身寄りのない高齢者、2050年には9人に1人|改正社会福祉法で何が変わる?
2026年9月3日、「身寄りのない高齢者」が2050年には約9人に1人になるとの推計と、改正社会福祉法による新たな支援の動きが報じられました。
背景にあるのは、単に「一人暮らしの高齢者が増えている」という問題ではありません。
入院するときの緊急連絡先。施設へ入るときの手続き。日常的な金銭管理。亡くなったあとの葬儀や納骨、家財処分。
これまで制度の外側で家族や親族が担うことを暗黙の前提としてきた役割を、これから誰が担うのか。日本社会の家族構造が変わるなか、その問いが福祉制度そのものに突きつけられています。
結論|「家族が支えること」を前提としてきた仕組みが変わり始める
2026年6月に成立した「社会福祉法等の一部を改正する法律」では、頼れる身寄りがいない高齢者等への日常生活支援、入院・入所等の手続支援、死後事務支援などを行う新たな事業を、第二種社会福祉事業として位置付けることになりました。
- 頼れる身寄りがいない高齢者等への日常生活支援、入院・入所等の手続支援、死後事務支援を含む「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」が第二種社会福祉事業に位置付けられる。
- 地域包括支援センターなどの相談支援において、本人の家族状況などを踏まえた相談対応を行う仕組みを強化する。
- これまでケアマネジャーや相談員などが制度のすき間で担ってきた役割を、個人の善意だけに委ねず、地域の制度・社会資源として組み直していく。
今回の改正は、単に「身元保証サービスを増やす」という話ではありません。
家族の有無によって、医療や介護、生活へのアクセスが左右されない仕組みをどうつくるのか。そこに制度改正の大きな意味があります。
2050年には448万人|「9人に1人」とは何を意味する?
今回の報道で紹介された「2050年には高齢者の約9人に1人」という数字は、日本総合研究所が2024年7月に公表した推計がもとになっています。
ただし、この数字を読むときには注意が必要です。
日本総研は、「身寄り」という言葉には明確な定義がないとして、「子どもがいない」「子どもも配偶者もいない」「三親等内の親族がいない」という複数の状態に分けて推計しています。
2024年の286万人から増加し、2050年にはおよそ9人に1人となる推計です。
さらに2050年には、「子どもがいない高齢者」は1,032万人、「子どもも配偶者もいない高齢者」は834万人に達すると推計されています。
ただし、「親族がいること」と「頼れる人がいること」は同じではありません。
ここが、今回の問題を考える重要なポイントです。
「身寄りがない」とは、親族が一人もいないことだけではない
厚生労働省の既存ガイドラインでは、家族や親類に連絡がつかない人や、家族から支援を得られない人なども「身寄りがない人」の問題として想定されています。
子どもがいても遠方に暮らしているかもしれません。
きょうだいがいても、本人と同じように高齢になっていることがあります。
親族関係があっても、長期間交流がなかったり、支援を求めることが難しい関係にある場合もあります。
戸籍上の家族の有無だけで、「家族がいるから大丈夫」と判断することはできません。
新制度は「ゼロから新しく作る制度」ではない
ここは、今回の改正を理解するうえで重要なポイントです。
現在すでに、社会福祉協議会を中心として「日常生活自立支援事業」が行われています。
認知症高齢者や知的障害者、精神障害者など、判断能力が不十分な人が地域で生活を続けられるよう、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理などを支援する事業です。
社会福祉法上では、この仕組みの基礎となる事業を「福祉サービス利用援助事業」と位置付けています。
今回の改正では、これを「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」へ拡充します。
福祉サービス利用援助事業
福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業
厚生労働省自身も、この改正を「福祉サービス利用援助事業の拡充・発展」と整理しています。
つまり、まったく新しい制度を一から作るというより、これまで判断能力が不十分な人を中心に支えてきた権利擁護の仕組みを、頼れる身寄りがいない人の生活課題まで広げていく改正と考えると分かりやすいでしょう。
何を支援するのか|日常生活から死後までをつなぐ
厚生労働省が示している新しい事業では、大きく3つの支援領域が想定されています。
福祉サービスの利用援助や、地域で生活を続けるために必要となる日常生活上の支援など。
入退院・入退所等の手続、緊急連絡先の提供、費用の支払代行など。
葬儀、納骨、家財処分に関する契約手続、行政官庁への届出などを、生前から準備する支援。
これまで「ご家族にお願いします」とされることが多かった領域を、社会的な支援として位置付けようとしていることが分かります。
誰が担うのか|社協だけの仕事になるわけではない
では、この新しい支援を誰が行うのでしょうか。
