インフルエンザ、異例の8月に全国流行入り|高齢者施設・介護現場が今確認したい5つのこと
厚生労働省は2026年8月28日、全国のインフルエンザが流行シーズンに入ったと発表しました。
第34週、8月17日から23日の全国の定点当たり報告数は1.11。全国約3,000か所の定点医療機関から4,094人の患者が報告され、流行開始の目安とされる1.00を上回りました。
今回の流行入りは、感染症法が施行された1999年以降では2009年に次いで2番目の早さです。前年から流行状態が続いていた2023年は除きます。
高齢者施設や介護事業所にとって大切なのは、「今年は早いらしい」と知ることだけではありません。
すでに流行期に入ったことを前提として、利用者・職員の健康管理、発生時の初動、医療連携、行政への報告、そして面会や日常生活をどう守るかまで、今の段階で確認しておく必要があります。
結論|「冬になったら感染対策」では間に合わない
厚生労働省は、インフルエンザなどの急性呼吸器感染症の予防には、手洗いや咳エチケットなどの基本的な感染対策が有効としています。
特に、高齢者や基礎疾患のある人は感染すると重症化する可能性があります。
8月17日〜23日。2026年9月3日時点で全国の最新公式値です。
第35週、8月24日から30日の全国値は9月4日に公表予定です。第36週以降は翌年3月末まで、原則毎週金曜日に公表される予定です。
介護現場で今確認したいのは、次の5点です。
そして利用者の暮らしを守ること。
介護・福祉の感染症対策では、その両方から考える必要があります。
1|全国の数字だけでなく「地域」と「施設の中」を見る
全国の定点当たり報告数1.11は、流行入りを知る重要な指標です。
しかし、全国平均だけを見て施設の対応を決めることはできません。
第34週だけを見ても、沖縄県は4.43、岩手県2.10、神奈川県1.99など地域差がある一方、愛知県は0.74でした。
地域の流行状況を確認すると同時に、より重要になるのが「自分たちの施設の中で何が起きているか」です。
厚生労働省の2026年版「急性呼吸器感染症(ARI)に関する施設等内感染予防の手引」では、日頃から施設内や利用者の感染症発生動向を把握し、流行期には適切に情報を共有できる体制を決めておくことが望ましいとしています。
ただし、高齢者のインフルエンザでは、必ずしも典型的な高熱が出るとは限りません。
厚労省の最新手引でも、高齢者では典型的な高熱や強い全身倦怠感を示さず、微熱や長引く呼吸器症状だけの場合も少なくないとされています。
- いつもより元気がない
- 食事量が落ちた
- 咳が続いている
- 動く量が減った
- 反応が鈍い
「38℃を超えていないから大丈夫」と考えるのではなく、普段との違いも含めて見る必要があります。
2|職員の体調管理を「本人任せ」にしない
高齢者施設では、利用者だけではなく職員の健康管理も重要です。
厚労省の施設内感染予防の手引は、施設従業者について、外部との接触機会が多いため病原体を施設へ持ち込む可能性が高く、同時に重症化リスクの高い利用者へ密接に接する集団であると整理しています。
そのため、職員に症状が出たときの対応を、本人の判断だけに任せないことが重要です。
施設側では、少なくとも次の点を決めておく必要があります。
- 職員が体調不良になったとき、誰へ連絡するのか
- 勤務中に症状が出たらどうするのか
- 出勤可否を誰が判断するのか
- 欠勤者が出た場合に、どう勤務を組み替えるのか
「体調が悪かったら無理しないでください」という呼びかけだけでは、組織としての感染対策にはなりません。
なお、「介護職がインフルエンザになった場合、法律上何日休む必要があるのか」は別の問題です。学校の出席停止基準と成人労働者の就業をそのまま同じに考えることはできません。この点は別記事で詳しく整理します。
3|利用者に症状が出たとき「最初の数時間」を確認する
利用者に発熱や咳、体調変化があったとき、「インフルエンザかどうか」を介護職が診断することが役割ではありません。
介護現場で必要なのは、異変に気づき、感染拡大を防ぐ初動を取り、看護職・医師等へつなぎ、必要な医療を受けられるよう調整することです。
厚労省の手引では、高齢者の入所施設などで患者が発生した場合、可能な限り個室で療養させることが望ましいとしています。
