令和8年熊本地震、介護サービス利用料を猶予 市町村判断で免除も|災害時の介護保険を解説

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災害が起きても、介護を必要とする暮らしは続きます。

自宅が被災し、介護保険の被保険者証を持ち出せない。 収入が途絶え、介護サービスの利用料を支払うことも難しい。

それでも、食事、排泄、移動、服薬、認知症ケアなど、 日々必要な支援がなくなるわけではありません。

令和8年熊本地震では、こうした状況の中でも介護サービスを途切れさせないため、 一定の被災者について利用料の支払いを猶予し、 その後、市町村の判断で免除できる特例的な取扱いが示されています。

5つの被災類型 住家被害や生計維持者の死亡・失職など
保険証なしでも対応 氏名・住所・生年月日等を記録
2026年11月末まで 8月7日時点。延長の可能性あり
猶予 → 免除 市町村判断で免除できる仕組み

令和8年熊本地震で、介護サービス利用料はどうなる?

2026年8月7日付 厚生労働省事務連絡

厚生労働省は、令和8年熊本地震に係る災害救助法適用市町村のうち、 利用料の支払いを猶予する意向を表明した市町村の介護保険被保険者について、 一定の被災要件を満たした場合、 介護サービス利用料の支払いを猶予できる取扱いを示しました。

対象となるのは、 「対象となる介護保険者の被保険者であること」と、 次のいずれかの被災状況に該当することの両方を満たす人です。

  • 住家が全半壊、全半焼、床上浸水、 またはこれに準ずる被災をした
  • 主たる生計維持者が死亡、 または重篤な傷病を負った
  • 主たる生計維持者が行方不明となった
  • 主たる生計維持者が事業を廃止・休止した
  • 主たる生計維持者が失職し、 現在収入がない
取扱期間は2026年11月末まで

8月7日付の事務連絡では、 2026年11月末までの介護サービス分が対象とされています。 厚生労働省は、今後の状況によって期間を延長する可能性があるとしています。

対象となる市町村は更新される可能性があります。 実際に利用・請求する際には、最新の厚生労働省・熊本県・保険者情報を確認してください。

熊本県「令和8年熊本地震」で被災された方々の介護サービス利用に関する情報を確認する ↗

介護保険証や罹災証明書がなくてもサービスは利用できる?

災害時には、介護保険被保険者証や負担割合証を紛失したり、 自宅へ残したまま避難したりすることがあります。

今回の事務連絡では、被保険者証等を提示できない場合でも、 氏名、住所、生年月日等を利用者に関する書類へ記録して対応することが示されています。

また、住家の全半壊等について、 介護サービス事業所の窓口で罹災証明書を提示することは求められていません。 窓口では対象となる被災状況を申告する取扱いです。

「証明書が不要」=「確認が行われない」ではありません

窓口で申告した内容については、 後日、加入している保険者から確認が行われる場合があります。

また、対象となる保険者の加入者で、 被災後に県外へ避難している場合でも、 対象要件を満たせば県外の介護サービス事業所で同様の取扱いを受けられます。

「利用料の猶予」と「免除」は同じではない

利用者から見ると、対象となる人は介護サービス事業所の窓口で 利用料を支払わなくてよい取扱いです。

ただし、制度上は「猶予」と「免除」という二つの段階があります。

第1段階
猶予

災害直後、対象となる利用者から 通常の1~3割の利用料をその場で徴収しない取扱いです。

事業所は利用者負担分を含めた10割を 審査支払機関等へ請求します。

第2段階
免除

猶予された利用料について、 保険者である市町村が対象者を確認し、 最終的に本人へ負担を求めない取扱いです。

今回は、本人からの申請を待たず、 市町村の判断で免除できることが示されています。

災害時の介護利用料の流れ
被災者
対象となる被災状況を申告
介護サービス事業所
利用料の徴収を猶予
介護サービス事業所
利用者負担を含む10割を請求
市町村・保険者
対象者・被災状況を確認
市町村判断
利用者負担を免除