今回の「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」は、第二種社会福祉事業として位置付けられます。
都道府県内で必要な事業が広く実施されるよう、地域全体の実施体制を支える役割を担います。
市町村社協、社会福祉法人、そのほかの事業者など、多様な主体の参画が想定されています。第二種社会福祉事業のため、民間事業者も担い手になり得ます。
つまり、「都道府県社協がすべての利用者を直接支援する」という仕組みではありません。
都道府県社協が地域全体の実施体制を支えながら、市町村社協、社会福祉法人、その他の事業者などが役割を分担していく仕組みが想定されています。
2027年4月にすべて始まるわけではない
「社会福祉法等の一部を改正する法律」は、2026年6月19日に成立し、6月25日に法律第51号として公布されました。
法律全体の原則施行日は2027年4月1日です。
しかし、今回の中心となる「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」に関する社会福祉法の改正部分は、公布の日から2年以内に政令で定める日に施行するとされています。
- 地域包括支援センターの総合相談支援事業など、相談支援体制の強化は原則施行日の2027年4月1日から。
- 日常生活、入院・入所等の手続、死後事務などを担う新たな第二種社会福祉事業は、2026年6月25日の公布から2年以内に政令で定める日に施行。
したがって、「2027年4月から全国で身寄り支援の新サービスが一斉に始まる」という理解は正確ではありません。
誰でも無料で利用できる制度ではない
新しい事業は、「身寄りがなければ誰でも無料で利用できる制度」ではありません。
厚生労働省は、利用者のうち一定割合以上に無料または低額でサービスを提供する事業を第二種社会福祉事業として位置付け、資力要件に該当する人については無料または低額とする仕組みを示しています。
一方で、具体的にどの程度の所得・資産の人が対象となるのか、利用料金をどう設定するのかについては、今後の制度設計を確認する必要があります。
「身元保証人がいない=入院できない」ではない
新制度ができることで、もう一つ誤解してはいけないことがあります。
現在でも、「身元保証人がいないから入院させなくてもよい」という制度にはなっていません。
厚生労働省は2018年、入院による治療が必要な患者について、身元保証人等がいないことだけを理由として入院を拒否することは、医師法第19条第1項に抵触すると通知しています。
問題になるのは、その後です。
- 緊急時の連絡
- 入院中に必要となる物品の準備
- 入院費などの支払い
- 退院時の生活調整
- 死亡した場合の遺体・遺品、葬儀等への対応
新しい制度は、「入院できるか」という入口だけでなく、その後の生活を誰がどう支えるのかという課題へ対応しようとしていると考えると分かりやすいでしょう。
手続を支援することと、本人の代わりに決めることは違う
緊急連絡先になった人や、入院手続きを支援する事業者が、本人に代わって医療方針を自由に決められるようになるわけではありません。
厚生労働省のガイドラインでは、医療行為への同意は本人の一身専属性が極めて強く、身元保証人や身元引受人などの第三者に医療行為への同意権限があるものではないと整理されています。
本人に判断能力がある場合には、本人の意思を確認し、尊重しながら支援することが原則です。
現場で起きてきた「シャドウワーク」
今回の改正が、ケアマネジャーや相談員にとって重要なのはここです。
頼れる身寄りがいない高齢者を支援していると、本来のケアマネジメントや相談援助だけでは解決できない生活課題に出会うことがあります。
いわゆる「シャドウワーク」
地域に適切なつなぎ先がないため、居宅介護支援事業所などがやむを得ず担っている業務が課題となっています。
厚生労働省は、その例としてゴミ出し、通院時等の送迎、死後事務などを挙げています。
「ケアマネジャーが親切だからやっている」「相談員が断れないからやっている」といった個人の問題として考えるだけでは解決しません。
家族が担ってきた役割が失われ、地域に代わりの仕組みがなく、その結果として専門職が制度のすき間を埋めてきた。
これは構造的な問題です。
今回の制度改正では、「ケアマネがやっておく」から、「地域として誰が担うのかを考える」方向への転換が求められています。
背景にあるのは「家族」という見えない社会資源
今回の改正を、「身寄りのない高齢者のための特殊な制度」とだけ見ると、本質を見落としてしまいます。
日本の医療・介護・福祉制度の周囲には、長い間、家族による無償の支援がありました。
- 病院へ付き添う
- 必要な書類を書く
- 着替えや日用品を届ける
- 施設を探す
- 緊急時に駆けつける
- 本人のこれまでの暮らしを専門職へ伝える
- 亡くなった後に葬儀や住まい、契約などを整理する
こうした役割の多くは、介護保険サービスでも医療保険サービスでもありません。
それでも制度は長い間、「誰か家族が担ってくれる」という前提の上に成り立ってきました。
しかし、未婚化、少子化、単身化、長寿化、家族関係の多様化が進めば、その前提は成立しにくくなります。
現場はいま何を確認しておきたい?
