高齢者の熱中症

「暑いと言わない」から大丈夫とは限らない

ある夏の午後、離れて暮らす母を訪ねると、部屋の窓は閉まり、エアコンもついていませんでした。

「暑くないの?」

そう尋ねても、母はいつものように答えます。

「私は暑さに強いから大丈夫」
「喉も渇いていないよ」

家族も、その言葉を聞いて少し安心します。近所の人も、朝には元気そうに見かけていました。

ところが、よく見ると昼食にはほとんど手を付けていません。水筒の水も減っておらず、呼びかけへの返事も、いつもより遅いように感じます。

本人は、体調不良を隠していたわけではないのかもしれません。

本当に「暑い」と感じにくく、「喉が渇いた」とも感じていなかった可能性があります。

高齢者の熱中症は、本人の訴えだけでは気づきにくい

2025年5月から9月に熱中症で救急搬送された人のうち、65歳以上は57.1%を占めました。熱中症は若い人にも起こりますが、高齢者への注意が特に必要です。

高齢になると、暑さや喉の渇きに対する感覚が鈍くなりやすく、発汗などによって身体の熱を逃がす機能も低下します。また、若い人に比べて体内の水分量が少なく、脱水状態に陥りやすいことも指摘されています。

そのため、

「暑いと言っていない」
「汗をたくさんかいていない」
「本人が大丈夫だと言っている」

ということだけでは、安心できません。

熱中症は屋外だけでなく、室内や夜間にも起こります。特に高齢者の場合は、周囲の人による見守りと声かけが重要です。

家族や支援者が確認したい五つの変化

次の変化が見られたら、「年齢のせい」「夏だから食欲がない」と決めつけず、室温や水分摂取、本人の様子を確認します。

  • 暑い部屋にいても「暑い」と言わない
  • 汗が少なく、身体に熱がこもっている
  • 食事量や水分量が減っている
  • ぼんやりして、返事や動きがいつもより鈍い
  • 尿の回数が減ったり、色が濃くなったりしている

これらの一つだけで熱中症と断定することはできません。しかし、「いつもと違う変化」が重なっているときは注意が必要です。水分摂取が不足すると尿が濃くなるなど、身体には脱水の兆候が現れることがあります。

「飲んでください」だけでは続かない

本人が水分を控える背景には、

「喉が渇いていない」
「トイレが近くなるのが嫌」
「人に手伝ってもらうのが申し訳ない」
「エアコンは身体に悪い気がする」
「電気代がもったいない」

といった理由がある場合もあります。

単に「水を飲んで」「エアコンをつけて」と繰り返すだけではなく、本人が何を心配しているのかを聞くことが大切です。

飲み物を手の届く場所に置く、起床時や食事時など水分を取る時間を決める、排泄介助の方法を見直す、エアコンの風向きや温度を調整するなど、本人が無理なく続けられる環境をつくります。

なお、心臓や腎臓の病気などで水分量について医師から指示を受けている人は、その指示に従う必要があります。

反応がおかしいときは、様子を見すぎない

熱中症が疑われる場合は、涼しい場所へ移し、衣服を緩め、首、脇の下、足の付け根などを冷やします。意識がはっきりしていて自力で飲める場合は、水分や経口補水液などを補給します。

呼びかけへの返事がおかしい、意識がない、自力で水分を飲めない場合は、無理に飲ませず、すぐに救急車を要請します。

福祉教育ラボの視点

本人が「大丈夫」と話していることは、大切な意思表示です。

しかし、その言葉だけで支援を終えるのではなく、室温、食事、水分、排泄、表情、受け答えなど、生活全体から状態を見る必要があります。

熱中症予防は、水分を勧めるだけの支援ではありません。

本人が暑さや体調の変化に気づきにくくなっていても、安心して夏を過ごせる環境を、家族、近隣、介護職、医療職がともにつくることです。

「暑いと言わないから大丈夫」ではなく、

「いつもと違うことはないか」

その小さな気づきが、命を守る支援につながります。