「今すぐ答えが出なくても、一緒に考えてくれる人がいる」
そんなふうに思える関係を、日頃から少しずつ増やしていくこと。
夏休み明けだから特別にこどもを監視するのではなく、普段よりほんの少し、表情を見てみる。 ほんの少し、話を聞いてみる。 ほんの少し、「最近どう?」と声をかけてみる。
大きなことはできなくても、私たち一人ひとりにできる小さな関わりはあります。
そして、支える大人も一人で抱える必要はありません。
本人を支える人もまた、誰かにつながっていてよい。
2026年8月20日から始まる集中取組期間を、悲しい数字だけを確認する時間ではなく、 「こどもや若者が苦しくなったときに、どこかで誰かとつながれる社会になっているだろうか」 と考える時間にする。
私たちの周りに、安心して話せる関係があるだろうか。
そんなことを、少しだけ考える機会にできればと思います。
不安や悩みを抱えている方、周囲で心配している方へ
本人だけでなく、家族や友人など、周囲で心配している方も相談できます。
相談することは、問題を一人で解決できなかったということではありません。 本人も、そばにいる人も、一人で抱え込まず、必要なときには次の人へつながる。 それも大切な支援の一つです。


