介護拒否とは|「支援拒否」と書く前に考える本人の「嫌だ」とアセスメント

SOCIAL WORK IN PRACTICE

介護や福祉の記録で、「入浴拒否あり」「服薬拒否」「サービス利用を拒否」といった言葉を目にすることがあります。 短い言葉で状況を共有する必要がある現場では、「拒否」という表現そのものが問題なのではありません。

問いたいのは、その後です。 「支援拒否」と書いたことで、私たちはその人を理解したことになっていないでしょうか。

研究の射程について: 研究では care refusal、rejection of care、resistiveness to care など複数の用語が用いられ、定義は完全には統一されていません。 また、本稿で扱う実証研究の多くは、施設で専門的ケアを受ける認知症高齢者を対象としています。 本稿では現場で広く使われる「支援拒否」という語を用いますが、認知症ケア研究の結果を福祉の全領域へ直接一般化するものではありません。
PART Ⅰ

「支援拒否」という言葉を問い直す

まず、「拒否が起きた」ということと、「この人には拒否がある」と理解することの違いから考えます。

通し事例:Bさんの「今日は入りたくない」

午後2時、職員がBさんへ入浴を勧めました。 Bさんは「今日はお風呂に入りたくない」と答えました。

記録には、「入浴拒否あり」と書かれるかもしれません。

「起きたこと」と「拒否という解釈」は同じではない

本人が示したこと

「今日はお風呂に入りたくない」

専門職による整理

「入浴拒否あり」

前者には、本人が何を言ったのかが残っています。 後者は、それを「拒否」という実務上のカテゴリーへ整理した表現です。

カテゴリー化そのものが悪いわけではありません。 支援を引き継ぎ、チームで情報を共有するには、一定の言葉で整理する必要があります。

しかし一度「拒否」と書かれると、その後の支援者も 「この人は入浴を拒否する人」 という前提から関わり始める可能性があります。

Mastら(2022)は、認知症の人のアパシーとケアへの抵抗(resistance to care:RTC)について既存の測定尺度をレビューしました。 RTCを測る尺度には一定の測定特性が認められる一方、本人自身の視点や、その行動が生じた文脈が十分に取り込まれていないことを課題として指摘しています。 原著を確認する

「拒否があったか」を記録することと、 「なぜ、そこで拒否が生じたのか」を理解することは同じではありません。

本人は、何を拒否したのか

Ishii、Streim、Saliba(2012)は、rejection of careに関する55研究を検討し、 拒否を理解するための概念枠組みを提示しました。

そこには、本人の内的要因だけでなく、本人のニーズと環境資源との適合、その時の状態、 拒否に先行する出来事、本人の選好、拒否行動、その後の結果という7つの要素が含まれています。 PubMedで確認する

Bさんの場合も、 「なぜ入浴を拒否するのか」 という問いだけでは粗いかもしれません。

Bさんは入浴そのものを拒否したのでしょうか。 今日という日なのか、午後2時という時間なのか、介助する職員なのか、寒さなのか、身体的不快感なのか。 あるいは、本当に「今日は入らない」と選んでいるのでしょうか。

問いを、 「なぜこの人は拒否するのか」 から、 「何を、どのような条件で拒んだのか」 へ変えると、アセスメントできる範囲が広がります。

次の問い

ここまでは本人側を中心に考えました。 しかし研究を見ると、care refusalは本人の状態だけでなく、支援者との関係、環境、組織条件とも関連しています。 次は「拒否する本人」から、拒否が生じる場全体へ視点を広げます。

PART Ⅱ

拒否は「本人だけ」の中で起きているのか

本人・支援者・関係・環境・組織の相互作用から、「拒否」という現象を考えます。

本人・関係・環境・組織を一緒に見る

Araujoら(2025)は、施設で専門的ケアを受ける認知症高齢者のcare refusalについて、 2013~2023年の19研究を整理しました。

そこで確認されたのは、care refusalに関連する要因が本人側だけではないということです。 認知機能やコミュニケーションの困難だけでなく、支援者との関係、慣れない施設環境、 高齢者を子ども扱いするような話し方、業務遂行を優先したケアなど、 関係・環境・組織に関する要因も整理されています。 PubMedで確認する

したがって、 「Bさんには入浴拒否がある」 だけではなく、

「Bさんと、この入浴方法、この職員、この時間、この環境との間で何が起きているのか」

と考える必要があります。

Bさんの場面を広げて見る

浴室は寒くないか。本人が普段入浴する時間と合っているか。 説明する前に身体へ触れていないか。羞恥心への配慮はどうか。 職員配置の都合で「今入ってもらわないと困る」という圧力が生じていないか。

