使用者による障害者虐待610人|虐待種別の83.1%が経済的虐待【令和7年度】

福祉ニュース 2026年9月15日時点
```

厚生労働省が公表した令和7年度の「使用者による障害者虐待」では、 同年度中に対応が完了し、虐待が認められた障害者は610人でした。 認められた虐待種別では経済的虐待が521人、83.1%で最多です。 ただし、この「83.1%」の分母は610人ではありません。 今回は、数字の読み方そのものも含めて整理します。

```

最初に押さえたい4つの数字

```
通報・届出の対象 1,953人 前年度比6.9%増
虐待が認められた障害者 610人 前年度比6.4%減
経済的虐待 521人 虐待種別延べ627人の83.1%
虐待を行った使用者 83.7% 429人中359人が事業主
```
この統計で、特に読み間違えたくない2点
  • 「610人の83.1%が経済的虐待」ではありません。 虐待種別は複数の虐待が重複計上されるため、延べ627人のうち521人、83.1%です。
  • 「通報1,953人のうち610人が認定された」という意味でもありません。 通報・届出と対応結果は、それぞれ年度内に「通報されたもの」「対応が完了したもの」を集計しており、同じ集団を追跡した数字ではありません。
使用者による障害者虐待の統計の読み方。通報・届出1,953人と虐待が認められた610人は同じ対象者を追跡した数字ではなく、経済的虐待83.1%は虐待種別延べ627人のうち521人を示す
厚生労働省「令和7年度使用者による障害者虐待の状況等」をもとに福祉教育ラボ作成

1|まず、数字を正しく読む

```

令和7年度に通報・届出があったのは1,663事業所。 対象となった障害者は1,953人でした。

前年度と比較すると、事業所数は4.4%増、障害者数は6.9%増です。

一方、虐待が認められたのは421事業所、610人。 前年度から、事業所数は3.0%減、障害者数は6.4%減となっています。

区分 令和7年度 前年度比
通報・届出のあった事業所 1,663事業所 4.4%増
通報・届出の対象となった障害者 1,953人 6.9%増
虐待が認められた事業所 421事業所 3.0%減
虐待が認められた障害者 610人 6.4%減

「1,953人のうち610人」ではない

数字だけを見ると、 「通報は増えたが、虐待の認定は減った」 ように見えます。

ただし、この二つを直接つないで考えることはできません。

通報・届出

令和7年4月1日から令和8年3月31日までに 「通報・届出があったもの」を集計。

対応結果

同じ期間に 「対応が完了したもの」を集計。

年度末に通報されて翌年度に対応が完了するケースもあれば、 前年度以前に通報され、令和7年度中に対応が完了するケースもあり得ます。

統計を読むときの注意

「通報1,953人 → 調査 → 610人を認定」という一つの流れを示した数字ではありません。 分子・分母だけでなく、「どの期間に、何を数えた数字なのか」を確認する必要があります。

「83.1%」の分母も610人ではない

虐待が認められた障害者は610人でしたが、 虐待種別では次のようになっています。

虐待種別 人数 構成比
身体的虐待 31人 4.9%
性的虐待 4人 0.6%
心理的虐待 62人 9.9%
放置等による虐待 9人 1.4%
経済的虐待 521人 83.1%
延べ人数 627人 100%

一人の障害者に、例えば心理的虐待と経済的虐待の両方が認められた場合、 それぞれの虐待種別に重複して計上されます。

したがって83.1%とは、 「虐待が認められた610人のうち83.1%」ではなく、 「認められた虐待種別の延べ627人のうち、経済的虐待が521人、83.1%」 という数字です。

通報段階では、心理的虐待も39.3%

通報・届出の段階で把握された虐待種別は、延べ2,210人でした。

虐待種別 通報・届出段階 構成比
経済的虐待 997人 45.1%
心理的虐待 868人 39.3%
身体的虐待 167人 7.6%
放置等による虐待 154人 7.0%
性的虐待 24人 1.1%

対応が完了し、虐待が認められた事案では、 経済的虐待83.1%、心理的虐待9.9%でした。 通報・届出段階とは、虐待種別の構成が大きく異なります。

ただし、 「心理的虐待は通報されても認定されにくい」 とまでは、この統計から言うことはできません。

ここで確認できること

通報・届出段階と、対応が完了した事案では、虐待種別の構成に大きな違いがあります。 ただし両者は同じ対象者を追跡した母集団ではないため、その差をそのまま「認定率」と読むことはできません。