個室を確保できない場合には、カーテン等による遮蔽、ベッド間隔の確保、同室者の状態を踏まえたマスク・手洗いなど、施設の状況に応じた感染防止策が示されています。
高齢者など重症化リスクの高い人や合併症がある場合には、状況に応じて医療機関への連絡や入院も検討します。
そのため、平時から協力医療機関との連携体制をつくり、流行シーズンには施設内の患者発生状況などについて情報交換することが重要です。
感染症が発生したとき、誰が指揮を取るのか。家族や医療機関への連絡は誰がするのか。複数の職員が休んだ場合に何の業務を優先するのか。
今のBCPで、本当に動けるでしょうか。
集団感染が起きたら、活動を一時停止することもある
厚労省の手引では、施設内で集団感染が発生した場合、食堂に集まっての食事、集団で行うリハビリテーション、レクリエーション、共同浴場での入浴など、多くの人が集まる活動の一時停止を検討するとしています。
4|「10人になるまで報告しなくていい」ではない
感染症が施設内で発生した場合、行政への報告基準も確認しておく必要があります。
厚生労働省通知では、社会福祉施設等について、次の場合に市町村等の主管部局と保健所へ迅速に報告することとしています。
- 同一の感染症等による死亡者または重篤患者が1週間以内に2人以上発生した場合
- 同一の感染症の患者または疑いのある人が10人以上、または全利用者の半数以上発生した場合
- これらに該当しなくても、通常の発生動向を上回る感染症等の発生が疑われ、施設長が報告を必要と認めた場合
重篤者が出た場合や、普段とは明らかに違う広がり方をしている場合などには、人数だけを待たずに相談することが重要です。
また、具体的な報告様式や連絡方法は自治体によって異なる場合があります。流行してから連絡先を探すのではなく、平時に確認しておきたいところです。
5|感染対策を理由に「暮らしを全部止める」必要はない
ここは、介護・福祉の現場だからこそ大切にしたい部分です。
感染症が流行すると、面会禁止、外出禁止、レクリエーション中止、家族との接触制限などへ対策が強くなることがあります。
もちろん、高齢者には重症化リスクがあります。感染を広げないことは非常に重要です。
その一方で、厚生労働省の2026年版施設内感染予防の手引は、面会についてかなり踏み込んだ考え方を示しています。
面会は、本人が大切に思う人との関係や生活の質を保つうえで重要とされています。
手引では、面会機会が大きく損なわれることは本人や家族等へ精神的不安をもたらし、「患者等の権利を制約している可能性」があるとしています。
そのうえで、感染拡大状況と社会的合理性を踏まえ、過度な面会制限にならないよう柔軟な対応が必要とされています。
対面面会が適切ではないと判断する場合にも、なぜ制限するのかを説明し、オンライン面会など具体的な代替策を提示することが望ましいとされています。
また、厚生労働省「急性呼吸器感染症(ARI)に関するQ&A」(2026年6月30日改訂)でも、高齢者施設等の面会について、感染対策に留意しながら、可能な範囲で面会機会を確保するという考え方に変更はないとされています。
安全を守ることは大切です。
しかし、安全を唯一の価値にすれば、本人が大切にしてきた家族関係や、生活の楽しみ、社会とのつながりまで失わせる可能性があります。
「どのリスクを、どこまで下げながら、どの生活を守るのか」を考える必要があります。
早い流行入りで「ワクチンはどうする?」という疑問も
例年より早い流行入りを受け、「ワクチンはどうすればいいのか」と考える人もいるでしょう。
厚生労働省は、インフルエンザワクチンには発症をある程度抑える効果や、重症化を予防する効果があるとし、特に高齢者や基礎疾患のある人など、重症化する可能性が高い人には重要としています。
定期接種の対象は、65歳以上の人、および60〜64歳で一定の心臓、腎臓、呼吸器機能や免疫機能の障害がある人です。
施設・事業所でも、利用者や家族から相談があったときに地域の情報を案内できる状態にしておくとよいでしょう。
まだ暑い|感染症対策と熱中症対策を同時に考える
今回の流行入りは8月です。
つまり今年は、インフルエンザ対策と熱中症対策を同時に考えなければなりません。
厚生労働省は夏場について、高齢者や基礎疾患のある人と会う場面などでは感染対策への協力を求める一方、熱中症防止の観点から、屋外でマスクが必要ない場面ではマスクを外すことを推奨しています。
