2027年度介護報酬改定|老健・介護医療院の多床室「室料負担」はどうなる?見直し論点を解説
2027年度 介護報酬改定
厚生労働省は2026年9月3日、第264回社会保障審議会介護給付費分科会を開催し、 2027年度(令和9年度)介護報酬改定に向けて 「多床室の室料負担」を論点として示しました。 今回の記事では、現在すでに始まっている制度と、 これから議論される内容を分けながら整理します。
老健・介護医療院のすべての多床室で、 2027年度から新たな室料負担が始まると決まったわけではありません。
現在、一部の施設・利用者では2025年8月から 月額約8,000円相当の室料負担が導入されています。 今回の論点は、その対象をさらに見直すのかを含め、 「在宅との負担の公平性」「各施設の役割」「実際の利用状況」を どう考えるかという段階です。
すでに一部では、2025年8月から室料負担が始まっている
今回の議論は、まったく新しい制度を一からつくる話ではありません。
2025年8月から、すでに一部の介護老人保健施設と介護医療院では、 多床室の室料負担が始まっています。
主な対象は、「その他型」「療養型」の介護老人保健施設と、 「Ⅱ型」の介護医療院です。
ただし、施設類型だけで自動的に対象になるわけではありません。 対象となる多床室は、1人当たりの床面積が8㎡以上であることなどの要件があります。 老健の「その他型」「療養型」については、 所定の期間に7か月以上その類型として算定していることも要件となっています。
また、対象サービスには介護老人保健施設・介護医療院だけでなく、 これらの施設で行われる 「(介護予防)短期入所療養介護」も含まれます。
どのような仕組みで負担するのか
現行制度では、対象となる利用者について、 室料相当額として基本報酬から1日26単位を控除し、 居住費の基準費用額を1日260円引き上げます。
厚生労働省は、この金額を「月額8,000円相当」と整理しています。
利用者負担第1~3段階の人については、 補足給付によって利用者負担が増加しない仕組みです。 また、床面積などの要件もあるため、 対象施設の多床室を利用しているすべての人が 一律に月8,000円負担する制度ではありません。
現在、どこまで室料負担の対象になっている?
| 施設 | 現在、対象となる主な類型 | 現行では対象外の主な類型 |
|---|---|---|
| 介護老人保健施設 | その他型・療養型の一部 | 超強化型・在宅強化型・加算型・基本型 |
| 介護医療院 | Ⅱ型の一部 | Ⅰ型 |
※対象となる多床室には1人当たり8㎡以上などの要件があります。 表の「現行では対象外」は、2027年度から対象になることが決まっているという意味ではありません。
財政制度等審議会は、現在対象になっていない類型にも 室料負担を広げる方向を具体的に提案しています。
一方、2026年9月3日の介護給付費分科会で厚生労働省が示した正式な論点は、 「在宅との負担の公平性、各施設の機能や利用実態等を踏まえ、どのように考えるか」 という段階です。
「対象拡大が決まった」のではなく、 まさに今、その是非やあり方を議論しているところです。
実際に室料負担が算定されている割合は?
2025年11月審査分のデータを見ると、 現在の制度がどの程度利用されているのかも分かります。
短期入所療養介護では、日数ベースで、 老健が0.5%、介護医療院が24.4%となっています。
特に老健では、2025年8月に始まった室料負担が、 現時点では全体の一部にとどまっていることが分かります。
「算定率が低いから対象を広げる」と結論づけることはできません。 この数字は、現在の制度の対象が限定されていることを示す実績として、 今後の議論を理解する材料にするのが適切です。
なぜ今、もう一度見直しが議論されているのか
「さらなる見直し」という方向は、 今回突然出てきたものではありません。
つまり今回の議論は、 「財政が厳しくなったから突然負担増が持ち上がった」 というものではありません。
数年間にわたり続いている介護保険制度の見直しの流れの中で、 2027年度介護報酬改定に向けて具体化してきたテーマです。
財政審は、なぜ対象拡大を提案しているのか
2026年6月26日の財政制度等審議会 「人口減少と不確実性の時代における国力の強化と財政運営」では、 施設が制度上どのように位置づけられているかだけでなく、 実際にどのように利用されているかに注目しています。
財政審は、介護医療院について、 家庭への復帰が限定的であり、 実質的に利用者の「生活の場」となっていると指摘しています。
また老健については、 本来は「居宅における生活への復帰」を目指す施設である一方、 平均在所日数が400日を超えていること、 入所当初から「他施設への入所待機」などを目的とする利用者が 約3割いることなどを示しています。
そのうえで財政審は、 2024年度介護報酬改定で室料負担の導入が見送られた類型についても、 多床室の室料相当額を基本サービス費等から除外する見直しを 行うことが考えられるとしています。
「介護医療院は実質的に生活の場となっている」 「現在対象外の類型にも室料負担を広げることが考えられる」 という具体的な主張は、財政制度等審議会の提言です。
厚生労働省が2027年度からの対象拡大を決定したという意味ではありません。
一方で「老健を住まいとして扱ってよいのか」という慎重な意見も
2025年12月25日にまとめられた 社会保障審議会介護保険部会の 「介護保険制度の見直しに関する意見」では、 室料負担のさらなる見直しに慎重な考え方も示されています。
在宅で生活する人は、自ら住居費を負担しています。 施設で長期間生活する場合にも、 居住に相当する費用をどこまで本人負担とするのかという 公平性を考える必要があります。
老健は介護保険法上、単なる「住まい」ではなく、 在宅復帰・在宅療養を支援する役割を持っています。 その施設に住居と同じ考え方で室料を求めてよいのか、 という問題があります。
さらに介護保険部会では、 2025年8月から新たな負担制度が始まったばかりであり、 「財源が厳しいから自己負担を取る」というだけでは 説得力に欠けるとの指摘も示されています。
この問題には、
- 在宅で暮らす人との負担の公平性
- 老健・介護医療院の制度上の役割
- 施設が実際にどのように利用されているか
という3つの視点があります。
どれか一つだけでは、簡単に結論を出せないテーマです。
「長く入所している」だけで、生活の場と考えてよいのか
財政審が示したデータには、 もう一つ注目したい数字があります。
この数字を見ると、 「長期間入所しているから、その人は老健を住まいとして選んでいる」 と単純に考えてよいのか、という別の問いが見えてきます。
特養に空きがない。 自宅へ戻るためのサービスが足りない。 家族が在宅介護を続けることが難しい。 地域に利用できる住まいや支援資源が少ない。
そうした条件によって、 結果として長期入所になっている場合も考えられます。
「実際に長く入所している」という結果と、 「本人が複数の現実的な選択肢から、 そこを生活の場として選んだ」ということは、 必ずしも同じではありません。
現場への影響|相談員・ケアマネ・施設管理者は何を見る?
