医療的ケア児支援法改正2026|18歳の壁はどう変わる?家族負担・人材不足・制度の課題を解説
2026年7月31日、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の改正法が公布されました。施行は2027年4月1日です。
改正後は、法律の名称そのものが「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」へ変わります。
支援対象には、子どもの頃から医療的ケアを必要としてきた成人や、一定の成人の医療的ケア者、重症心身障害者が加わります。さらに、レスパイト、夜間支援、通学等の移動支援、切れ目のない医療、就労、住居、ピアサポートなど、「暮らすこと」そのものに関わる施策が法律に明記されます。
一見すると、「医療的ケア児への支援が18歳以降にも広がった」という法改正に見えます。
しかし、制度の歩みをたどると、今回の改正が向き合っている問題はもっと深いことが分かります。
医療的ケア児への支援制度は、この10年間でかなり整備されてきました。
それでも、学校へ行くために家族が付き添う。通学を家族が担う。短期入所を利用したくても利用できない。18歳を迎えると通える場所が少なくなる。複数制度の間を家族が調整する、といった状況が残っています。
この記事では、「制度があること」と「本人の生活が実際に成立すること」の間に何があるのかという視点から、2016年から2026年までの制度の変化、人材・報酬・財源の構造、当事者団体の意見、そして今回の法改正を整理します。
そもそも医療的ケア児とは
医療的ケア児とは、法律上、「日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠である児童」をいいます。
医療的ケアには、人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引のほか、気管切開の管理、酸素療法、経管栄養、導尿などがあります。
現在の法律では18歳未満だけでなく、高等学校や特別支援学校高等部などに在籍している一定の18歳以上の人も「医療的ケア児」に含まれています。
出典:衆議院「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」
こども家庭庁の最新資料によると、全国の在宅の医療的ケア児について、0~19歳の推計値は2025年で21,496人です。2005年の9,987人からみると、長期的には大きく増えてきました。
背景には、新生児・小児医療の進歩があります。
NICUなどで高度な治療を受けた子どもたちが、人工呼吸器や胃ろうなどを使用しながら、病院の外で生活できるようになりました。
ここで重要なのは、
「退院できること」と「地域で生活できること」は同じではない、という点です。
医療の進歩によって地域生活が可能になったからこそ、その生活を支える福祉、教育、保育、移動、家族支援の仕組みが必要になりました。
2016年――制度が最初に認識したのは「連携」の必要性
大きな節目となったのが2016年の児童福祉法改正です。
この改正により、地方公共団体には、医療的ケア児が適切な保健、医療、福祉等の支援を受けられるよう、関係機関の連絡調整体制について「必要な措置を講ずるように努めなければならない」と規定されました。
つまり、この段階では努力義務でした。
当時の通知を読むと、問題意識はすでに明確です。
医療的ケア児の地域生活では、医療、障害福祉、保育、教育などが関わるため、行政機関や事業所が「利用者目線」で緊密に連携する必要があるとされていました。
2016年は、「医療的ケア児を一つの制度だけでは支えられない」ということを、制度側が本格的に認識した段階だったと考えられます。
2021年――「努力」ではなく「社会の責任」に
次の大きな転換が2021年です。
「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が成立しました。
この法律の目的には、医療的ケア児の健やかな成長だけではなく、「その家族の離職の防止」まで明記されています。
さらに基本理念として、「医療的ケア児の日常生活及び社会生活を社会全体で支える」ことが掲げられました。
2016年との違いは、「責務」です。
2021年法では、国、地方公共団体、保育所等の設置者、放課後児童健全育成事業者、学校設置者に、それぞれ医療的ケア児を支援する責務が置かれました。
学校設置者については、在籍する医療的ケア児に適切な支援を行う責務が明記されています。
さらに、保護者の付き添いがなくても適切な医療的ケア等を受けられるよう、看護師等の配置その他必要な措置を講ずることも規定されました。
