介護職員は2040年に272万人必要|人手不足を「人数」だけで考えてはいけない理由
「2040年度には、介護職員が約272万人必要になる」。
2022年度の介護職員数は約215万人。 そこから考えると、2040年度までに約57万人増やす必要があります。
そう聞くと、 「あと57万人採用すればよいのか」 と思うかもしれません。
しかし、介護現場を取り巻く数字を重ねると、問題はそれほど単純ではありません。
介護職員の離職率は、この10年ほどで低下しています。 それでも、人手不足を感じる事業所は多いままです。
建物やベッドがあっても、人員を確保できず、利用者の受入れを制限する施設があります。 そして人手が不足すれば、採用だけでなく、研修やOJT、人を育てる時間にも影響します。
2040年に向けて考えたいのは、 「何人集めるか」 だけではありません。
入ってきた人が育ち、専門性を積み重ね、働き続け、その力が必要な人の暮らしへ届く。
今回は「272万人」という数字を入口に、介護人材問題を少し広い視点から整理します。
2040年の介護人材問題は、「あと57万人採用する」という人数の問題だけなのでしょうか。
そもそも「2040年度に272万人」とは何の数字なのでしょうか
厚生労働省が2024年7月に公表した推計では、介護職員の必要数は次のようになっています。
2040年度の約272万人は、2022年度の約215万人と比べて約57万人多い数字です。
ただし、この272万人は単純な人口推計から国が決めた「目標人数」ではありません。
第9期介護保険事業計画に盛り込まれた介護サービスの見込み量等をもとに、 都道府県が必要となる介護職員数を推計し、それを全国で集計したものです。
約57万人は、2022年度の介護職員数約215万人と、2040年度の必要数約272万人との差です。 現時点で57万人分の求人枠が埋まっていないという意味ではありません。
必要数は増える一方、実際の介護職員数はほぼ増えていない
では、足元の介護職員数はどうなっているのでしょうか。
約212.6万人。前年から約2.9万人減少し、介護保険制度創設後、初めて減少に転じました。
2,126,227人。前年から増えたのは487人で、ほぼ横ばいの状態です。
つまり、
もちろん、2040年度の必要数と2024年の実績を単純に引き算して 「現在約60万人不足している」 とするのも適切ではありません。
それでも、介護サービス需要の伸びに対し、人材の増加が追いついていないことは重要な現状です。
「介護は辞める人が多いから足りない」は、今も正しいのでしょうか
介護人材不足について、 「介護は離職率が高いから人が足りない」 と説明されることがあります。
しかし、離職率の長期推移を見ると、そのイメージだけでは現在の状況を説明しにくくなっています。
介護労働安定センターの令和7年度介護労働実態調査では、 訪問介護員・介護職員を合わせた2職種計の離職率は12.4%。 採用率は14.6%でした。
2014年度の16.5%から比べると、離職率は4.1ポイント低下しています。
また、離職率が10%未満の事業所は54.3%でした。
介護労働実態調査と厚生労働省「雇用動向調査」は調査設計が異なるため単純比較はできません。 そのうえで、介護労働安定センターは、直近の介護職の離職率が全産業より低い水準で推移していると整理しています。
つまり、 「介護業界全体で人が次々辞めていくから、人が足りない」 という説明だけでは現在の介護人材問題を捉えきれません。
離職率は下がった。それでも65.8%の事業所が「人が足りない」
離職率は以前より改善しています。
それでも、介護現場では強い不足感が続いています。
ここから、人材問題を見る問いは、
「どうすれば辞めないか」
だけではなく、
「どうすれば介護へ入ってくれるのか」 「一度離れた人が戻れるのか」 「必要な場所へ人材を配置できるのか」
へ広げる必要があります。
また、29歳以下の離職率は17.3%で、他の年齢層より高くなっています。 業界平均の離職率が改善した一方、若年層の定着にはなお課題があります。
介護サービスの受け皿は、多様な主体が担っている
現在の介護サービスは、社会福祉法人や医療法人だけでなく、株式会社など多様な主体によって提供されています。
2024年の介護サービス施設・事業所調査では、営利法人が経営する割合は次のようになっています。
一方、特別養護老人ホームなどは社会福祉法人が中心であり、サービスによって事業主体の構成は大きく異なります。
重要なのは、受け皿となる法人や建物を整備することだけではありません。
そこで働く人が確保できなければ、サービスは実際には動かないからです。
建物があっても、人がいなければ介護サービスにはならない
介護施設には建物があります。
居室があります。 ベッドがあります。 指定された定員があります。
しかし、それだけで利用者を受け入れることはできません。
必要な職員を配置し、実際にケアを提供できて初めて、介護の受け皿として機能します。