「Bさんの拒否」を見るだけでなく、その拒否が生じている支援環境も見る必要があります。

「支援拒否」という言葉は、支援する側を見えなくしていないか

この点を直接的に示しているのが、高齢者を子ども扱いするような話し方 「elderspeak」に関する研究です。

Williamsら(2009)は、認知症のある施設入居者20人について80のケア場面を分析しました。 通常の話し方の後にRTCが生じる場面レベルの条件付き確率は0.26でしたが、 elderspeakの後では0.55でした。 PubMedで確認する

数値の読み方に注意: これは「拒否する人が26%と55%いた」という意味ではありません。 それぞれのコミュニケーション条件の後に、RTCが生じた場面レベルの条件付き確率です。 本人を「拒否する人/しない人」に分類した数値ではありません。

HermanとWilliams(2009)の逐次分析でも、elderspeakと、その後に生じるケアへの抵抗行動との関連が検討されています。 PubMedで確認する

これらの研究から、拒否の原因を支援者だけに求めることはできません。 しかし、本人の反応を理解するときに、支援者の言葉や関わり方もアセスメントの対象になることは重要です。

そして、この問題を「職員個人の意識」に還元するのも十分ではありません。

2026年のelderspeakに関する質的メタ統合では、 13研究を通して、こうしたコミュニケーションが職員個人の悪意だけから生じるのではなく、 ケアを行うこと、本人をコントロールすること、その人らしさを尊重することの緊張のなかで、 組織の日常実践として正常化され得ることが論じられています。 PubMedで確認する

限られた人員、時間、研修、業務の組み方、職場内で共有されるコミュニケーション習慣。 支援する側もまた、環境の影響を受けています。

本人を責めない代わりに支援者を責めるのではなく、 相互作用をつくる条件まで見る必要があります。

関わり方を変えると、反応も変わることがある

Backhouseら(2020)は、認知症の人によるpersonal care (入浴、食事、服薬、口腔ケアなどの日常的な身体ケア)への拒否を減らす、 または対応する方法についてsystematic reviewを行いました。

5,953件の記録から最終的に30研究が分析され、そのうち28研究、93%は長期ケア施設で実施されていました。 PubMedで確認する

研究対象が認知症・施設ケアへ大きく偏っているため、 「この方法なら拒否がなくなる」という万能な介入法を示す研究ではありません。

それでも、同じケアであっても、方法、コミュニケーション、環境の調整によって本人の反応が変わり得るという点は重要です。

Backhouse、Killett、Bratches、Mioshi(2026)は、 2000~2024年の71資料と15人への関係者インタビューを統合したrealist synthesis (「何が、誰に、どのような条件で作用するのか」を検討する統合研究)を行いました。

そこでは、本人が支援者を信頼し、安全だと感じることが中心的なメカニズムとして整理されました。 その背景には、コントロール感、前向きなつながり、ケアを自分にとって扱えると感じられること、 一緒に取り組む感覚、ケア活動または別の活動への関与、快適さ、 本人のニーズが理解され応じられることなどが示されています。 PubMedで確認する

ここから現場の問いも、 「どうすれば拒否をやめてもらえるか」 だけではなく、 「本人が安心できる関係と条件になっているか」 へ広がります。

ここで一度、立ち止まる

支援方法や環境を整えることは重要です。 しかし、それでも本人が「嫌だ」と言ったらどうするのでしょうか。 次は、拒否を「減らす対象」としてだけ見るのではなく、本人の意思としてどう扱うのかを考えます。

PART Ⅲ

本人の「嫌だ」をどう扱うのか

支援条件を整えることと、本人の意思を尊重すること。その両方をどう考えるのかを整理します。

「理由を理解すること」と「拒否を解除すること」は違う

もう一度、Bさんへ

浴室を暖かくしました。本人の生活リズムに合わせて時間を変えました。 馴染みの職員が丁寧に説明しました。

それでもBさんは、「今日は入りたくない」と言いました。

ここで、さらに「本当の拒否理由」を探し続けるのでしょうか。

拒否の理由を理解することは重要です。 しかし、その目的を最初から「理由を取り除いて、最終的には支援を受けてもらうこと」に固定すると、 本人の意思を理解しているようで、最終的な結論だけは支援者側が決めることになります。

本人の拒否を理解することと、
本人の拒否を「解除する方法」を探すことは同じではありません。

厚生労働省が2025年3月に改訂した 「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」では、 意思決定支援を支援者側ではなく本人の視点に立って行い、 意思形成・意思表明・意思実現までを支えるものとして整理しています。

日常生活上の意思決定の例として、食事、入浴、衣服、外出、排泄、日常プログラムへの参加なども明示されています (Ⅱ「基本的考え方」、pp.6–8)。 厚生労働省ガイドラインを確認する