出典:衆議院「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」
これは、「可能な範囲で配慮しましょう」というだけの法律ではありません。
社会の側が支援体制をつくる責任を持つ。そこまで法律が踏み込んだことが、2021年法の大きな意味です。
ただし、この法律だけでサービスのお金が出るわけではない
ここは医療的ケア児支援法を理解するときに重要です。
介護保険には介護報酬があります。
医療保険には診療報酬があります。
しかし、医療的ケア児支援法そのものには、「吸引を行ったら○単位」「看護師を配置したら○円」という独自の報酬表があるわけではありません。
一方で、第8条では政府に対し、「必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない」としています。
| 生活場面 | 主な制度・財源 |
|---|---|
| 自宅での診療・看護 | 医療保険、診療報酬、訪問看護等 |
| 児童発達支援・放課後等デイ | 障害児通所給付、障害福祉サービス等報酬 |
| 短期入所 | 障害福祉サービス等報酬 |
| 保育所 | 保育関係予算、医療的ケア児保育支援等 |
| 学校 | 教育予算、医療的ケア看護職員配置事業等 |
| 相談・調整 | 医療的ケア児支援センター等 |
| 移動・地域生活 | 地域生活支援事業、自治体事業等 |
こども家庭庁も、医療、障害福祉、保育、教育、相談など複数の制度を組み合わせることで支援体系を構成しています。
参考:こども家庭庁「医療的ケア児等とその家族に対する支援施策」
本人の生活は一つなのに、制度は分かれている
例えば、一人の医療的ケア児の一日を考えます。
本人にとっては、これは一続きの生活です。
しかし制度側では、自宅、通学、学校、放課後等デイ、移動、夜間はそれぞれ別の制度になります。
自宅では訪問看護が使えても、同じ仕組みがそのまま通学中まで続くわけではありません。
学校には看護師がいても、スクールバスにはいない場合があります。
放課後等デイサービスで医療的ケアを受けられても、そこまで誰が安全に移動を支援するのかという問題があります。
制度ごとに見ると「支援があります」。
しかし生活者側から見ると、「制度と制度の間に空白がある」。
この違いが、医療的ケア児者支援を理解するうえで非常に重要です。
こうした「本人の状態」だけでなく、制度・環境側にある障壁にも目を向ける考え方は、 福祉のことばで整理している 「障害の社会モデル」 ともつながります。
学校の中は整備されてきた。それでも「学校まで」がつながらない
この問題を象徴するのが学校です。
文部科学省の2025年度調査では、特別支援学校に在籍する医療的ケア児は8,735人、幼稚園、小学校、中学校、高等学校には2,788人が在籍しています。
学校内で医療的ケアを担う体制も大きく整備されてきました。
特別支援学校では、医療的ケア看護職員、介護福祉士、認定特定行為業務従事者を合わせて8,086人。幼稚園、小中高校では3,047人です。
「学校では誰も医療的ケアをできない」という状態からは、かなり前進しています。
ところが同じ調査を見ると、特別支援学校へ通学する医療的ケア児6,954人のうち、登下校時だけ保護者等が付き添っている人が3,502人、50.4%。学校生活と登下校の両方に付き添っている人も251人います。
登下校時に付き添いのある3,753人について理由を尋ねると、「スクールバスに同乗する医療的ケア看護職員がいないため」が1,782件、47.5%で最も多くなっています。
出典:文部科学省「令和7年度 学校における医療的ケアに関する実態調査」
支援体制が整備されてきた ↓ 自宅から学校まで
十分につながっていない ↓ 家族が送迎・付き添いを担う
「看護師を配置する」と「看護師を実際に確保する」は違う
では、なぜスクールバス等に看護師を配置できないのでしょうか。
単純に「学校や自治体が努力していない」と説明することはできません。
最新の文部科学省調査によると、特別支援学校の医療的ケア看護職員3,654人の雇用・配置形態は、直接雇用の常勤245人、直接雇用の非常勤3,052人、外部委託357人です。
幼稚園・小中高校の医療的ケア看護職員2,812人では、直接雇用の常勤47人、直接雇用の非常勤1,893人、外部委託872人となっています。
| 配置先 | 直接雇用・常勤 | 直接雇用・非常勤 | 外部委託 |
|---|---|---|---|
| 特別支援学校 | 245人 | 3,052人 | 357人 |
| 幼稚園・小中高校等 | 47人 | 1,893人 | 872人 |
この数字から、「学校看護師は給与が低いから集まらない」と断定することはできません。