今回の免除については、 市町村への特別調整交付金による財政支援を行う予定であることも 厚生労働省から示されています。

厚生労働省「利用料の負担等の取扱いについて」を確認する ↗

「市町村判断で免除」とは、自由に決めるという意味ではない

「市町村判断」という言葉だけを見ると、 市町村ごとに自由な基準で免除するかどうかを決めるようにも見えます。

実際には、国が示す災害時の枠組みと、 介護保険の保険者である市町村の確認・判断が組み合わされています。

1.特例を実施する保険者か

今回は、災害救助法適用市町村のうち、 介護サービス利用料等の支払いを猶予する意向を表明した市町村が対象となっています。

2.本人が被災要件に該当するか

住家の全半壊等、生計維持者の死亡・重篤な傷病、 行方不明、事業の廃止・休止、失職など、 国が示した具体的な被災類型への該当を確認します。

3.猶予された利用料を免除するか

事業所で猶予され10割請求された利用料について、 保険者が確認したうえで、 本人の申請を待たず市町村の判断で免除できる仕組みです。

「市町村判断」=白紙の自由裁量ではない

法律上の災害減免の仕組み、 国が示す被災要件、 保険者としての実施意向、 本人の被災状況をもとに運用されます。

災害時の介護サービス利用料減免には、もともと法律上の根拠がある

災害時の介護利用料軽減は、 大規模災害が起きるたびにゼロから作られる制度ではありません。

介護保険制度には平時から「災害等による負担軽減」の仕組みがあります

介護保険法第50条では、 災害その他の特別な事情によって介護サービス等の費用を負担することが困難だと 市町村が認めた要介護被保険者について、 通常の保険給付割合を100%まで引き上げることができる仕組みを定めています。

要支援者についても、介護保険法第60条に同様の規定があります。

平時から存在する仕組み 災害等の特別事情による 利用者負担軽減
大規模災害時の特例運用 口頭申告、証書なし対応、 10割請求など

介護保険法施行規則第83条では、 震災、風水害、火災等によって住宅・家財等に著しい損害を受けた場合や、 生計維持者の死亡、事業休廃止、失業などによる著しい収入減などを 「特別の事情」として定めています。

厚生労働省「介護保険法」を確認する ↗

厚生労働省「介護保険法施行規則」を確認する ↗

東日本大震災から続く「まず介護を止めない」災害時運用

今回の措置を過去の大規模災害と並べると、 災害時の介護保険運用に共通する「型」が見えてきます。

2011
東日本大震災

被保険者証を提示できない場合でも、 氏名・住所・生年月日等の申立てによって 介護サービスを利用できる弾力的運用が行われました。

利用料の徴収を猶予した事業者は、 利用者負担分を含む10割を国保連へ請求する取扱いが採られました。

復旧段階では免除証明書を用いる通常に近い運用へ移行しましたが、 証明書発行が困難な自治体については特例を継続する対応も行われました。

2016
平成28年熊本地震

被災状況の申告、利用料猶予、10割請求、 市町村判断による免除という、 今回にもつながる仕組みが採られました。

厚生労働省の行政事業レビューでは、 利用者負担額免除措置の対象者は10,890人でした。

2020
令和2年7月豪雨

同様の利用者負担軽減が実施されました。

熊本県は、国による利用料免除への財政支援を 平成28年熊本地震と同等の期間まで延長するよう要望しました。 熊本地震時の財政支援期間は約18か月とされています。

2024
令和6年能登半島地震

被災者の申告、窓口での猶予、事業所による10割請求、 保険者による免除という流れが改めて示されました。

能登半島地震の特別対策では、 通常の免除基準とは異なり、 収入・資産要件を設けないことも明示されました。

2026
令和8年熊本地震

口頭による申告、被保険者証等がない場合の対応、 利用料の猶予、10割請求、 市町村判断による免除という仕組みが、今回も示されています。

過去の災害の特例を、そのまま今回へ当てはめることはできません

たとえば能登半島地震では 「収入・資産要件を設けない」と明示されましたが、 今回確認した令和8年熊本地震の8月7日付資料には、 同一の表現は確認できません。

災害ごとの通知・対象保険者・期間を個別に確認する必要があります。

利用料免除には、どのような効果が確認されている?

