介護のカスハラ対策、10月1日から義務化|2027介護報酬改定ではケアマネの安全確保も論点

2026年10月1日施行 2027年度介護報酬改定は審議中

2026年10月1日から、カスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置が、すべての事業主に義務づけられます。

介護事業所も例外ではありません。

利用者や家族からの暴言、威圧、執拗な要求、長時間の電話。介護現場ではこれまで、「対応が難しい利用者」「難しい家族」として、職員個人の経験や我慢に委ねられてきた場面もあったのではないでしょうか。

ただし、「利用者や家族から強く言われたらカスハラ」という理解も違います。

厚生労働省の指針は、顧客等からの苦情のすべてがカスタマーハラスメントになるわけではなく、社会通念上許容される範囲のものは「正当な申入れ」であると明確にしています。

利用者や家族の権利を守ること。そして、働く職員の安全を守ること。今回の制度改正では、そのどちらかを選ぶのではなく、両方を守れる仕組みをどうつくるかが問われています。

最初に結論|「決まったこと」と「議論中のこと」を分けて見る
決まっていること 2026年10月1日からカスハラ対策が事業主の義務に

介護事業者を含むすべての事業主に、カスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上必要な措置が求められます。

まだ議論中 2027年度介護報酬改定で介護現場の安全確保を検討

ケアマネジャーを含む複数名訪問、介護報酬上の評価、地域連携、危険がある場合のサービス提供などが論点です。

現時点で「ケアマネジャーの複数名訪問加算が新設される」と決まったわけではありません。

そもそもカスタマーハラスメントとは?

厚生労働省の指針では、職場におけるカスタマーハラスメントについて、次の3つの要素をすべて満たすものと整理しています。

1
顧客等による言動 利用者などによる言動であること
2
許容範囲を超える 業務の性質などに照らし、社会通念上許容される範囲を超えていること
3
就業環境を害する その言動によって労働者の就業環境が害されること

カスタマーハラスメントは、事業所内での対面場面だけに限られません。

訪問先での言動や電話、SNSなどインターネット上で行われる言動も、状況によって対象となり得ます。

苦情を言われた=カスハラ、ではない

ここは特に重要です

利用者や家族から寄せられる「苦情のすべて」がカスタマーハラスメントになるわけではありません。

客観的に見て社会通念上許容される範囲で行われるものは、正当な申入れです。

たとえば、次のような申入れがあったことだけを理由に、カスタマーハラスメントと判断することはできません。

説明されたサービスと実際の支援内容が違う
事故について説明してほしい
職員の対応について確認してほしい
本人の希望をもっと聞いてほしい
必要な合理的配慮をしてほしい
不適切だと感じた支援を改善してほしい

要求内容だけではなく、なぜその言動に至ったのか、要求自体は妥当なのか、どのような方法で伝えられているのか、どの程度繰り返されているのか、職員の就業環境にどのような影響が生じているのかなどを総合的に考える必要があります。

どのような言動がカスハラになり得る?

厚生労働省の指針では、社会通念上許容される範囲を超える言動の典型例も示されています。

  • 殴る、蹴る、物を投げるなどの身体的な攻撃
  • 脅迫、中傷、侮辱、人格を否定する言動
  • 大声を上げるなどの威圧的な言動
  • 同じ質問や要求を執拗に繰り返す行為
  • 長時間の居座りや電話による拘束
  • 契約内容を著しく超えるサービスの要求
  • 性的な要求
  • 職員のプライバシーに関わる要求

ただし、この一覧に該当すれば自動的にカスハラになるわけではありません。

言動の経緯、態様、頻度、継続性、業務の性質、その場の状況などを含め、個別に判断する必要があります。

介護現場には、一般的な接客とは異なる難しさがある

介護現場でカスタマーハラスメントを考えるときには、さらに慎重な視点が必要です。

利用者に認知症がある場合があります。精神疾患や障害特性が言動に影響している場合もあります。

病気、痛み、不安、生活環境の変化が背景にあることもあります。家族も、介護負担や将来への不安を抱えているかもしれません。

障害のある人が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁を取り除くために必要な配慮を求める意思を示すこと自体は、カスタマーハラスメントではありません。

本人の権利行使とカスタマーハラスメントを混同しないことが重要です。

一方で、

「認知症だから仕方がない」

「利用者だから職員が耐えるしかない」

ということでもありません。

背景を理解することと、危険な行為を無条件に受け入れることは別です。

介護現場では、実際にどのくらいハラスメントが起きている?

