成年後見制度の見直しと地域の権利擁護|2026年民法改正で何が変わる?

福祉教育ラボ|福祉ニュース/2026年10月18日時点
民法等改正法成立・公布済み法律第45・46号/2026年6月
成年後見関係の施行施行日前公布から2年6か月以内に政令で指定
地域権利擁護相談支援センター規定は成立済み任意設置・2027年4月1日施行予定/運用は検討中

最初に結論|改正法は成立、地域支援の具体化は検討中

成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)と関係法律の整備法(同第46号)は、2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。これまでの法定後見の「後見・保佐・補助」という三類型を見直し、補助の制度へ一元化することが大きな柱です。一方、2026年10月18日現在、成年後見関係の改正が既に施行されたわけではありません。

厚生労働省は2026年10月13日、第23回成年後見制度利用促進専門家会議で、改正法の施行を見据えた「適切な権利擁護支援の実施」と「見直しの趣旨・内容の浸透」を議論しました。他方、2026年6月25日公布の社会福祉法等改正法(法律第51号)では、市町村が地域権利擁護相談支援センターを任意に設置できる規定が既に成立しています。同規定の施行は2027年4月1日であり、センターの運用や地域連携の具体化は次期基本計画等で引き続き検討されています。

この記事は、成立した民法の改正内容、現在適用されている制度、これから検討・整備される地域の支援体制を区別し、介護支援専門員・相談員・行政・社会福祉協議会などがどのように受け止めるかを考えます。制度の「法律上の権限」と、本人が暮らしを選び続けるための「日々の支援」は同じではありません。

1.何が変わるのか|現在の三類型から補助への一元化

現行の法定後見制度は、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の三類型に分かれています。家庭裁判所による審判と権限の付与を通して、財産管理などの法律行為を支える制度です。判断能力の区分により権限の基本的な範囲が大きく変わるため、必要な支援を柔軟に組み合わせにくいことが課題とされてきました。

今回成立した民法等改正法は、後見および保佐の制度を廃止し、補助の制度の対象を拡大します。利用者ごとに必要となる法律行為や支援内容を踏まえ、家庭裁判所が代理権・同意権などを個別に判断する制度へ組み直す方向です。これは「すべての人に同一の代理権を与える」という意味ではありません。

法務省は改正法の概要で、本人にとって必要な範囲で制度を利用できるようにすることを改革の趣旨として説明しています。制度を利用する人の生活や希望、支援の必要性を具体的に確認する重要性が高まると考えられます。

2.「特定補助人」とは何か|保護が特に必要な場面への仕組み

法律第45号の改正には「特定補助人」に関する審判の仕組みも設けられています。事理を弁識する能力を欠く常況にある人が、法定の重要な財産上の行為に関する取消権等を伴う「特定補助」の仕組みを、必要に応じて選択して利用できるようにするものです。すべての人に自動的に特定補助人が付くわけではありません。

したがって、補助への一元化は「財産被害を防ぐための権限が一律になくなる」という話ではありません。本人の権利や生活上のリスクを踏まえ、どの審判・権限が必要かを個別に検討する仕組みとなります。具体的な申立て・権限の要件は施行時の条文や最高裁判所の案内を確認する必要があります。

一般的な日常生活上の支援と、契約の代理や取消しなど法律上の権限を持つ行為は明確に区別しなければなりません。相談員や介護職が「本人のため」と考えていても、後見人等の権限がなければ当然に法律行為を代行できるわけではありません。

3.いつ始まるのか|成立と施行を混同しない

民法等改正法は2026年6月24日に公布されましたが、成年後見制度に関する改正の施行日は、公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令により定められます。つまり、2026年10月18日の時点で「新しい補助制度がもう始まった」「既に後見・保佐の新規申立てができない」とは説明できません。

また、法律の成立日、公布日、実際の施行日、既存利用者に関する経過措置の適用は異なる論点です。現に成年後見人等が選任されている人を含め、今後公表される施行日・経過措置・家庭裁判所の実務案内を確認する必要があります。

任意後見制度と法定後見制度は別の制度です。今回の法改正は法定後見の三類型を見直すだけでなく、任意後見制度についても、より柔軟な利用を可能にする見直しを含んでいます。「成年後見制度の全体がなくなる」「任意後見契約が一律に廃止される」という説明は誤りです。

4.なぜ地域の権利擁護支援が重要になるのか

地域の暮らしには、契約や財産管理以外にも多くの場面があります。例えば本人の希望する住まいを探すこと、福祉サービスを選ぶこと、医療や介護の説明を理解すること、日常のお金の扱いを相談すること、本人に不利益な関わりに気づくことなどです。法律上の代理権だけでは、これらをすべて解決することはできません。

