島根県で訪問介護16事業所が廃止|11事業所は人員確保困難、中山間地域の介護をどう守る?
厚生労働省の令和7年監督指導結果では、 特定技能外国人を使用する監督事業場の76.5%、 技能実習生を使用する監督事業場の73.2%で 労働基準関係法令違反が確認されました。 ただし、これは全国の受入れ事業所全体の違反率ではありません。 今回は、数字の分母と対象を確認しながら、 福祉・介護現場が何を見直すべきかを整理します。
厚生労働省「外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況」
最初に押さえたい4つの数字
監督指導 8,082 事業場
違反事業場 76.5% 6,179事業場
監督指導 13,148 事業場
違反事業場 73.2% 9,619事業場
- 全国の特定技能受入れ事業所の76.5%が違反した、という数字ではありません。 今回の監督対象は、労働基準関係法令違反が疑われる事業場です。
- 特定技能外国人本人の76.5%が法令違反を受けた、という意味でもありません。 違反には、同じ事業場で働く特定技能外国人以外の労働者に関する違反も含まれます。
1|76.5%・73.2%をどう読むか
令和7年の監督指導結果では、 特定技能外国人を使用する8,082事業場のうち、 6,179事業場で労働基準関係法令違反が認められました。
違反事業場割合は76.5%です。
技能実習生を使用する事業場では、 13,148事業場を監督し、 9,619事業場、73.2%で違反が確認されました。
| 区分 | 監督指導 | 違反事業場 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 特定技能 | 8,082事業場 | 6,179事業場 | 76.5% |
| 技能実習 | 13,148事業場 | 9,619事業場 | 73.2% |
「外国人を雇う事業所の7割超が違反」ではない
ここで最も重要なのは、調査対象です。
厚生労働省は、 労働基準関係法令違反が疑われる事業場に対して監督指導を実施しています。
全国の受入れ事業所を無作為に抽出した調査ではありません。
したがって今回の76.5%は、 「法令違反が疑われて監督を受けた特定技能外国人使用事業場のうち、何らかの労働基準関係法令違反が確認された割合」 と読む必要があります。
「外国人本人への違反率」でもない
厚生労働省は、違反事業場について、 特定技能外国人以外の労働者に関する違反も含まれると注記しています。
例えば、一つの事業場で日本人職員について労働時間管理上の違反が確認された場合も、 その事業場は違反事業場として数えられ得ます。
「特定技能外国人の76.5%が法令違反を受けた」という数字ではありません。 今回数えているのは「違反が確認された事業場」です。
2|どのような違反が多かったのか
特定技能外国人を使用する8,082事業場で、 主に確認された違反事項は次の3つでした。
医師等からの意見聴取 16.7%
技能実習でも、 安全基準22.8%、 健康診断後の医師等からの意見聴取15.7%、 割増賃金15.6%が上位でした。
賃金だけが問題になっているわけではありません。
労働災害を防ぐ安全管理。 健康診断後の健康管理。 時間外・休日・深夜労働への適切な割増賃金。
いずれも、働く人を守るための基本的な労務管理です。
一つの事業場で複数の違反が確認された場合、 それぞれの違反事項に計上されます。 そのため、各違反事項の件数を合計しても違反事業場数とは一致しません。
3|福祉・介護で見ると|社会福祉施設は76.6%
福祉教育ラボとして特に確認しておきたいのが、 「社会福祉施設」の結果です。
厚生労働省は、 特定技能1号外国人が多い5分野に関連する業種について、 個別に監督結果を集計しています。
介護分野に関連する業種として、 「社会福祉施設」が示されています。
1,047事業場
802事業場、76.6%
「社会福祉施設」は高齢者介護だけを意味しません。 老人福祉・介護に加え、障害者福祉、児童福祉なども含む業種区分です。 また、今回の76.6%も、法令違反が疑われ監督指導を受けた事業場の中での割合です。
社会福祉施設で多かった3つの違反
医師等からの意見聴取 22.9%
福祉・介護の現場に置き換えるなら、 まず確認したいのは日々の基本的な労務管理です。
労働時間を正確に把握できているか。
