介護BCPは「作成」から「実効性」へ|2027年度介護報酬改定の論点を解説
厚生労働省は2026年8月28日、第263回社会保障審議会介護給付費分科会を開催し、2027年度(令和9年度)介護報酬改定に向けて、「災害時等における業務継続の取組の強化等」を議論しました。
介護事業所のBCPは、いま「作成したか」から「災害時に本当に動けるか」という次の段階へ移ろうとしています。
2025年度時点で、厚生労働省は「ほぼすべての介護事業所等」でBCPが策定されていると整理しています。
一方で、近隣法人との連携や災害時の情報共有には課題が残っています。
2027年度介護報酬改定では、BCPを作成しているかだけでなく、行政や他事業所と平時からつながり、災害発生時に必要な支援を継続できる「実効性」をどう高めるかが論点になっています。
そもそも介護BCPとは何のためにあるのか
BCPは、Business Continuity Planの略で、日本語では「業務継続計画」と呼ばれます。
介護サービスは、災害や感染症が発生したからといって、簡単に止められるものではありません。
食事、排泄、服薬、安否確認、訪問、医療との連携、生活支援など、利用者によっては介護サービスが中断すること自体が、生命や暮らしに大きな影響を及ぼします。
厚生労働省は、自然災害や感染症が発生した場合でも必要な介護サービスを安定的・継続的に提供し、仮に一時中断した場合にも早期の業務再開を図るため、BCPの策定が重要だとしています。
防災計画とBCPは同じではない
防災計画とBCPには重なる部分がありますが、目的は完全に同じではありません。
身体・生命の安全確保や、物的被害を減らすことを中心に考えます。
安全確保に加えて、優先すべき重要業務を継続し、中断した業務を早期に復旧することまで考えます。
BCPはすでに「作成する段階」から先へ進んでいる
2021年度介護報酬改定では、災害や感染症が発生しても必要な介護サービスを継続できる体制を構築するため、全介護サービス事業者を対象として、BCPの策定、研修・訓練などが義務づけられました。
3年間の経過措置を経て、2024年4月から義務化されています。
さらに2024年度介護報酬改定では、BCP策定を徹底する観点から「業務継続計画未策定減算」が導入されました。一部サービスには対象外や経過措置があります。
こうした制度対応を経て、厚生労働省は2025年度時点で、ほぼすべての介護事業所等でBCPが策定されていると整理しています。
つまり、次に問われるのは「BCPがありますか」ではありません。
そのBCPが、実際の災害時に機能する状態になっているかです。
課題1|近隣の事業所・法人との連携が十分ではない
災害時には、一つの事業所だけですべてに対応できるとは限りません。
職員が出勤できない、建物や車両が使えない、水や食料が不足する、利用者を別の場所へ移す必要がある。そうした場面では、近隣の介護事業所、法人、行政、地域との連携が重要になります。
ところが、厚労省資料に示された2025年度調査では、近隣の法人や所属団体を通じた協力関係について「十分にできている」「だいたいできている」と回答した割合は、次のとおりでした。
施設系でも、「十分・おおむねできている」とする割合は4割に届いていません。訪問系・通所系では約4分の1にとどまります。
BCPに「他事業所と連携する」と書かれていても、災害が起きてから初めて連絡を取り合うのでは、十分に機能しない可能性があります。
課題2|災害時情報共有システムを「使える状態」にできているか
もう一つの課題が、災害発生時の情報共有です。
対象となる介護施設等では、災害時情報共有システムを通じて被害状況などを入力し、国や自治体が状況を把握する仕組みがあります。
しかし、2,005事業所を対象とした調査では、認知・準備状況に差がみられました。
つまり、システムそのものを知らない事業所が2割あり、知っていても入力方法まで確認できていない事業所が4割を超えています。
入力方法を確認済みでも、運用までできているとは限らない
さらに重要なのはここです。
「システムを知っており、入力方法等を確認している」と回答した775事業所について、実際の運用準備を確認すると、次の結果でした。
システムの存在を知っていることと、災害時に実際に使えることは別です。
誰が入力するのか。いつ入力するのか。担当者が不在なら誰が代わるのか。通信環境が限られる中で、どの端末を使うのか。
そこまで具体化して初めて、情報共有の仕組みは機能します。
2027年度介護報酬改定では何が論点になるのか
厚生労働省は、今回の分科会でBCPをめぐる現状と課題を整理したうえで、今後の検討事項を示しています。
現場では何を確認しておきたいか
2027年度介護報酬改定を待たなくても、自分たちのBCPについて確認できることがあります。
厚生労働省は、BCP作成支援だけでなく、すでに作成したBCPを実際に役立つものにするための「机上訓練」の解説・研修動画も公開しています。
BCPはリスクを「ゼロにする計画」ではない
どれだけ詳細にBCPを作っても、災害時の状況を完全に予測することはできません。
想定した職員が来られないかもしれません。電気は復旧しても水道が止まるかもしれません。計画していた避難先が使えないことも考えられます。
BCPの目的は、すべてのリスクをゼロにすることではありません。
起こり得る危険を考え、準備し、実際に起きた状況の中で優先順位を判断し、限られた人員・物資・時間で必要な支援をつないでいくことにあります。
BCPも、一度完成させて保管する文書ではなく、訓練、振り返り、修正を繰り返しながら実効性を高めていくものとして考える必要があります。
まとめ|「作成済み」の次に問われるもの
- 介護事業所のBCPは、2024年4月から原則として策定・研修・訓練が義務化されています。
- 2025年度時点では、ほぼすべての介護事業所等でBCPが策定されています。
- 一方、近隣法人等との協力関係を「十分・だいたいできている」とする割合は、施設系39.3%、訪問系25.0%、通所系25.8%でした。
- 災害時情報共有システムを知らない事業所は20.0%あり、知っていても入力方法を把握していない事業所は41.4%でした。
- 2027年度介護報酬改定では、BCPの作成そのものから、連携・情報共有を含めた「実効性」へ論点が進んでいます。
BCPは、「あります」と答えられることがゴールではありません。
災害が起きたときに、利用者の生活をどう守るのか。限られた職員で何を優先するのか。一つの事業所だけでは支えられないとき、誰とつながるのか。
そこまで考え、訓練し、実際に動ける状態にしておくことが、これからより重要になります。
BCPという言葉には、「事業継続」という少し経営的な響きがあります。
もちろん、職員を守ること、建物や設備を確保すること、そして事業そのものを継続できる状態をつくることは重要です。
しかし、介護における業務継続を考えるとき、その先には必ず利用者の暮らしがあります。
いつもの訪問介護が来ない。デイサービスが開かない。薬や食事が届かない。排泄を支援する人がいない。家族だけでは介護を続けられない。
介護サービスが止まることは、単に「事業所の業務が止まる」ことではありません。
誰かの日常生活を支えていた仕組みの一部が失われるということでもあります。
だからこそ、BCPの実効性を考えるときには、計画書が正しく作られているかだけでなく、
「その計画によって、誰の、どの生活を、どこまでつなぐことができるのか」
という視点を持ちたいと思います。
災害時には、平時と同じ支援をすべて続けることはできないかもしれません。だからこそ、何を守るのかを平時に考えておく必要があります。
そして、その判断を一つの事業所だけに背負わせず、地域の介護事業所、行政、医療、地域住民などとのつながりの中で支えていく。
BCPを「監査のための書類」から、「暮らしをつなぐ仕組み」へ。
2027年度介護報酬改定の議論が、その実効性をどこまで支える仕組みになるのか、今後も確認していく必要があります。