ただし、非常勤や外部委託が大きな割合を占めていることは確認できます。
医療的ケアは、「その日一人配置できればよい」という仕事ではありません。
看護師が休んだ日はどうするのか。修学旅行には誰が行くのか。短時間だけ必要なケアに誰を配置するのか。緊急時に誰へ相談するのか。研修を誰が行うのか。専門性をどう維持するのか。
そこまで考えなければ、持続的な支援体制にはなりません。
外部委託は「直接雇用できないから仕方なく使う」だけではない
学校看護師の外部委託について、「自治体の給与体系では看護師を採用できないため、仕方なく民間へ委託している」と一律に説明できる公的エビデンスは確認できません。
文部科学省の調査研究を見ると、外部委託にはもう少し幅広い目的があります。
例えば、病院と契約して病院勤務の看護師を学校へ派遣する。病院との協定で看護師を出向させる。宿泊を伴う校外学習だけ訪問看護ステーションへ依頼する。直接雇用で不足した部分だけ外部委託を組み合わせる、といった実践が報告されています。
参考:文部科学省「医療的ケア看護職員の人材確保・配置方法に関する調査研究」
外部委託には、人を採用するだけではなく、欠員時の代替、研修、専門性の担保、医療機関との連携、短時間・スポット対応をまとめて確保できる可能性があります。
したがって問うべきなのは、「直接雇用か委託か」という二択ではありません。
地域の医療・看護資源をどう組み合わせれば、必要な時間と場所に安定して人を配置できるのか。
人材供給体制そのものの設計が問われています。
人材確保には「働き続けられる環境」も必要になる
文部科学省の調査研究では、医療的ケア看護職員の確保・定着について、募集方法だけではなく、労働・雇用条件、継続就労できる体制、研修、安全管理、相談支援まで検討されています。
医療的ケア看護職員が休暇を取得した場合の代替要員、医療的ケア指導医や指導的看護師への相談体制、緊急対応マニュアル、研修、教員との連携などが重要とされています。
つまり、看護師の資格を持つ人を一人採用するだけでは、持続的な支援体制にはなりません。
「安心してそこで働き続けられる仕組み」まで含めて整備する必要があります。
学校看護には、学校看護ならではの専門性と魅力もある
一方で、人材不足を「待遇が悪いから人が来ない」という負の側面だけで見るのも十分ではありません。
文部科学省のヒアリングでは、学校で働く医療的ケア看護職員から、医療的ケア児の成長を身近で見守れること、教職員と成長やケアの効果を共有できること、これまでの看護経験を生かせること、学校生活を安心して送る手助けができることなどに、やりがいを感じているという声も報告されています。
学校で行う看護は、病院看護の簡易版ではありません。
教育の場で本人の成長を見ながら、医療と教育をつなぎ、本人、家族、教員、医師、福祉職等と協働する、独自の専門性を持つ看護です。
今後の人材確保では、「いくら払うか」だけではなく、学校・福祉領域の看護を一つの専門的キャリアとしてどう育てるのか、という視点も必要です。
児童発達支援や放課後等デイでも、人材確保が壁になっている
人材問題は学校だけではありません。
こども家庭庁の調査でも、障害児通所支援事業所が医療的ケア児の受入れを進めるために必要と考える支援として、「看護師など医療職の人材確保・配置への支援」が大きな課題として挙げられています。
2021年度の報酬改定では、医療的ケア児の通所先を広げるため、医療的ケア判定スコアを使った基本報酬が創設されました。
2024年度改定でも、医療的ケア児等への専門的支援の評価が見直されています。
制度上「受け入れられる」ことと、現実に「受け入れられる人員がいる」ことは違います。
レスパイトも「制度がある」と「実際に預けられる」は違う
家族の休息を支えるレスパイトについても、同じ問題があります。
障害福祉制度には短期入所があります。
国も医療的ケア児者を支える短期入所や地域支援施策を実施しています。
したがって、「レスパイト制度がない」わけではありません。
しかし、医療的ケアに対応できる事業所があるか。空床があるか。夜間も看護職を配置できるか。急変時に医療機関と連携できるか。人件費を含め事業として継続できるか。
そこまで整わなければ、実際には利用できません。
2026年6月、厚生労働省の令和9年度障害福祉サービス等報酬改定ヒアリングで、全国医療的ケア児者支援協議会は、短期入所の不足を大きな問題として提起し、福祉型短期入所の報酬や医療型短期入所への参入障壁等の見直しを求めています。
参考:厚生労働省「令和9年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた関係団体ヒアリング」
そして18歳――本人は同じなのに制度の物差しが変わる
