2026年版自殺対策白書|20年の変化と世代別の課題、暮らしを支えるつながり

令和8年版自殺対策白書は10月23日に閣議決定。総数が減る一方、若い世代では異なる動きがみられます。社会福祉士・精神保健福祉士・教員の視点から、数字と支援を読み解きます。

2026年10月23日、政府は「令和8年版自殺対策白書」を閣議決定しました。白書の特集は、自殺対策基本法が制定されてから20年の歩みと、世代によって異なる動きを考えるものです。2025年の自殺者数は全国で19,188人と、1978年の統計開始以来初めて2万人を下回りました。一方、小中高生は538人で1980年以降最多となっています。

全体の数字が小さくなることは重要です。しかし、それだけで、すべての年代や暮らしの困難が同じように改善したと考えることはできません。この記事では、2006年と2025年の比較、年代別の変化、福祉・精神保健・教育の連携という三つの視点で整理します。

この記事には自殺に関する統計が含まれます。数字を一人ひとりの「原因」や将来の危険度に直接当てはめるためではなく、支援の届き方を考えるために用います。気持ちのつらさや不安がある場合は、厚生労働省「相談先一覧」から電話・SNSなどの相談先を探せます。

まず押さえたい三つの事実

  • 2026年10月23日に閣議決定されたのは「白書」です。この日に新たな法制度が施行されたという意味ではありません。
  • 2025年の自殺者総数は19,188人で、前年より1,132人減少しました。
  • 同じ2025年、小中高生は538人と増え、全体と若い世代の動きが一致していません。

閣議決定の日付は首相官邸の閣議案件と厚生労働大臣会見、人数は警察庁・厚生労働省の2025年確定値で確認しています。なお、2026年版白書が主として扱う統計は「2025年の実績」であり、2026年の年間確定値ではありません。

自殺対策基本法の制定から20年。何が変わったのか

2006年に自殺対策基本法が制定されました。その後、自殺を本人だけの問題として捉えるのではなく、健康、雇用、家計、家庭、地域の孤立などを含む社会的な課題として対策を進めてきました。2026年版白書は第2章を「自殺対策の20年とこれから」とし、3万人台からの変化、こども・若者の増加、今後の対策を特集しています。

警察庁自殺統計に基づく人数を比べると、2006年は32,155人、2025年は19,188人です。差は12,967人の減少で、およそ4割減に当たります。この比較は長期的な変化を示しますが、施策だけが減少を生んだと、この二つの数字だけで証明できるわけではありません。

2006年は自殺者総数32155人、小中高生315人。2025年は総数19188人、小中高生538人。二つの図は縦軸の尺度が異なります。
図1|2006年と2025年の人数の比較。全国総数と小中高生では動きが異なります。左右のグラフは縦軸の尺度が異なります。

総数と小中高生を同じ尺度で表示すると小中高生の変化が見えにくくなるため、図では左右の別々のグラフに分けています。どちらも「人数」の比較です。人口構成が異なるため、個人のリスクを比較するときには人口10万人当たりの自殺死亡率なども必要です。

2025年の年代別データは、どこが違うか

前年と比べると、19歳以下の自殺者数は800人から830人へ30人増えました。それ以外の年代では、いずれも減少しています。特に70歳代は348人減少していますが、人数の減少幅だけで、その年代の危険度が最も改善したと決めることはできません。

年齢階級 2024年 2025年 前年差
19歳以下 800人 830人 +30人
20~29歳 2,465人 2,412人 −53人
30~39歳 2,399人 2,293人 −106人
40~49歳 3,214人 2,968人 −246人
50~59歳 3,799人 3,743人 −56人
60~69歳 2,584人 2,406人 −178人
70~79歳 2,685人 2,337人 −348人
80歳以上 2,346人 2,160人 −186人

出典:警察庁・厚生労働省「令和7年中における自殺の状況」図表1-1。年齢不詳は表から除いています。

人数に加えて人口当たりでみると、10~19歳の自殺死亡率は2016年の4.5から2025年の7.8へ上がっています。ここでいう「10~19歳」は、小中高生の区分と同じではありません。年代の人口と就学状況が異なるため、率と人数を区別して読むことが必要です。

