強度行動障害とは?|氷山モデル・機能的アセスメント・環境調整から支援を考える

学びの整理

突然、大きな声を出す。自分の身体を叩く。 物を投げる。誰かを叩いてしまう。

その場にいる支援者としては、 まず本人や周囲の安全を守らなければなりません。

「どうやって止めよう」 「落ち着いてもらわなければ」 と考えるのは、決しておかしなことではありません。

けれども、その場が落ち着いたあと、 「この人に、何が起きていたのだろう」 と考えてみることができます。

強度行動障害への支援では、 目の前に見えている行動だけではなく、 その人の身体、感覚、理解の仕方、伝え方、 周囲の環境、人との関係などへ視野を広げていくことが重要です。

この記事では、 「行動をどう止めるか」ではなく、 「なぜこの状態が起きているのかをどう考え、 本人が安心して暮らせる条件をどうつくるのか」 という視点から整理します。

この記事で整理すること

  • 強度行動障害を「その人そのもの」ではなく「状態」として捉える意味
  • 氷山モデルで、目に見える行動の背景を考える方法
  • 機能的アセスメントとABCによる観察の基本
  • 身体状態や環境要因を含めて考える必要性
  • 「行動が起きた後」だけでなく、予防的に環境を整える支援
  • 行動の減少だけではなくQOLから支援を評価する視点
  • 一人の支援者や家族だけに抱え込ませない支援体制

強度行動障害は「性格」でも「診断名」でもない

まず確認しておきたいのは、 「強度行動障害」という言葉が何を示しているのかです。

国立障害者リハビリテーションセンターでは、 自分の身体を叩く、危険につながる飛び出し、 他人を叩く、物を壊す、大泣きが長時間続くなど、 本人の健康や周囲の暮らしに影響する行動が著しく高い頻度で起こり、 特別に配慮された支援を必要としている 「状態」 として説明されています。

厚生労働省の検討会でも、 強度行動障害は障害そのものではなく、 状態を表す言葉として整理されています。

「強度行動障害だから、この人はこういう人だ」 と考えることはできません。

「いま、この人と環境との間で何が起きているのだろう」 と考えることが、支援の出発点になります。

国立障害者リハビリテーションセンター|強度行動障害に関する資料

見えている行動だけで、その人を理解しない

支援現場では、どうしても目に見える行動に注意が向きます。

「大声を出した」 「物を投げた」 「職員を叩いた」 「床に寝転んだ」。

これらは、観察することのできる事実です。

しかし、それだけでは 「なぜ、その行動が起きたのか」 は分かりません。

例えば、活動室で突然大声を出した人を見て、 「活動をやりたくなかったのだろう」 「職員に構ってほしかったのではないか」 などと考えることはできます。

しかし、その時点では、どれも仮説です。

観察された事実

10分間待っていた。
次の予定は提示されていなかった。
11時40分に大声を出した。

支援者の解釈

待つのが嫌いだった。
怒っていた。
職員を困らせようとした。

支援では、 観察した事実と、そこから生まれた解釈を分ける ことが大切です。

氷山モデル|見えているものの下に目を向ける

強度行動障害の支援では、 「氷山モデル」という考え方が用いられてきました。

私たちが直接見ることのできる行動は、 その人に起きていることの一部かもしれません。

水面上|私たちから見える行動
大声 自傷 他害 物壊し 飛び出し
私たちから見えている範囲

水面下|背景にあるかもしれない要因

予定や見通しが分かりにくい
音・光・人の多さなどの感覚刺激
伝えたいことを伝えにくい
活動が難し過ぎる・分かりにくい
睡眠・痛み・便秘など身体的要因
人との関係や周囲の対応

氷山モデルは、 「大声の裏には必ず不安がある」 といった原因を断定するためのものではありません。

「まだ私たちには見えていない要因があるかもしれない」 と考えるための入り口です。

「なぜ?」を思い込みで決めない|機能的アセスメント

厚生労働省の検討会では、 強度行動障害への標準的な支援として、 本人の障害特性をアセスメントし、 行動に影響している環境要因を調整することが基本として示されています。