```

2|「使用者による障害者虐待」とは

```

障害者虐待防止法では、障害者虐待を大きく、 「養護者による虐待」 「障害者福祉施設従事者等による虐待」 「使用者による虐待」 という関係から捉えています。

養護者 家族などによる虐待
施設従事者等 福祉サービス利用者への虐待
使用者 職場で働く障害者への虐待
今回の記事 使用者虐待を扱う

今回取り上げているのは、 障害福祉サービスの利用者が支援職から受けた虐待の統計ではありません。

障害のある「労働者」が、 雇用されている職場で受けた虐待についての統計です。

「使用者」は事業主だけではない

法律上の「使用者」には、事業主のほか、 事業の経営担当者、 その他その事業の労働者に関する事項について 事業主のために行為する者が含まれます。

そのため、労務管理を担う管理者や人事担当者なども、 立場や行為の内容によって使用者に含まれます。

障害者手帳を持っていない人も対象になり得る

障害者虐待防止法でいう「障害者」は、 障害者手帳を持っている人だけではありません。

厚生労働省も今回の公表資料で、 障害者手帳を取得していない場合も対象に含まれることを明記しています。

```

3|数字から、経営・職場の構造を見る

```

虐待を行った使用者の83.7%は「事業主」

虐待を行った使用者は429人。 その内訳は次のとおりでした。

使用者の立場 人数 割合
事業主 359人 83.7%
所属の上司 45人 10.5%
その他 25人 5.8%

職場での虐待というと、 「一部の上司が不適切な対応をした」 というイメージを持つかもしれません。

しかし、今回把握された事案では、 事業主本人が8割を超えています。

とくに経済的虐待は、賃金、雇用条件、労務管理など、 経営判断と切り離しにくい問題です。 虐待防止を「職員研修」だけで考えるのではなく、 経営・組織運営の課題として見る必要があります。

認定事業所の56.5%は30人未満

虐待が認められた421事業所を規模別に見ると、 5人未満が70事業所、16.6%。 5~29人が168事業所、39.9%でした。

合わせると238事業所。 虐待が認められた事業所の56.5%が30人未満です。

「小規模だから起こりやすい」とは言えない

この数字は、全国の障害者雇用における事業所規模別の就業者数などを分母にした「発生率」ではありません。 今回確認できるのは、「虐待が認められた421事業所のうち、30人未満が過半数だった」という事実までです。

なぜ「経済的虐待」がこれほど多いのか

障害者虐待防止法では、経済的虐待を、 障害者の財産を不当に処分することや、 障害者から不当に財産上の利益を得ることなどとして位置づけています。

職場では、賃金の問題もここに関係します。

今回、厚生労働省が示した事例の一つでは、 発達障害のあるパート・アルバイトの労働者について、 約定賃金が地域別最低賃金を1時間当たり約600円下回っていました。

労働基準監督署が賃金台帳などを確認し、 最低賃金以上の賃金が支払われていなかった事実を確認。 経済的虐待が認められ、事業主に対し最低賃金との差額を支払うよう指導しています。

最低賃金の「減額の特例」

地域別最低賃金は、原則としてパートやアルバイトを含むすべての労働者に適用されます。 一方、最低賃金法第7条には「最低賃金の減額の特例」があります。

対象となり得るのは、精神または身体の障害により著しく労働能力が低い人だけではなく、 試の使用期間中の人、一定の認定職業訓練を受けている人、 軽易な業務に従事する人、断続的労働に従事する人などです。

障害があるだけで自動的に最低賃金を下回る賃金設定が認められるわけではなく、 使用者が所定の申請を行い、都道府県労働局長の許可を受ける必要があります。

労働局の措置の85.3%は労働基準関係法令

虐待に対して労働局が講じた措置は延べ658件でした。

労働基準関係法令

561件、85.3%。

うち最低賃金法

207件、全措置の31.5%。

「障害者虐待」という問題を、 福祉制度の中だけで考えることはできません。

賃金、労働条件、ハラスメント、障害への配慮、相談対応。 障害のある人が職場で受ける問題は、 労働法や障害者雇用政策とも重なっています。

権利擁護とは、福祉サービスの中だけにあるものではありません。 働く場で、一人の労働者としての権利を守ることも権利擁護です。

