医療的ケア児等支援の施行令案を公表|地域協議会・コーディネーターなど2027年施行への動きを解説
支援を「地域の仕組み」にできるか
2027年4月の改正法施行に向けて、施行令案と基本指針改正案が示され、 現在はいずれもパブリックコメント中です。 今回注目したいのは、支援対象が広がることだけではありません。 一人ひとりの困りごとを、地域の課題、計画、サービス、人材へどうつなげるのか。 制度は「地域で実際に支援が届く仕組み」を具体化する段階へ進んでいます。
法律改正は成立・公布済みです。 改正法は2027年4月1日に施行され、成人期の医療的ケア者や 重症心身障害者等にも支援対象が広がります。
施行令案は2026年8月25日から9月24日12時まで、 基本指針改正案は8月26日から9月24日23時59分まで意見募集中です。 いずれも現時点では最終的な政令・告示ではありません。
8月25日・26日、施行令案と基本指針改正案がパブリックコメントへ
こども家庭庁は2026年8月25日、 「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律施行令案」 について、e-Govで意見募集を開始しました。 受付期限は9月24日12時です。
さらに厚生労働省は翌8月26日、 「障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の円滑な実施を確保するための 基本的な指針の一部を改正する件(案)」についてパブリックコメントを開始しました。 こちらの受付期限は9月24日23時59分です。
どちらも現時点では「案」です。 改正法の施行に向け、政令と基本指針の両面から、 地域支援体制を具体化している段階と考える必要があります。
一方、改正法そのものは2026年7月31日に公布され、 2027年4月1日の施行が決まっています。 基本理念には、18歳に達した後も切れ目なく必要な保健医療・福祉サービスを受けながら、 希望する地域で日常生活・社会生活を営めるようにすること(福祉のことば:地域生活) などが位置付けられました。
今回の本当のポイントは「対象拡大」だけではない
8月19日に厚生労働省の社会保障審議会障害者部会などへ示された資料を見ると、 今回の制度整備の意味がよりはっきり見えてきます。
支援対象を子どもから成人期まで広げるだけでは、 本人が地域で暮らせるようになるわけではありません。
相談できる
医療的ケア児等支援センターやコーディネーターが、 本人・家族から相談を受け、必要な支援を調整します。
地域課題として共有する
個別相談から見えた不足や課題を、地域協議会や関係機関の協議の場で共有します。
必要量を計画に反映する
地域のニーズを把握し、生活介護や短期入所など、 必要なサービスの利用見込みにつなげます。
地域資源をつくる
コーディネーターには、既存サービスをつなぐだけでなく、 地域課題を整理し、地域資源の開発や改善につなげる役割も示されています。
「相談窓口」から、地域を動かす仕組みへ
基本指針改正案では、 医療的ケア児等支援センターに配置されるコーディネーターについて、 個別の相談支援にとどまらず、 医療的ケア児等支援地域協議会へ参画し、 地域課題の整理や地域資源の開発を行いながら、 地域づくりを推進する役割が示されています。
市町村のコーディネーターについても、 保健、医療、障害福祉、保育、教育など多分野の支援を調整するとともに、 協議の場へ参加して地域課題を整理することが求められています。
相談
把握
共有・協議
反映
整備
ここが今回の制度整備を見るうえで重要です。 「相談を受けられる場所をつくる」だけではなく、 相談から見えてきた地域の不足を、 地域全体の支援体制を改善する情報へ変えていく ことが求められています。
新しい「医療的ケア児等支援地域協議会」
改正法では「医療的ケア児等支援地域協議会」が新たに位置付けられました。
基本指針改正案では、本人・家族の経験や意思を出発点に考える「当事者主体」の視点も踏まえ、本人や家族、学識経験者、 保健所、医療機関、訪問看護、障害福祉、相談支援、 保育所、学校などの関係者が地域の課題を共有し、 地域の実情に応じた支援体制について協議することが示されています。
また、学齢期から成人期へ支援が円滑に引き継がれるよう、 移行支援について協議する必要性も明記されています。
地域協議会を法律上位置付けることは改正法で決まっています。 一方、この記事で紹介している具体的な成果目標や運用の考え方は、 2026年8月19日の障害者部会資料をもとにした基本指針改正案で、 8月26日からパブリックコメント中です。最終的な告示内容とは分けて確認する必要があります。
令和11年度末までに、地域の体制をどう整えるか
基本指針改正案では、 令和11年度末(2030年3月末)まで の成果目標も示されています。
- 各都道府県で医療的ケア児等支援地域協議会を設置することを基本とする
- 協議会に医療的ケア児等支援センターが参画する
- 支援センターに総合調整を担うコーディネーターを配置する
- 各市町村でも保健・医療・障害福祉・保育・教育等の協議の場を設ける
- 市町村にも医療的ケア児等に関するコーディネーターを配置することを基本とする
- 市町村単独で難しい場合は、都道府県が関与して圏域単位で整備することも想定する
つまり、制度上の「センター」だけを整えるのではなく、 地域の中で支援を調整する人と、 地域課題を協議する場を組み合わせていく方向です。
サービスは「何人分あるか」だけでは足りない