小中高生は538人。全体の減少だけでは見えないこと

小中高生の自殺者数は、2006年の315人から2025年の538人となりました。2024年の529人からも9人増え、1980年以降の統計で最多です。学校段階別では、小学生10人、中学生172人、高校生356人です。

ここで小中高生538人と、19歳以下830人を混同してはいけません。また「学生・生徒等」1,082人には大学生や専修学校生なども含まれます。この三つは別の集計区分です。

小中高生の年間推移や、学校・家庭・健康の問題の詳細は、すでに公開している『夏休み明けの子ども・若者の「こころのSOS」』で整理しています。今回の記事では詳細を重複させず、20年という長い変化の中で、若い世代の支援をどのように位置づけるかを考えます。

「なぜ減ったのか」「なぜ増えたのか」を一つに決めない

自殺をめぐる事情は、健康問題、生活や経済上の困難、家族関係、学校、仕事などが重なる中で生じます。警察庁の「原因・動機」は、確認できた資料や証言等に基づく分類で、一人につき最大4項目が計上されるため、件数は人数と一致しません。

たとえば「経済・生活問題」と記録されたからといって、家計だけが原因だったと断言することはできません。統計で見えるのは社会に存在する課題の手掛かりであり、一人の生活史や思いそのものではありません。

この点は、こども・若者の援助要請や生活背景に関する研究を整理したFELの既存記事「こども・若者のこころ」で詳しく扱っています。原因探しで本人を分類するのではなく、どのような関係や場面で支援につながれるかを考えるために参照してください。

社会福祉士・精神保健福祉士・教員が考えたい支援のつながり

数字の背景にある暮らしを考えるとき、福祉職・精神保健福祉職・教員の役割は、それぞれ異なります。ただし「ここから先は別の専門職の担当」と線を引くだけでは、支援が途切れてしまう場合があります。

  • 社会福祉士:家計、住まい、就労、家庭関係、孤立など、生活を取り巻く複数の課題を本人と整理し、制度や地域資源につなぐ。
  • 精神保健福祉士:医療と地域生活の間を行き来する人も含め、本人の意思を踏まえて相談・医療・福祉・就労支援の継続を調整する。
  • 教員・学校:日々の生活や学習状況の変化を把握し、一人で抱えず、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーや校内外の相談体制につなぐ。
本人を中心に学校、医療、福祉、地域が連携し、支援が途切れないよう継続を確認する関係図
図2|本人を中心に、学校・医療・福祉・地域がつながり、支援の継続を確認する考え方。

相談先を紹介した後は、本人の同意や安全への配慮を前提として、実際につながれたか、次に誰が連絡を取るかを確認する視点も重要です。これは白書の統計そのものの結論ではなく、FELが社会福祉実践の視点から提案することです。

数字を読む際の三つの注意

  • 「白書の年」と「統計の年」は別です。2026年版白書は、主に2025年の状況と2025年度の施策を扱います。
  • 「自殺者数」と「自殺死亡率」は別です。人数だけで世代間の危険度を比べず、人口の違いや集計区分に注意します。
  • 「原因・動機の件数」と「人の数」は別です。複数回答や把握できた情報の限界を踏まえて読みます。

また、警察庁の自殺統計と厚生労働省の人口動態統計では集計対象や方法が異なります。この記事の人数・年齢階級別の表と図は、原則として同じ系列の警察庁自殺統計で統一しています。

まとめ:減った数字も、増えた数字も暮らしに結び付ける

2006年からの約20年で、全国の自殺者総数は大きく減少しました。それは社会全体として確かめたい変化です。一方で、若い世代には異なる動きがあり、総数だけを見て対策が十分になったと考えることはできません。

大切なのは、ある世代を一括りにして「危ない」と判断することではなく、学校、職場、家族、医療、福祉、地域のどこに支援の入り口があり、どこでつながりが途切れやすいのかを確かめることではないでしょうか。数字を暮らしの理解へ、暮らしの理解を具体的な支援へつなげることが、20年を振り返る意味の一つだと考えます。

関連記事:『夏休み明けの子ども・若者の「こころのSOS」』は小中高生の推移と学校・家庭の論点、「こども・若者のこころ」は研究と援助要請の課題を詳しく解説しています。

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