新しい事業の具体的な運用はこれからですが、現場でできる準備はあります。
- 「家族がいる・いない」だけではなく、実際に頼れる関係があるかを確認する。
- 緊急連絡、金銭管理、入退院、住まい、日常生活、死後事務を一つの「身元保証問題」にまとめない。
- 何が不足しているのかを分け、必要な制度や専門職、社会資源を考える。
- 本人の判断能力が十分な段階から、本人自身の希望や意思を確認しておく。
- 専門職一人で抱えず、地域包括支援センターや権利擁護機関等との連携を考える。
「この人に何かあったら誰に電話するか」だけではなく、「この人はこれからどう暮らしたいのか」を支援の中心に置くことが重要です。
まとめ|「身寄りのない人をどうするか」から「家族がいなくても暮らせる社会」へ
2026年6月に成立した改正社会福祉法等では、頼れる身寄りがいない高齢者等への日常生活、入院・入所等の手続、死後事務を支える仕組みが拡充されます。
日本総研の推計では、三親等内の親族がいない高齢者は2050年には448万人、11.5%に達します。およそ9人に1人です。
しかし、この問題を「身寄りのない人が増えて困る」と捉えるだけでは十分ではありません。
問われているのは、家族がいなくても、家族が遠くにいても、家族が支援できなくても、必要な医療や福祉につながり、その人らしい生活を続けられる社会をどうつくるのかということです。
制度は、その問いに向けて動き始めています。
福祉教育ラボの視点|「家族がいること」を支援の条件にしない
福祉の現場では、私たちはよく「ご家族はいらっしゃいますか」と尋ねます。
もちろん、家族は大切な支援者になることがあります。
けれど、「家族がいる」ということと、「その家族が支援できる」ということは同じではありません。
そして、家族がいないことも、その人の不足ではありません。
これまで社会の仕組みの側が、「誰か家族がいるだろう」「いざとなれば家族がやってくれるだろう」という前提に、多くの役割を預けてきました。
その前提が成立しにくくなったとき、「身寄りのない人の問題」として個人の側へ返してしまえば、問題の置き場所を間違えてしまいます。
必要なのは、家族に代わる一人の「誰か」を探すことだけではありません。
これまで一人の家族に集中していた役割を、福祉、医療、地域、行政、専門職、社会福祉協議会、民間事業者などへ適切に分け、必要なところでつなぎ直すことです。
そして、その中心に置くものは、「誰が本人の代わりに決めるか」ではありません。
本人が、どのように暮らし、どのように生きたいのか。その意思です。
「頼れる家族がいても、いなくても、その人の暮らしが続く社会」へ。
今回の社会福祉法改正は、家族を前提としてきた社会の仕組みそのものを見直していく、一つの入口として捉える必要がありそうです。
一次資料・関連資料
- 衆議院|社会福祉法等の一部を改正する法律案・審議経過
- 厚生労働省|社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要
- 厚生労働省|日常生活自立支援事業
- 厚生労働省|身寄りがない人への対応について
- 日本総合研究所|増加する「身寄り」のない高齢者
- TBS NEWS DIG|身寄りのない高齢者 2050年には9人に1人に
※本記事は2026年9月3日時点の公表資料をもとに整理しています。新たな第二種社会福祉事業の具体的な施行日、利用要件、料金、運営方法等については、今後公表される政省令・通知・ガイドライン等を確認する必要があります。


