医療・福祉の新卒3年以内離職率、高卒49.4%・大卒39.1%|働き続けられる職場をどうつくるか

支える人の生活も大切に。架空の医療・福祉の職場で、若手と同僚が対等に語り合うイメージイラスト。実在の人物・施設を描いたものではありません。
架空の職場を描いたイメージイラスト。実在の人物・施設ではありません。

2026年10月23日、厚生労働省は2023年3月卒業者の就職後3年以内の離職状況を公表しました。「医療,福祉」は高卒49.4%、大卒39.1%。いずれも全産業平均を上回りました。

ただし、離職の理由をこの統計だけで決めつけることはできません。人は仕事だけを生きているわけではないからです。夜勤明けの眠さ、帰宅後の家族との時間、昨日はできたことが今日はうまくいかない日。そんな生活のなかで、働き続けるかどうかを考えることがあります。数字が示す事実と、数字だけでは分からない経験を分けて考えてみます。

10月23日公表の数字を正確に読む

表は左右にスクロールできます。

対象 高卒 大卒
全産業 36.9% 31.2%
医療,福祉 49.4% 39.1%
全産業との差 +12.5ポイント +7.9ポイント
2023年3月卒の就職後3年以内離職率。高卒は医療・福祉49.4%、全産業36.9%、差12.5ポイント。大卒は39.1%、31.2%、差7.9ポイント。分母は各学歴・産業区分の新規学卒就職者数。2026年3月31日までの離職を集計。
医療・福祉と全産業の比較。対象・集計期間・分母・出典は図中に記載しています。図を選択すると拡大表示できます。

「医療,福祉」の高卒離職率は前年差0.2ポイント上昇、大卒は1.7ポイント低下しました。厚労省の集計は事業所からの雇用保険加入・離職の届出を基礎とし、2023年3月卒業者が2026年3月31日までに最初の職場を離れた割合を示します。医療・福祉業界そのものを離れた割合ではなく、介護職だけの離職率でもありません。退職理由や転職後の行き先は、この統計からは分かりません。

他産業との比較

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産業 高卒 大卒
宿泊業,飲食サービス業 61.6% 49.9%
生活関連サービス業,娯楽業 61.1% 49.8%
教育,学習支援業 49.3% 42.3%
医療,福祉 49.4% 39.1%
小売業 48.5% 38.1%

※「その他」を除く上位5産業を、大卒の離職率が高い順に並べています。高卒の順位順ではありません。

医療・福祉は高卒3位、大卒4位です。対人サービスの産業が上位に並ぶことは注目に値しますが、「感情労働が離職を引き起こした」という因果関係はこの表からは分かりません。厚労省の事業所規模別集計では、小規模事業所ほど離職率が高い傾向もあります。ただし、これは全産業の数字であり、医療・福祉の小規模事業所だけの数値ではありません。

新卒の3年以内離職と、介護職員全体の離職は違う

介護労働安定センターの2025年度調査では、訪問介護員と介護職員を合わせた年間離職率は12.4%でした。新卒の医療・福祉49.4%・39.1%とは、対象職種も対象者も期間も異なります。直接比べて「どちらが正しいか」を論じることはできません。

それでも、新人が専門用語を覚え、利用者の暮らしを知り、先輩に教わりながら自分の実践を形にする最初の数年に、相談できる相手や失敗を振り返る時間があるかは、現場にとって重要な問いです。

給与の差を「やりがい」で埋めてはいけない

厚労省の2025年賃金構造基本統計調査に基づく賞与込み給与は、介護職員が月額換算31.4万円、全産業平均(役職者を除く)が39.6万円。差は8.2万円です。調査年6月の給与に前年賞与の12分の1を加えた指標で、毎月の手取り額ではありません。また、「医療,福祉」産業全体の賃金でもありません。

家賃、食費、子どもの進学、家族の介護、急な出費。仕事への思いが強くても、生活の見通しが立たなければ、働き続けることは難しくなります。2025年度介護労働実態調査では、仕事上の悩みとして「人手が足りない」52.3%、「仕事内容のわりに賃金が低い」38.1%が挙がっています。給与と配置は、本人の努力だけで解決できる課題ではありません。

