2027年度介護報酬改定の5論点|処遇改善・生産性向上・虐待防止・BCP・ハラスメント
現場を支える「5つの論点」が議論に
処遇改善、生産性向上、虐待防止・安全管理、BCP、ハラスメント対策。 一見すると別々に見える課題ですが、その根底には 「人材が限られるなかで、質の高い介護をどう持続可能にするか」 という共通の問いがあります。
今回、新しい加算や減算、単位数、人員基準などが 決定したわけではありません。 第263回介護給付費分科会では、 2027年度介護報酬改定に向けて 「何を見直す必要があるのか」が議論されています。
今回の5つの論点
厚生労働省は2026年8月28日、第263回社会保障審議会介護給付費分科会を開催し、 2027年度介護報酬改定に向けたこれらの課題を議論しました。
現段階で「処遇改善加算が統合される」 「訪問・通所系に新しい加算ができる」 「居宅サービスに新しい義務が追加される」 と断定することはできません。
論点1|処遇改善――「賃上げ」の次に制度そのものも問われる
介護人材確保の中心的な課題の一つが、引き続き処遇改善です。
2026年6月の介護報酬改定では、介護従事者への処遇改善を拡充し、 訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援、 介護予防支援にも新たな処遇改善加算が設けられました。
今回の分科会では、それを踏まえ、 物価変動への対応や「他職種と遜色のない処遇改善」をどう実現するか、 さらに人材の離職防止へどうつなげるかが論点となっています。
「加算を増やす」だけでよいのか
一方で、介護報酬は改定を重ねるなかで加算の種類や算定要件が増え、 制度が複雑になってきました。
今回は、利用者にとっての分かりやすさや 事業所の事務負担軽減という観点から、 処遇改善加算やサービス提供体制強化加算を含む 報酬体系そのものをどう考えるかも論点となっています。
学びの整理・関連記事 介護職員等処遇改善加算は給与にどう届く? 加算収入と実際の給与、非常勤職員への配分など、 処遇改善の仕組みを詳しく整理しています。 →論点2|生産性向上――「少ない人数で多く介護する」ことなのか
「生産性向上」という言葉から、 人員を減らして効率よく介護することをイメージする人もいるかもしれません。
しかし厚生労働省は、 利用者のQOLや安全を確保しながら職員の負担を軽減し、 サービスの質を高める取組として生産性向上を整理しています。
見守り機器や介護ソフト、 ケアプランデータ連携システムなどによって記録・情報共有等の時間を減らし、 生まれた時間を直接的なケアや職員教育などへ戻せるかが重要です。
訪問・通所系サービスでも評価を検討
これまで生産性向上の介護報酬上の評価は、 主に施設系サービスを中心に進んできました。
今回は、訪問系・通所系サービスでも確認されている テクノロジー活用や業務改善の効果について、 介護報酬上どのように評価するかが検討課題となりました。
ただし、新しい加算の創設が決まったわけではありません。
ふくしのことば QOL(生活の質) 「効率が上がったか」だけではなく、 本人の暮らしがどう変わるのかを考えるための基本概念です。 → 学びの整理・関連記事 介護テクノロジーと生産性向上を考える 「何を導入するか」ではなく、 テクノロジーによって生まれた時間を何に戻すのかという視点で整理しています。 →背景にあるのは、介護人材不足
厚労省の推計では、介護職員の必要数は 2022年度の約215万人から、2040年度には約272万人になるとされています。
しかし、人材不足を単純に「採用人数を増やせばよい」と考えるだけでは不十分です。
働き続けられる処遇、育成、職場環境、業務設計まで含めて考える必要があります。
学びの整理 介護職員は2040年に272万人必要|人手不足を「人数」だけで考えない 採用だけではなく、定着・育成・職場環境まで含めて 介護人材不足の構造を考えます。 →論点3|虐待防止と安全管理――個人の問題で終わらせない
第263回では、高齢者虐待防止と介護現場の安全管理も議論されています。
厚労省資料では、 2024年度に養介護施設従事者等による高齢者虐待と判断された件数は 1,220件とされています。
虐待は当然、許されるものではありません。
しかし、本当に虐待を防ぐのであれば、 「虐待した職員を処分する」だけで終えることもできません。
知識や倫理、職員のストレス、 人員体制、教育、管理者の関わり、 職員が困ったときに相談できる組織になっているか。
日常の支援を取り巻く条件まで見る必要があります。
ふくしのことば 虐待 虐待とは何かを確認し、 権利・支援・環境との関係から考えます。 → 学びの整理 虐待は、突然に起こるのか。高齢・障害福祉から考える「虐待防止の意味」 虐待防止を、問題を起こした個人だけではなく 組織・環境・日常支援から考えます。 →居宅・通所系サービスの安全管理も論点
介護保険施設では、事故防止の指針、委員会、研修、 安全管理担当者などが運営基準に位置付けられています。
一方、居宅・通所系サービスでは、 同じ形の安全管理措置が規定されていないサービスがあります。
今回、そうした居宅サービス事業所等でも、 実効性のある事故予防や再発防止をどう進めるかが論点となっています。
ふくしのことば リスクマネジメント 「気をつける」だけではなく、 リスクを組織として把握・分析・改善する考え方です。 →論点4|BCP――「作った」から「本当に動く」へ
