介護職の人手不足はなぜ続く?|離職率12.4%・不足感65.8%から採用と定着を考える

福祉教育ラボ|福祉ニュース・解説
人手不足が深刻なのに、介護の仕事を「続けたい」と考える人は少なくありません。

介護人材不足が全国的な課題となっています。しかし最新調査を詳しく見ると、 「介護職が次々に辞めているから人材が足りない」という単純な構図ではありません。

奈良県と全国の最新データから、介護職の人手不足、離職率、継続就労意向、 採用、定着の関係を整理し、「採用すること」だけでは解決しない介護人材確保について考えます。

この記事のポイント
  • 奈良県では66.8%の介護事業所が職員不足を感じている
  • 一方、介護サービス従事者の82.2%には介護の仕事を続ける意向がある
  • 全国でも人手不足を感じる事業所は65.8%にのぼる
  • 採用に効果があった施策と、職場定着に効果があった施策は異なる
  • 介護人材確保には「採用・育成・定着・職場づくり」を一体で考える視点が必要になる

介護職の人手不足はどの程度? 奈良県66.8%、全国65.8%

奈良県は2026年8月12日、「高齢者の生活・介護等に関する県民調査」の結果を公表しました。 この調査は、2026年度に策定する「高齢者福祉計画・第10期介護保険事業支援計画・認知症施策推進計画」などの基礎資料として活用されます。

介護サービス事業所への調査では、 「大変不足している」10.3%、「不足している」26.0%、「やや不足している」30.5%で、 合計すると66.8%の事業所が職員不足を感じていました。

特に不足している職種では、介護職員が73.4%と最も高く、 看護職員22.2%、介護支援専門員14.4%と続いています。

奈良県|事業所の職員不足 66.8% 「大変不足」「不足」「やや不足」の合計
奈良県|不足している職種 73.4% 介護職員が最も高い
全国|事業所の人手不足感 65.8% 令和7年度 介護労働実態調査
全国|訪問介護員の不足感 82.9% 調査対象7職種の中で最も高い

全国の令和7年度「介護労働実態調査」でも、 従業員が不足していると回答した事業所は65.8%でした。 特に訪問介護員では82.9%に達しています。

奈良県調査と全国調査は調査方法や対象が完全に同一ではないため、 66.8%と65.8%を厳密に比較することはできません。 ただし、介護人材不足が奈良県だけの問題ではなく、 全国の介護現場に共通する大きな課題であることは確認できます。

人手不足なのに、介護の仕事を「続けたい」人は多い

一方で、奈良県の介護サービス従事者に 「介護の仕事を今後も続けていきたいと思いますか」と尋ねたところ、 69.7%が「今の職場で続けたい」、 12.5%が「続けたいが、別の職場で続けたい」と回答しました。

奈良県|今の職場で続けたい 69.7% 介護サービス従事者
奈良県|介護の仕事を続ける意向 82.2% 現在の職場+別の職場で継続

つまり、職場を問わず介護の仕事を続けたいと考えている人は 82.2%にのぼります。 前回の令和4年度調査との間にも有意な差はみられていません。

全国調査でも、55.9%が「今の仕事(職種)を続けたい」、 51.9%が「現在の事業所で働き続けたい」と回答しています。 さらに「今の仕事を続けたい」とした人のうち81.8%は、 現在の事業所でも働き続けたいと回答しました。

数字を比較するときの注意 奈良県の82.2%と全国調査の55.9%は、質問文や回答選択肢が異なります。 そのため「奈良県の方が継続意向が高い」と直接比較することはできません。 ここで重要なのは、異なる調査でも「人手不足」と「介護の仕事を続けたいという意向」が 同時に確認されていることです。

「介護を辞めたい」と「今の職場を辞めたい」は同じではありません。
人材確保を考えるときには、介護分野そのものから離れる「業界離職」と、 介護の仕事を続けながら職場を変える「事業所間の転職」を分けて考える必要があります。

介護人材不足はなぜ起きている? 離職だけでは説明できない

人手不足という言葉からは、 「介護職が次々に辞めている」というイメージを持ちやすいかもしれません。

しかし、令和7年度の全国調査では、 訪問介護員と介護職員を合わせた2職種の離職率は12.4%採用率は14.6%でした。

全国|離職率 12.4% 訪問介護員・介護職員の2職種
全国|採用率 14.6% 2年ぶりに上昇

もちろん、これだけで「離職に問題はない」とはいえません。 29歳以下の離職率は17.3%と他の年齢層より高く、 若い世代の定着は引き続き重要な課題です。

一方、全国の介護労働者が抱える悩み・不安・不満では、 「人手が足りない」が52.3%で最も高く、 「仕事内容のわりに賃金が低い」38.1%、 「昇給がない、少ない」29.9%、 「身体的負担が大きい」23.9%と続きました。

つまり現在の介護人材不足は、 「離職者を減らせば解決する問題」とだけ捉えるのではなく、 新たな人材を確保すること、現在働いている人が継続できること、 そして増加する介護需要に対応できるだけの人材規模を確保することを 同時に考える必要があります。

介護職の採用と定着では「効果のある施策」が違う

今回の全国調査で特に注目したいのが、 採用に効果があった施策と、職場定着に効果があった施策の違いです。

採用に効果 38.4% 賃金水準の向上

実施している事業所のうち、「採用に効果があった」と回答した割合が最も高い施策でした。

職場定着に効果 57.9% 休暇取得や勤務日時を変更しやすい職場づくり

実施している事業所のうち、「職場定着に効果があった」と回答した割合が最も高い施策でした。

賃金や処遇の改善は、人材確保を考えるうえで非常に重要です。 しかし、「人を採用するために有効な条件」と 「入職した人が働き続けるために必要な条件」は、必ずしも同じではありません。