第263回介護給付費分科会の資料には、介護現場で行われた複数の調査結果が掲載されています。

平成30年度の調査では、身体的暴力、精神的暴力、セクシュアルハラスメント等を利用者から受けた経験がある職員は、サービス種別によっておおむね4~7割、家族等からは1~3割とされています。

4~7割 利用者からハラスメントを受けた経験
1~3割 家族等からハラスメントを受けた経験
10,112人 平成30年度調査の対象者数

※この調査で用いられた「ハラスメント」と、2026年10月から法律上定義されるカスタマーハラスメントは、そのまま同一ではありません。制度上の定義や調査時期が異なる点には注意が必要です。

一方、約74%の事業所では「過去3年間に相談なし」

令和7年度の別の調査では、施設・事業所に対し「過去3年間にハラスメントについて相談があったか」を尋ねています。

73.7% ハラスメントについて相談はなかった
19.4% 相談があった
別調査 職員経験率とは単純比較できない

この2つの数字は、直接比較できません。

調査年度、対象、質問内容が異なるため、「職員は被害を受けているのに74%が相談していない」と断定することはできません。

ただし、「現場で経験された出来事が、どこまで組織の相談・報告ルートに乗っているのか」を考える重要な材料にはなります。

相談窓口をつくるだけでなく、職員が「これは相談してよいことなのだ」と感じられる組織になっているか。

そこまで考える必要があります。

訪問・居宅系と施設系では相談内容にも違い

令和7年度調査で、ハラスメントについて相談があった施設・事業所を見ると、「カスタマーハラスメントについての相談」は全体で34.6%でした。

サービス区分 カスタマーハラスメントの相談
訪問系サービス 47.6%
その他居宅系サービス 53.3%
施設系・居住系サービス 24.4%

一方、「パワーハラスメントについての相談」は、施設系・居住系サービスで70.5%でした。

単純に「訪問系ではカスハラ、施設ではパワハラ」と分けることはできません。

ただ、利用者宅など事業所外で一対一になりやすい訪問・居宅系と、多くの職員が同じ組織で働く施設系では、起きやすい問題や相談の構造が異なる可能性があります。

10月1日から、事業所には何が求められる?

2026年10月1日から、事業主にはカスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上必要な措置が義務づけられます。

厚生労働省資料では、必要な措置が10項目に整理されています。実務上の意味から、大きく4つに整理してみます。

01 事業所として方針を明確にする

カスハラには毅然と対応し、職員を保護する方針を示します。可能な限り一人で対応させない場合や、警察へ通報する場合などもあらかじめ整理します。

02 相談できる体制をつくる

相談窓口を決めて周知するだけでなく、相談担当者が実際に適切な対応を取れる体制にします。

03 発生後に組織として対応する

事実関係を迅速・正確に確認し、被害職員への配慮と再発防止を行います。「その職員だけの問題」にしないことが重要です。

04 悪質なケースへの対応を決めておく

犯罪に該当し得る行為は警察へ通報するなど、警告、サービス提供の見直し、出入り禁止、法的手段等を含めた方針を準備します。

「相談窓口はある」だけでは足りない

令和7年度調査では、カスタマーハラスメントについて「何らかの取組を実施している」と回答した施設・事業所は83.2%でした。

ところが、具体的な取組を見ると差があります。

相談窓口の設置等 88.7%
被害者への配慮 55.0%
被害防止のための取組 48.6%

相談窓口を設置している事業所は多い一方、相談後に職員をどう守るのか、マニュアルや研修でどう予防するのかという部分には差があります。

10月の義務化で問われるのは「窓口の有無」だけではありません

相談を受けた後、職員を実際に守れる仕組みが動くかどうかまで確認する必要があります。

ケアマネジャーの33.7%がカスハラ経験あり

居宅介護支援事業所の介護支援専門員1,293人への調査 33.7% 過去1年間にカスタマーハラスメントを受けたことが「ある」

日本介護支援専門員協会の調査では、「ない」が55.6%、無回答が10.7%でした。

カスタマーハラスメントを受けた際の対応では、

  • 管理者や上司へ報告・相談した 33.3%
  • 同僚に相談した 22.2%
  • 地域包括支援センターへ相談した 15.3%
  • 相談相手がいないため我慢した 3.0%
  • 相談相手はいたが我慢した 5.0%

