強度行動障害への支援拡充を指定都市が国に要請|「受け入れられない」の先で、本人と家族の暮らしをどう支えるか

福祉ニュース

自分の身体を傷つける。大きな声が続く。物を壊してしまう。人に手が出てしまう。

そのような行動が繰り返されると、家族だけで生活を支えることが難しくなり、 福祉サービスを利用しようとしても、 「現在の体制では受け入れることができない」と言われることがあります。

もちろん、事業所側にも事情があります。 本人やほかの利用者の安全を守りながら支援するためには、 人員、専門性、環境、そして支援者同士の連携が必要です。

だからこそ今、問われているのは、 本人、家族、支援者の誰か一人に頑張ってもらうことではありません。

必要な支援を、地域全体でどう支えていくのか。

強度行動障害の状態にある人への支援をめぐり、 その仕組みをさらに整えようとする動きが続いています。

この記事のポイント

  • 指定都市市長会が、2027年度報酬改定に向けて強度行動障害への支援強化を国へ要請しました。
  • 現時点で新しい全国一律の加算や報酬体系が決定したわけではありません。
  • 障害者支援施設では、強度行動障害への対応体制を理由に受入れが難しくなる実態も確認されています。
  • 国の支援は「一つの事業所で抱える」形から、専門人材や地域全体で支える方向へ進んでいます。
  • 支援拡充の先にあるのは、本人・家族・支援者それぞれが孤立しない地域づくりです。

2027年度の報酬改定に向け、指定都市が国へ支援強化を要請

2026年7月24日、指定都市市長会は厚生労働省に対し、 「医療的ケアが必要な方や強度行動障害の状態にある方の家族の支援に向けた指定都市市長会要請」 を提出しました。

強度行動障害について要請されたのは、 生活介護や共同生活援助などで支援する際、 本人や周囲への影響が大きい行動がみられる場合には、 職員1人、あるいは複数人での対応が必要になることを踏まえ、 その支援を適切に評価する報酬体系とすることです。

「支援したくても、現在の人員や報酬の仕組みだけでは十分に支えきれない」。 その現場の課題を、個々の事業所だけではなく制度の側から考えようとする動きです。

ここは注意が必要です。
2026年8月20日時点で、新しい全国一律の加算や報酬体系が決定したわけではありません。 今回は2027年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた「要請」です。

厚生労働省では2027年度の障害福祉サービス等報酬改定に向け、 関係団体へのヒアリングなどを進めています。

つまり現在は、 「次の報酬改定で、どのような支援体制を社会として支えるのか」 が議論されている段階です。

そもそも「強度行動障害」とは

「強度行動障害」という言葉から、 一つの病気や障害名を想像する人もいるかもしれません。

しかし、強度行動障害は、その人そのものを表す診断名ではありません。

自分の身体を叩く、食べられないものを口に入れる、 他人を叩く、物を壊すなど、 本人や周囲の暮らしに影響する行動が著しく高い頻度で起こり、 特別に配慮された支援が必要になっている「状態」として捉えられています。

大切なのは、 「その人が問題なのではない」 ということです。

「強度行動障害の人だから」と人そのものに問題を結びつけるのではなく、 「今、この人と環境との間で何が起きているのだろう」と考えるところから、 支援は始まります。

「受け入れられない」は、実際に起きている

今回の要請の背景にあるのは、理念だけではありません。

厚生労働省の調査研究では、 回答した障害者支援施設1,173施設のうち、 48.6%が 「空床はあるものの、当事者の状態像等を理由に受け入れを断ったケースがある」 と回答しました。

さらに、その570施設に受入れを断った理由を尋ねたところ、 63.5%が 「強度行動障害があり、施設の支援体制では充分対応できない」 と回答しています。

1,173施設 調査に回答した
障害者支援施設
48.6% 空床があっても
受入れを断った経験
63.5% 強度行動障害への
対応体制を理由に回答

ここで考えたいのは、 「事業所が受け入れてくれない」という一方向の問題ではありません。

強度行動障害の状態にある人を支えるためには、 安全確保だけでなく、本人の障害特性の理解、 アセスメント、環境調整、支援方法の統一、 職員間の情報共有などが必要になります。

同じ調査では、行動障害のある人への支援手順について、 「決まっており職員間で共有できている」と回答した施設は52.9%でした。 一方、「支援手順は特に決まっていない」は37.2%でした。