この問題が最も分かりやすく表れるのが、成人への移行です。
17歳11か月から18歳になったからといって、人工呼吸器が不要になるわけではありません。
吸引がなくなるわけでもありません。
むしろ身体が大きくなれば、移乗、排泄、入浴などの介助が重くなることもあります。
しかし制度上は、放課後等デイサービスから生活介護等へ移行します。
そして報酬評価の仕組みも同じではありません。
児童発達支援・放課後等デイサービスでは、医療的ケア判定スコアに応じて医療的ケアの必要度を基本報酬へ反映する仕組みがあります。
一方、成人期の生活介護では、障害支援区分、利用定員、サービス提供時間等が基本報酬の主要な評価要素となります。生活介護や短期入所にも医療的ケアに関する加算等はありますが、児童期と同じ評価体系ではありません。
本人の医療的ケアは連続している。
しかし、制度上の評価軸は成人移行によって変わる。
これが「18歳の壁」の制度・経済面の一つです。
「43%低下」という試算をどう読むか
この問題について、全国医療的ケア児者支援協議会は厚生労働省のヒアリングで、一定条件の多機能型生活介護へ移行した場合、放課後等デイサービスと比較して1人当たり収支が43%低くなるとの試算を示しています。
一方で、児童期と成人期で報酬の評価体系が変わること自体は、公的制度から確認できます。
ですから本質的な問いは、「43%という数字が全国平均か」ではありません。
成人後も、医療的ケアの必要度と人員配置コストを適切に評価できる報酬体系になっているのか。
そこを見る必要があります。
「動ける医療的ケア児者」が制度の物差しからこぼれることもある
もう一つ当事者団体が問題としているのが、いわゆる「動ける医療的ケア児者」です。
歩ける。自分で動ける。意思表示できる。
一方で、人工呼吸器、気管切開、吸引、酸素管理などが必要な人もいます。
ADLだけを見ると「自立している部分が多い人」に見えるかもしれません。
しかし、自分で動くからこそ、チューブの自己抜去、機器との接触、急な状態変化などに継続的な注意が必要なことがあります。
全国医療的ケアラインは2026年8月の厚生労働省ヒアリングで、こうした継続的・先回り的な安全管理を「動的見守り」と位置付け、その負担を報酬上適切に評価するよう求めています。
これも当事者団体による政策提案です。
しかし、「何ができるか」だけでは「どれだけ安全管理が必要か」を十分評価できない可能性があるという指摘は、制度設計を考えるうえで重要です。
当事者団体が求めているのは「家族を楽にしてほしい」だけではない
当事者・支援団体の意見を見ると、その要求は単なる家族負担軽減ではありません。
全国医療的ケア児者支援協議会は厚生労働省の報酬改定ヒアリングで、2027年度改定を、改正医療的ケア児支援法を実効性あるものにするための「本丸」と位置付け、成人期の生活介護、短期入所、動ける医療的ケア児者、災害対策などの改善を求めています。
全国医療的ケアラインも、成人期への医療的ケア評価の継続や動的見守り等の評価を提案しています。
共通しているのは、「家族が支えられる範囲で本人が暮らす」仕組みではなく、本人自身の生活が社会的支援によって成立する仕組みにしてほしい、という問題意識です。
本人や家族の経験・希望を、制度や支援の出発点として扱うという意味では、 「当事者主体」や 「意思決定支援」 の考え方ともつながります。
2026年改正――「医療的ケア児」から「医療的ケアを必要とする生活者」へ
ここまで見たうえで今回の改正を読むと、その意味がよく分かります。
改正法では、医療的ケア児だけではなく、医療的ケア児であった成人で引き続き恒常的な医療的ケアが必要な人、成人後に恒常的な医療的ケアが不可欠で、それによって自立した日常生活または社会生活を営むことが困難な人、重症心身障害者まで支援対象が広がります。
基本理念にも、「基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ」ることが明記されます。
さらに、18歳以降も切れ目なく保健医療・福祉サービスを受けながら、「希望する地域」で日常生活・社会生活を営めるようにすることが基本理念になります。
これは、必要な支援を受けながら本人が希望する地域で暮らす 「地域生活」 を、制度の側からどう支えるかという問いでもあります。
レスパイト、夜間、移動、医療、就労、住まいまで法律に入る
改正法では、生活支援も具体化されます。
日常生活支援として、レスパイト、通学等の移動支援、夜間の居宅支援、重度訪問介護、福祉事業所への看護師等配置の促進などが対象になります。
さらに、切れ目のない医療、就労支援、住居の確保、ピアサポート、生涯学習も明記されます。