WAMが2025年度に行った特別養護老人ホーム調査では、回答した935施設のうち64.0%が、 直接処遇職員について「不足している」と回答しました。
不足している施設の平均不足人数は5.5人でした。
さらに、直接処遇職員が不足している598施設のうち13.7%では、 人員不足を理由とした利用者の受入れ制限が行われていました。
「全国の特養の13.7%」ではありません。 WAM調査に回答した935施設のうち、直接処遇職員が不足していると回答した598施設を母数とした数字です。
また、この調査はWAMの融資先等を対象としたアンケートであり、全国の特養を無作為抽出した統計ではありません。
それでも、人材不足によって施設機能を十分に使えないケースが実際に存在することは確認できます。
人手不足施設の対応を見ると、 求人活動96.5%、業務内容の見直し・効率化59.9%に加え、 52.7%が時間外労働を増やして対応していました。
さらに8.4%は事業縮小・廃止を検討中と回答しています。
2040年に向けては、 「何床整備したか」 だけではなく、 「実際に何床を動かせるか」 という実効的な供給力を見る必要があります。
多様な人を採用すれば、それで解決するのでしょうか
介護人材の入口を広げることは必要です。
若年人口が減るなかで、新卒だけで介護人材を確保することは難しくなります。
他産業からの転職者。 子育てを終えた人。 高齢者。 潜在介護福祉士。 介護助手。 外国人介護人材。
多様な人が介護へ関われる仕組みが必要です。
ただし、入口を広げることと、人材が育つことは同じではありません。
採用、復職、他産業からの参入、外国人材、多様な働き方など、介護へ入る入口を増やす。
OJT、資格取得、研修、キャリア形成、リーダー育成を通して専門性を積み重ねる。
2040年の人材問題は、 「確保」 だけでなく、 「育成」 まで含めて考える必要があります。
「人が足りない」の次に、育てる時間まで足りなくなる
人手が足りなければ、まず今日のサービスを止めないことが優先されます。
食事、排泄、入浴、移動、記録、夜勤、利用者への対応。
日々必要な仕事は待ってくれません。
そのとき、後回しになりやすいものがあります。
研修、OJT、事例検討、振り返り、新人への指導、リーダー育成です。
令和5年度介護労働実態調査では、事業所が運営上の課題として、 「良質な人材の確保が難しい」52.4%、 「書類作成が煩雑で時間に追われている」38.0%、 「教育・研修の時間が十分に取れない」28.7%を挙げています。
「介護従事者の知識や技術が不足している」は16.0%、 「管理者の指導・管理能力が不足している」は12.5%でした。
さらに、より新しい令和6年度調査では、訪問介護のサービス提供責任者について、 60.3%の事業所が「担当業務に専念できる時間が足りない」、 30.8%が「訪問介護員の指導・研修のための時間が確保できていない」と回答しています。
人材不足は、単に「今日働く人数」の問題ではありません。
組織が、明日の介護を担う人を育てる力にも影響し得ます。
では、「介護職員の質が低下している」と言えるのでしょうか
ここは慎重に考える必要があります。
「最近、介護職員の質が落ちている」 ということを全国の客観的な経年データとして直接示す統計は確認できません。
そのため、 「人手不足によって介護職員の質が低下した」 と断定することは適切ではありません。
令和7年度介護労働実態調査では、過去1年間に採用を行った事業所のうち、 「人数・質ともに確保できていない」が30.6%、 「質には満足だが、人数は確保できていない」が27.6%でした。
施設系(入所型)では、 「人数・質ともに確保できていない」が42.0%でした。
ただし、ここでいう「質」は事業所が採用人材を評価した主観的な回答であり、 利用者の生活の質、事故、ADL、第三者評価等によって客観的に測定したサービス品質ではありません。
ここで問いたいのは、介護職員個人を責めることではありません。
研修に参加できるか。
新人を教える人がいるか。
支援を振り返る時間があるか。
管理者がマネジメントを行えるか。
資格取得やキャリア形成を組織として支援できるか。
介護の質は、一人の職員の「頑張り」だけでつくられるものではありません。
人を育て、専門性を積み上げる組織の仕組みもまた、介護の質を支える基盤です。
介護報酬制度から見える「272万人の中身」
介護報酬制度にも、 「人が何人いるかだけではない」 という考え方を見ることができます。
その一例が、サービス提供体制強化加算です。
または、勤続10年以上の介護福祉士25%以上などが加算(Ⅰ)の人材要件となります。
または、勤続10年以上の介護福祉士35%以上などが最上位区分の人材要件です。
さらに、小規模多機能や看護小規模多機能の加算(Ⅰ)では、 職員ごとの研修計画や定期的な会議なども要件に含まれます。
つまり、制度そのものが、
資格。 経験。 定着。 研修。 組織内の情報共有。
