要介護1・2は総合事業へ移る?|生活援助と2027年介護保険改正の最新議論
2026年9月10日、厚生労働省の第265回社会保障審議会介護給付費分科会で、 2027年度介護報酬改定に向けた 「関係団体等意見交換会①」が開かれました。
この日は、介護系居宅サービスなどに関係する12団体から、 それぞれの現場課題や制度への要望が示されました。
そのうち地域共生ケア全国ネットワークは、 要介護1・2について 「介護給付から総合事業へ一律に移行せず、 現行の介護給付を維持してほしい」と要望しています。
この記事では、 「要介護1・2=軽度者」と単純に考えてよいのか、 国が実際に検討している範囲はどこまでなのか、 そして介護給付と総合事業をどう考えるべきなのかを整理します。
現在、要介護1・2の介護給付を すべて総合事業へ移行することが決定しているわけではありません。
国が正式に検討している論点は、 主に 「軽度者(要介護1・2)への生活援助サービス等に関する給付の在り方」 です。
本記事では、 国の検討事項と関係団体からの要望を分けて整理します。
第265回では12団体から意見|今回の記事はその一論点
第265回介護給付費分科会は、 要介護1・2の総合事業移行だけを議論した会議ではありません。
全国ホームヘルパー協議会、 全国定期巡回・随時対応型訪問介護看護協議会、 日本認知症本人ワーキンググループ、 全国地域包括・在宅介護支援センター協議会、 日本ケアテック協会、 福祉用具関係団体など、 12団体から幅広い意見が出されました。
その一つとして、 地域共生ケア全国ネットワークが 2026年8月31日付で提出した意見書が資料4として示されています。
同ネットワークは、 小規模事業者や関係者が、 介護保険、障害福祉、地域生活支援、住民活動など、 制度や領域を越えて活動するネットワークです。
意見書の要望は4本柱です。
今回の記事では、 このうち1つ目の「要介護1・2と総合事業」を掘り下げます。
最初に結論|要介護1・2の総合事業移行は決まっていない
要介護1・2の生活援助サービス等について、 今後も介護給付として提供するのか、 総合事業など地域の仕組みへ移していくのか。
これは以前から続いている政策課題です。
2023年12月22日に閣議決定された 「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋」では、 軽度者、つまり要介護1・2の生活援助サービス等について、 総合事業の評価・分析、市町村の意向、 利用者への影響などを踏まえて検討する方針が示されました。
その後も介護保険部会で議論が続き、 2025年12月25日にまとめられた 「介護保険制度の見直しに関する意見」では、 直ちに移行を決定するのではなく、 必要なデータを収集・分析しながら、 市町村の意向や利用者への影響なども踏まえて 「引き続き、包括的に検討」 すると整理されています。
要介護1・2の人が一律に総合事業へ移ることは決まっていません。
要介護1・2の生活援助が、 一律に介護給付から外れることも決まっていません。
今回の資料4は、 継続中の政策議論に対する 「一つの関係団体からの要望」です。
なぜ「生活援助サービス等」の見直しが議論されているのか
背景には、 介護保険制度を取り巻く人口構造の変化があります。
介護を必要とする高齢者が増える一方で、 介護の担い手となる生産年齢人口は減少していきます。
厚生労働省が2024年7月に公表した 第9期介護保険事業計画に基づく推計では、 介護職員の必要数は次のように示されています。
こうした中で、 「限られた介護専門職を、 より専門的な支援が必要な人へ重点的に配置できないか」 という考え方が出てきます。
介護保険部会では、 制度の持続可能性や人材不足の観点から、 給付の重点化・効率化を進める必要があるという意見も示されています。
たとえば、 要介護1の生活援助から段階的に見直すことも考えられるのではないか、 という意見もあります。
「総合事業への移行=サービス削減」とだけ考えると、 人材不足や制度の持続可能性という国側の問題意識が見えなくなります。
反対に、 「人材が足りないから軽度者は地域へ」 とだけ整理すると、 実際の生活上の困難を取りこぼす可能性があります。
要支援1・2では、すでに訪問・通所が総合事業へ移っている
今回の議論には前史があります。
2014年の介護保険法改正によって、 要支援1・2の人が利用していた 介護予防訪問介護と介護予防通所介護は、 全国一律の個別給付から、 市町村が実施する 「介護予防・日常生活支援総合事業」へ移行しました。
総合事業では、 介護事業者だけでなく、 NPO、民間企業、ボランティア、住民主体の活動など、 多様な地域資源を組み合わせることが想定されています。
総合事業そのものは、 単純に「介護サービスを減らすための仕組み」ではありません。
今回、介護給付の維持を求めた地域共生ケア全国ネットワーク自身も、 総合事業を 「地域の多様な主体が参画し、 地域特性を生かした介護予防・生活支援を進める重要な仕組み」 と評価しています。
要介護1・2を「軽度者」と呼ぶことの難しさ
政策資料では、 要介護1・2の人を「軽度者」と表現することがあります。
制度上の区分としては分かりやすい言葉です。