時間外・休日・深夜労働に必要な割増賃金を支払っているか。
雇用時に賃金や労働時間などの労働条件を適切に明示しているか。
健康診断を実施するだけで終わらず、結果を健康管理につなげているか。
これは外国人職員だけに必要な特別な管理ではありません。
本来、すべての職員について行われるべき労務管理です。
4|5業種を比べると、福祉だけが突出しているわけではない
社会福祉施設の76.6%という数字だけを見ると、 「福祉で特に問題が多いのではないか」と感じるかもしれません。
そこで、厚生労働省が示した5業種を並べてみます。
| 業種 | 監督指導 | 違反事業場 | 違反率 |
|---|---|---|---|
| 食料品製造 | 1,399 | 1,065 | 76.1% |
| 社会福祉施設 | 1,047 | 802 | 76.6% |
| 工業製品製造 | 1,722 | 1,272 | 73.9% |
| 建設 | 1,238 | 1,008 | 81.4% |
| 飲食店 | 366 | 295 | 80.6% |
5業種の中では、 建設81.4%、飲食店80.6%が社会福祉施設を上回っています。
社会福祉施設の76.6%は軽く見ることのできない数字ですが、 「福祉だけが突出して違反が多い」ことを示す結果ではありません。
違反率だけでなく「中身」も違う
業種ごとに、上位となる違反事項にも違いがあります。
| 業種 | 特徴的な上位違反 |
|---|---|
| 食料品製造 | 安全基準 39.0% |
| 工業製品製造 | 安全基準 30.9% |
| 社会福祉施設 | 割増賃金 25.9% |
| 飲食店 | 労働時間 33.9% |
製造業では安全基準、 社会福祉施設では割増賃金、 飲食店では労働時間が目立っています。
ただし、 「なぜその違反が多いのか」という原因までは、 この監督統計だけでは分かりません。
数字から確認できる事実と、 背景についての推測は分けて考える必要があります。
5|外国人本人からの「申告」では賃金問題が目立つ
監督指導とは別に、 外国人本人から労働基準監督署等へ 法令違反の是正を求める「申告」もあります。
特定技能外国人からの申告
令和7年の申告は150件でした。
一つの申告に複数の事項が含まれる場合があるため、 各項目を合計しても150件とは一致しません。
技能実習生からの申告は108件で、 こちらでも賃金・割増賃金の不払が93件と最も多くなっています。
行政が監督に入り確認した違反では、安全衛生上の問題も多く見られます。 一方、本人が「困っている」と行政へ訴えた内容では、賃金問題が目立ちます。 二つの数字は分けて読む必要があります。
6|製造業の事例から考える「伝わる安全教育」
金属製品製造業の工場では、 特定技能外国人が切断用電動工具で負傷する労働災害が発生しました。
監督では、じん肺健康診断が行われていなかったことや、 必要な技能講習を修了していない特定技能外国人が フォークリフトを運転していたことなども確認されました。
是正後には、作業手順の見直しや、 母国語による安全衛生教育などが行われています。
鉄鋼業の工場では、 機械を停止しないまま調整作業を行った特定技能外国人が 手を挟まれる労働災害が発生しました。
是正後は、母国語を併記した掲示物や安全教育などが行われています。
製造業の事例ですが、 福祉・介護の現場にも通じるものがあります。
「説明した」ことと、「相手に伝わった」ことは同じではありません。
移乗。 入浴。 福祉用具。 感染対策。 服薬。 夜勤時の対応。 事故・緊急時の手順。
介護現場にも、 理解が不十分であれば職員本人や利用者の安全につながる業務があります。
日本語能力だけを本人側の課題として考えるのではなく、
理解できる方法で伝えたか。 理解できたことを確認したか。 分からないと言える環境があるか。
というところまで、 組織の仕組みとして考える必要があります。
その土台にあるのが「労働者としての権利」
こうした安全衛生教育や賃金支払いの土台となるのが、 労働関係法令です。
日本国内で働く限り、 外国人労働者にも原則として労働基準法などの労働関係法令が適用されます。
労働基準法第3条では、 国籍などを理由として、 賃金や労働時間その他の労働条件について 差別的取扱いをすることを禁止しています。
外国人だから最低賃金が違う。
外国人だから残業代を支払わなくてよい。
外国人だから安全衛生管理を簡略化してよい。
