住宅型有料老人ホームのケアプラン見直しへ 「囲い込み」対策の人員・報酬を審議
住宅型有料老人ホームをめぐり、ホームと同一・関連法人の介護サービスを優先的に利用させたり、 本人の必要性を超えて区分支給限度基準額に近いサービス量を組み込んだりする、 いわゆる「囲い込み」が問題とされてきました。
しかし、住宅型有料老人ホームそのものや、 同一法人の介護サービスを利用すること自体が問題なのではありません。
問われているのは、 「そのサービスは、本人の状態や希望、生活課題から必要と判断されたのか」 ということです。
- 「囲い込み」は、同一法人を利用すること自体を意味するものではありません。
- 国の調査で、特定事業者の利用を入居要件とする実態が確認されています。
- 2026年6月の法改正で、住まいと介護の独立性確保が制度化されます。
- 新しい「登録施設介護(予防)支援」では、原則として利用者負担も生じます。
- 2026年8月時点では、人員・報酬・運用などの具体化がこれから進められる段階です。
住宅型有料老人ホームでは「住まい」と「介護」が分かれている
有料老人ホームには、介護保険法上の特定施設入居者生活介護の指定を受けた、 いわゆる「介護付き有料老人ホーム」と、「住宅型有料老人ホーム」などがあります。
介護付き有料老人ホームでは、ホームが介護サービスを包括的に提供します。
一方、住宅型有料老人ホームでは、 基本的には「住まい」と「介護保険サービス」が別の契約です。
入居者が介護を必要とする場合には、 居宅介護支援事業所のケアマネジャーがケアプランを作成し、 訪問介護や通所介護などの居宅サービスを個別に利用します。
制度上は、本人が地域にある事業所の中からサービスを選択できる仕組みです。
ただ、実際には、ホームと同一・関連法人の訪問介護事業所や居宅介護支援事業所などが 併設・隣接し、住まいと介護が事実上一体的に提供されているケースが少なくありません。
厚生労働省の調査では、併設または隣接する介護等事業所がある 住宅型有料老人ホームは79.1%でした。
こうした運営形態そのものが問題なのではありません。
住まいと介護の距離が近いからこそ、 「本人の選択の自由」と「ケアマネジメントの独立性」 をどのように守るかが重要になります。
「囲い込み」では何が問題になるのか
問題となるのは、同一法人のサービスを利用していることそのものではありません。
本人や家族に十分な選択肢が示されないまま、 特定のケアマネジャーや介護事業所の利用が、 事実上の入居条件となっているような場合です。
さらに、本人の必要性より法人側の事情がサービス内容に強く影響する場合も問題となります。
厚生労働省が示した令和6年度調査では、 住宅型有料老人ホームの11.7%で、 介護保険サービスを利用する場合に、併設・隣接または関連法人の 居宅介護支援事業所のケアマネジャーにケアプランを作成してもらうことが 入居要件となっていました。
さらに27.2%では、 入居後に併設・隣接または関連法人の介護事業所を利用することが 入居要件とされていました。
これは、一部の現場で語られている印象論ではなく、 国の調査によって確認された実態です。
ケアマネジャーの約25%が「限度額いっぱい」の要請を経験
さらに考えたいのが、ケアマネジャーの置かれている状況です。
厚生労働省の検討資料では、令和3年度の調査研究において、 高齢者住まいの運営法人から、
という趣旨の要請を受けたケアマネジャーが、25%程度確認されています。
また、検討会では、限度額いっぱいのケアプラン作成への要請に反対したことで、 離職を迫られたケアマネジャーの事例も示されています。
専門職として本人に必要な支援を判断しようとしても、 所属法人の経営方針、管理者からの指示、入居者の紹介関係、 組織内での評価などによって、その判断が揺さぶられる構造があり得ます。
「ケアマネジャーが断ればよい」と個人の強さだけに問題を還元してしまえば、 その背景にある組織構造は見えなくなります。
利益を上げることが問題なのではない
介護事業にも、当然ながら経営があります。
職員に給与を支払い、人材を育て、建物を維持し、 設備を更新しながらサービスを続けるためには、安定した収益が必要です。
同じ建物や敷地内でサービスを提供すれば、 移動時間や車両費を抑えられる場合があります。
職員同士の情報共有がしやすくなり、 迅速な対応につながることもあります。
「効率よく必要なサービスを提供すること」と、 「介護サービスの量を増やして収益を作ること」は別です。
ケアプランは、法人の売上目標から逆算して作るものではありません。
本人の心身の状態、生活歴、希望、家族関係、生活環境、 できること、困っていることをアセスメントし、 その人の暮らしに必要な支援を組み立てるためのものです。
法人に経営目標があることと、 その経営目標をケアプランへ持ち込むことは、分けて考える必要があります。
2024年度介護報酬改定ですでに始まっていた見直し
囲い込みへの対応は、2026年に突然始まったわけではありません。
