嚥下調整食を療養食加算へ?|2027年度介護報酬改定で日本栄養士会が要望
日本栄養士会は、令和9年度介護報酬改定に向け、 摂食嚥下機能が低下した入所者に提供する嚥下調整食を療養食加算の対象として評価する よう要望しました。 ただし、これは決定事項ではありません。 厚生労働省がすでに論点として示している「嚥下機能に応じた食事をどう評価するか」に対し、 日本栄養士会が具体案を提示した段階です。
最初に押さえたい4つの数字
介護老人福祉施設57.5%LIFEデータ
介護老人保健施設48.8%LIFEデータ
介護医療院75.3%LIFEデータ
特別食加算76円1食あたり・1日3食まで
- 介護保険で嚥下調整食が療養食加算の対象になることが決まったわけではありません。 現在は令和9年度介護報酬改定に向けた要望段階です。
- 医療保険では2026年度からすでに嚥下調整食が特別食加算の対象になっています。 ただし、医療保険と介護保険は別制度です。
1|国の論点から、日本栄養士会の具体案へ
今回の要望は、日本栄養士会が突然新しい加算を求めた、という流れではありません。
厚生労働省は9月3日の第264回介護給付費分科会で、入所者の嚥下機能に応じた食事の提供を含め、施設で提供される食事を適切に評価するためにはどのような方策が考えられるか、という論点を正式に示していました。
国が「どう評価するか」を論点化し、その問いに対して日本栄養士会が「療養食加算の対象として評価する」という具体案を示した、という順序で見ると分かりやすくなります。
日本栄養士会が示した4つの要望
| 要望 | 内容 |
|---|---|
| Ⅰ | 介護保険施設における嚥下調整食の療養食としての評価 |
| Ⅱ | 「機能強化型認定栄養ケア・ステーション」を外部管理栄養士の連携先として評価 |
| Ⅲ | 介護分野で働く管理栄養士・栄養士の処遇改善 |
| Ⅳ | 介護保険施設における基準費用額(食費)の適時適切な見直し |
本記事では、要望Ⅰの嚥下調整食を中心に、関連する要望Ⅳの食費についても見ていきます。
2|嚥下調整食が必要な人は、決して一部ではない
第264回分科会で示されたLIFEデータでは、嚥下調整食の必要性がある入所者の割合は、介護老人福祉施設で57.5%、介護老人保健施設で48.8%、介護医療院では75.3%でした。
特養では半数を超え、介護医療院では約4人に3人です。多くの介護保険施設にとって、嚥下調整食は日常的な食事提供そのものに関わるテーマです。
3|嚥下調整食は「単なる調理上の工夫」ではない
日本栄養士会の資料では、嚥下調整食は単に食材を柔らかくしたり、細かくしたりするだけのものではなく、継続的な栄養ケアとして整理されています。
重要なのは「どれだけ細かくしたか」ではありません。
本人の摂食嚥下機能に対して、口に取り込みやすいか、口の中でまとめやすいか、飲み込みやすいか、必要な栄養量を確保できるか、といった視点で食形態を考えます。
「刻み食」と「嚥下調整食」は同じではない
介護現場では、「飲み込みにくいから刻む」という対応を耳にすることがあります。
しかし、細かく刻めば必ず飲み込みやすくなるわけではありません。食材が口の中でばらつけば、かえってまとめにくくなる場合もあります。
硬さ、まとまりやすさ、粘度、口腔内での処理のしやすさ、飲み込みやすさなどを、本人の状態に合わせて考える必要があります。
安全・栄養・楽しみを一緒に支える
日本栄養士会は、この3つを並べて嚥下調整食の役割を示しています。
4|療養食加算・経口維持加算とは何が違うのか
現行の療養食加算
現在の療養食加算は、糖尿病食、腎臓病食、肝臓病食、胃潰瘍食、貧血食、膵臓病食、脂質異常症食、痛風食、特別な場合の検査食など、主として疾病治療の直接手段として提供される食事を評価しています。
現在、この対象食種に嚥下調整食は含まれていません。
| サービス | 療養食加算 |
|---|---|
| 介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護医療院・地域密着型介護老人福祉施設 | 6単位/回・1日3回まで |
| 短期入所生活介護・短期入所療養介護 | 8単位/回・1日3回まで |
経口維持加算
経口維持加算(Ⅰ)は400単位/月、経口維持加算(Ⅱ)は100単位/月です。
摂食機能障害があり、誤嚥が認められる入所者について、多職種で食事を観察し、経口維持計画に基づいて栄養管理を行う取組などを評価します。
| 仕組み | 主に評価しているもの |
|---|---|
| 療養食加算 | 疾病治療のために提供する食事 |