ということではありません。
7|労基署と入管は、別々に動いているわけではない
外国人労働者の労働条件を守るため、 労働基準監督署等と出入国在留管理機関の間では、 法令違反について相互通報が行われています。
502件
101件
また、人権侵害が疑われる事案などについて、 合同監督・調査が9事業場で実施されました。
外国人職員を受け入れる事業所にとって、 労務管理上の問題は「労基署だけの問題」とは限りません。
外国人職員の受入れとは、 採用や在留手続きを整えることだけではなく、 その後の適切な雇用管理まで含んだ責任だと考える必要があります。
重大・悪質な違反では送検もある
令和7年には、 重大・悪質な労働基準関係法令違反について、 技能実習生関係26件、 特定技能外国人関係9件が送検されています。
特定技能の送検事例では、 必要な資格を持たない特定技能外国人に 最大荷重1トン以上のフォークリフトを運転させ、 法人と代表理事が送検された事例も示されています。
監督指導による是正と、 重大・悪質な法令違反に対する送検は、 分けて理解しておく必要があります。
8|76.5%を「外国人雇用は問題だ」という数字にしない
今回の76.5%、73.2%という数字は、 軽く見ることのできない結果です。
だからこそ、 その数字を正確に使う必要があります。
- 全国の特定技能受入れ事業所の76.5%が違反している。
- 特定技能外国人の76.5%が法令違反の被害を受けている。
- 社会福祉施設は他の業種より特に違反が多い。
- 社会福祉施設の違反の原因は、夜勤やシフト勤務にある。
特定技能所属機関は令和7年末時点で62,996機関とされていますが、 これは法人等の数です。
一方、今回の監督結果で使われているのは「事業場数」です。
単位そのものが異なるため、 「62,996機関のうち8,082を調査した」 と単純計算することも適切ではありません。
強い数字ほど、 「何を分母にしているのか」 「対象はどう選ばれたのか」 「何を1件として数えているのか」 を確認する必要があります。
福祉教育ラボの視点|「外国人材」ではなく、一人の労働者として見る
介護人材不足が続くなか、 「外国人材をどう確保するか」 「特定技能を何人受け入れるか」 という話は、これからさらに増えていくでしょう。
でも、その前に確認したいことがあります。
適切な賃金を受け取れているか。
働く時間は正しく管理されているか。
健康を守る仕組みがあるか。
労働条件を理解できているか。
安全に働くための説明が、本当に伝わっているか。
困ったときに相談できるか。
これは外国人職員だけのための問いではありません。
日本人職員にも同じように必要な問いです。
外国人を「人手不足を埋める人材」としてだけ見ると、 その人が生活を持ち、権利を持つ一人の労働者であることが見えにくくなります。
一方で、 「外国人だから特別扱いする」 ということでもありません。
同じ権利を保障するために、 必要な方法を調整する。
日本語だけでは伝わりにくければ、 分かる言葉や図を使う。
制度を知らなければ、 理解できる形で説明する。
相談しにくければ、 相談できる仕組みをつくる。
それは単なる「やさしさ」ではありません。
安全管理であり、 労務管理であり、 組織としての責任でもあります。
「外国人雇用は危ない」
「外国人を受け入れる事業所は問題が多い」
で終わらせない。
自分たちの職場では、
誰もが一人の労働者として尊重されているだろうか。
強い数字を正しく読み、
その先にいる一人ひとりの働く生活を見る。
そこから職場を整えていくことが大切なのだと思います。
主な一次資料・公的資料
- 厚生労働省「外国人技能実習生又は特定技能外国人を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況」
- 厚生労働省 別紙2「特定技能外国人を使用する事業場に対する監督指導等の状況」
- 厚生労働省 別紙1「技能実習生を使用する事業場に対する監督指導等の状況」
- 労働基準法第3条(均等待遇)関係
本記事は2026年9月17日時点で公表されている厚生労働省の一次資料をもとに整理しています。 監督指導結果は、法令違反が疑われる事業場を対象とした結果であり、 全国の受入れ事業所全体を無作為抽出した違反率ではありません。 また、違反事業場には外国人以外の労働者に関する違反も含まれます。