2024年度介護報酬改定では、訪問介護について、 正当な理由なく、前6か月間のサービス提供のうち 同一敷地内・隣接敷地内等の利用者への提供割合が90%以上となる場合に、 新たに12%減算する区分が設けられました。
同じ建物へのサービス提供では、移動時間や移動距離が短くなり、 効率的なサービス提供が可能になるという実態を報酬へ反映する仕組みです。
居宅介護支援についても、 居宅介護支援事業所と同一敷地・隣接敷地・同一建物等に居住する利用者等について、 所定単位数の95%を算定する仕組みが導入されました。
ただし、報酬を調整するだけで「囲い込み」という問題全体が 解決するわけではありません。
誰がサービスを選ぶのか。
ケアマネジャーがどこまで独立して判断できるのか。
住まいを運営する事業と、介護サービスを提供する事業との関係をどう整理するのか。
より根本的な課題が残っていました。
2026年6月、制度はさらに大きく変わった
2026年6月25日、「社会福祉法等の一部を改正する法律」が公布されました。
今回の改正では、中重度の要介護者など、 特に入居者保護の必要性が高い人を入居対象とする有料老人ホームについて、 登録制を導入することが法律上位置づけられました。
国の対応は、 「望ましい運営を事業者へ求める」段階から、 「住まいと介護の独立性を制度としてどう担保するか」 という段階へ進みました。
新しい「登録施設介護(予防)支援」とは
もう一つ、大きな変更があります。
登録対象となる住宅型ホームの入居者に対して、 新しい相談支援類型である 「登録施設介護支援」「登録施設介護予防支援」が創設されます。
新しい仕組みでは、ホームと対等な立場から、 次のような支援を担うことが想定されています。
特に「地域生活相談」が位置づけられていることは重要です。
ホームの中だけで暮らしを完結させるのではなく、 本人の希望に応じて地域活動や人との交流などにつないでいく視点が、 新しい相談支援に盛り込まれています。
ケアマネジメントとは、 「どのサービスを何回使うか」だけを決めるものではありません。 「この人が、どのように暮らしたいのか」から支援を考えるものです。
新しい相談支援には「原則1割」の利用者負担が設けられる
ここは、本人や家族にとって重要な変更です。
現在の居宅介護支援では、 通常、ケアプラン作成そのものについて利用者の自己負担はありません。
新設される登録施設介護(予防)支援では、 介護付き有料老人ホーム等との負担の均衡を図る観点から、 原則として1割の利用者負担を求める仕組みとされています。
一定以上の所得がある人については、 介護サービス費等と同様に、 所得に応じた負担割合に関する規定も設けられます。
これは小さな変更ではありません。
ケアマネジメントの独立性を高めるための新しい制度である一方で、 利用者側にはこれまでなかった負担が生じることになります。
「独立性を高める制度としてどのような効果があるのか」と同時に、 「本人・家族にとって新たな負担に見合う支援内容となるのか」 という視点でも制度を見る必要があります。
なお、具体的な報酬水準や人員配置等については、 2026年8月時点でまだ検討中です。
新制度が明日から始まるわけではない
制度改正が報じられると、 「もう住宅型有料老人ホームの制度が変わったのか」 と感じるかもしれません。
しかし、法律の公布と制度の本格施行は同じではありません。
2026年8月時点では、 「法律による制度の骨格は決まったが、 すべての新制度が全国で運用開始されているわけではない」 という段階です。
既存の居宅介護支援事業所はどうなるのか
新しい制度への移行についても、 既存の居宅介護支援事業所が突然対応できなくなる仕組みではありません。
改正法には、新制度施行時点で既に指定を受けて 居宅介護支援事業を行っている事業者について、 一定期間、登録施設介護支援事業者として 指定を受けたものとみなす経過措置が設けられています。
期間は、新制度の施行日から起算して 6年を超えない範囲で政令により定める日までとされています。 介護予防支援についても同様の経過措置があります。
厚生労働省も、当面の間、 既存の居宅介護支援事業者については 新たな指定申請を不要とする方向を示しています。
したがって、 「制度が変わるから、今のケアマネジャーがすぐに関われなくなる」 というものではありません。
制度の独立性を高めながら、 現場を一度に切り替えて混乱させないための移行期間も用意されています。
2026年8月5日|次は「人員・報酬・質」をどう設計するか
2026年8月5日の第262回社会保障審議会介護給付費分科会では、 2027年度介護報酬改定に向けて、 「高齢者住まいに対するサービス提供の在り方」が議論されました。
ここで重要なのは、 「新しい制度を作るべきか」という段階ではないことです。
法律によって創設されることが決まった 登録施設介護(予防)支援について、 制度の具体的な中身を詰める段階へ進んでいます。
- 利用者本位のケアプランをどう担保するか
- 地域生活相談に何を求めるか
- どのような人員配置が必要か
- ケアマネジャーと地域生活相談を担う職員の兼務をどう考えるか
- 報酬をどのように設定するか
- ケアマネジメントの質をどのように確認するか