機能的アセスメントでは、 単に「この人はどのような障害なのか」を見るだけではありません。

どんな状況で起きやすいのか。 どんな状況では起きにくいのか。 その前に何が起きていたのか。 行動のあと、周囲や環境はどう変わったのか。

こうした情報を集めながら、 行動が生じる条件について仮説を立てます。

大切なのは「理由を当てること」ではありません。 観察から仮説を立て、支援を試し、 本人の変化を見ながら仮説を更新していくことです。

厚生労働省|強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会

ABCで考える|行動の「前」と「後」を見る

現場で比較的使いやすい整理方法の一つが、 ABCによる観察です。

A
Antecedent

行動の前に何が起きていたか。
人、時間、活動、声かけ、音、待ち時間など。

B
Behavior

実際に観察された行動。
「怒った」ではなく、 「机を3回叩いた」など具体的に記録します。

C
Consequence

行動のあと何が起きたか。
人が来た、活動が終わった、 場所を移動したなど。

例えば、

A:作業終了後、次の予定を示されず10分待っていた

B:大声を出して机を叩いた

C:職員が来て、静かな別室へ移動した

同じような記録を重ねることで、 特定の時間、音、活動、待ち時間、人との関係など、 行動が起こりやすい条件が見えてくることがあります。

急な変化では、身体の状態も考える

「最近、急に大声が増えた」 「これまでなかった自傷が始まった」。

そんなとき、 すぐに「行動障害が悪化した」と考えないことも重要です。

痛み 歯痛、腹痛、けがなど
睡眠 睡眠不足、中途覚醒など
排泄 便秘などの不快感
薬剤 変更や副作用など

本人が痛みや不快感を言葉で伝えにくい場合、 周囲が変化を捉える必要があります。

「行動だから福祉の問題」と分けるのではなく、 身体、心理、環境、コミュニケーション、生活全体から考え、 必要に応じて医療ともつながることが重要です。

支援は「起きた後」だけではない

大きな行動が起きたあとに対応することだけが、 支援ではありません。

本当に考えたいのは、

「どうすれば、本人がそこまで苦しい状態にならずに済むのか」

という予防的な視点です。

国の基本指針でも、 強度行動障害について、 行動上の課題が起きにくい環境を整えるなど、 予防的観点からの支援が位置づけられています。

予定を見えるようにする 本人が理解できる方法で、 次に何が起こるかを伝える。
始まりと終わりを明確にする いつ始まり、いつ終わるのかを分かりやすくする。
刺激を調整する 音、人の多さ、光、空間などを見直す。
伝える方法を増やす 言葉だけに頼らず、 本人に合った意思表示の方法を考える。

環境調整は「何でも本人に合わせること」ではない

環境調整というと、 「刺激を全部なくす」 「嫌がることを全部やめる」 という意味に受け取られることがあります。

しかし、目的は本人の生活を小さくすることではありません。

本人が安心できる条件を整えながら、 参加できる活動を増やす。 選べるものを増やす。 自分で伝えられる方法を増やす。 好きなことや役割を増やしていく。

環境調整は、本人の世界を狭くするためではなく、 本人が参加できる世界を広げるために行う。

「行動が減った=良い支援」とは限らない

例えば、自傷が1日10回から2回になったとします。

本人の身体を守るという意味では、 とても大きな変化です。

しかし、一日中何もせず一人の部屋で過ごすようにした結果、 自傷が減ったのだとしたらどうでしょうか。

行動の回数だけを見れば「改善」です。

でも、その人の暮らしは豊かになったのでしょうか。

支援の成果を「行動の回数」だけで評価しない

安心できる時間
好きな活動
選択できる機会
人とのつながり
役割・活動
地域への参加

支援の目標は、 単に「問題となっている行動をなくすこと」ではありません。

本人が安心し、 選び、楽しみ、 人とつながりながら暮らせること。

生活の質、QOLの視点から考えることが必要です。

研究から分かること|「この方法なら必ず良くなる」ではない

機能的アセスメントや環境調整、 Positive Behaviour Support(PBS)などについては、 海外を中心に研究が蓄積されています。

システマティックレビュー

2022年のレビューでは、 知的・発達障害のある人のチャレンジングな行動を評価する 24の標準化尺度が整理され、 適切な評価が予防や介入を考えるうえで重要であることが示されています。

82件のRCT

2023年のシステマティックレビュー・メタ分析では、 82件のランダム化比較試験、計4,637人を対象として さまざまな介入が検討されました。 全体として効果は一様ではなく、 対象者・介入内容・評価方法を丁寧に捉える必要性が示されています。

PBS研究

PBSについても、 研修や支援方法を導入するだけで 自動的に大きな改善が生じるとは限らない研究結果があります。 個別化、実装、継続的評価まで含めて支援を考える必要があります。

海外研究で用いられる 「challenging behaviour」と、 日本の制度上の「強度行動障害」は完全に同じ概念ではありません。

海外研究の結果を日本の制度や現場へそのまま一般化するのではなく、 支援を考える際の科学的な下支えとして慎重に参照する必要があります。

つまり、 「研修を受けた」 「支援計画を書いた」 「ある技法を導入した」 だけで終わりではありません。

観察 仮説 支援 記録 再評価

人の暮らしは、 一つの技法だけで説明できるほど単純ではありません。

ミニ事例|昼食前になると大声を出すAさん

ここからは架空の事例で考えてみます。

生活介護を利用しているAさん
1

Aさんは、昼食前になると大きな声を出すことが増えていました。

2

職員は「お腹がすいているのだろう」と考え、 昼食時間を少し早めました。 しかし、大声はあまり変わりませんでした。

3

数日間、行動の前後を記録すると、 午前の活動終了後から昼食までの予定が分からない時間帯と、 配膳準備で食堂が騒がしくなる時間帯に 大声が増えていることが見えてきました。

