EPA介護福祉士候補者は、どのような道を経て日本に来るのか?|学歴・選考・日本語研修を整理
FUKUSHI EDUCATION LAB · 学びの整理
いっしょに学ぶ、その前に。来日までの道のりを、ひと目で。
介護福祉士の授業で、ベトナム出身のEPA介護福祉士候補者と学ぶ機会がありました。その人たちは日本に来る前、どのような学校で学び、どのような準備をしてきたのでしょうか。日本で一緒に学び、働く人の歩みを知ることは、互いの経験を尊重する出発点になります。
OVERVIEW
最初に結論|来日した日が、学びの始まりではない
EPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士候補者は、出身国で定められた学歴等の要件を満たし、公的な枠組みの募集・選考、受入れ施設とのマッチング、日本語研修等を経て日本へ来ます。来日後は介護施設で働きながら研修を受け、日本の介護福祉士国家資格の取得を目指します。制度の対象はインドネシア、フィリピン、ベトナムの3か国です。ただし、学歴・日本語要件・研修の順序は国ごとに違います。(出典:S01、S02、S03)
JICWELSによれば、2008年度から2025年度の受入れまでに来日したEPA介護福祉士候補者は計8,809人です。この人数は2025年度までの累計であり、2026年度や2027年度の見込み人数ではありません。(出典:S01)
FLOW 日本で働くまで、そして資格取得へ
- 01出身国で学ぶ国ごとに学歴等の要件
- 02募集・選考公的な手続きを経る
- 03施設とマッチング双方合意で雇用契約
- 04日本語研修・来日時期と順序は国により異なる
- 05働きながら学ぶ介護福祉士国家資格を目指す
※道筋を理解するための概念図です。日本語研修とマッチングの前後関係は国によって異なります。インドネシア・フィリピンは原則としてマッチング・雇用契約の後に訪日前日本語研修を受けますが、ベトナムは訪日前日本語研修を経て日本語能力試験N3以上に合格した人等がマッチングの対象になります。研修の免除条件も国・年度・個人により異なり、この順序が全員にそのまま当てはまるわけではありません。(出典:S01、S09)
01 / 制度の背景
1.EPAとは何か|国同士の枠組みによる受入れ
EPAは、貿易や投資だけでなく、人の移動なども含む経済連携を進める国際的な枠組みです。介護福祉士候補者の受入れは、日インドネシアEPA、日フィリピンEPA、日ベトナムEPAに基づく交換公文などを通じて行われています。受入れ開始はインドネシアが2008年度、フィリピンが2009年度、ベトナムが2014年度です。(出典:S02)
この制度では、国際厚生事業団(JICWELS)が日本側の唯一の受入れ調整機関として、受入れ施設と候補者のあっせんを担います。民間の人材紹介会社が独自にEPA候補者をあっせんする仕組みではありません。「外国から来た介護職員」はすべてEPA候補者という意味ではなく、特定技能、技能実習、在留資格「介護」などとは制度が異なります。(出典:S02、S04)
02 / 学歴要件
2.出身国で何を学んでいるのか|3か国の学歴要件
EPA介護福祉士候補者の応募要件を、2027年度受入れに向けたJICWELSの案内をもとに比較します。「看護を学んだ人が多い」という印象だけで捉えず、国ごとの要件を確認することが大切です。(出典:S01、S03)
| 出身国 | 学歴等の要件 |
|---|---|
| インドネシア | 3年以上の看護学校卒業、または3年以上の高等教育機関卒業と同国政府による介護士認定 |
| フィリピン | 4年制の看護学校(学士)卒業、または4年制大学卒業と同国政府による介護士認定 |
| ベトナム | 3年制または4年制の看護課程修了 |
ここで注意したいのは、「看護課程を修了した」と「母国の看護師免許を持つ」を同じ意味で扱わないことです。例えば、ベトナムのEPA介護福祉士候補者には看護課程修了が要件ですが、EPA看護師候補者のように、看護課程修了に加えてベトナムの看護師資格と実務経験2年を応募要件としているわけではありません。介護福祉士候補者と看護師候補者は、制度上の別の区分です。(出典:S01、S05)
したがって、一緒に働く相手について「看護学校を出ているのだから日本の医療行為も当然できる」と推測することもできません。日本で行える業務は、日本の資格制度、法令、勤務上の役割に照らして判断します。
学んできたことや取得資格は人によって異なります。日本で行える医療行為も、日本の資格・法令・職務の範囲に従って確認します。
03 / 選考とマッチング
3.日本行きはどう決まるのか|募集・選考・マッチング
施設はJICWELSに求人登録を申請し、受入れ要件の確認を受けます。一方、候補者はそれぞれの国の送り出し調整機関を通じて応募し、学歴等の要件審査や選考を受けます。JICWELSによる面接や、希望する施設による現地合同説明会などを経て、候補者と施設それぞれの希望が取りまとめられます。(出典:S03)