今回の基本指針改正案で、福祉教育ラボとして特に注目したいのが、 障害福祉計画におけるサービス量の見込み方です。
生活介護や短期入所などについて、 全体の利用者数だけでなく、 医療的ケア者等の重度障害者についても 個別に利用者数の見込みを設定するよう努める方向が示されています。
100人分ある」
受け入れられる場所はあるか」
地域全体として定員が足りていても、 医療的ケアに対応できる事業所がなければ、 その人にとっては「使えるサービスがない」ことになります。
法律で「18歳以降も切れ目なく支援する」と定めるだけでは、 本人が実際に利用できる場所は生まれません。
必要としている人を把握し、 地域の需要として可視化し、 事業所、人材、サービスの整備へつなげる。 今回の基本指針改正案には、 その接続をより明確にしようとする方向が見えます。
人材育成も「地域の仕組み」の一部
支援サービスを整えても、それを担える人材がいなければ利用はできません。
基本指針改正案では、 相談支援専門員向けの研修について、 重症心身障害児者や医療的ケア児等の特性に応じた支援を 十分理解できる内容とすることの重要性が示されています。
また、医療的ケア児等への支援体制を充実させるため、 喀痰吸引等を行うことができる人材の育成に努めることも示されています。
制度、相談、計画、事業所、人材。 これらを別々に見るのではなく、 本人の地域生活を実現する一つの仕組みとして考える必要があります。
現場で確認しておきたいこと
- 自分の地域の医療的ケア児支援センターは、 2027年度以降どのような役割を担う予定なのか
- 児童期から成人期への移行を、誰が調整するのか
- 本人・家族の声が、地域の協議の場へ届く仕組みになっているか
- 医療的ケアに対応できる生活介護、短期入所、共同生活援助などが 実際に地域にあるか
- 相談支援専門員や介護従事者など、 必要な人材をどう育成・確保していくのか
- 災害時の個別避難計画、電源、医療情報などを 誰がどのようにつなぐのか
福祉教育ラボの視点|一人の困りごとを、その家族だけの問題で終わらせない
たとえば、一人の家族から 「18歳を過ぎたら通える場所がありません」 という相談があったとします。
目の前の本人と家族に使えるサービスを探すことは、 もちろん大切な支援です。
けれど、同じことに困っている人が地域に何人もいるのであれば、 それは一つの家庭だけの問題ではありません。
「この地域には、医療的ケアに対応できる生活介護が足りないのではないか」 「成人期へ移行するときに支援が途切れる構造があるのではないか」 と、地域の側を問い直す必要があります。
個別支援から見えてきた困りごとを、 地域課題として共有し、 計画へつなぎ、 必要なサービスや人材を育てていく。 これは、一人の困りごとを制度や地域へ働きかける アドボカシー の視点ともつながります。
支援センターや地域協議会の価値も、 「相談を何件受けたか」だけでは測れないでしょう。
相談によって見えてきた 「この地域にないもの」 を見つけ、地域の仕組みを少しずつ変えていけるか。
法律に書かれた「希望する地域で暮らす」という理念が、 本人の実際の生活へ届くかどうか。 今回の制度整備で、本当に問われているのはそこだと考えます。
この記事とつながる「ふくしのことば」
今回の制度改正を、制度名だけで終わらせずに考えるためのことばです。 気になることばから、背景や関連する概念へ学びを広げられます。
本人や家族の経験・意思・希望を、 地域の支援や仕組みを考える出発点にするとはどういうことか。
ことばをひらく → 福祉のことば アドボカシー一人の困りごとを個人だけの問題として終わらせず、 制度や地域へ働きかける視点につながります。
ことばをひらく → 福祉のことば 意思決定支援「どこで、どのように暮らしたいか」という本人の意思を、 実際の生活の選択につなぐための支援を考えます。
ことばをひらく → 福祉のことば 地域生活必要な支援を受けながら希望する地域で暮らすことと、 そのために必要な社会の条件を考えることばです。
ことばをひらく → 福祉のことば 環境因子本人の状態だけでなく、地域資源、制度、人材、支援体制といった 周囲の環境が生活を促進・阻害するという見方につながります。
ことばをひらく → 福祉のことば 断らない相談支援一つの制度だけで完結しない困りごとを受け止め、 必要な支援や地域の仕組みへつなぐ相談の考え方を確認します。
ことばをひらく →今後の確認点
まず確認したいのは、現在行われている2つのパブリックコメントを経て、 施行令と基本指針が最終的にどのような内容で確定するかです。
施行令案の意見募集は2026年9月24日12時まで、 基本指針改正案は同日23時59分までです。 厚生労働省は基本指針について、 2026年10月告示・2027年4月適用予定としています。
この記事で紹介した地域協議会、コーディネーター配置、 令和11年度末までの成果目標などは、現時点では基本指針改正案の内容です。 最終的な告示内容を確認する必要があります。
そして、より重要になるのは2027年4月以降です。
センターや協議会が設置されたかだけではなく、 生活介護、短期入所、住まい、相談支援、人材確保など、 本人が実際に利用できる地域資源が増えたのか。
さらに、2027年度の障害福祉サービス等報酬改定が、 今回の法改正をどのように具体的なサービス提供へつなげるのかも 継続して確認する必要があります。 福祉教育ラボでは 「2027年度障害福祉報酬改定、4つの主要論点」 で、その後の議論を追っています。
制度が「できたか」だけでなく、 本人や家族の暮らしが「変わったか」まで見ることが大切です。