| 経口維持加算 | 誤嚥等がある人への多職種による経口摂取維持の取組 |
| 今回の要望 | 摂食嚥下機能に応じて日常的に食形態を選択・提供・管理し、継続的に見直す栄養ケア |
似た領域を扱っていますが、療養食加算、経口維持加算、今回要望されている嚥下調整食の評価は同じものではありません。
5|通常食より「1.5倍以上」の負担
日本栄養士会の資料では、通常食と比べて「1.5倍以上かかる」と回答した施設が、総コスト、ケアに要する時間、ミールラウンドに要する時間のそれぞれで60%を超えています。
嚥下調整食の負担は、厨房で少し手間が増えるというだけではありません。
本人の状態を評価し、個別に食形態を調整し、食事場面を確認し、状態変化に応じて再評価する。その一連の過程に、複数の職種と時間が必要になります。
食材料費の高騰も続く
日本栄養士会の2024年度実態調査では、前年度より食材料費が増加した施設は、特養79.8%、老健85.8%、介護医療院76.2%でした。
一方、第264回の厚労省資料でも、フードマネジメントの困りごととして「食材費の高騰」を挙げた割合は、特養88.7%、老健83.2%と高い水準です。
これらは調査対象や設問が異なるため、数値そのものを単純比較することはできません。ただし、複数の調査で食材料費高騰が大きな課題になっていることは確認できます。
6|医療では2026年度からすでに評価
医療保険では、2026年度診療報酬改定で、入院時の特別食加算の対象に嚥下調整食が新たに加わりました。
評価額は1食につき76円、1日3食までです。
| 制度 | 現時点の位置づけ |
|---|---|
| 医療保険 | 2026年度から嚥下調整食を特別食加算の対象として評価 |
| 介護保険 | 現行の療養食加算に嚥下調整食は含まれない |
| 令和9年度介護報酬改定 | 厚労省が評価方法を論点化し、日本栄養士会が療養食加算での評価を要望 |
医療側では「専門性」も制度に組み込まれている
医療側では、単に嚥下調整食を提供すれば算定できる仕組みではありません。
嚥下調整食に係る責任者となる管理栄養士について、厚生労働省の疑義解釈では、専門的知識・技術を有する管理栄養士を養成する10時間以上の研修、うち5時間以上の実習を含むものなどが具体例として示されています。
また、嚥下調整食に関わる調理師等については、5時間以上の研修、うち2時間以上の実習を含むものなどを修了していることが望ましいとされています。
今後、介護側で嚥下調整食を評価する場合には、対象者、評価方法、専門職の関与、食形態の基準、経口維持加算との関係などが制度設計上の論点になると考えられます。
福祉教育ラボの視点|「食べる」を、作業にしない
介護の仕事では、嚥下評価、食形態、栄養管理、誤嚥予防、食事介助。さまざまな専門用語が並びます。
でも、その中心にいる本人にとっては、「食べる」という、ごく日常的な営みです。
安全に飲み込めること。
必要な栄養をとれること。
おいしいと感じられること。
今日は何だろう、と楽しみにできること。
誰かと一緒に食べること。
日本栄養士会が、「安全な経口摂取」「必要な栄養素」「食べる楽しみ・生活の継続」を並べて示したことには意味があります。
嚥下調整食を支えているのは、単なる調理技術ではありません。
評価する。選ぶ。作る。提供する。観察する。変化に気づき、また見直す。その繰り返しです。
介護報酬は、お金の仕組みです。でも同時に、「どの仕事を、社会として価値あるものとして評価するのか」を形にする仕組みでもあります。
「嚥下調整食に何単位つくのか」だけの話ではありません。
その人が口から食べるという生活を支える仕事を、
制度の中でどう評価するのか。
安全と栄養だけでなく、
食べる楽しみや、その人らしい日常まで守れる仕組みであること。
そこまで見ながら、今後の議論を追っていきたいと思います。
主な一次資料・公的資料
- 第267回社会保障審議会介護給付費分科会 資料一覧
- 資料5 日本栄養士会「令和9年度介護報酬改定で要望する事項」
- 第264回 資料4「口腔・栄養、一体的取組」
- 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(療養食加算関係)
- 2026年度診療報酬改定 嚥下調整食の特別食加算関係資料
- 2026年度診療報酬改定 疑義解釈(嚥下調整食の研修要件関係)
本記事は2026年9月17日時点で公表されている厚生労働省および日本栄養士会提出資料をもとに整理しています。嚥下調整食を介護保険の療養食加算の対象とすることは、現時点では決定事項ではありません。令和9年度介護報酬改定に向けた今後の議論を確認する必要があります。