また、本人の意思内容を支援者側から評価し、「支援すべき」と判断した場合だけ支援するのではなく、 まず本人が表明した意思・選好を確認することが示されています (Ⅲ-2「本人の意思の尊重」、p.9)。

ときには、「今日は入らない」がその時点での本人の意思として残ることがあります。

認知症があると、「嫌だ」の重みは軽くなるのか

認知症がある場合、「本人は本当に分かっているのか」という専門的検討が必要になることがあります。

しかし、認知症という診断があることと、本人の意思が無効であることは同じではありません。

厚労省ガイドライン第2版は、 「認知症の症状にかかわらず、本人には意思があり、意思決定能力を有する」という前提から支援することを示しています。

また意思決定能力を固定的なものとして捉えず、 本人の心身状態、意思決定の内容、人的・物的環境、支援者の「支援力」によっても変化するとしています (Ⅲ-3「本人の意思決定能力への配慮」、pp.10–11)。

さらに、言葉だけでなく身振りや表情の変化も意思表示として読み取る努力、 安心できる環境や信頼関係、十分な時間への配慮も具体的に示されています。

重要なのは、 「認知症だから拒否している」 という理解から、 「この人は今、何を理解し、何を望み、どのような支援があれば意思を表明しやすいのか」 へ問いを戻すことです。

「何でもいい」「もういい」は、意思がないということなのか

拒否は必ずしも「嫌だ」と明確に表現されるとは限りません。 「何でもいいです」「任せます」「もういいです」という言葉もあります。

それが本人の本当の選好であることもあります。 一方で、情報が足りない、周囲へ遠慮している、意思を表明しにくい関係にある可能性もあります。

厚労省ガイドラインでは、本人の意思は時間や状況によって変化し得るため、 必要に応じて繰り返し確認することが重要とされています。 また、「本人には意思決定をしない自由もある」とも明記されています (Ⅳ-1(3)、p.14)。

したがって、 「何でもいい=意思がない」 と決めるのでもなく、 「何でもいい=本当は別の意思が隠れている」 と専門職が勝手に読み替えるのでもありません。

どのような条件と関係のなかで、その言葉が出たのかを確かめることが必要です。

本人の「嫌だ」と安全がぶつかったら

ここまでの議論は、「嫌だと言われたら何もしない」という意味ではありません。

服薬を拒否する。食事を拒否する。必要な治療を望まない。 転倒リスクがあっても一人で歩きたい。危険性がある中でも自宅で暮らしたい。

専門職には本人の意思を尊重する責任と同時に、 リスクを説明し、理解を支え、代替案を提示し、本人とともに検討する責任があります。

厚労省ガイドラインも、本人の意思を原則として尊重しながら、 他者への害や、本人に回復困難なほど重大な影響が生じる可能性がある場合には、 他の選択肢との比較、影響の重大性、発生可能性などを慎重に検討することを求めています (Ⅲ-2、pp.9–10)。

また、本人の意思決定に伴うリスクについて意思決定支援チームで共有し、 必要な対応へ備えることも示されています(Ⅲ-4、p.12)。

本人の意思を尊重することと、専門職としてリスクを考えることは二者択一ではありません。

専門知は、本人の意思を上書きするためではなく、 本人が理解し、考え、選べる可能性を広げるために使うことができます。

「支援拒否」と書く前に、何を記録するのか

ここで、最初のBさんへ戻ります。

情報が少ない記録

「入浴拒否あり」

再アセスメントにつながる記録例

14時、入浴を提案。Bさんは「今日は寒いから入りたくない」と発言。 浴室を暖めることや時間変更を提案したが、「今日は入らない。明日の午後ならいい」との意向あり。 翌日午後に改めて本人へ確認することとした。

後者であれば、本人が何を言ったのか、何を断ったのか、 支援者が何を提案したのか、代替案への反応はどうだったのか、 次に何を確認するのかが分かります。

厚労省ガイドラインも、本人の語りや表情などを含めてできる限り具体的に記録し、 支援に用いた情報や意思決定支援のプロセスを残して振り返ることを示しています (Ⅲ-4、p.12、Ⅳ-1、pp.14–15)。

大切なのは、「拒否」という語を禁止することではありません。

「拒否」というラベルだけで、理解を終わらせないことです。

実践への含意|「支援拒否」を見たときの10の問い

これは「拒否を解除するための10の方法」ではありません。 本人・支援者・環境について、理解を止めないための問いです。

  1. 本人は、具体的に何を拒否したのか。
  2. 誰に対して、その意思を示したのか。
  3. いつ、どこで、どのような状況で起きたのか。
  4. その直前に何があったのか。
  5. どのような説明、声かけ、介助方法だったのか。
  6. 本人は言葉、表情、身振りで何を示しているのか。
  7. 痛み、疲労、不快感、認知・心理状態など、本人側の条件はないか。
  8. 支援者との関係、環境、人員、時間、組織条件はどうか。
  9. 方法、時間、場所、支援者などを変えると、本人の反応は変わるか。
  10. それらを検討した上でも、本人が「嫌だ」と意思を示している可能性を、私たちは尊重しているか。