4

「休憩→昼食」という予定を分かりやすく提示し、 待つ場所を少し静かな場所に変更。 職員の声かけもできるだけ統一しました。

5

大声が減った場合でも、 「原因はこれだった」と断定せず、 現在の環境ではこの支援が Aさんの安心につながっている可能性が高いと考え、 記録を続けます。

この事例で覚えたいのは「正解」ではありません。 観察し、仮説を立て、環境を調整し、 本人の変化を見ながら考え直していく過程です。

「○○さんしか支援できない」をつくらない

現場では、 「この利用者さんは○○さんじゃないと無理」 という状態になることがあります。

経験豊富な職員だからこそ気づけるサインや、 長い関わりの中で築かれた関係性は大切です。

しかし、その職員が休んだら支援できない、 退職したら支援が崩れるという状態では、 本人も職員も安心できません。

だからこそ、

○○さんは何を見ているのか。

どのタイミングで声をかけているのか。

どんな変化を「いつもと違う」と感じているのか。

それを言葉にし、記録し、 チームに共有していく必要があります。

専門性とは、 一人の「名人」をつくることだけではありません。

良い支援を、本人の周囲にいる人たちで共有できる状態をつくること も専門性の一つです。

家族や支援者も、支えられる必要がある

強い自傷や他害に毎日向き合っている家族。

緊張の続く支援に入っている職員。

「何をやってもうまくいかない」 と思いながら出勤する支援者。

そんな人に、 「もっと本人理解を深めましょう」 とだけ伝えても、支援につながらないことがあります。

人は疲れます。 怖いと感じることもあります。 腹が立つこともあります。 自信を失うこともあります。

本人を支えることと、 本人を支えている人を支えることは、 切り離すことができません。

一人で抱え込ませない支援環境をつくることもまた、 本人への支援につながります。

福祉教育ラボの視点

「困った人」から、「いま困っている一人の人」へ

目の前で物を投げられたら、怖い。

叩かれたら、痛い。

同じことが何度も続けば、疲れる。

それは、支援者として未熟だから感じることではありません。

だから、ただ 「もっと本人の気持ちになりましょう」 と求めるだけでは十分ではないと思います。

安全を守る。 支援者も守る。 家族も支える。

そして少し落ち着いたところで、 もう一度、本人の側を見てみる。

「この人には、何が起きていたのだろう」
「何が分かりにくかったのだろう」
「何を変えたら、もう少し安心できるだろう」

昨日は分からなかったことが、一つ分かる。

本人が安心していられる時間が少し増える。

好きな活動が一つ見つかる。

「嫌だ」と伝えられる方法が一つ増える。

家族が少し休める。

職員同士で「私も困っている」と言える。

そして、 「じゃあ、一緒に考えよう」 と言ってくれる人がいる。

それらは一つひとつを見ると、 小さな変化かもしれません。

けれども、 その小さな変化によって、 本人の一日が少し穏やかになり、 家族の生活に少し余白が生まれ、 支援者が明日もその人に会おうと思えることがあります。

支援とは、 人を「望ましい行動」に変える技術だけではありません。

安心できること。 選べること。 伝えられること。 好きなことを楽しめること。 人とつながれること。 自分なりの役割を持てること。

そうした暮らしの可能性を、 一緒に少しずつ広げていく営みでもあります。

本人だけに変化を求めるのではなく、 私たちの関わりや環境も少し変えてみる。

その積み重ねによって、 本人にも、家族にも、支援する人にも、 昨日より少しだけ安心や喜びが増える。

福祉教育ラボが考える 「幸せの拡大」 は、こうした日々の小さな支援の中にもあるのだと思います。

現場へ持ち帰りたい5つの問い

  1. いま見ているのは「事実」か、それとも自分の「解釈」か。
  2. その行動の前に、何が起きていたか。
  3. 身体・感覚・理解・伝達・環境の中に、見落としているものはないか。
  4. 本人を変える前に、環境や関わり方を変えられないか。
  5. 行動が減っただけでなく、本人の暮らしは豊かになっているか。

主な参考資料・エビデンス

※本記事は2026年8月20日時点で確認できる公的資料・研究をもとに整理しています。 個別の支援方法は、本人の障害特性、身体状態、生活環境、 コミュニケーション、安全上のリスク等によって異なります。 行動の急激な変化や重大な自傷・他害等がみられる場合には、 福祉職だけで抱え込まず、医療機関や専門的支援機関を含めて連携することが重要です。