となっています。

ケアマネジャーは、利用者宅への訪問や家族との調整、多職種との調整など、一対一で対応する場面も多い仕事です。

その安全を個人の経験や対応力だけに任せてよいのか。

これが2027年度介護報酬改定の議論にもつながっています。

ケアマネが求める対策は「個人の対応力」だけではない

同じ調査では、カスタマーハラスメント対策として有効だと考えるものについて、次のような回答が示されています。

  • 契約書や重要事項説明書等に、カスハラがあった場合は契約を解除する旨を記載する 12.7%
  • 事業所・法人の相談窓口や担当者 11.7%
  • 行政機関の積極的な関与・バックアップ 11.5%
  • 研修・ケース検討・情報共有 11.1%

ここから見えてくるのは、「ケアマネ自身がもっと上手に対応すればよい」という問題だけではないことです。

契約、法人、行政、地域包括支援センター、専門家。

組織や地域として支える仕組みが求められています。

ただし「カスハラなら即契約解除」でもない

ハラスメントを理由として契約解除する場合にも「正当な理由」が必要です。

カスハラと判断されたことだけで、自動的に契約解除できるわけではありません。

厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」では、契約解除を検討する際には、

  • ハラスメントによる結果の重大性
  • 再発する可能性
  • 契約解除以外の防止方法があるか
  • その方法が実行可能か
  • 契約解除によって利用者が受ける不利益の程度

などを考慮する必要があると整理されています。

職員の安全を確保しながら、必要なサービスをどう継続するのか。他の事業所や行政につなげられるのか。複数名で対応できないか。

個別の事情を踏まえた判断が必要です。

2027年度介護報酬改定では、ケアマネの安全確保も論点に

ここからは、2026年10月1日に施行される法律とは別の話です。

2027年度介護報酬改定に向けた議論です。

第263回介護給付費分科会では、2026年6月1日に埼玉県でケアマネジャーが利用者宅で危害を加えられ死亡した事案にも触れています。

現在、ケアマネジャーが利用者宅を複数名で訪問しても、介護報酬上の加算措置はありません。

複数名訪問に必要な経費については、地域医療介護総合確保基金の「地域のケアマネジメント提供体制確保支援事業」を利用できますが、継続的な実施には予算上の課題があることも示されています。

訪問介護には複数名訪問の評価がある。しかし課題もある

訪問介護や訪問看護では、暴力行為や著しい迷惑行為などが認められる場合に、複数名でサービスを提供する仕組みがあります。

訪問介護の2人訪問介護加算の算定率は、事業所ベースで20.7%です。

ただし、複数名訪問によって利用者の自己負担が増えるため、介護報酬で加算を算定するには利用者・家族の同意が前提になります。

安全のために二人で訪問したい。

しかし、そのために利用者負担が増える。

さらに、その同意を利用者や家族から得なければならない。ここに制度上の難しさがあります。

2027年度改定で示された4つの問い

論点 01 カスハラ対策を介護報酬・運営基準にどう位置づけるか

労働法上の義務となる対策を、介護保険制度の中でどう実効性のある仕組みにするのか。

論点 02 ケアマネを含む介護従事者の安全をどう確保するか

複数名訪問など、安全確保のための取組をどのように支えるのか。

論点 03 一つの事業所だけで抱えない仕組みをどうつくるか

自治体、地域包括、医師、ケアマネ、法律専門家、警察などとの連携をどう構築するのか。

論点 04 危険があるとき、サービス提供をどう考えるか

職員の安全確保と必要なサービス提供の継続を踏まえ、「正当な理由」をどう考えるのか。

いずれも、現時点では2027年度介護報酬改定に向けた論点です。

新しい加算や具体的な算定要件が決定したわけではありません。

現場は10月1日までに何を確認したい?