しかし今回の意見書では、 要介護度の数字だけでは表しきれない生活上の困難があると指摘しています。
- 認知症がある
- 一人暮らしをしている
- 老老介護となっている
- 身寄りや頼れる家族がいない
- 服薬管理に支援が必要
- 栄養・衛生・安全の維持に支援が必要
要介護度は「暮らしの困難度」そのものではない
要介護認定では、 認定調査などをもとに、 どの程度の介護の手間が必要になると見込まれるかを 「要介護認定等基準時間」として推計します。
その中には、 直接生活介助、 間接生活介助、 BPSD関連行為、 機能訓練関連行為、 医療関連行為などが含まれます。
BPSDも認定の仕組みの中に含まれています。
しかし、 要介護認定等基準時間は、 家庭で実際に介護している時間そのものではありません。
あくまで全国共通の基準で介護の必要度を判断するための 「ものさし」です。
そのため同じ要介護1であっても、 認知症の状態、 独居かどうか、 家族の支援状況、 住環境、 地域とのつながりなどによって、 実際の暮らしの難しさは異なります。
国の論点は、要介護1・2の「すべてのサービス」ではない
要介護1・2の人が利用する介護サービスには、 訪問介護、通所介護、福祉用具、短期入所など、 さまざまなサービスがあります。
現在の国の正式な政策論点は、 「軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方」 です。
要介護1・2が利用するすべての介護給付を 総合事業へ移すことが正式に決まっているわけではありません。
また、 要介護1・2のすべての人が 訪問介護の生活援助を利用しているわけでもありません。
何が検討対象なのか。 誰に影響する可能性があるのか。 どこまで決まっているのか。
この3つを分けて確認する必要があります。
生活援助は「家事を代わりにするだけ」なのか
今回の意見書では、 専門職による見守りや生活援助が継続して提供されることで、 服薬、栄養、衛生、安全などが保たれ、 在宅生活を維持できている場合があるとしています。
訪問介護員が掃除をする。 買い物を支援する。 調理をする。
行為だけを見れば「家事」に見えます。
しかし介護職は、 その行為だけをしているとは限りません。
たとえば現場では、 食事量の変化、 服薬状況、 住環境の変化、 本人の動作、 表情や会話、 生活リズムなどに気づくことがあります。
必要があれば、 ケアマネジャーや医療職、家族などにつなぎます。
※これらの具体例すべてが地域共生ケア全国ネットワークの意見書に記載されているわけではありません。 意見書が示す「服薬・栄養・衛生・安全を支える専門職の機能」を、 現場実践に置き換えて整理した例です。
掃除という行為だけを見れば、 専門職でなくてもできるように見えることがあります。
しかし、 その支援を通じて生活の変化を捉え、 必要な支援へつなぐ機能まで含めると、 生活援助の意味は変わります。
だからといって、すべてを専門職だけで担い続けられるとも限らない
一方で、 これから介護を必要とする人が増え、 担い手が減っていくのであれば、 すべての生活支援を介護専門職だけで担い続けることは 難しくなる可能性があります。
そこで、
- 専門職が担うべき支援
- 地域住民やNPOでも担える支援
- 民間サービスを活用できる部分
- 専門職が後方支援すれば地域で担える部分
を整理していく考え方が出てきます。
これは、 地域住民に専門職の仕事を丸投げするという意味ではありません。
本来の問いは、 「介護給付か、総合事業か」という二択だけではなく、
「誰が、何を、どこまで担い、どうつながるのか」
という支援体制全体の設計です。
総合事業には「地域に合わせられる強み」と「地域差」がある
総合事業は、 市町村が中心となって地域の実情に合わせて運営します。
地域の住民活動やNPO、 民間事業者などを生かせることは大きな強みです。
一方で、 財源、担い手、サービス内容、報酬単価、運用方法などは、 地域によって異なります。
厚生労働省の資料では、 従前相当サービス以外の 多様なサービス・活動を実施している市町村は、
です。
「制度として用意されていること」と、 「自分の住む地域で実際に利用できること」は、 同じではありません。
団体が懸念する「サービス切れ」
地域共生ケア全国ネットワークは、 一律移行によって必要なサービス量や専門性が確保されず、 支援が途切れる「サービス切れ」が起きることを懸念しています。
報酬水準が下がる。
事業者が採算を確保できなくなる。
事業者が撤退する。
その結果、 本人が必要な支援を利用できなくなる。
そうした連鎖です。
同ネットワークは、
- 要介護1・2を一律に総合事業へ移行しないこと
- 必要な人が必要な介護サービスを継続して利用できる仕組みを確保すること
- 総合事業を単なる報酬抑制の受け皿にしないこと
- 適正な報酬水準・財源を確保し、自治体間格差を縮小すること
を求めています。
ただし、 これらは同ネットワークから提出された意見です。
厚生労働省が採用・決定した制度変更ではありません。
「制度を守るために人がいるのではなく、人の暮らしを守るために制度があります」
地域共生ケア全国ネットワーク「令和9年度介護報酬改定に向けた意見」国の議論には「慎重論」と「見直し論」の両方がある