介護事業所では、 感染症や災害が起きても必要なサービスを継続するため、 BCP(業務継続計画)の策定が進んできました。
今回の論点を見ると、次の課題は 「BCPがあるかどうか」から 「実際の災害時に機能するか」へ移っています。
厚労省資料では、 施設系サービスでも近隣法人等との連携について 約6割が「不十分・できていない」とされています。
また、災害時情報共有システムを知らない施設等も 約2割あることが示されています。
BCPは、ファイルがあるだけでは足りない
誰が判断するのか。 職員とどう連絡するのか。 利用者をどう支えるのか。 行政へどう報告するのか。 近隣事業者とどう協力するのか。
平時から訓練し、 地域や他事業者との関係をつくっておくことが必要です。
福祉ニュース・実務例 千葉豪雨|介護事業所の災害復旧支援 被災状況の記録、復旧、補助制度など、 災害発生後の実務からBCPを考えます。 →論点5|ハラスメント――利用者を支えることと、職員を守ること
2026年10月から、 介護事業者を含む事業主には カスタマーハラスメント防止のための措置が求められます。
これを踏まえ、第263回では、 介護現場におけるカスタマーハラスメント対策も議論されています。
訪問サービスでは「一人で行くこと」自体がリスクになることも
訪問介護や訪問看護では、 利用者宅で職員が一対一になる場面があります。
一定の場合には複数名訪問を評価する仕組みがありますが、 ケアマネジャーには同様の介護報酬上の加算がありません。
今回は、ケアマネジャーを含む介護従事者の安全確保を どのように進めるかも論点となりました。
難しいのは、 「職員を守ること」と 「利用者へ必要なサービスを継続すること」を 両立しなければならない点です。
危険を感じた職員が、 「自分が我慢すればよい」と抱え込む職場にしないことも重要です。
ふくしのことば 心理的安全性 疑問、失敗、不安、危険などを 組織の中で安心して伝えられる環境を考えます。 →5つの論点は、実は一本につながっている
働き続けられる
専門性に時間を使う
本人を守る
支援を止めない
支援者も守る
処遇が十分でなければ、人材は定着しにくくなります。
記録や事務に追われれば、 利用者と向き合う時間や職員教育の時間が減ります。
困りごとを共有できない組織では、 事故や不適切な支援が見過ごされる可能性もあります。
災害が起これば、 平時からの組織体制や地域連携が試されます。
そして、職員自身の安全が守られなければ、 持続可能な支援を続けることはできません。
だからこそ、今回の介護報酬改定を 「どの加算が何単位になるのか」だけで見ると、 大切な部分を見落としてしまいます。
現場はいま、何をすればよいのか
現時点で、今回の資料を理由に 加算の算定方法や人員配置を変更する必要はありません。
一方で、現在の事業所の状態を確認することはできます。
- 処遇改善が職員へどのように届き、 どのように説明されているか
- 業務改善によって生まれた時間を 何に使っているか
- 虐待防止委員会や研修が 「実施した記録」だけになっていないか
- 事故を組織で振り返り、 再発防止につなげる仕組みがあるか
- BCPを実際に動かす訓練を行っているか
- 行政や近隣事業者と平時から連携できているか
- 職員がハラスメントや危険を 安心して相談できる体制があるか
まとめ|今は「何が変わったか」ではなく「何を変えようとしているか」を見る
第263回介護給付費分科会では、 2027年度介護報酬改定に向けて、 介護現場を支える基盤そのものに関わる論点が示されました。
現時点では、 処遇改善加算の再編、 訪問・通所系の新しい評価、 居宅系サービスへの安全管理措置、 BCPに関する新たな報酬、 ケアマネジャーの複数名訪問評価などは決定していません。
今後、それぞれの論点が 具体的な介護報酬や運営基準へ どのように落とし込まれていくのかを確認する必要があります。
福祉教育ラボの視点|良いケアを「職員個人の頑張り」に委ねない
介護の現場では、 「利用者のために」という言葉がよく使われます。
それは専門職として、とても大切な思いです。
けれども、 十分に休めない。 記録や事務に追われる。 困っても相談できない。 一人で危険な場所へ訪問する。 学ぶ時間がない。
そうした状態をそのままにして、 「より良いケアをしてください」と 職員個人の努力だけに求め続けることには限界があります。
反対に、 人手不足だから仕方がない、 効率化のためだから仕方がない、と 本人との対話や安全、尊厳を後回しにすることも違います。
良いケアは、 「良い職員がいること」だけで生まれるものではありません。
専門性を発揮できる時間。 学び続けられる環境。 声を上げられる組織。 事故や失敗から学べる仕組み。 災害が起きてもつながれる地域。 そして、支援する人自身の安全。
そうした「良い支援が生まれやすい条件」を 制度や組織としてどう整えるのか。
2027年度介護報酬改定では、 単位数の増減だけではなく、 その部分にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。
良いケアを、 良い人の自己犠牲で成り立たせない。
職員が安心して働けることと、 利用者が尊厳ある生活を送れること。
その二つを同時に支えられる仕組みになっているのか。 福祉教育ラボでは、今後の介護報酬改定でも そこまで含めて見ていきたいと考えています。