学校についても、看護師だけでなく、喀痰吸引等を行うことができる介護従事者の配置等が位置付けられます。
ここから見えてくるのは、「医療的ケアをどう提供するか」だけではありません。
医療的ケアを必要とする人が、どう暮らすか。どう学ぶか。どう移動するか。どう働くか。どこに住むか。
そこまでを法律の射程に入れようとしているということです。
これは「合理的配慮をしてください」というだけの法律ではない
障害分野では合理的配慮という考え方があります。
個々の障害の状況に応じて必要な変更や調整を行うことは重要です。
しかし医療的ケア児支援法は、「必要な人がいたら、その都度配慮してください」というだけの法律ではありません。
現行法にも、国・自治体等の「責務」、学校等の「必要な措置」、政府の「財政上の措置」が規定されています。
つまり、本人から申し出があったときだけ調整するのではなく、そもそも支援を提供できる社会的な体制を整備するところまで求めています。
ただし、この法律だけで具体的な個別給付の金額が決まるわけではありません。
ここに、法改正の次の課題があります。
法律が変わっても、翌日に看護師や短期入所が増えるわけではない
2027年4月に法律が施行されれば、レスパイト、移動支援、夜間支援、就労、住居などが重要政策として、これまで以上に明確になります。
しかし、法律に「看護師等を配置する」と書かれた翌日に、地域の看護師数が増えるわけではありません。
法律に「レスパイトを支援する」と書かれた翌日に短期入所のベッドが増えるわけでもありません。
このどこかで途切れれば、「制度はある。でも使えない」という状態になります。
本記事公開後、施行令案と基本指針改正案が示され、パブリックコメントも始まりました。 地域協議会、医療的ケア児等支援センター、コーディネーター、 障害福祉計画を通じて、個人の困りごとを地域のサービス・人材整備へどうつなげるかが 次の焦点になっています。
詳細は 「医療的ケア児等支援の施行令案を公表|地域協議会・コーディネーターなど2027年施行への動き」 で整理しています。
では「予算を増やせば解決する」のか
ここにも現実的な問題があります。
2026年度には、令和9年度の本格改定を待たず、障害福祉サービス等報酬についてプラス1.84%の期中改定が実施され、国費313億円を追加して障害福祉従事者の処遇改善などが行われています。
障害福祉サービス等に必要な自立支援給付費も、2026年度予算では1兆7,981億円が計上されており、前年度から増えています。
したがって、「国が障害福祉予算を一律に削減している」と説明するのは正確ではありません。
一方で、財政制約が存在しないわけでもありません。
財政制度等審議会の資料では、障害福祉サービス等の総費用額が10年間で約2倍となっていることなどを踏まえ、サービスの質を確保しながら総費用額の伸びをどう管理し、制度の持続可能性を確保するかが課題として示されています。
今後の政策論は、「もっとお金を出すべきだ」対「財政が厳しいから抑えるべきだ」という単純な二択ではありません。
限られた公費を、どのニーズに、どのサービスに、どの人員配置に、どのような評価基準で重点的に配分するのかという資源配分の問題になります。
医療的ケア児者の見守りをどう評価するのか。
成人期の医療的ケアをどう評価するのか。
短期入所へどこまで重点的に配分するのか。
看護職等の配置をどう支えるのか。
2027年度報酬改定で問われるのは、まさにこの部分です。
その後、厚生労働省は2026年8月27日、2027年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた 4つの主要論点を示しました。医療的ケアを含む多様なニーズへの対応、 希望する地域等での生活、人材・サービス提供体制、制度の持続可能性が 今後の検討テーマになっています。
2016年から2026年まで、何が変わったのか
| 時期 | 制度上の変化 | 意味 |
|---|---|---|
| 2016年 | 児童福祉法改正 | 医療的ケア児を制度上認識し、多分野連携体制の整備を自治体の努力義務に |
| 2021年 | 医療的ケア児支援法 | 国・自治体・学校・保育等の責務を明確化 |
| 2026年改正 | 2027年4月施行 | 成人・重症心身障害者まで広げ、レスパイト、移動、医療、就労、住居等へ支援を拡張 |
2016年は、「制度同士をつなごう」という段階でした。
2021年は、「支援は社会の責任である」ことを明確にした段階です。
そして2026年改正は、「子どもの期間だけではなく、一人の人の生活の時間に沿って支援する」方向へ進む段階と考えることができます。
制度の最後の「空白」を誰が埋めているのか
現在の支援を考えるとき、単に「家族の負担が大きい」とだけ表現するのでは不十分です。