```

4|「殴る」「怒鳴る」だけではない―5つの虐待類型

```

今回の厚生労働省資料には、 5つの虐待類型について具体的な対応事例も掲載されています。

身体的虐待

精神障害のある正社員が、上司から大声で叱責され、 髪をつかんで引っ張られるなどの行為を受けた事例。

性的虐待

上司が作業着のサイズ確認を口実として、 障害のある労働者を下着姿にさせた事例。 男女雇用機会均等法に基づく指導が行われました。

心理的虐待

知的障害のある労働者に対し、 上司が業務指示をわざと早口で伝え、 聞き返すと怒鳴るなどの行為が確認された事例。

放置等による虐待

同僚からの嫌がらせについて人事担当者に相談したにもかかわらず、 十分な対応が行われなかった事例。

経済的虐待

発達障害のあるパート・アルバイトの労働者について、 約定賃金が地域別最低賃金を1時間当たり約600円下回っていた事例。 労働基準監督署は最低賃金との差額を支払うよう指導しました。

「殴る」「怒鳴る」といった明確な行為だけを見るのでは不十分です。

相談を受けたのに対応しない。 障害特性を無視した方法で仕事を指示し続ける。 適正な賃金を支払わない。 性的な尊厳を侵害する。

日常の労務管理や職場環境そのものが、 虐待防止とつながっています。

```

5|障害種別・雇用形態・業種をどう読むか

```

障害種別では精神障害が35.7%

障害種別 人数 割合
精神障害 220人 35.7%
知的障害 194人 31.4%
身体障害 140人 22.7%
発達障害 26人 4.2%
その他 37人 6.0%

複数の障害がある場合は重複して計上されるため、 延べ617人です。

「精神障害の人ほど虐待を受けやすい」とは言えない

障害種別ごとの就労者数を分母として計算した発生率ではありません。 確認できるのは、「今回、虐待が認められた事案の障害種別では精神障害が最も多かった」というところまでです。

パート・アルバイトが44.6%

障害種別だけでなく、雇用形態にも目を向けてみます。

就労形態 人数 割合
パート・アルバイト 272人 44.6%
正社員 203人 33.3%
期間契約社員 24人 3.9%
派遣労働者 4人 0.7%
その他・不明 107人 17.5%

経済的虐待に限ると、 パート・アルバイトは258人です。

ただし、これも 「パート・アルバイトの方が虐待を受けやすい」 ことを示す発生率ではありません。

それでも、 雇用形態、賃金、労働条件、 本人が声を上げられる環境、 相談されたときの組織の対応といった要素を、 障害者雇用と切り離さずに考える必要があることは見えてきます。

「医療、福祉」が102事業所で最多

福祉教育ラボとして、もう一つ見ておきたい数字があります。

業種 事業所数 割合
医療、福祉 102事業所 24.2%
製造業 87事業所 20.7%
卸売業、小売業 58事業所 13.8%
宿泊業、飲食サービス業 46事業所 10.9%

「医療、福祉」が最も多い。 福祉に関わる立場としては、見過ごせない数字です。

ここでも「発生率」と混同しない

この資料には、産業別に障害者を何人雇用しているかという分母がありません。 したがって、「医療・福祉は他産業より障害者虐待が起こりやすい」とは言えません。

また、ここでいう「医療、福祉」は産業分類上の業種です。

障害福祉サービス事業所の職員が 「利用者」に行った虐待を数えているのではありません。

その事業所で働く、障害のある 「労働者」への使用者虐待です。

同じ「障害者虐待」という言葉でも、 誰と誰との関係なのか。 どの法律・制度の中の問題なのか。 そこを分けて考える必要があります。