災害時の利用料免除について、 「介護サービス中断をどの程度防いだのか」を数字で知りたいところですが、 一次資料から確認できる効果には限界があります。

10,890人 平成28年熊本地震で
利用者負担免除の対象
1,800万円 平成28年度の
利用者負担免除に係る国費
目的 必要な介護サービスを
受けられない事態の回避

厚生労働省の行政事業レビューでは、 被災による負担能力の低下によって 必要な介護サービスを受けられない事態を回避すること、 被災地の介護保険事業運営を安定させることが この財政支援の目的として示されています。

一方で、行政事業レビューは、 この事業について経費の性質上、 成果を数値で定量的に示す指標を設定することは困難としています。

エビデンス上、言えることと言えないこと

「多数の被災者へ制度が実際に適用された」 「必要な介護への経済的障壁を下げることが制度目的である」 ことは確認できます。

一方、 「免除によって介護サービス中断が何%減った」 「要介護度悪化が何%減った」 といった因果効果を示す公的な定量評価は、 今回確認した一次資料からは確認できませんでした。

厚生労働省「平成29年度行政事業レビューシート」を確認する ↗

介護事業所が確認しておきたい手続き上のポイント

今回の事務連絡をもとに、 介護サービス事業所側の基本的な確認事項を整理すると、 次の流れになります。

事業所で確認する基本の流れ
  1. 利用者が対象となる保険者の被保険者か確認する
  2. 5つの被災類型のいずれかに該当する旨を本人から確認する
  3. 申告内容を利用者に関する書類へ簡潔に記録する
  4. 被保険者証等がない場合は、 氏名・住所・生年月日等を記録する
  5. 対象者について介護サービス利用料の徴収を猶予する
  6. 利用者負担分を含めて10割を審査支払機関等へ請求する
  7. 対象期間、対象保険者、具体的な請求方法について 最新通知を継続して確認する