ここで行われる「マッチング」は、候補者の希望と施設の受入れ意向を照合する手続きです。最終的に双方が合意すると、来日前に雇用契約を結びます。つまり、本人は日本の受入れ先が決まらないまま、何となく渡航するわけではありません。契約には就労先、賃金、労働時間、休暇などの条件が関係します。(出典:S03、S04)
母国の送り出し調整機関を通じて応募
JICWELSに求人登録を申請
※候補者と受入れ施設の双方の希望を調整する仕組みを示した図です。実際の選考・面接の順序は年度別の手引きを確認してください。
04 / 日本語研修
4.日本語はいつ、どこで学ぶのか|N3とN4を混同しない
日本語の学習経路にも国ごとの違いがあります。インドネシア人・フィリピン人候補者は、原則として訪日前の日本語研修と訪日後の研修を経て、就労時にはN3程度以上の水準を目指す仕組みです。JICWELSの2027年度説明資料では、入国時の目安をN4程度以上、就労時をN3程度以上と説明しています(フィリピンの入国時条件には「調整中」との注記があります)。また、試験合格状況などによる研修免除の仕組みがあり、すべての人が同じ期間の研修を受けるわけではありません。(出典:S01、S03)
ベトナム人候補者は、日本語能力試験N3以上を満たして入国するルートです。来日前から日本語を学び、来日後にも日本語・介護導入等の研修を受けて就労へ進みます。2027年度の案内では、来日後の研修はおおむね2か月と説明されています。(出典:S01、S03)
ここでのN3・N4は、日本語能力試験の区分や研修上の目安を説明するものです。N3だから介護の専門用語、方言、利用者の遠回しな表現まですべて理解できる、という意味ではありません。逆に、日本語に不慣れな場面があることを、介護に関する知識や判断力の不足と同一視することもできません。
N3程度以上
入国時の目安はN4程度以上と説明されています。ただし、フィリピンの入国時条件には「調整中」の注記があり、研修免除の仕組みもあります。
N3以上→来日後研修
おおむね2か月→就労へ
来日前から日本語を学び、N3以上の水準を満たして入国するルートです。研修順序は国によって異なります。
専門用語・方言・記録・緊急時の報告には、その業務に即した学びと確認が必要です。
05 / 来日後の生活
5.来日してからは何をするのか|就労と研修を両立する
候補者は訪日後の研修を終えると、受入れ施設で介護業務に従事しながら、国家試験に向けた学習を進めます。受入れ施設は、研修責任者や研修支援者の配置、研修計画、学習時間の確保などを通じて資格取得を支援する役割を担います。(出典:S03)
候補者との関係は雇用契約です。日本人が同じ仕事をする場合と同等以上の報酬が必要で、日本の労働法令や社会・労働保険も適用されます。「研修生だから通常の労働者と違い、賃金や休暇を軽く扱ってよい」という理解は誤りです。(出典:S04)
また、生活の立ち上げには、住居、生活情報、相談先の確保なども関係します。資格学習の支援だけでなく、安心して生活し働ける条件を整えることも受入れ側の大切な役割です。受入れ側の制度上の要件と、本人が実際に経験する生活上の課題は、区別して確かめる必要があります。(出典:S03)
06 / 国家試験
6.介護福祉士国家試験への道筋と、資格取得後
EPA介護福祉士候補者は、日本で就労・研修を重ねて介護福祉士国家試験の受験資格を得て、試験に臨みます。受験申込みには、EPA候補者としての管理番号など、通常の受験区分とは異なる手続きがあります。詳細は社会福祉振興・試験センターの案内を確認する必要があります。(出典:S07)
従来の枠組みでは、介護福祉士候補者の滞在期間は原則4年間です。国家試験に不合格だった場合も、一定の成績等を満たした人について特例的な延長が認められることがありますが、全員に自動的に適用されるものではありません。別の在留資格への変更等も、個別の要件により取り扱いが異なります。(出典:S03、S04)
国家試験に合格してEPA介護福祉士となれば、資格取得後の就労を継続でき、在留期間の更新回数に制限はありません。ただし、更新等の手続きが不要になるという意味ではありません。国の違いと資格取得前後の違いを分けて理解しましょう。(出典:S01、S04)
関連記事:介護福祉士国家試験2027(第39回)の日程と流れ
※受験資格、受験手続き、在留期間の取扱いには個別条件があります。合格後も在留更新等の手続きが必要です。
07 / 制度改正
7.2026年の制度変更|インドネシアは滞在期間が最大5年に
2026年8月1日に日インドネシアEPAの改正議定書が発効しました。JICWELSによると、改正後に入国する2027年度のインドネシア人介護福祉士候補者から、EPAに基づく滞在期間は最大5年間となり、介護福祉士国家試験の受験機会も最大2回となります。(出典:S06、S08)
これまでにもインドネシア人候補者は協定外の特例延長を含めると最大5年間となる場合がありましたが、改正では協定上の取扱いが変わりました。この変更を「EPA候補者は全員5年間になった」と一般化してはいけません。フィリピン人・ベトナム人候補者には同じ改正が直接適用されるわけではありません。(出典:S06)
2027年度に入国するインドネシア人介護福祉士候補者から
最大2回
日インドネシアEPA改正に基づく取扱い
08 / 同じ教室で
8.同じ教室で学ぶ人として知っておきたいこと