「新しい報酬は○単位」 「○%減算」 「ケアマネジャーを○人配置」 といった具体的な水準が、すべて決定しているわけではありません。
同一法人だから悪い、頻回利用だから悪い、ではない
制度が強化されると、逆方向の誤解にも注意が必要です。
「同一法人のサービスを利用しているから囲い込みだ」
「限度額近くまで使っているから不適切だ」
と機械的に判断することも適切ではありません。
重度の認知症がある人、医療的ケアが必要な人、 一日に何度も排泄・食事・服薬などの支援が必要な人に、 頻回なサービスが必要なことは十分にあります。
同一法人の職員同士が連携することで、 本人にとって安心できる支援になる場合もあります。
見るべきなのは「法人名」や「回数」だけではありません。 本人に本当に必要だったのか。 本人や家族に選択肢が示されたのか。 ケアマネジャーが専門職として独立して判断できたのか。 そこが中心です。
そのケアプランを見るときに確認したい5つのこと
ケアプランについて疑問を感じたときには、 次のような点を確認できます。
ケアプランは、サービスの注文表ではありません。 その人がどのような暮らしを送りたいのかを考え、 その実現に必要な支援を組み立てるためのものです。
疑問を感じたら、どこへ相談すればよいか
本人や家族が、 「本当にこれだけのサービスが必要なのだろうか」 「別の事業所を選ぶことはできないのだろうか」 「ケアマネジャーを変えることはできるのだろうか」 と感じたとき、疑問を持つこと自体を遠慮する必要はありません。
大切なのは、相手を責めるためではなく、 「なぜこの支援になっているのか」を一緒に確認することです。
ホームの運営や入居条件そのものについて疑問がある場合には、 有料老人ホームの指導監督を担当する都道府県、指定都市、中核市等へ 相談できる場合があります。
また、介護保険サービスについての苦情には、 市区町村のほか、 国民健康保険団体連合会による苦情処理の仕組みもあります。
外部へ相談することは、ホームや支援者を「敵」にすることではありません。 本人にとって必要な支援が何なのかを、 もう一度確認するための方法の一つです。
介護の現場には、いつもいくつもの事情があります。
本人の希望があります。
家族の思いがあります。
職員の人手不足があります。
事業所を続けていくための経営があります。
地域によって使えるサービスにも違いがあります。
制度にも限界があります。
そのどれか一つだけを取り出して、 簡単に善悪を決めることはできません。
介護事業を続けるために経営を安定させることも、とても大切です。
そこで働く人が安心して働き続けられることも大切です。
同じ法人の職員同士が顔の見える関係で連携し、 一人の人を支えることにも大きな価値があります。
だからこそ、「囲い込み」という言葉だけで、 すべての住宅型有料老人ホームや そこで働く人を一括りにしたくはありません。
一方で、専門職が、 「本当はこのサービスは必要ないのではないか」 と感じながら、法人の事情によって声を出せなくなるのであれば、 それは本人にとっても、専門職にとっても、 そして長い目で見れば事業者にとっても 望ましい状態ではないでしょう。
ケアマネジャーが、 法人の収益目標と本人の必要性との間で苦しまなくてよいこと。
介護職が、 「この支援は本当にこの方のためになっているだろうか」 と感じたとき、その声を安心して出せること。
本人や家族が、十分な説明を受けながら 自分たちの暮らしを選べること。
そのための制度と組織を整えていくことが 大切なのだと思います。
今回の法改正は、そのための一つの大きな前進です。
ただ、制度が変われば、 それだけで本人中心の支援が完成するわけではありません。
新しい相談支援には利用者負担も生じます。
新しい仕組みを担う人材も必要です。
住まいと相談支援、介護サービスの間で、 本当に独立した判断ができる仕組みになるのかも 見ていかなければなりません。
だからこそ、制度の形だけではなく、 その先にいる人の暮らしを見続けたいと思います。
住まいが、安心して暮らせる場所であること。
介護が、その人の暮らしを支えるものであること。
事業が持続可能でありながら、 本人の選択も守られていること。
「この選択は、誰が決めたのだろう」
そして、
「そのケアプランは、誰のために作られているのだろう」
ケアプランの真ん中には、 制度でも、法人でも、報酬でもなく、 そこで暮らしている一人の人がいます。
福祉教育ラボでは、その当たり前を大切にしながら、 2026年の制度改正と、その先の介護報酬・運用の議論を これからも丁寧に見ていきたいと考えています。
- 厚生労働省 「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会 とりまとめ」
- 厚生労働省 「社会福祉法等の一部を改正する法律」及び関係通知・制度改正資料
- 厚生労働省 「第262回社会保障審議会介護給付費分科会」
- 厚生労働省 「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
- 厚生労働省 「全国介護保険担当課長会議資料」

