介護過程はなぜ必要なのか|歴史から考える「その人の生活を支える」ということ

介護過程と聞くと、「情報収集、アセスメント、計画、実施、評価」という手順を思い浮かべるかもしれません。学生にとっては記録用紙の記入、介護職にとっては日々の業務に加わる書類仕事のように感じられることもあるでしょう。

けれども、介護過程の中心にあるのは書類ではありません。目の前の人がどのような生活を送り、何を望み、どのような条件があればその生活に近づけるのかを、本人とともに考え続けることです。では、なぜ介護はそのような方法を必要としてきたのでしょうか。ソーシャルワークの歴史や人権思想、障害観の変遷をたどり、今日の介護実践に結びつけて考えてみます。

介護過程は「介助の手順書」ではない

日本介護福祉士会は介護福祉士の専門性の一つに「介護過程の展開による根拠に基づいた介護実践」を掲げています。介護過程は、一般にアセスメント、介護計画の立案、実施、評価を循環させる考え方です。厚生労働省の2018年の養成課程見直し資料では、「介護過程」は150時間の教育内容として示されています。同資料は領域「介護」の目的について、各領域で学んだ知識と技術を統合し、介護実践に必要な観察力・判断力・思考力を養うことを掲げています。これは「介護過程」単独の科目目標をそのまま引用したものではなく、領域全体の目的です。

つまり、移乗介助ができる、食事介助ができるという技術だけでなく、「なぜこの人に、今、この方法なのか」を考え、確かめ、必要なら変えることが求められます。介護過程は現場のケアを一律にするための仕組みではなく、個別性を見失わないための方法です。

慈善から、生活状況を理解する専門的な援助へ

19世紀以降、産業化・都市化に伴う貧困や生活上の困難に対して、宗教団体や慈善組織協会(COS)などによる多様な活動が行われてきました。ただし、慈善がそのまま近代のソーシャルワークに置き換わったわけではありません。救済の考え方には援助だけでなく、貧困の原因を個人に求めたり、援助対象を選別したりする側面もありました。

こうした歴史の中で、メアリー・リッチモンドは1917年に『Social Diagnosis(社会診断)』、1922年に『What Is Social Case Work?(ソーシャル・ケースワークとは何か)』を著しました。リッチモンドの仕事は、援助する人の善意だけに頼るのではなく、本人とその生活環境に関する情報を丁寧に捉え、根拠を検討しながら援助する方法の体系化に寄与しました。

ただし、リッチモンドが現代の介護過程を直接創設したという意味ではありません。個人だけでなく生活環境に目を向け、支援の判断に根拠を求めるという、専門的援助に通底する視点をここから学ぶことができます。

「支援を受ける人」は権利を持つ人である

1948年、国連総会は世界人権宣言を採択しました。そこでは、すべての人が尊厳と権利において平等であるという考え方が示されています。その後、障害者の権利運動やノーマライゼーション、自立生活運動など、多様な人々が社会で暮らすための条件を問い直す取り組みが広がりました。

日本では1987年に社会福祉士及び介護福祉士法が制定されました。2007年の法改正と養成課程の見直しを経て、2009年度からの教育内容では「介護過程」が重視され、2019年度から順次導入された見直し後の養成課程でも150時間の科目として位置づけられています。国際的な思想史と、日本の資格制度・教育課程の変遷は、互いに関係しながらも別の歴史として捉える必要があります。

この流れを、単純に「慈善→人権→介護過程」と描くことはできません。しかし、福祉実践を考える際の問いが、何をしてあげるかだけではなく、本人がどのように生活したいのか、その選択を妨げているものは何かへと広がってきたことは重要です。

介護の現場でも、本人を単なる介助の対象として扱わず、望みや意思を持つ生活者として理解する必要があります。同時に、本人の希望を聞けばそれですべて解決するわけでもありません。情報、時間、経済状況、家族関係、利用できるサービスなどが、実際の選択を左右するからです。

ICFは「身体機能の低下」だけでは見えない生活を教えてくれる

WHOが1980年に公表したICIDH(国際障害分類)は、その後の障害理解をめぐる議論の重要な出発点の一つです。2001年にWHO総会で採択されたICF(国際生活機能分類)は、健康状態、心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子を相互に関連づけ、個人因子も含めて考える枠組みです。個人因子はICFの分類コードとしては分類されていません。これは介護計画を直接作成する手順ではありませんが、本人の生活を多面的に理解するための共通言語になります。

例えば、歩行が難しい人について「歩けない」という情報だけでは、その人の生活は分かりません。家の構造、移動手段、周囲の支援、参加したい活動などによって、生活上の困難も可能性も変わります。また、活動と参加は、必ず一方向に進む階段ではありません。人との関わりが、新しい活動の意欲を生むこともあります。