授業でEPA候補者と一緒になると、日本語が自然で、専門用語の理解も早く、「もう十分に知識がある」と感じる場面があるかもしれません。しかし、その姿だけから、来日前の努力の長さや母国での学びの内容を正確に推測することはできません。反対に、聞き取れなかった一つの言葉だけで、その人の理解力を判断することもできません。
大切なのは「どの国から来た人か」という属性だけで説明しないことです。「何を学んできたのか」「日本で学びたいことは何か」「現場で難しいと感じていることは何か」。こうした問いは、本人が話したい範囲を尊重しながら、一人ひとりに確かめる必要があります。
例えば介護技術の演習では、同じ用語でも理解の入り口が違うことがあります。教員が先に説明するだけでなく、受講者同士が事例に沿って「なぜこの支援を選ぶのか」を説明し合えば、言葉だけでなく経験や判断の根拠を共有する機会になります。これはEPA候補者だけに必要な方法ではなく、経験年数や母語の異なるすべての学習者に役立つ教育上の工夫です。
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ASK 一人ひとりに聞いてみたいこと
※本人が話したい範囲を尊重し、出身国だけで経験や能力を決めつけないための問いかけ例です。
09 / 現場でできること
9.受入れ施設と一緒に働く職員が、明日からできること
制度を知った後に大切なのは、相手を「外国人職員」という一括りのカテゴリーだけで捉えないことです。受入れ側は、学習時間や生活支援の条件、質問しやすい雰囲気、試験勉強と勤務の両立を具体的に確認できます。一緒に働く職員は、専門用語や略語を補足し、利用者への声かけの理由を共有し、分からないことを互いに質問できる関係をつくれます。
日本語を「やさしくする」ことは、判断を曖昧にすることではありません。例えば「様子を見ておいて」とだけ伝える代わりに、「食後30分は表情、呼吸、むせの有無を観察し、変化があれば看護師へ報告する」と、観察内容と報告先を具体化できます。こうした明確さは、母語を問わず事故予防やチーム連携の助けになります。
関連記事:介護人材の不足
※コミュニケーション例です。実際の観察項目・時間・報告基準は個別のケア計画や施設の手順に従ってください。
FAQ
よくある疑問
Q.EPA介護福祉士候補者は、全員が母国で看護師資格を取得していますか?
いいえ。国ごとの要件には看護課程の修了等がありますが、EPA看護師候補者と同じ看護師資格・実務経験要件ではありません。個人の免許や職歴は、本人の実際の経歴と資格を確認する必要があります。
Q.N3に合格していれば、日本の介護現場の仕事をすべて理解できますか?
日本語能力試験の水準と、介護の専門用語、利用者との会話、記録、緊急時の報告を行う能力は同じ指標ではありません。具体的な業務に即した説明、研修、確認が必要です。
Q.EPA介護福祉士候補者は、特定技能の外国人介護職員と同じ制度ですか?
同じではありません。EPAは二国間の公的枠組みで、日本の介護福祉士国家資格取得を目指す就労・研修を中心に設計されています。適用される在留資格や受入れ手続きは区別して確認します。
MESSAGE
まとめ|人の歩みを知ることから、共に学ぶ関係が始まる
EPA介護福祉士候補者は、出身国での教育・選考、日本語学習、施設とのマッチング、来日後の研修、介護の仕事と国家試験への学びを積み重ねています。その過程は国や個人によって異なり、一つの「外国人介護職員像」にまとめることはできません。制度の道筋を知ることは、一人ひとりの背景を決めつけるためではなく、同じ職場や教室で互いの学びを尊重するための出発点です。
REFERENCES
一次資料・公式情報
- [S01] JICWELS「EPA介護福祉士候補者 受入れについて」(2026年9月29日更新)
- [S02] JICWELS「EPA制度の概要」(2026年4月8日)
- [S03] JICWELS「2027年度版 EPAに基づく介護福祉士候補者受入れの手引き」
- [S04] 厚生労働省「インドネシア、フィリピン及びベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて」
- [S05] JICWELS「EPA看護師候補者 受入れについて」(2026年9月30日更新)
- [S06] JICWELS「日尼EPA改正に伴う候補者の滞在期間変更について」(2026年8月3日更新)
- [S07] 社会福祉振興・試験センター「EPA介護福祉士候補者の受験手続」
- [S08] JICWELS「2027年度受入れ説明会 第1部 JICWELS説明資料」(13ページ)
- [S09] JICWELS「2026年度版 EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者受入れパンフレット」(国別の受入れの流れ)
この記事は2026年10月16日時点で確認できる一次資料に基づく制度の整理です。募集・研修・在留の取扱いは年度や個別事情によって異なるため、受入れや受験の手続きではJICWELS、厚生労働省、試験センターの最新案内をご確認ください。