支援者個人の努力だけで埋めるには、大きすぎる課題があることが分かります。

愛知県の調査から見える、本人と家族の生活

愛知県は2025年度、 強度行動障害の状態にある人と家族を対象とする実態調査を行い、 2026年3月に結果を公表しました。

名古屋市を除く県内で、 障害福祉サービス等を利用し、 所定の加算や判定基準などから抽出された対象者は、 4,400人と推計されています。

この4,400人は、愛知県全体における「有病率」を示す数字ではありません。 調査で設定された条件から抽出された推計値です。 実際の回答者数は2,537人、回収率は57.7%でした。

状態がみられ始めた時期については、 「小学校入学前」が40.2%、 「小学生」が12.3%でした。

また、状態が悪化したときに強くみられる行動として、 「大声・奇声を出す」55.3%、 「興奮・パニック」43.9%、 「自らを傷つける行為」39.8%が挙げられています。

そして、もう一つ注目したい数字があります。

行動や支援について困りごとや不安があるとき、 家族の86.9%には相談できる人がいる一方、 7.2%は「相談できる人がいない」 と回答しました。

相談できる相手がいる人では、 「通っている事業所の職員」が81.2%、 「相談支援事業所の職員」が53.2%でした。

7.2%という数字の中にも、一つひとつの家庭があります。 制度を見るとき、割合だけでは見えなくなってしまう暮らしがあります。

日々の生活の中で、いつ状態が大きく崩れるか分からない。 本人も苦しい。家族も疲れている。 それでも相談する相手がいない。

支援体制を考えるということは、 こうした生活の一つひとつを想像することでもあります。

国の支援はすでに「一つの事業所で抱えない」方向へ動いている

強度行動障害への支援強化は、今回突然始まったものではありません。

厚生労働省は2023年、 「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会」の報告をまとめ、 本人と家族、そして支援事業所を一つの機関だけで抱え込まず、 地域全体で支える方向を示しました。

そこでは、 障害特性を踏まえたアセスメント、 行動に影響している環境要因の調整、 相談支援、生活介護、短期入所、訪問系サービス、 グループホーム、障害者支援施設などが連携する体制の必要性が示されています。

そして2024年度の障害福祉サービス等報酬改定では、 その考え方の一部が具体的な仕組みになりました。

生活介護、施設入所支援、短期入所、共同生活援助などで、 より支援ニーズが高い人の受入れを評価する仕組みが拡充され、 「中核的人材」が作成する支援計画に基づく支援への評価も設けられています。

また、状態が悪化したときに専門性の高い人材が事業所を訪問し、 職員とともにアセスメント、支援方法、環境調整などを考える 「集中的支援加算」も新設されました。

制度が向かっているのは、 「難しいケースだから担当職員がもっと頑張る」という方向ではありません。

難しくなったときこそ、支援を足す。

本人を孤立させないことと同じように、 家族や支援者も孤立させない仕組みが求められています。

「本人を変える」だけではなく、環境を変える

この考え方は、地域の制度にも表れ始めています。

名古屋市では2026年7月1日から、 「強度行動障害児受入環境整備補助金」が始まりました。

対象となる児童発達支援、放課後等デイサービス、 障害児入所施設では、 支援に必要な環境整備について、 対象経費の4分の3、上限60万円の補助を受けることができます。

クールダウンできる空間をつくる
視覚的に分かりやすく伝える
壁などの衝撃を和らげる
安全に過ごせる環境へ変える
専門職から助言を受ける
支援する人を増やす

名古屋市ではそれ以前から、 専門支援員の派遣、相談窓口、支援者養成研修、 受入補助などを組み合わせた支援も行っています。

ここには、大切な視点があります。

本人の行動だけを変えようとするのではなく、 空間を変える。伝え方を変える。 見通しを持てるようにする。 支援する人を増やす。 相談できる場所をつくる。

環境の側も変わる。

福祉における支援とは、 人だけを環境へ適応させることではありません。

人と環境との関係を見直し、 その人が安心して過ごせる条件を少しずつ整えていくことでもあります。

「行動を止める」ことから、その人の生活を見ることへ

もちろん、自傷や他害などが生じている場面では、 本人と周囲の安全を守ることが最優先になります。

安全確保やリスク管理を軽く考えることはできません。

一方で、安全を守ったその先には、もう一つの問いがあります。

「なぜ、この状態になっているのだろう」

愛知県の調査では、 状態が悪化した後に落ち着いた対応として、 「本人から距離を取り、落ち着くのを待った」が47.9%、 「静かな場所へ連れていき、落ち着くのを待った」が39.7%でした。