感情労働、ストレス、コーピング――個人だけに背負わせない

医療・福祉では、相手の不安や怒り、戸惑い、喜びに向き合います。自分が疲れている日に、相手の話を丁寧に聴くこともあります。仕事で求められる感情表現と、自分の内面の気持ちがずれることもあります。こうした状況を考える手がかりの一つが「感情労働」です。社会学者アーリー・ラッセル・ホックシールドは、1983年の著書『The Managed Heart』で、仕事のなかで感情を管理することを論じました。ただし、同書は今回の日本の新卒離職率の原因を直接検証した研究ではありません。

コーピングには、休息、相談、気持ちの整理、問題の具体化などがあります。しかし、対処法を学ぶだけで人員不足や不規則な勤務が解消するわけではありません。「ストレスをうまく処理しなさい」と本人だけに求めれば、環境の問題が見えなくなります。必要なのは、個人の対処と、組織による勤務調整・人員配置・相談体制の両方です。今回の新卒離職統計から、感情労働やストレスと離職の因果関係を断定することはできません。

人材不足と人口構造――数字は生活につながる

総務省が2026年9月に公表した推計では、2026年9月15日現在、65歳以上人口は3,624万人、高齢化率は29.6%でした。厚労省が2024年に示した介護職員の必要数は、2026年度約240万人、2040年度約272万人。2022年度の約215万人を基準とした将来推計であり、将来の確定した不足人数ではありません。

272万人という数字が何を意味するのか、採用人数だけでなく人材育成まで掘り下げた記事は、「介護職員は2040年に272万人必要|人手不足を『人数』だけで考えてはいけない理由」で紹介しています。本記事は、そこから視点を新卒者と働く人の生活に移して考えます。

2026年8月の全職業の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍でした。ただし、これは介護職だけの倍率ではありません。別の指標として、2025年度介護労働実態調査で従業員不足と答えた事業所は65.8%でした。人手が足りないと、支える人も、支えられる人も時間の余裕を失います。

人員不足が利用者との関わり方やケアの質に及ぼし得る影響については、「人手不足になると、なぜ利用者の尊厳が守りにくくなるのか」でも考えています。新人の育成に時間を確保できるかという問題も、同じ職場環境につながっています。

この仕事の魅力を語ることと、負担を見過ごすことは違う

同調査では、訪問介護員の68.3%、介護職員の56.8%が、今の仕事や職場に働きがいがあると答えています。職場定着に効果があった取組として、事業所が最も多く挙げたのは「休暇取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」57.9%でした。

利用者が安心して食事を楽しめた日、本人が希望を話せた日、同僚と支援方法を考え直せた日。大きな成果ではなくても、暮らしの小さな変化に関われることは、この仕事の魅力です。ただし「尊い仕事だから我慢できるはずだ」と言ってよいわけではありません。

新人を迎える現場が考えたいこと

新人を「辞めさせない」ことだけを目標にするのではなく、なぜその仕事を選び、何を学びたいのか、いま何に困っているのかを本人とともに確かめたいと思います。面談を習熟確認だけにせず、相談先を明確にする。困難な場面を個人の失敗で終わらせず、チームで振り返る。夜勤や休暇の相談を可能にし、資格取得と成長の機会を示す。給与や人員配置についても説明し、改善を続ける。そうした積み重ねが必要です。

退職という選択も否定するものではありません。転職や学び直しによって、別の場所で力を発揮することもあります。定着とは職員を囲い込むことではなく、働き続けたい人が、働き続けられる条件を整えることではないでしょうか。

結論――支え合う社会は、支える人の生活も大切にする

今回の統計は、医療・福祉の仕事を否定する数字ではありません。同時に、使命感があるから大丈夫と言ってよい数字でもありません。福祉教育ラボは、人の生活を支える専門性を大切にしたいと考えています。その専門性は、働く人自身の暮らしや感情を犠牲にして成立するものではないはずです。

誰もが支える側になる日も、支えられる側になる日もあります。体調のよい日も、余裕のない日もあります。支え合う社会を語るなら、支える人が困ったときに支えてもらえる職場と制度を、同じように考えていきたいのです。

一次資料・参考文献