今回の団体要望だけで、 政策議論全体を理解することはできません。
2025年12月の介護保険部会では、 慎重論と見直しを進める立場の両方から意見が出ています。
慎重な立場からの主な論点
- 要介護1・2には認知症の人も多く、専門的な対応が必要な場合がある
- 総合事業の実施状況には地域差がある
- 受け皿や効果を十分に確認してから検討すべき
見直しを進める立場からの主な論点
- 今後の介護需要と人材不足を踏まえ、給付の重点化・効率化が必要
- 介護専門職を、より専門性を必要とする支援へ重点配置する必要がある
- 要介護1の生活援助から段階的に見直す考え方もある
介護保険部会の最終的な整理は、 どちらか一方をすぐ採用するものではありませんでした。
総合事業の受け皿、 専門職の役割、 地域の支え合いとの連携、 市町村の意向、 利用者への影響などを確認しながら、 引き続き包括的に検討するとしています。
「全国一律の公平性」と「地域の柔軟性」をどう両立するのか
介護給付には、 全国共通の制度として一定の基準や報酬があります。
一方、 総合事業には地域の事情に合わせて 支援をつくれる強みがあります。
全国一律にしすぎれば、 地域の柔軟性を失うことがあります。
地域に委ねすぎれば、 住んでいる市町村によって受けられる支援が大きく異なる可能性があります。
「介護給付を守るか、総合事業を広げるか」 だけではありません。
全国どこに住んでいても必要な支援へつながれる 公平性と、 地域資源を生かせる 柔軟性を、 どう両立するのかという問題です。
同じ意見書には、ほかにも3つの要望がある
今回の記事では要介護1・2を中心に扱いましたが、 地域共生ケア全国ネットワークの意見書には、 ほかにも3つの要望があります。
共生型サービスの手続き簡素化
介護保険と障害福祉をまたいでサービスを提供する場合、 申請先、書類、審査、請求、研修などが重複する課題があるとして、 窓口の一本化や簡素化を求めています。
訪問介護の基本報酬引上げ
一時的な加算ではなく、 訪問介護を継続できるよう基本報酬そのものの引上げを求めています。
制度・加算・運営基準の簡素化
複雑化した加算や基準への対応が 現場の大きな負担となっているとして、 制度の簡素化を求めています。
一見すると別々の要望ですが、 根底には 「制度へ現場や本人を合わせることが目的になっていないか」 という問題意識があります。
2027年度に向けて確認したいポイント
- 具体的にどの生活援助サービス等が見直し対象となるのか
- 要介護1だけなのか、要介護2も含むのか
- 専門職が担う部分と地域の多様な主体が担う部分をどう分けるのか
- 認知症・独居・家族支援が乏しい人への支援をどう確保するのか
- 総合事業の自治体間格差をどう縮小するのか
- 事業者がサービスを継続できる報酬・財源をどう確保するのか
- 制度変更によって必要な支援が途切れない仕組みをどうつくるのか
まとめ|「軽度」という数字だけで、暮らしを判断しない
制度には区分が必要です。
要介護1、要介護2という区分があることで、 全国の介護保険制度を一定の基準で運営できます。
限られた財源や人材を配分するためにも、 基準は必要です。
でも、人の暮らしは区分だけでは見えません。
同じ要介護1でも、 一人で暮らしている人がいます。
認知症がある人がいます。
家族の支援を受けられる人もいれば、 頼れる人がいない人もいます。
反対に、 地域とのつながりや支えがあり、 少しの支援があれば、 専門職のサービスを減らしても生活できる人もいるでしょう。
「軽度」という数字の向こうにある暮らしを見る
「要介護1・2だから介護給付」 と機械的に決めることも、
「軽度だから総合事業」 と一律に決めることも、
どちらも、 一人ひとりの暮らしを十分に見ているとは言いにくいのだと思います。
その人には、何が必要なのか。
その支援を、誰なら担えるのか。
専門職でなければできないことは何なのか。
地域の人だからこそできることは何なのか。
そして、 その人が暮らしている地域に、 その選択肢は本当に存在しているのか。
制度の持続可能性を考えることと、 本人の生活を守ることは、 どちらか一方を選ぶ問題ではありません。
限られた人材と財源の中でも、 「必要な人に、必要な支援が途切れず届く仕組み」 をどうつくるのか。
要介護1・2をめぐる議論で 本当に問われるのは、そこではないでしょうか。
福祉教育ラボでは今後も、 「何が決まったのか」 「何がまだ検討されているのか」 「誰がどの立場から意見を出しているのか」 を分けながら、 その制度変更が本人の暮らしに何をもたらすのかまで追っていきます。
この記事とつながる「ふくしのことば」
要介護度だけでなく、 本人の暮らしや環境まで考えるために、 関連することばを整理しました。
一次資料・参考資料
情報確認:2026年9月13日。 本記事で紹介した「要介護1・2の介護給付維持」は、 地域共生ケア全国ネットワークから提出された要望です。 厚生労働省が要介護1・2の総合事業移行や、 生活援助の介護給付除外を決定したものではありません。 国の正式な検討論点は、 「軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方」です。