ただし、これは 「すべての人に距離を取ればよい」 「静かな場所へ移せばよい」 という支援マニュアルではありません。

一人ひとり、背景も必要な支援も異なります。

だからこそ、 その人は何に不安を感じているのか。 何が分かりにくいのか。 何を伝えようとしているのか。 どんな環境なら安心できるのか。 身体の不調はないか。

そして、 何が好きなのか。 どんなときに穏やかな表情になるのか。

そうした本人を知ろうとする営みが、 専門的なアセスメントとともに必要になります。

「できない人」と決めてしまわないために

2026年6月30日に開かれた厚生労働省の 「障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る検討会」では、 強度行動障害の状態にある人の地域生活を支援している実践も紹介されました。

紹介された事例の中には、 受入先が見つかりにくかった人について、 好きなことや得意なことを起点に、 仕事や地域とのつながりをつくった実践があります。

また、強度行動障害の状態にあり、 障害支援区分6とされていた人が、 重度訪問介護を利用しながら一人暮らしをし、 料理や地域活動を楽しんでいる実践も紹介されています。

もちろん、一つの事例をもって 「強度行動障害の状態にある人は誰でも一人暮らしができる」 と一般化することはできません。

必要な支援の量、安全面の課題、生活環境は、一人ひとり異なります。

それでも、この実践が私たちに投げかける問いがあります。

「強度行動障害だからできない」と、 支援する側が本人の可能性を先に閉じてはいないだろうか。

支援とは、危険を減らすことだけではなく、 その人の「好き」「やってみたい」「できる」 「誰かに喜ばれる」を見つけ、 それが暮らしの中に残るよう支えることでもあります。

福祉教育ラボの視点

支援を増やすことは、「一緒に考えてくれる人」を増やすこと

制度を分析すれば、人員配置の問題があります。 報酬の問題があります。 専門人材の不足があります。 受入先の不足があります。 地域差もあります。

これらを曖昧にせず、 データをもとに考えることは大切です。

けれども、福祉の目的は、 制度の問題点を見つけて 「だから現場は駄目なのだ」と 誰かを責めることではありません。

受入れを断らざるを得なかった事業所にも、 守らなければならない利用者がいて、 疲れている職員がいるかもしれません。

家で支え続けてきた家族にも、 その家族自身の人生があります。

そして、強い行動として表れているものの中で、 一番困っているのは本人かもしれません。

誰が悪いのかを探すより、 「ここに、もう一つ支えを足せないだろうか」と考えてみる。

一人の職員が困っていたら、チームで考える。

一つの事業所では難しければ、専門職につなぐ。

家族が疲れていたら、 「もう少し頑張って」ではなく、 休める方法を一緒に探す。

そして本人についても、 「困った行動がある人」としてだけ見るのではなく、 好きなものがあり、安心できる人がいて、 やってみたいことがあり、 その人なりの役割を持って生きている一人の人として出会い直してみる。

制度の拡充も、専門技術も、研修も、加算も、 本来はそのためにあるのではないでしょうか。

安心して一日を過ごせる。 好きなことを楽しめる。 家族が少し休める。 支援者が一人で抱え込まずに相談できる。 地域の中に、自分の居場所や役割がある。 誰かから「ありがとう」と言われる。

そんな小さな幸せが、昨日より一つ増える。

その積み重ねの先に、 福祉が目指す「幸せの拡大」があるのだと思います。

制度が変わることを待つだけではなく、 私たち一人ひとりにもできることがあります。

目の前の行動だけで、その人を決めつけないこと。 分からないときに、一人で答えを出そうとしないこと。 困っている家族や支援者に出会ったとき、 「何かできることはありますか」と考えてみること。

そして、その人自身が大切にしているものを、 一つでも知ろうとすること。

制度を整えること。専門性を高めること。 そして、人が人を気にかけること。

それらが重なったとき、 強度行動障害の状態にある人も、 その家族も、支援する人も、 「ここで暮らしていける」と思える地域に、 少しずつ近づいていくのではないでしょうか。

主な参考資料・一次資料

※本記事は2026年8月20日時点で公表されている資料をもとに整理しています。 指定都市市長会による要請は、2027年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた要請であり、 新たな報酬体系の決定を意味するものではありません。 今後の国の検討状況により内容が変更される可能性があります。