を、安定したサービス提供体制を構成する要素として評価しています。
直近の介護給付費分科会資料では、小規模多機能型居宅介護における サービス提供体制強化加算(Ⅰ)の事業所ベース算定率は30.8%でした。
加算の算定状況だけで介護サービスの質を測ることはできません。 サービス種別、他加算との関係、人員構成、届出状況、経営判断なども影響します。
とくに特養では、日常生活継続支援加算とサービス提供体制強化加算は同時算定できません。
ここで重要なのは、加算取得率の高低そのものではありません。
国の制度も、 「人数」 だけではなく、 「資格や経験が組織の中に蓄積されていること」 を評価しているという点です。
2040年に272万人が確保できたとしても、その全員が入職したばかりであれば、 現在と同じサービス提供体制にはなりません。
新人を支える中堅。 介護福祉士。 経験を積んだ職員。 リーダー。 管理者。 人を育てる人。
必要なのは、272万人という「頭数」だけではなく、272万人の「人材構成」です。
生産性向上は「少ない人数で、もっと多く介護すること」ではない
人材不足が進むと、 「ICTを入れればよい」 「AIで効率化すればよい」 という議論も出てきます。
テクノロジーは重要です。
ただし、介護分野でいう生産性向上の目的を誤解しないことも大切です。
厚生労働省は介護業務を「直接的なケア」と「間接的業務」に分け、 生産性向上を「質の向上」と「量的な効率化」の両面から整理しています。
そして、効率化によって生み出した時間や人の余裕を、 研修やOJTなどの人材育成へ振り分ける考え方も明示しています。
二重入力、転記、非効率な情報共有、移動負担、事務処理、ムリ・ムダのある作業。
本人との対話、観察、意思確認、アセスメント、支援の振り返り、職員間の対話、OJT、人材育成。
生産性向上は、 「介護を速くすること」 だけではありません。
人が担う価値の高い仕事へ、人の時間を戻していくこと。
そこまで含めて考える必要があります。
全国で272万人そろえば、介護人材問題は解決するのでしょうか
もう一つ重要なのが「配置」です。
全国合計で272万人を確保できても、 必要な地域に、必要な職種が、必要な人数配置されなければ、サービスは届きません。
国の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ」では、 地域を主に3つに分けて考えています。
2040年には、85歳以上で医療と介護の複合ニーズを持つ人、認知症高齢者、独居高齢者の増加も見込まれています。
問題は全国平均の人数だけではありません。
「どこに」 「どのサービスが」 「どの程度必要なのか」
を地域ごとに考える必要があります。
- 272万人は、将来の介護サービス見込み量から算出された「必要数」である。
- 約57万人は2022年度実績との差であり、現在57万人分の求人が空いているという意味ではない。
- 介護職員の離職率は長期的には改善しているが、人手不足感はなお強い。
- 建物やベッドがあっても、職員がいなければ実際のサービス供給量は増えない。
- 採用だけでなく、研修・OJT・リーダー育成など「人を育てる仕組み」が必要である。
- 「介護職員の質が低下した」と直接示す全国データはなく、職員個人の責任へ単純化すべきではない。
- 介護報酬制度も、資格・経験・研修など人材の「中身」をサービス提供体制の一部として評価している。
- 生産性向上は、人を減らすことではなく、人が担う価値の高い仕事へ時間を戻すための取組でもある。
- 全国合計の人数だけでなく、地域・サービス種別ごとの配置が重要になる。
支える人の暮らしも、支えられる人の暮らしも
介護人材について語るとき、
215万人。 240万人。 272万人。 57万人。
どうしても「人数」が中心になります。
制度を考えるうえで、数字を知ることはとても大切です。
けれど、その数字の一人ひとりにも暮らしがあります。
介護を必要とする人には、 これまで歩んできた生活があり、 大切にしてきたことがあり、 これからも続けたい暮らしがあります。
同じように、その暮らしを支える人にも、 家族があり、 自分の生活があり、 学びたいことがあり、 専門職として成長していく時間があります。
人が入る。
人が育つ。
誰かを育てられる人になる。
専門性を生かしながら、働き続けられる。
その力が、一人ひとりの暮らしへ届いていく。
利用者の暮らしを守るために、支援する人の生活を犠牲にする。
支援する人を守るために、本人と向き合う時間を削り続ける。
そのどちらも、長く続けられる介護の姿ではないはずです。
だから、2040年の介護人材問題を 「272万人をどう集めるか」 だけで終わらせない。
支える人も、支えられる人も、それぞれの暮らしを大切にできる介護をどうつくるのか。
「272万人」という数字は、介護を担う人の数だけではなく、 これからの介護をどのようなものにしていくのかを、私たちに問いかけている数字なのだと思います。


