要介護認定とは|母が転んだ日、私たちは初めて「要介護認定」を知った
介護保険サービスを利用するまでの流れ
「最近、お母さん、少し危ないんじゃない?」
家族の間で、そんな話が出るようになっていました。
以前は一人で買い物へ行き、食事を作り、身の回りのことも自分でしていた母。
ところが最近は、立ち上がるときにふらつくことが増え、同じことを何度も確認するようになっていました。
それでも本人は、
「まだ大丈夫」
と話します。
家族も、できる限り本人の生活を変えたくないと思っていました。
ところが、ある日の朝。
母が自宅の廊下で転倒しました。
大きなけがには至りませんでしたが、それをきっかけに、一人で入浴することや外出することが難しくなっていきました。
食事の準備。
買い物。
通院。
入浴。
トイレ。
家族が手伝わなければならない場面が、少しずつ増えていきます。
しかし、家族にも仕事と生活があります。
毎日付き添うことはできません。
「このまま家族だけで支え続けられるのだろうか」
不安を抱えながら市役所へ相談すると、担当者から案内されたのが「要介護認定」の申請でした。
要介護認定は、介護保険サービスにつながるための大切な入口です。
では、申請した後、どのように認定が決まっていくのでしょうか。

まずは市町村へ申請する
要介護認定の手続きは、本人が住んでいる市区町村への申請から始まります。
本人や家族が直接申請するほか、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所などに相談し、申請を支援してもらうこともあります。
母の家族も、担当者から説明を受けながら申請書を提出しました。
申請をしただけで、すぐに介護度が決まるわけではありません。
本人にどの程度の介護が必要なのかを判断するため、認定調査と主治医意見書の作成が進められます。
認定調査で本人の生活状況を確認する
申請後、市区町村などの認定調査員が、本人の自宅や入院先、入所施設などを訪問します。
調査では、身体の動きだけでなく、認知機能、意思の伝達、行動の様子、日常生活における介助の状況などが確認されます。
母の自宅にも認定調査員が訪れました。
「一人で立ち上がれますか」
「食事は自分で食べられますか」
「お風呂では、どのような手助けが必要ですか」
母は調査員の前で、いつも以上にしっかりと立とうとしました。
家族に迷惑をかけたくないという思いもあったのでしょう。
しかし、その日一度できたことだけで、普段の生活すべてを判断することはできません。
認定調査では、調査項目の選択だけでなく、本人の普段の状態や介助の状況を記録する「特記事項」も重要な資料になります。
本人だけでは説明しにくいことがある場合には、家族が普段の様子を具体的に伝えることも大切です。
主治医意見書から病気や心身の状態を確認する
認定調査と並行して、市区町村は本人の主治医に意見を求めます。
主治医意見書には、病気やけがの状態、心身の機能、認知症の症状、医療的な管理の必要性などが記載されます。
これは、本人や家族が主治医に依頼して受け取り、市役所へ提出する書類というより、通常は市区町村から主治医へ作成が依頼されるものです。
認定調査が日常生活の状況を確認する資料であるのに対し、主治医意見書は医学的な視点から本人の状態を確認する資料になります。
主治医意見書は、介護認定審査会が審査・判定を行う際の重要な資料として使用されます。
コンピュータによる一次判定
認定調査の結果をもとに、まず一次判定が行われます。
一次判定は、全国共通の基準に基づくコンピュータ判定です。
ここでは、本人の病名や家族の介護負担の重さだけで介護度が決まるわけではありません。
認定調査の結果から、その人にどの程度の「介護の手間」が必要になるかを推計します。
そのため、
「重い病気があるから必ず要介護度が高くなる」
「一人暮らしだから要介護度が高くなる」
とは限りません。
要介護認定では、病気の重さそのものではなく、その状態によって日常生活にどの程度の介護が必要になっているかが重要になります。
介護認定審査会による二次判定
一次判定の結果だけで、最終的な認定が決まるわけではありません。
