2027年度障害福祉報酬改定|就労系サービスで9論点 在宅支援・B型会計・就労選択支援を整理
2026年9月28日、厚生労働省は第64回「障害福祉報酬改定検討チーム」を開き、 2027年度(令和9年度)障害福祉報酬改定に向けて、 就労系サービスの報酬・基準を議論しました。
今回示されたのは、単なる「報酬単価」の見直しではありません。
在宅での就労支援を、誰に、どのような条件で提供するのか。 就労継続支援B型の工賃と、生産活動から得られる収益をどう捉えるのか。 就労選択支援が、本当に本人の選択を支える仕組みになっているのか。
就労系障害福祉サービスの 「支援の質」「事業運営」「本人の選択」を横断する9つの論点が示されています。
今回示された内容は、2027年度改定に向けた「検討の方向性」です。 新しい基本報酬、加算・減算、指定基準などが、すでに決定したわけではありません。 本記事では「現在の制度」「今回示された方向性」「まだ決まっていないこと」を分けて整理します。
- 就労系サービスを横断する9つの論点が示された
- 在宅支援では、支援効果や報酬のあり方を見直す方向
- B型では、生産活動収支と工賃の関係を指定基準へ位置づける案
- 就労選択支援は2027年4月から対象拡大を予定
- 情報公表を強化し、本人が比較・選択しやすい仕組みも検討
- すべて現時点では検討段階であり、最終決定ではない
就労系サービスで示された9つの論点
厚生労働省は、就労系サービスを横断する論点として、次の9項目を示しました。
一般就労への移行に関する評価
一般就労への移行・定着に向けた支援
在宅支援
施設外就労
支給決定の厳格化
ガイドラインの厳格化
会計区分
情報公表
就労選択支援の対象者
なお、資料には 「本日の議論等も踏まえ、さらに論点を追加する予定」 と記載されています。
つまり、この9項目だけで2027年度改定の全容が確定したわけではありません。
働く・定着
- 一般就労への移行評価
- 移行後の定着支援
支援・運営の実態
- 在宅支援
- 施設外就労
- 支給決定
- ガイドライン
- 会計区分
本人の選択
- 情報公表
- 就労選択支援
一次資料を直接確認したい方へ:
厚生労働省
「就労系サービスに係る報酬・基準について」
で、9論点の全体を確認できます。
1 在宅支援は「在宅でできるか」から「在宅の方が効果的か」へ
就労移行支援や就労継続支援A型・B型では、 一定の要件を満たせば在宅でサービスを利用できます。
現在も、本人が在宅利用を希望するだけで自動的に認められるわけではありません。
市町村が「在宅でのサービス利用による支援効果が認められる」と判断することに加え、 事業所側にも定期的な連絡、進捗確認、緊急時対応、評価などが求められています。
今回の資料では、この在宅支援についてさらに踏み込んだ見直しが検討されています。
ポイントは、 「在宅で支援できるか」ではなく、 「通所による支援と比べても、在宅による支援の方が本人にとって支援効果が高いのか」 という視点です。
厚生労働省は、原則を対面による支援とし、 障害特性などにより 「通所による支援に比べ、在宅による支援の方が支援効果が上回ると認められる場合」 に在宅支援を認める方向を示しています。
さらに、在宅支援では通所型と比べて必要となる経費が異なることなどを踏まえ、 基本報酬や在宅利用者割合を含む報酬上の取扱いも論点になっています。
一方で、障害特性や生活状況に応じて積極的に在宅支援を行う必要がある場合を、 どのように評価するかも検討されています。
「在宅支援を縮小することが決まった」という意味ではありません。 現時点で示されているのは、対象者・支援効果・報酬評価をどう整理するかという検討方向です。
在宅勤務と「在宅支援」は同じではない
一般企業のテレワークでは、 「自宅で仕事ができる」こと自体が中心になります。
しかし、障害福祉サービスとしての在宅支援では、 仕事だけが提供されればよいわけではありません。
現在の制度でも、事業所には1日2回以上の連絡・助言・進捗確認、 緊急時対応、随時相談できる体制、定期的な評価などが求められています。
| 見方 | 一般的な在宅勤務 | 障害福祉サービスの在宅支援 |
|---|---|---|
| 中心 | 自宅で業務を行う | 自宅で必要な支援を受けながら活動する |
| 支援 | 業務管理が中心 | 助言・進捗確認・相談・評価などが必要 |
| 判断 | 業務上の運用 | 本人への支援効果を確認 |
つまり、 「仕事を自宅へ渡すこと」と 「障害福祉サービスとして在宅で支援すること」は同じではありません。
2 B型の「生産活動収支」が指定基準になる可能性
今回、就労継続支援B型の運営に大きく関わりそうなのが 「会計区分」の見直しです。
就労継続支援では、お金を大きく2つに分けて考える必要があります。
福祉事業のお金
職員による支援や、事業所を運営するためのお金です。
生産活動のお金