施設内感染予防の手引でも、高温多湿の夏場では熱中症対策が重要であり、エアコンなどを適切に使用して涼しい環境を保つよう示しています。
「暑いからマスクはいらない」でもありません。
場所、相手、感染状況、重症化リスク、暑熱環境を見ながら判断します。
感染症だけを見て熱中症を増やしてしまっては、利用者の安全を守ったことにはなりません。
「なぜ8月に流行?」は今の段階では単純化しない
「なぜ夏なのにインフルエンザが流行しているのか」という疑問もあります。
厚労省の8月28日の発表は、流行入りの早さそのものを示していますが、その原因を一つに特定してはいません。
厚労省の施設向け手引でも、インフルエンザは一般に秋から冬へ流行する一方、「夏期に流行する地域もある」とされています。
人の移動、地域ごとの流行状況、ウイルスの動向、生活環境など複数の要因が考えられますが、現段階で「今年早いのは○○が原因」と断定することは避けた方がよいでしょう。
今日、施設・事業所で確認したい5項目
新しいマニュアルを大量に作る必要はありません。
まず、すでにある仕組みが本当に動くかを確認します。
- 地域と施設内の感染状況を把握する担当・方法は決まっているか
- 職員が発熱や咳等を認めた場合の連絡先と就業判断は明確か
- 利用者に症状が出た場合、看護職・医師・協力医療機関へつながる流れが決まっているか
- 市町村等の主管部局、保健所への報告基準と連絡先を確認しているか
- 面会、食事、レクリエーション等を制限する際の判断基準と、解除・代替策の考え方があるか
まとめ|流行入りを「注意喚起」で終わらせない
2026年第34週の全国のインフルエンザ定点当たり報告数は1.11となり、全国は流行シーズンに入りました。
1999年以降では、2009年に次いで2番目に早い流行入りです。
高齢者や基礎疾患のある人は重症化する可能性があり、高齢者施設・介護現場では早い段階からの対応が重要です。
ただし、感染症対策とは、手洗い、マスク、面会制限といった個々の対応だけではありません。
- 利用者と職員の変化を早く把握する
- 職員が症状を認めたときに休める仕組みをつくる
- 利用者に症状が出たら必要な医療につなぐ
- 集団感染が疑われたら行政へ相談する
- 感染状況に応じてBCPを動かす
- 感染対策をしながら本人の生活をどう守るか考える
そこまで含めて、施設・事業所の感染症対策です。
福祉教育ラボの視点|守りたいのは「感染ゼロ」ではなく、その人の生命と暮らし
高齢者施設で感染症を広げないことは、とても重要です。
インフルエンザは、高齢者にとって重症化や肺炎などにつながる可能性がある感染症だからです。
だからこそ、必要な感染対策は丁寧に行わなければなりません。
一方で、福祉の目的は「感染者を一人も出さないこと」そのものではありません。
私たちが守ろうとしているのは、その人の生命と、その人が営んでいる暮らしです。
家族や大切な人に会うこと。
誰かと話すこと。
食堂で食事をすること。
身体を動かすこと。
お風呂に入ること。
外へ出ること。
そうした一つひとつも、その人の生活を形づくっています。
感染リスクが高まったときには、一時的に制限する必要があることもあります。
しかし、その制限を「感染症だから仕方がない」で終わらせないこと。
なぜ必要なのか。
どこまで必要なのか。
いつ見直すのか。
代わりにできることはないのか。
を考え続ける必要があります。
厚生労働省の最新手引が、面会について「生活の質」や「権利」にまで触れ、過度な制限を避けるよう求めていることには大きな意味があります。
その両方をどう成り立たせるのかを考えることも、介護・福祉の感染症対策です。
一次資料・関連資料
- 厚生労働省|インフルエンザに関する報道発表資料
- 厚生労働省|2026年第34週 インフルエンザの発生状況
- 厚生労働省|急性呼吸器感染症(ARI)に関する施設等内感染予防の手引
- 厚生労働省|急性呼吸器感染症(ARI)に関するQ&A
- 厚生労働省|夏の感染症対策
- 厚生労働省|社会福祉施設等における感染症等発生時に係る報告について
※本記事は2026年9月3日時点で公表されている資料をもとに整理しています。第35週(8月24日〜30日)の全国の発生状況は9月4日に公表予定です。第36週以降は翌年3月末まで、原則毎週金曜日に公表される予定です。