1から9までを使って「どうすれば支援を受けてもらえるか」だけを探すなら、 それは拒否を解除する技術にはなっても、本人主体のアセスメントとは限りません。

条件を変え、説明し、時間を置き、関係を整えた先にも、 「やはり嫌だ」という本人の意思が残る可能性まで含めて考える必要があります。

福祉教育ラボの視点|「拒否」は、誰の中にあるのか

「支援拒否」という言葉は便利です。 しかし、その便利さによって「この人は拒否する人」と本人を固定してしまう危険もあります。

研究をたどると、拒否は本人の状態だけではなく、 支援者の言葉、支援方法、両者の関係、環境、組織条件との相互作用のなかで生じる場合があります。

だから「なぜこの人は拒否するのか」だけではなく、 「この人と私たちの間で、いま何が起きているのか」 と考えてみる。

これは支援者を責めるためでもありません。 限られた人員や時間、決められた業務、事故への不安のなかで、支援する側も環境の影響を受けています。 だからこそ、本人だけではなく、私たち自身の関わり方や、その関わりを作る組織条件まで含めて見る必要があります。

そして、そこまで検討した先に、 「それでも本人は嫌だと言っている」 という答えが残ることもあります。

本人の「嫌だ」を理解することと、本人の「嫌だ」を変えることは違います。

「支援拒否」という言葉は、その人を説明する答えではありません。 それは、「この人に何が起きているのか」、そして「この人と私たちの間で何が起きているのか」を考え始めるための問いなのだと思います。

主要な研究・一次資料

本稿では、実証研究の多くが認知症高齢者へのpersonal careを対象としていることに留意し、 福祉実践全般へ直接一般化しない形で参照しています。

  1. 概念レビュー Ishii, S., Streim, J. E., & Saliba, D. (2012). A conceptual framework for rejection of care behaviors: review of literature and analysis of role of dementia severity. Journal of the American Medical Directors Association, 13(1), 11–23.e1–2. DOI: 10.1016/j.jamda.2010.11.004. PubMed
  2. Scoping review Araujo, J. P. et al. (2025). Care Refusal by Older Adults With Dementia Receiving Professional Care: A Scoping Review. Journal of Applied Gerontology, 44(7), 1158–1171. DOI: 10.1177/07334648241298660. PubMed
  3. 尺度レビュー Mast, B. T., Ertle, E. M., Kolanowski, A., & Mountain, G. (2022). Person-centered assessment of apathy and resistance to care in people living with dementia: Review of existing measures. Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions, 8(1), e12316. DOI: 10.1002/trc2.12316. PMC
  4. 観察研究 Williams, K. N., Herman, R., Gajewski, B., & Wilson, K. (2009). Elderspeak communication: impact on dementia care. American Journal of Alzheimer's Disease & Other Dementias, 24(1), 11–20. DOI: 10.1177/1533317508318472. PubMed
  5. 逐次分析 Herman, R. E., & Williams, K. N. (2009). Elderspeak's influence on resistiveness to care: focus on behavioral events. American Journal of Alzheimer's Disease & Other Dementias, 24(5), 417–423. DOI: 10.1177/1533317509341949. PubMed
  6. Systematic review Backhouse, T., Dudzinski, E., Killett, A., & Mioshi, E. (2020). Strategies and interventions to reduce or manage refusals in personal care in dementia: A systematic review. International Journal of Nursing Studies, 109, 103640. DOI: 10.1016/j.ijnurstu.2020.103640. PubMed
  7. Realist synthesis Backhouse, T., Killett, A., Bratches, R. W. R., & Mioshi, E. (2026). How Can We Improve Personal Care Interactions to Reduce Care Refusals From People With Dementia? A Realist Synthesis. Journal of Advanced Nursing, 82(5), 4895–4926. DOI: 10.1111/jan.70204. PubMed
  8. 質的メタ統合 Lillekroken, D., Röthig, A., & Bjørnnes, A. K. (2026). Elderspeak in Healthcare Settings: How Care, Control and Personhood Intersect in Care Communication—A Qualitative Meta-Synthesis. Journal of Advanced Nursing. DOI: 10.1111/jan.70664. PubMed
  9. 一次資料 厚生労働省(2025) 『認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)』 令和7年3月。 厚生労働省PDF