商品販売や受託作業など、利用者の生産活動によって生じる収入です。
利用者への工賃
生産活動から生じた収益をもとに、利用者へ支払われます。
指定基準では原則として、 利用者への賃金・工賃の支払いに必要な額を、 自立支援給付費から充ててはならないという考え方があります。
A型についてはすでに、 生産活動から得た収入から必要経費を差し引いた 「生産活動収支」が、利用者へ支払う賃金総額を上回ることが求められています。
一方、B型には同じ規定がありませんでした。
今回、厚生労働省はB型についても、 「生産活動の収支が利用者に支払う工賃の総額以上となること」 を指定基準に位置づけてはどうか、という方向を示しています。
「工賃を高くすればよい」という話ではない
利用者の工賃が高くなること自体は、一般的には望ましいことです。
しかし、そのお金がどこから生まれたのかも重要です。
厚生労働省は今回、発注元が運営法人などで、 自立支援給付費を実質的な原資とした業務委託費が使われ、 生産活動の実態がない場合や、 委託内容に比べて金額が過大な場合について、 実質的に自立支援給付費から賃金・工賃を支払っているものとして扱う方向を示しています。
問われているのは工賃の「金額」だけではありません。 生産活動の実態、市場や取引先との関係、 利用者の知識・能力の向上、 そして持続可能な収益になっているかまで含めて考える必要があります。
3 「生産活動シート」で事業所の中身を見えるようにする
この流れとつながるのが、 「ガイドラインの厳格化」と「情報公表」です。
厚生労働省は「生産活動シート」を活用し、 次のような内容を確認する方向を示しています。
- 生産活動の内容
- 収入の見込み
- 取引先
- 必要経費
- 生産活動収支
- 賃金・工賃の支払状況
さらにA型・B型について、 生産活動シートなどをホームページ上で公表することも検討されています。
就労選択支援では、 アセスメントを終えた利用者の総数、 その後それぞれの事業につながった利用者数、 同一法人への移行率などを公表する案が示されています。
情報公開の意味は、行政向けの報告を増やすことだけではありません。 本人が「どんな事業所なのか」を比較し、 自分に合ったサービスを選ぶための材料を増やす意味もあります。
4 就労選択支援は2027年4月から対象拡大を予定
今回、もう一つ大きな論点になったのが就労選択支援です。
就労選択支援は2025年10月に始まった制度で、 本人の希望、能力、適性、必要な配慮などを整理し、 本人が自分の働き方を考えるための情報を提供するサービスです。
厚生労働省資料によると、 2026年4月の国保連データでは、 就労選択支援は全国452事業所、利用者1,033人となっています。
現在、新たにB型を利用する場合は原則として、 あらかじめ就労選択支援を利用して 就労面の課題などを把握する仕組みが導入されています。 一部には例外があります。
2027年4月以降は、 新たに就労継続支援A型を利用しようとする人と、 就労移行支援を標準利用期間を超えて利用しようとする人 についても、就労選択支援によって課題が把握されていることを 対象要件とする予定です。
特別支援学校3年生には柔軟な取扱いを検討
一方で、制度を一律に適用することで、 進路選択そのものを妨げてしまっては意味がありません。
今回の資料では、 2027年4月からA型を利用する予定がある人、 主に現在の特別支援学校3年生について、 進路活動に支障が生じないよう、 2026年度内の就労選択支援利用を原則とせず、 暫定支給決定を柔軟に運用する方向が示されています。
制度開始に合わせて機械的に 「まず就労選択支援を受けなければ次へ進めない」 とするのではなく、 すでに進んでいる学校での進路活動との整合性を取ろうとする考え方です。
5 就労選択支援が「事業所への入口」になってはいけない
就労選択支援では、対象者だけでなく 「中立性」も重要な課題です。
福祉教育ラボでも、 「就労選択支援とは|制度の目的と研修・報酬・現場運用の現在地」 で、アセスメントは本人をサービスへ振り分けるための判定ではなく、 本人との協同による意思決定支援の手段であることを整理しています。
就労選択支援を実施した事業所が、 「自法人のA型へ」 「同じ法人のB型へ」 と利用者を誘導する仕組みになれば、 本人の「選択を支える」という制度本来の役割と矛盾します。
そのため今回の資料では、 比較可能な複数の選択肢を本人へ提示すること、 本人が選択に至った過程を記録することなどが検討されています。
また、本人の最終的な希望と実際の利用先が異なる場合には、 その理由を記録する方向も示されています。
「どこにつないだか」よりも、 本人が比較できる選択肢を持ち、どのような過程で選んだのか が重要になります。
6 支給決定そのものも見直しへ
今回の9論点には、 「支給決定の厳格化」も含まれています。