```

6|数字が減ったことを「改善」とだけ見ない

```

虐待が認められた障害者数は、 令和5年度761人、令和6年度652人、令和7年度610人と、 2年続けて減少しています。

一方、通報・届出の対象となった障害者は、 令和6年度1,827人から令和7年度1,953人へ増加しました。

虐待が認められた障害者

761人 → 652人 → 610人

通報・届出対象者

1,827人 → 1,953人

冒頭でも確認したように、 この二つは同じ対象者を追跡した数字ではありません。

そのため、 「通報が増えたから虐待が増えた」 「認定が減ったから職場環境が改善した」 とも、この統計だけでは判断できません。

相談窓口が知られるようになった。 これまで表面化していなかった問題が相談につながった。 通報される事案の性質が変わった。 調査や対応の時期が年度をまたいだ。

さまざまな可能性があります。

行政統計を見るときには、 「数字がどう変わったか」だけではなく、 「その数字が、どのような集計方法によって作られたのか」 まで確認する必要があります。

```

福祉教育ラボの視点|「障害者雇用」を人数だけで見ない

```

障害者雇用について話すとき、 雇用率、雇用人数、就職者数、定着率。 さまざまな数字が使われます。

もちろん、どれも大切です。

でも、その数字の先にいる一人ひとりが、 どのような条件で働いているのかということも、 同じくらい大切です。

適正な賃金を受け取れているか。

障害特性を踏まえて仕事の説明を受けられているか。

困ったときに相談できるか。

相談したときに、組織は動いてくれるか。

今回の統計では、 虐待を行った使用者の83.7%が事業主でした。

虐待が認められた事業所の56.5%は30人未満。 そして、虐待種別の延べ人数では83.1%が経済的虐待でした。

この三つの数字を見ても、 虐待防止を「悪いことをしないための研修」だけに閉じることはできません。

賃金管理。労務管理。相談体制。障害への理解。 ハラスメント対策。経営者自身の法令理解。

こうした日常の組織運営が、 虐待防止そのものにつながります。

働くことは、単に職場に所属することではありません。

自分の力を発揮し、その仕事に対する正当な対価を受け取り、 人との関係をつくりながら生活していく営みです。

だから障害者雇用を、 「何人雇ったか」だけで終わらせない。

その人が一人の労働者として尊重されているか。 そこまで含めて見ていく必要があります。

```
今回の「83.1%」という数字の向こう側にあるのは、 制度上の分類だけではありません。
一人ひとりの「働く」という生活があります。

数字を正確に読むこと。
そして、その数字の先にいる人を見ること。
その両方を大切にしたいと思います。

主な一次資料・公的資料

```
  1. 厚生労働省「令和7年度使用者による障害者虐待の状況等」の結果を公表します
  2. 厚生労働省「令和7年度使用者による障害者虐待の状況等」別添資料(PDF・全17頁)
  3. 厚生労働省「障害者虐待防止法」関係資料
  4. 厚生労働省「最低賃金の減額の特例」等に関する案内

本記事は2026年9月15日時点で公表されている厚生労働省の一次資料・公的資料をもとに、 福祉教育ラボが統計の分母、集計対象、制度上の位置づけを確認したうえで整理しています。 構成比は発生率とは異なり、通報・届出と対応結果も同一集団を追跡した数値ではありません。

```