現時点で、施設が契約や料金設定を変更する必要はありません。
まだ2027年度介護報酬改定に向けた審議中だからです。
ただし、今後対象が拡大された場合には、 次のような確認が必要になる可能性があります。
- 自施設の類型が対象になるのか
- 対象となる多床室の床面積要件
- 基本報酬から控除される室料相当額
- 居住費の基準費用額
- 低所得者に対する補足給付との関係
- 短期入所療養介護への適用
- 料金表、契約書、重要事項説明書への反映
相談員やケアマネジャーにとっても、 介護サービス費だけでなく、 居住費まで含めて利用者・家族へ説明する必要があるテーマです。
今後制度が変われば、 同じ要介護度であっても、 選択する施設や居室によって負担が異なるケースが出る可能性があります。
今後、確認しておきたいポイント
- 現行で対象外となっている類型まで室料負担を広げるのか
- 対象となる施設・利用者をどのように定めるのか
- 現在の1日260円という水準を維持するのか
- 1人当たり8㎡という要件をどう扱うのか
- 低所得者への補足給付をどうするのか
- 老健の「在宅復帰支援」という機能を報酬上どう評価するのか
2027年度介護報酬改定における新たな対象施設、 負担額、算定方法、床面積要件などは、 2026年9月4日時点では決定していません。
まとめ|これは「月8,000円」の話だけではない
多床室の室料負担は、 一見すると「利用者負担を増やすのか」という 金額の議論に見えます。
しかし、その奥には、
- 老健とは何のための施設なのか
- 介護医療院を医療の場と見るのか、生活の場と見るのか
- 在宅と施設の負担をどのように公平にするのか
- 制度上の施設機能と実際の利用実態が異なる場合、何を基準に制度をつくるのか
という、介護保険制度そのものに関わる問いがあります。
2027年度介護報酬改定では、 「月額約8,000円」という数字だけでなく、 制度が老健や介護医療院の役割を どのように捉えようとしているのかにも注目する必要があります。
「公平」は、同じ負担を求めることだけではない
在宅で生活する人は、 自分で家賃や住居費を負担しています。
そう考えれば、 施設で生活する人にも居住に相当する費用を求めるという考え方には、 一つの合理性があります。
しかし、福祉における「公平」は、 全員に同じ金額や同じ条件を当てはめることだけではありません。
今回の資料には、 老健の長期入所者が退所できない理由として、 「特養の入所待ち」38%、 「家族の希望」25%という数字も示されています。
ここから見えてくるのは、 「どこで暮らすか」を本人だけの意思で 自由に選べるとは限らない現実です。
地域に必要なサービスがあるか。 自宅で暮らすための支援があるか。 本人が利用できる住宅や施設に空きがあるか。 家族が支援を続けられる状況にあるか。 経済的に選択可能なのか。
そうした条件によって、 本人が実際に持つことのできる選択肢は変わります。
だからこそ、 「長く入所しているから住まいである」 「在宅の人も住居費を負担しているから同じように負担すべきだ」 という一つの物差しだけでなく、 本人がどのような選択肢を持てていたのかまで 見る必要があります。
制度としての公平性。 利用者一人ひとりから見た公平性。 そして、介護保険という社会全体で支える仕組みの持続可能性。
この三つをどう両立するのか。
多床室の室料負担をめぐる議論は、 「誰が8,000円を払うのか」という話を超えて、 私たちが介護をどこまで社会で支え、 どこからを個人の負担と考えるのかという問いにもつながっています。
福祉教育ラボでは、 2027年度介護報酬改定について、 単位数や自己負担額の変化だけでなく、 その制度変更の背景にある考え方まで追っていきます。
一次資料・関連資料
※本記事は2026年9月4日時点で公表されている資料をもとに整理しています。 2027年度介護報酬改定における新たな対象施設、利用者負担額、 算定要件などは現時点では決定していません。 今後の介護給付費分科会等で具体案が示された場合は、内容を更新して確認する必要があります。