就労移行支援やA型・B型は、それぞれ対象者像が異なります。 一方で、障害支援区分を利用しないことなどから、 市町村が客観的にサービス利用の適否を判断しにくいという課題があります。
特にB型については、支給決定時にチェックリストを用いて、 次のような項目を確認する案が示されています。
- 本人の意向・利用目的
- 対象者要件
- 就労経験
- 就労選択支援によるアセスメント結果
これは「B型を長く利用することが悪い」という意味ではありません。 本人にとって必要なサービスであり、 本人がその利用を望むのであれば、 利用期間だけを理由に不適切と判断することはできません。
問われるのは、 本人に別の選択肢があることが伝えられているか、 希望や状態の変化が定期的に確認されているか、 利用開始時の判断がその後も自動的に固定されていないか、 という点です。
7 一般就労への移行も「送り出したら終わり」にしない
厚生労働省資料では、 就労系障害福祉サービスから一般企業へ移行した人は 2024年に28,943人となり、前年より増加しています。
一方で、単純に「何人就職させたか」だけを評価すると、 別の問題も生じます。
資料では、 同じ利用者がA型事業所と一般企業の間で 複数回の離転職を繰り返し、 その都度、就労移行支援体制加算を算定する事例 が取り上げられています。
厚生労働省は、 こうした算定を本来の制度趣旨とは異なるものとして問題視しています。
「就職したこと」と 「働き続けられること」と 「本人が納得できる働き方であること」は、 同じではありません。
2027年度改定では、 「送り出した人数」だけではなく、 その後の定着まで含めてどのように評価するかも重要になります。
8 9つの論点を3つの流れで見る
9つの論点は、ばらばらの制度変更のようにも見えます。 しかし、大きく整理すると3つの流れが見えてきます。
働くこと・定着をどう評価するか
- 一般就労への移行評価
- 一般就労への移行・定着支援
サービスの実態と質をどう確認するか
- 在宅支援
- 施設外就労
- 支給決定
- ガイドライン
- B型の会計区分
本人が選べる仕組みをどうつくるか
- 情報公表
- 就労選択支援
資料全体を通して見えるのは、 「サービスを提供した」 「利用者が通った」 「工賃を払った」 という事実だけでなく、
実際にどのような支援が行われ、 その結果として本人の選択肢や能力がどう広がったのか
を、より見える形にしようとする流れです。
まだ決まっていないこと
9月28日の検討チームで示されたのは、 2027年度障害福祉報酬改定に向けた論点と検討の方向性です。
現時点では、たとえば次の内容は最終確定していません。
- 在宅支援の具体的な報酬単価
- 在宅利用者割合の具体的な上限
- B型の新しい指定基準の最終文言
- 生産活動シートの正式様式
- 情報公表の具体的な方法
- 各種加算・減算の単位数
- 新制度の細かな経過措置
今後の検討チーム、報酬改定案、告示・通知などを継続して確認する必要があります。
福祉教育ラボの視点|「適正化」の中心に本人がいるか
今回の資料には、 「厳格化」「指定基準」「情報公表」「チェックリスト」「会計」 といった言葉が多く登場します。
一見すると、事業者への規制強化が中心の改定に見えるかもしれません。
しかし、その背景をたどると共通する問いがあります。
その支援は、本当に本人のために提供されているのか。
在宅支援であれば、 「事業所にとって運営しやすいから在宅」ではなく、 「本人にとって在宅の方が支援効果が高いのか」。
B型の生産活動であれば、 「工賃額が高く見えるか」ではなく、 「本人が参加する生産活動から、持続可能な価値と工賃が生まれているのか」。
就労選択支援であれば、 「どこかのサービスにつなげたか」ではなく、 「本人が比較できる選択肢を持ち、納得して選べたのか」。
という問いです。
制度の適正化は必要です。 ただ、適正化が「利用させない」「支援を減らす」ためだけの仕組みになれば、 本来の目的から外れてしまいます。
一方で、「本人の希望」という言葉だけで、 支援の質や事業運営の実態を確認しなくてもよいわけでもありません。
本人の希望。
必要な支援。
事業の持続可能性。
公費の適切な使用。
これらをどう両立するか。
2027年度の就労系障害福祉サービス改定は、 そのバランスを改めて問い直す議論になりそうです。
福祉教育ラボでは今後も、 「何が変わったか」だけではなく、 その変更が本人の選択や暮らし、 働くことにどのようにつながるのかを追っていきます。
本記事は、厚生労働省の2026年9月28日時点の資料を中心に整理しています。
厚生労働省|第64回 障害福祉報酬改定検討チーム(2026年9月28日) 厚生労働省|就労系サービスに係る報酬・基準について
情報確認日:2026年9月29日
2027年度障害福祉報酬改定に向けた審議中の内容を扱っています。
今後、報酬改定案、告示、通知等が示された場合は内容が変更される可能性があります。