次に、保健・医療・福祉に関する専門家で構成される介護認定審査会が審査を行います。
介護認定審査会では、主に次の資料をもとに検討します。
・一次判定の結果
・認定調査の特記事項
・主治医意見書
これらを総合的に確認し、一次判定の結果が本人の実際の介護の手間を適切に表しているかを審査します。
そして、要支援や要介護のどの区分に該当するかについて、二次判定を行います。
判定するのは審査会、認定するのは市町村
ここは、介護福祉士国家試験などでも問われやすい重要なポイントです。
介護認定審査会が行うのは、審査と判定です。
その判定結果に基づいて、要介護認定を行い、本人へ結果を通知するのは市区町村です。
つまり、次のように整理できます。

認定結果は原則30日以内に通知される
要介護認定の結果は、申請日から原則30日以内に通知されます。
結果は、次のいずれかになります。
・非該当
・要支援1
・要支援2
・要介護1
・要介護2
・要介護3
・要介護4
・要介護5
ただし、認定調査の日程調整や主治医意見書の作成、介護認定審査会の開催状況などにより、30日を超える場合もあります。
その場合には、市区町村から認定が遅れる理由や見込み期間などが通知されます。
しばらくして、母の自宅にも認定結果の通知が届きました。
家族は、結果を見て少し戸惑いました。
介護度が分かっただけでは、これから何をすればよいのか、まだ分からなかったからです。
しかし、要介護認定はそれだけで終わる手続きではありません。
認定は、必要な支援を考えるための次の段階へつながっていきます。
認定後はケアプランを作成する
要介護認定を受けた後、在宅で介護サービスを利用する場合には、一般的に居宅介護支援事業所のケアマネジャーへ相談します。
ケアマネジャーは、本人や家族の希望、生活状況、心身の状態などを確認しながら、どのような支援が必要かを一緒に考えます。
そして、訪問介護、デイサービス、福祉用具、訪問看護、短期入所などのサービスを組み合わせたケアプランを作成します。
母の家族も、ケアマネジャーと話し合いました。
母は、
「できるだけ自分の家で暮らしたい」
と話しました。
家族は、
「仕事を続けながらでも、安心して支えられる形にしたい」
と希望しました。
そこで、母が日中を安心して過ごせるようにデイサービスを利用し、自宅内での転倒を防ぐために福祉用具を検討することになりました。
要介護認定によって、すべての問題が解決するわけではありません。
しかし、家族だけで抱えていた介護が、専門職や地域の支援につながることで、少しずつ「みんなで支える介護」へと変わっていきます。
要介護認定は、その人の生活を支える入口
要介護認定という言葉を聞くと、本人のできないことを調べ、介護度を決める手続きのように感じるかもしれません。
しかし、本来の目的は、本人のできないことに名前をつけることではありません。
本人がどのような生活を望んでいるのか。
家族は何に困っているのか。
どのような支援があれば、住み慣れた場所で安心して暮らせるのか。
それを考えるための入口が、要介護認定です。
本人が「まだ大丈夫」と話していても、家族の負担や生活上の危険が大きくなっている場合があります。
反対に、家族が心配するあまり、本人ができることまで支援者が代わってしまうこともあります。
だからこそ、本人と家族のどちらか一方だけを見るのではなく、両者の生活を丁寧に確認することが大切です。
おわりに
母が転んだ日、家族は初めて要介護認定という制度を知りました。
それまでは、
「まだ家族だけで何とかできる」
と思っていました。
市役所へ相談することに、ためらいもありました。
しかし、相談したことで、本人の生活や家族の負担を一緒に考えてくれる人たちとつながることができました。
要介護認定は、単に介護度を決める手続きではありません。
本人と家族が、これからの暮らし方を考えるためのスタートラインです。
介護が必要になったとき、家族だけで抱え込む必要はありません。
市区町村や地域包括支援センターなどへ相談することから、本人らしい暮らしを支える道が始まります。
福祉教育ラボ 編集室