2027年度介護報酬改定を待つ必要はありません。

カスタマーハラスメント対策の義務化は2026年10月1日です。

少なくとも、次の点は確認しておきたいところです。

  • 法人・事業所としてのカスハラ対応方針が明文化されているか
  • 何をカスハラと考えるのか職員へ周知されているか
  • 相談窓口と担当者が決まっているか
  • 相談後に誰が判断するのか決まっているか
  • 可能な限り一人で対応させない基準があるか
  • 訪問前にリスクを共有する仕組みがあるか
  • 暴力や脅迫等があった場合の警察への連絡基準があるか
  • 行政・地域包括・医師・専門家等へつなぐルートがあるか
  • 被害を受けた職員をフォローする仕組みがあるか
  • 発生した事案を記録し、再発防止につなげているか
  • 正当な苦情や権利行使までカスハラとして扱わない仕組みになっているか
  • 認知症や障害特性等について学ぶ機会があるか

特に訪問系では、「何かあったら管理者に連絡してください」だけでは十分とはいえません。

誰が危険性を判断するのか。

一人で訪問するのか。

複数名で行くのか。

他機関へ相談するのか。

どの段階で退避するのか。

平時から具体的に決めておく必要があります。

「利用者を守る」か「職員を守る」か、ではない

介護や福祉では、「利用者のためだから」という言葉が、ときに職員へ我慢を求める理由として使われてしまうことがあります。

けれども、職員が恐怖を感じながら訪問する。暴言や威圧が繰り返されても相談できない。危険を訴えても「介護なんだから仕方がない」と言われる。

そのような状態の上に、良い支援を長く続けることは難しいでしょう。

一方で、職員が不快に感じた、利用者が強い口調で訴えたというだけで、「カスハラ」というラベルを貼ることにも危険があります。

利用者には、説明を求める権利があります。

意見を伝える権利があります。

不適切な支援について改善を求める権利があります。

必要な合理的配慮を求める権利もあります。

だからこそ必要なのは、「利用者側か、職員側か」という二者択一ではありません。

  • 何が起きたのか
  • 要求内容は妥当なのか
  • 伝え方は社会通念上許容される範囲なのか
  • 本人の状態や生活背景はどうなのか
  • 職員の就業環境はどう害されているのか
  • 事業所側の説明や支援にも改善すべき点はないか

一つずつ分けて考えることが必要です。

まとめ|10月1日の義務化と2027年度改定を分けて見る

2026年10月1日 カスハラ防止措置が事業主の義務に

これは決定している制度改正です。

2027年度介護報酬改定 安全確保の仕組みは現在も議論中

複数名訪問、報酬評価、地域連携、サービス提供の考え方などはまだ決定していません。

制度改定を待たなくても、「職員一人に抱え込ませない」という仕組みづくりは始められます。

福祉教育ラボの視点|良い支援を「我慢」で成り立たせない

福祉は、人と人との関係の中で行われます。

相手の言葉の背景を見る。認知症や障害特性を理解する。家族が置かれている状況を考える。本人の声を聞く。

それらは、福祉の大切な営みです。

でも、理解することと、耐え続けることは違います。

利用者を大切にすることと、職員を大切にすることも、本来は反対側にあるものではありません。

安心して働ける職員がいる。

困ったときに相談できる。

一人では難しいときに、誰かと一緒に関われる。

事業所だけでは難しいときに、地域へつなげられる。

そして利用者や家族も、正当な意見や苦情を安心して伝えることができる。必要な配慮を求めることができる。

その両方を守れる仕組みをつくること。

そこまで含めて、カスタマーハラスメント対策を考える必要があるのではないでしょうか。

良い支援を、誰かの自己犠牲や我慢の上に成り立たせない。

2026年10月の義務化と2027年度介護報酬改定の議論を、利用者にも職員にも持続可能な支援を考える機会として見ていきたいと思います。

主な一次資料

  • 厚生労働省 「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」 (厚生労働省告示第51号)
  • 厚生労働省 第263回社会保障審議会介護給付費分科会 資料5「介護現場におけるハラスメント対策」
    一次資料を確認する
  • 厚生労働省 「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」

※2027年度介護報酬改定に関する内容は、2026年9月8日時点で公表されている審議資料をもとに整理しています。今後の審議により内容が変更される可能性があります。