2026年10月13日の厚生労働省の会議は、改正民法を実際に利用する場面を見据えて、適切な権利擁護支援と制度趣旨の周知を議論しました。専門家会議の配付資料は、成年後見制度の運用と地域の支援体制を一体として考える方向を示しています。ただし、次期基本計画の内容がすべて確定したという意味ではありません。

必要な法的支援を活用しながら、その前後にも本人が孤立せず暮らし続けられるよう、相談・意思決定支援・見守り・地域資源への橋渡しを組み合わせることが重要になります。これは地域の支援体制を考えるうえでの福祉教育ラボの整理です。

5.中核機関と地域連携ネットワーク|地域で何をつなぐのか

現在、成年後見制度利用促進の取組として、市町村や中核機関、社会福祉協議会、地域包括支援センター、障害者相談支援機関、専門職団体、家庭裁判所などが関係する地域連携ネットワークの整備が進められています。市町村によって設置形態や実際に担う業務には違いがあります。

2026年7月30日の「地域における権利擁護の支援体制に係るワーキング・グループ」では、地域権利擁護相談支援センターの整備やコーディネート機能の強化、多様な主体との連携、改正法施行後のネットワーク機能が論点になりました。9月17日の会合では、都道府県の役割や自治体による行政計画等の策定も取り上げられました。ただし、センターの設置を可能とする規定そのものは、同年6月の社会福祉法等改正法(法律第51号)で既に成立・公布されています。

改正社会福祉法第106条の15は市町村による相談支援・連絡調整・連携体制整備等に関する事務を定め、第106条の16は、市町村が中核的な役割を担う「地域権利擁護相談支援センター」を設置できることを定めています。第106条の17には関係機関等による会議体の規定もあります。センターは任意設置であり、2027年4月1日に関係規定が施行される予定です。現時点で同じ名称の窓口が全国一律に設置されているわけではありません。既存の中核機関の機能と、法定化されたセンターの規定、今後検討される具体的な運用を区別し、各自治体の現在の相談先を確認する必要があります。

6.日常生活自立支援事業や社会福祉法改正との関係

権利擁護支援は、家庭裁判所が選任する補助人等だけで成立するものではありません。社会福祉協議会などが実施する日常生活自立支援事業では、対象となる人に対し、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理、書類の預かりなどを契約に基づいて支える仕組みがあります。利用に必要な判断能力や契約の成立可能性など、事業ごとの要件があります。

さらに2026年6月19日に成立し、25日に公布された「社会福祉法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第51号)は、地域権利擁護相談支援センターの任意設置(改正社会福祉法第106条の16)を規定しています。このセンター等の規定は2027年4月1日に施行される予定です。同じ法律には、第二種社会福祉事業である「福祉サービス利用援助事業」(社会福祉法第2条第3項第12号)の見直しも含まれます。対象者を見直し、福祉サービスに加えて保健医療サービスや死亡後に必要なサービスの利用援助を含む仕組みへ改めるものです。この事業の改正規定については、公布から2年以内に政令で定める日に施行されるため、センターの規定と施行日が同じとは限りません。

民法等改正法(法律第45・46号)と社会福祉法等改正法(法律第51号)は別々の法律です。第51号の中でも、センターの設置規定は2027年4月1日施行、利用援助事業の見直しは公布後2年以内に政令で定める日とされており、施行日の定め方が異なります。法的に設置できる仕組みが整っても、地域で利用できる窓口や委託先が全国同時に同じ形で整うとは限りません。

この論点は、福祉教育ラボの既存記事「身寄りのない高齢者、2050年には9人に1人|改正社会福祉法で何が変わる?」で詳しく扱っています。本記事では、それを繰り返すのではなく、成年後見の法的権限と地域の生活支援の役割分担に焦点を当てます。

7.本人の意思決定を支えることと、代わって決めることは違う

ある人が「今の地域で暮らし続けたい」と話しているとき、周囲には「危険だから施設に移るべき」と考える人がいるかもしれません。本人の希望を把握し、必要な情報や選択肢を示し、時間をかけて理解や意思表明を支えることと、第三者が本人に代わって結論を決めることは、同じではありません。

意思決定支援では、説明方法、コミュニケーション手段、本人の生活史・価値観、支援者との関係、環境条件などを調整していきます。本人の意思を一度確認すれば十分ということでもありません。判断能力が不十分であることから、直ちにあらゆる場面の意思を軽視してよいと考えることは適切ではありません。

成年後見制度による法律行為の支援は、本人の意思決定支援を省略するための制度ではありません。改正法を理解する際にも、法的な代理の必要性と、本人がどのような生活を望むかをそれぞれ検討する視点が求められます。

8.介護・福祉現場で考えたい事例|支援が必要な範囲を見極める

仮に、一人暮らしの高齢者が、家賃の支払いや通帳の管理には不安を感じている一方、食事の好みや交流したい相手、今後住みたい場所は自分で決めたいと考えているケースを想定します。制度の説明に使う架空の事例であり、特定の個人についての判断ではありません。