もう一段、仕組みを見る必要があります。
でも通学時にはいない ↓ 家族が送迎する
短期入所制度はある
でも利用できるベッドがない ↓ 家族が夜間も支える
成人サービスはある
でも医療的ケア対応の事業所が少ない ↓ 家族が自宅で支える
つまり、公的制度で十分に供給されなかった支援が、結果として家族のケアによって補完される構造があります。
これは、行政が家族を無料の労働力として意図的に使っている、という単純な話ではありません。
学校にも事業者にも自治体にも、予算、人材、報酬、安全管理、専門性、地域資源という制約があります。
だからこそ、個々の学校や施設、担当者の「努力不足」に還元してはいけない問題なのだと思います。
福祉教育ラボの視点――家族支援とは、家族が介護を続けるための支援なのか
家族支援という言葉があります。
レスパイト。相談。介護負担の軽減。
どれも必要です。
夜に眠る時間。仕事をする時間。自分の病院へ行く時間。きょうだいと過ごす時間。友人と会う時間。何もしない時間。
家族にも、自分自身の生活があります。
ただ、家族支援について、もう一歩考えてみたいと思います。
家族支援とは、「家族が介護を続けられるようにすること」だけなのでしょうか。
本人が必要な医療を受けられる。
本人が学校へ行ける。
本人が移動できる。
本人が日中を過ごす場所を持てる。
本人が働ける。
本人が望む地域で暮らせる。
本人自身の生活が社会的支援によって成立する。
その結果として、親は「医療的ケアを担う人」である前に親でいられる。
きょうだいは、きょうだいとして暮らせる。
本人も「家族に支えてもらう存在」だけではなく、地域で暮らす一人の生活者として生きられる。
その状態をつくることも、家族支援なのではないでしょうか。
2026年改正は、「基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられる」ことを基本理念に加えました。
そして18歳以降も、「希望する地域」で暮らせることを明確にしました。
18歳になっても、その人は同じ人です。
学校を卒業しても、その人の生活は続きます。
制度には、児童と成人、医療と福祉、家庭と学校、学校と移動という境界があります。
しかし、人の暮らしそのものは、その境界で途切れるわけではありません。
2026年の法改正が本当に意味を持ったかどうかを判断できるのは、2027年4月1日の施行日ではないでしょう。
その後、
医療的ケアに対応できる短期入所は増えたのか。
成人後も利用できる生活介護は増えたのか。
必要な看護職等を配置できる報酬になったのか。
学校・福祉領域の看護が専門的なキャリアとして育っているのか。
家族が付き添わなくても学校へ通える人は増えたのか。
働きたい人が働けるようになったのか。
希望する地域で暮らせる選択肢は増えたのか。
そこまで見て初めて、この法改正を評価できるのだと思います。
法律が「児」から「者」へ対象を広げたことは、大きな一歩です。
しかし本当に問われているのは、年齢の線を引き直したことではありません。
制度の境界ではなく、一人ひとりの暮らしの時間に沿って支援をつなぐことができるのか。
その理念を支えるだけのお金、人、専門性、地域資源を、本当に社会の仕組みとして整えられるのか。
2027年4月から始まるのは、その答えを確かめていく段階です。
この記事とつながる「ふくしのことば」
この法改正を制度名だけで終わらせず、「本人の暮らし」「家族」「社会の側の条件」まで考えるために、 福祉教育ラボの120語から関連の深いことばを選びました。
主な参考資料
- こども家庭庁「医療的ケア児等とその家族に対する支援施策」
- こども家庭庁「医療的ケア児支援法改正概要」
- 衆議院「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」
- 文部科学省「令和7年度 学校における医療的ケアに関する実態調査」
- 文部科学省「医療的ケア看護職員の人材確保・配置方法に関する調査研究」
- 厚生労働省「令和9年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた関係団体ヒアリング」
- 厚生労働省掲載「全国医療的ケアライン提出資料」
- 財務省「令和8年度予算と社会保障」
- e-Govパブリック・コメント「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律施行令案」
- e-Govパブリック・コメント「障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の円滑な実施を確保するための基本的な指針の一部を改正する件(案)」