介護過程では、こうした視点を用いて本人の状態や環境を捉え、生活上の課題と本人の望む暮らしを結び直していきます。

慈善・専門的援助、人権・本人の意思、生活機能と環境の3つの視点を、本人の生活を理解し支える実践へ結びつけた概念図。歴史の進化順や直接の因果関係を示す図ではない。
本文の3つの視点を整理した概念図。歴史の進化順や直接の因果関係を示すものではありません。

事例:記録を共有したことで、介護計画が変わった

以下は架空の事例です。デイサービスに通うBさんは、最近、午後の集団活動への参加が減っていました。職員間では「意欲が低下したのではないか」という見方があり、当初の計画では活動への声かけを増やすことが検討されていました。

しかし、ある職員が帰宅前のBさんの言葉「午後は疲れてしまう。午前中なら、昔好きだった園芸の話をしたい」を記録しました。別の職員は、午前中の少人数の会話では表情が和らぐことに気づいていました。チームでそれぞれの観察と本人の希望を確認すると、課題は単純な「参加意欲の低下」とは言い切れませんでした。

そこで、本人と相談して午前中の少人数の園芸活動を試す計画に変更し、参加の有無だけでなく、疲労や本人の満足感も継続して確かめることにしました。活動を勧めること自体を正解とせず、本人のその日の様子を見ながら調整します。

この事例が示すのは、記録を増やすことが目的ではないという点です。個々の職員の気づきを照合し、本人の言葉と結びつけ、仮説を見直して支援を変える。そうした共同の思考に介護過程の意味があります。一度うまくいった支援でも、翌日も同じとは限りません。

介護過程の4つの段階を生活の言葉に置き換える

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

段階手続きとしての説明生活を支えるための問い
アセスメント情報を集め、解釈するこの人は今、どんな暮らしをしていて、何を大切にしているだろう
計画目標と支援方法を考える本人が望む生活に近づくため、何を一緒に考えられるだろう
実施支援を行う今日の本人の状態や意思に照らして、この関わりは適切だろうか
評価・見直し結果を確かめ、変更する本人の暮らしにどんな変化があり、次は何を考える必要があるだろう

なお、冒頭の「情報収集」は、表ではアセスメントの段階に含めています。また、介護支援専門員が作成する居宅サービス計画などのケアプランと、介護職が個別の生活支援を具体化する介護計画は、目的や作成主体、位置づけが異なります。両者は連携しますが同一の書類ではありません。

この4段階は便利な整理方法ですが、現場での関わりが機械的に4つに分かれるわけではありません。ケアの最中に新たな情報が分かり、その場で関わり方を変えることもあります。介護過程は、そのような判断を否定するものではなく、経験を振り返り、チームや他職種とも共有しながら、次の関わりを考えるための枠組みです。記録には、誰が見ても同じ結論になることではなく、観察した事実、本人の言葉、職員の解釈を区別し、別の見方を検討できるようにする意味があります。ただし、過去のうまくいった方法を他の人にそのまま当てはめない注意も欠かせません。

介護過程が必要な理由は、本人を「分かったつもり」にならないため

介護の専門性は、マニュアルを正確に守ることだけでも、経験や直感だけに頼ることでも十分には説明できません。知識や技術、経験、本人の言葉、その場の関係性を行き来しながら考える必要があります。

介護過程は、利用者を理解し尽くすための万能な仕組みではありません。むしろ、私たちが見落としていることはないか、こちらの思い込みで支援を決めていないかを、繰り返し問い直すための方法です。

「何ができないか」だけではなく、「どのように暮らしたいか」。そして、「何をしてあげるか」だけではなく、「その暮らしをどのような関係と環境の中で支えられるか」。その問いを実践へつなげるところに、介護過程を学ぶ意味があるのではないでしょうか。

参考資料

  1. 日本介護福祉士会「介護福祉士の専門性」 https://www.jaccw.or.jp/about/fukushishi/senmon
  2. 厚生労働省「介護福祉士養成課程における教育内容の見直し」(2018年2月15日) https://www.mhlw.go.jp/content/000345245.pdf
  3. Library of Congress, Mary E. Richmond, Social Diagnosis (1917) https://www.loc.gov/item/17013224/
  4. Library of Congress, Mary E. Richmond, What Is Social Case Work? (1922) https://www.loc.gov/item/22005436/
  5. United Nations, Universal Declaration of Human Rights (1948) https://www.un.org/about-us/universal-declaration-of-human-rights
  6. WHO, International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF) https://www.who.int/Standards/Classifications/International-Classification-of-Functioning-Disability-and-Health
  7. International Federation of Social Workers, Global Definition of Social Work (2014) https://www.ifsw.org/what-is-social-work/global-definition-of-social-work/

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注:歴史と思想の関係づけには編集上の解釈を含みます。個々の史実や制度の成立を単線的な因果関係として示すものではありません。事例は説明用の創作です。