定着には、休暇の取りやすさ、勤務時間の柔軟性、人間関係、 相談体制、教育、キャリア形成など、 日々の職場環境そのものが関係してきます。

職場の人間関係とマネジメントも、介護職の定着に関わる

全国調査では、直前の仕事が介護関係だった人がその仕事を辞めた理由として、 「職場の人間関係に問題があったため」が27.3%で最も高くなっています。

さらに、その「人間関係に問題があった」と回答した人に具体的な内容を尋ねると、 「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」が45.8%、 「仕事の進め方に関する上司や同僚との意思疎通がうまくいかなかった」が38.0%、 「上司の業務指示が不明確、リーダーシップがなかった」が37.4%でした。

ここから見えてくるのは、 介護人材の定着が職員個人の「頑張り」だけでは決まらないということです。

管理者やリーダーのコミュニケーション、 業務指示の明確さ、相談できる関係、チームの文化なども、 「この職場で働き続けられるか」を左右する重要な要素になり得ます。

人材不足対策を「求人を出すこと」だけに限定すると、 採用した後の職場環境という重要な部分が見えなくなります。 採用は入口であり、定着は組織の日常そのものと考える必要があります。

介護職員は2026年度約240万人、2040年度約272万人が必要

介護人材不足を考えるうえでは、もう一つ大きな視点があります。 それが、今後必要となる介護職員数そのものの増加です。

厚生労働省が第9期介護保険事業計画に基づいて集計した推計では、 必要な介護職員数は2026年度に約240万人2040年度には約272万人とされています。

2022年度の約215万人を基準とすると、 2026年度には約25万人、2040年度には約57万人の増加が必要になる計算です。

2026年度 必要数 約240万人 2022年度比 約25万人増
2040年度 必要数 約272万人 2022年度比 約57万人増

つまり介護人材不足は、 現在働いている人が辞めることだけによって生じているのではなく、 今後必要になる人材数そのものが大きいという構造的な問題も含んでいます。

福祉教育ラボの視点

「人を集める」から、「続けたい人が続けられる職場」へ

介護人材不足という言葉を聞くと、 私たちはまず「どうすれば採用できるか」を考えます。

もちろん、新たな人材を介護分野へ迎えることは不可欠です。 しかし今回の調査から、もう一つ大切な問いが見えてきます。

すでに介護の現場にいて、「この仕事を続けたい」と思っている人を、 私たちは十分に支えられているでしょうか。

人手不足が続けば、一人ひとりの業務負担が増えることがあります。 管理者やリーダーにも余裕がなくなれば、 職員同士で振り返る時間、相談する時間、学ぶ時間、 新人を育てる時間を確保しにくくなることも考えられます。

こうした状況が「続けたいけれど、続けられない」という状態につながる可能性があります。 ただし、今回の調査だけから、この因果関係を直接証明できるわけではありません。 あくまで複数の調査結果から検討すべき重要な仮説です。

01 採用する
02 育てる
03 支える
04 続けられる

人材確保を考えるとき、 「何人採用できたか」だけではなく、 「入職した人が育っているか」 「相談できる職場になっているか」 「専門職として成長できる実感を持てているか」 「この職場なら続けられると感じられているか」 まで見る必要があります。

介護人材確保とは、人を集める活動だけではありません。 採用、教育、マネジメント、業務改善、キャリア形成をつなぎ、 人が育ち、働き続けられる組織をつくること。 今回の最新調査は、人材不足対策をそこまで広げて考える必要性を示しているのではないでしょうか。

介護人材不足についてよくある疑問

介護職の人手不足はどのくらい深刻ですか?

令和7年度介護労働実態調査では、従業員が「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した事業所は全国で65.8%でした。 訪問介護員では82.9%となっており、特に高い不足感が確認されています。

介護職の離職率はどのくらいですか?

令和7年度介護労働実態調査では、訪問介護員と介護職員を合わせた2職種の離職率は12.4%でした。 一方、29歳以下では17.3%となっており、若年層の定着は重要な課題です。

介護職は本当に「辞めたい人」が多いのでしょうか?

必ずしも「介護そのものを辞めたい」とは限りません。 奈良県調査では69.7%が今の職場で続けたい、12.5%が別の職場でも介護を続けたいと回答しています。 「介護を辞めること」と「職場を変えること」は分けて考える必要があります。

介護職の定着には何が効果的ですか?

全国調査では、実施している施策のうち職場定着に効果があったとする割合が最も高かったのは、 「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」で57.9%でした。 人間関係が良好な職場づくりも重要な施策として挙げられています。

今後、介護職員は何人必要になりますか?

厚生労働省の推計では、介護職員は2026年度に約240万人、2040年度に約272万人が必要とされています。 そのため、離職防止だけでなく、新規参入、育成、定着、生産性向上などを組み合わせた人材確保が必要になります。

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一次資料・参考資料

※奈良県調査と全国の介護労働実態調査では、調査対象・質問文・回答選択肢等が異なります。 本記事では、異なる調査の割合を単純比較せず、それぞれの調査から確認できる傾向を整理しています。 また、調査結果から直接確認できない因果関係については断定せず、介護人材確保を考えるための論点として記載しています。