8月7日付の事務連絡では、 具体的な請求手続きについては別途連絡するとされています。

災害時は手続きが柔軟になりますが、 「何でもよい」という意味ではありません。 簡素化される部分と、記録・確認が必要な部分を分けて理解する必要があります。

介護サービス事業所等向けの厚生労働省事務連絡を確認する ↗

利用料が免除されても、施設の食費・居住費まで全部無料ではない

介護サービス利用料が猶予・免除された場合でも、 施設生活にかかるすべての費用が無料になるわけではありません。

平時から入所している人の食費・居住費は原則として通常どおり自己負担

今回の厚生労働省通知でも、 平時から介護保険施設等へ入所している人の 食費・居住費は通常どおり自己負担とされています。

一方、介護保険施設等が福祉避難所として開設され、 被災者を受け入れる場合の食費・居住費については、 災害救助法に基づく支援が可能とされています。

つまり、 「介護保険の利用料免除」と 「避難生活に対する災害救助法上の支援」は、 別の制度として整理する必要があります。

過去の災害から見えてくる4つの課題

01
「まず支える」と「後から確認する」の両立

災害直後に証明書を厳格に求めれば支援が遅れます。 一方で、後日の適正確認も必要です。

02
行政そのものも被災する

証明書を発行する市町村自体が被災し、 平時の行政手続きが機能しないことがあります。

03
制度の期限と生活再建の時間

2020年7月豪雨では熊本県が、 利用料免除への国の財政支援を 熊本地震と同等の期間まで延長するよう要望しました。

04
保険者財政をどう支えるか

利用料免除を継続するには財源が必要です。 過去の災害でも、国による特別な財政支援が組み合わされてきました。

また、事業所には、 対象保険者の確認、本人の申告内容の記録、 被保険者証がない場合の本人情報記録、 通常とは異なる10割請求などの事務が発生します。

一方で、 「介護事業所の何%がこの手続きを負担と感じた」 といった公的な大規模調査は、 今回確認した一次資料からは確認できませんでした。

そのため、本記事では 「現場から不満が相次いでいる」といった断定はせず、 制度上確認できる追加事務と過去の行政上の課題を分けて整理しています。

福祉教育ラボの視点

災害時には、
「手続きの順番」が変わる。

平時の福祉制度では、 資格を確認し、書類を確認し、 利用者負担を確認してからサービスを提供することが基本です。

制度を公平かつ適正に運営するためには、 その手続きが必要です。

しかし、大規模災害では、 その「正しい順番」そのものが、 必要な支援への障壁になることがあります。

平時
確認する

手続きする

支援する
災害時
まず支援する

生活を止めない

後から確認する

介護保険証がない。 罹災証明書がまだない。 行政機能も十分に回復していない。

それでも、介護を必要とする暮らしは続きます。

だから災害時には、 「すべてを確認してから支える」という順番から、 「まず介護を続ける。その後で確認する」という順番へ、 一時的に制度の動かし方が変わります。

これは、ルールをなくすということではありません。

必要な支援を先に届け、 その後に保険者が制度上の適正性を確認する。

令和8年熊本地震で行われている利用料の猶予と免除は、 東日本大震災、平成28年熊本地震、 令和2年7月豪雨、令和6年能登半島地震などで積み重ねられてきた、 災害時に生活と介護を途切れさせないための制度運用の延長線上にあります。

その仕組みを知っておくことも、 災害への備えの一つだと考えます。

今回の災害により、大切なご家族、ご親族、ご友人とのお別れを余儀なくされた皆さまの深いご心痛に、心よりお悔やみ申し上げます。

亡くなられた方々の安らかな眠りをお祈りするとともに、被災されたすべての皆さまの暮らしに、一日も早く穏やかな時間が戻ることを心より願っています。

災害時の介護保険利用料について、よくある疑問

罹災証明書がなくても、利用料の特例を受けられますか?

住家の全半壊等については、 介護サービス事業所の窓口で罹災証明書を提示する必要はなく、 口頭で申告する取扱いです。 ただし、後日、加入している保険者から申告内容を確認される場合があります。

介護保険の被保険者証をなくした場合は?

被保険者証等を提示できない場合でも、 氏名、住所、生年月日等を利用者に関する書類へ記録することで 介護サービスを利用できる取扱いが示されています。

熊本地震で被災した人なら、全員の利用料が免除されますか?

いいえ。 対象となる保険者の被保険者であることに加え、 住家の全半壊等、生計維持者の死亡・重篤な傷病、 行方不明、事業廃止・休止、失職等のいずれかの要件を満たす必要があります。

施設の食費や居住費も免除されますか?

平時から施設へ入所している人の食費・居住費は、 原則として通常どおり自己負担です。 一方、介護保険施設等が福祉避難所として被災者を受け入れる場合には、 災害救助法に基づく別の支援が関係する場合があります。

熊本県外へ避難した場合も対象になりますか?

対象となる保険者の加入者で、 被災要件を満たす場合には、 県外の介護サービス事業所を利用した場合も 窓口での支払いを求めない取扱いが示されています。

今回の特例はいつまでですか?

2026年8月7日付の事務連絡では、 2026年11月末までの介護サービス分とされています。 ただし、今後の状況によって延長される可能性があります。 最新の厚生労働省・熊本県・市町村の情報をご確認ください。

主な確認資料・一次資料

熊本県・厚生労働省
令和8年熊本地震に係る利用料猶予・免除、 利用者・事業者向けリーフレット等を掲載。
厚生労働省
2026年8月7日付。 対象要件、11月末までの期間、 被保険者証がない場合の対応、10割請求等を確認。
厚生労働省
市町村判断による免除、 特別調整交付金による財政支援予定、 福祉避難所の食費・居住費等を確認。
法令
第50条・第60条の災害等による給付割合変更の仕組みを確認。
法令
第83条の「災害その他の特別の事情」を確認。
東日本大震災
被保険者証なしでの利用、 利用料猶予、事業者の10割請求等を確認。
平成28年熊本地震
過去の熊本地震における介護保険の弾力的運用を確認。
行政事業レビュー
利用者負担免除対象者10,890人、 国費、制度目的、定量評価上の限界等を確認。
令和2年7月豪雨
医療・介護利用料免除への財政支援について、 平成28年熊本地震と同等期間への延長要望を確認。
令和6年能登半島地震
利用料猶予・免除、 対象保険者等の運用を確認。
本記事は2026年8月15日時点で確認できる公的資料をもとに整理しています。 災害時の特例措置は、対象保険者、対象期間、請求方法、財政支援等が その後の状況に応じて変更・延長される場合があります。 実際のサービス利用・介護報酬請求にあたっては、 厚生労働省、熊本県、保険者である市町村等の最新情報をご確認ください。