この場合、まず日常生活の困りごと、本人の意思、周囲の支援者、支払いや契約に必要な行為を分けて整理します。地域の相談支援・日常生活自立支援事業などで対応できる部分と、家庭裁判所の審判に基づく権限が必要となる法律行為は同一ではありません。

支援の必要性を本人の「できないこと」だけで判断せず、「どのような支援があれば自分で選べるか」「法的な権限が本当に必要な行為は何か」「支援の体制をどう継続するか」をチームで考えることが、制度改正を実践へつなげる一つの方法です。

9.相談員・ケアマネジャー・管理者は何を準備すればよいか

現行制度と改正後の制度を混同しないことが第一です。施行前の相談や申立ては、現時点で適用される法令・家庭裁判所の案内を基に進めます。本人の判断能力だけで支援方針を固定せず、意思決定に必要な配慮、生活上の困りごと、家族や地域の支援力を記録していくことも重要です。

制度利用の検討では、本人の意思を確認した方法、選択肢の提示、具体的な法律行為の必要性、地域の相談先との役割分担を整理します。市町村長申立てや利用支援事業は、要件と担当窓口を自治体に確認してください。後見人等の選任・権限の有無を福祉職の判断だけで確定しないよう注意が必要です。

また、支援者一人に権利擁護の責任を集中させず、必要に応じて行政、中核機関、社会福祉協議会、専門職、医療・介護サービス事業所などが相談できる関係をつくることが大切です。高齢者の支援だけでなく、障害のある人の地域生活とも関わる課題として捉える必要があります。

10.これから確認したいこと|施行と地域整備を分けて追う

改正民法の成年後見関係の施行日、家庭裁判所の新しい審判手続・経過措置・既存の利用者への適用、補助人や特定補助人に関する実務案内は、引き続き一次資料で確認する必要があります。施行日が政令で決まった場合には、既存記事の情報も更新すべきです。

地域については、2027年4月1日施行予定の地域権利擁護相談支援センターの規定(任意設置)と、次期成年後見制度利用促進基本計画で引き続き検討されている具体的な体制整備を分けて追う必要があります。確認点は、市町村・都道府県の役割、既存の中核機関との関係、地域連携ネットワーク、相談体制、支援の担い手、費用や相談機会などです。2026年10月13日の専門家会議は、法律で成立した事項を含め、地域でどのように実施するかを検討したものであり、全国一律の運用開始を発表したものではありません。

社会福祉法等改正法(法律第51号)に含まれる利用援助事業の見直しは、センター設置規定(2027年4月1日施行予定)とは施行日の定め方が異なり、別に政令で定められます。成年後見関係の民法改正の施行も、別に政令で定める日です。法務省、厚生労働省、家庭裁判所、自治体の発表を見比べ、施行と地域での提供開始を混同しないことが大切です。

まとめ|「保護する仕組み」から、本人が選べる支援へ

2026年6月に成立した成年後見制度の見直しは、法律上の支援を本人に必要な範囲で利用する制度への転換を目指しています。さらに社会福祉法等改正法では、地域権利擁護相談支援センターの任意設置を可能とする規定が既に成立し、2027年4月1日に施行される予定です。一方、次期基本計画と地域の具体的な支援体制については検討が続いています。現行制度、成立した法律、施行前の規定、運用の検討を分けて理解することが出発点です。

支援する人にとっての安心だけでなく、本人が自分の人生について選べること。そのために、法的な権限と日々の支援を適切に組み合わせ、地域の人や機関がつながる必要があります。福祉教育ラボでは、制度の変更と暮らしの現実を、これからも丁寧に考えていきます。

一次資料

  1. 法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について(2026年6月17日成立、6月24日公布、施行期日・概要)
  2. 法務省「民法等の一部を改正する法律案」(成立法の経過と法律案要綱への導線)
  3. 厚生労働省 第23回成年後見制度利用促進専門家会議 配付資料一覧(2026年10月13日)(次期基本計画に係る意見交換、資料1~3)
  4. 厚生労働省 第23回専門家会議 資料3/ワーキング・グループの議論を踏まえた論点整理(地域の権利擁護支援・地域体制・周知の論点整理)
  5. 厚生労働省 第1回地域権利擁護支援体制WG(2026年7月30日)資料一覧(相談支援センター・地域ネットワークの議題)
  6. 厚生労働省 第3回地域権利擁護支援体制WG(2026年9月17日)資料一覧(都道府県の機能、自治体の行政計画、論点整理)
  7. 国立国会図書館 日本法令索引「社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号)」(別法の成立・公布日・法律番号)
  8. 厚生労働省「社会福祉法等の一部を改正する法律の公布について(通知)」(令和8年6月25日)(センターの法定化、福祉サービス利用援助事業の見直し、施行時期)
  9. 厚生労働省「成年後見はやわかり」(現行の利用案内、自治体・中核機関資料)

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