2027年度介護報酬改定|特定地域サービスとは?人口減少地域の介護をどう残す

福祉ニュース 2027年度介護報酬改定 情報確認:2026年9月18日

2026年9月16日、厚生労働省の第267回社会保障審議会・介護給付費分科会が開かれました。

今回は2027年度(令和9年度)介護報酬改定に向けた「関係団体等意見交換会③」として、 医療系サービスとともに「中山間・人口減少地域」がテーマとなりました。

島根県、島根県川本町、川本福祉会、長崎県西海市などから示されたのは、 単に「地方の事業所経営が厳しい」という話ではありません。

利用者が減る地域でも、移動、人員配置、事業所維持といったコストはなくならない。 そのなかで、必要な介護サービスをどう残すのか。 2027年度改定では、介護保険制度の地域差への向き合い方そのものが問われています。

最初に確認|「特定地域サービス」は単なる検討案ではありません 2026年の法改正によって制度そのものはすでに法律に位置づけられています。 現在議論されているのは、対象地域・対象サービス・人員基準・報酬など、2027年4月の施行に向けた具体的な制度設計です。
最初に結論|今回押さえておきたい3点
POINT 01 法律はすでに変わった 中山間・人口減少地域に対応する「特定地域サービス」が2027年4月から始まります。
POINT 02 問題は「報酬額」だけではない 移動時間、待機、人員配置、少ない利用者のための固定費など、サービス提供構造そのものが違います。
POINT 03 包括報酬にも両面がある 経営安定に期待がある一方、利用者負担やサービス量をめぐる新たな課題もあります。

法律はすでに変わった|2027年4月に「特定地域サービス」が始まる

2026年6月25日、「社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号)」が公布されました。

この改正によって、中山間・人口減少地域で地域の実情に応じた人員配置基準や 包括的な評価を可能にする新しい介護サービス類型として、 「特定地域サービス」が創設されました。

また、通常の介護給付の仕組みだけではサービス提供体制の維持が難しい地域について、 市町村が介護保険財源を活用して居宅介護サービス等を確保する 「特定地域居宅サービス等事業」も設けられます。

原則施行日は2027年4月1日です。

ここが重要です。
今議論されているのは「人口減少地域を特別に扱う制度を作るかどうか」ではありません。 制度そのものはすでに法定されています。 これから決めるのは、対象地域、対象サービス、人員基準、包括的な報酬などの具体的な仕組みです。

改正法には、特定地域サービスだけでなく、 地域の事業者間の連携強化や、サービス提供を継続するための仕組みの構築も盛り込まれています。

「特定地域」を決めるのは都道府県

改正後の介護保険法第42条第1項第3号では、 特定地域について、人口減少など厚生労働省令で定める基準に該当する地域として 都道府県が定める地域と位置づけています。

つまり、国が全国の対象地域を一律に指定する仕組みではありません。

国が基準を示し、その基準を踏まえて、 介護保険事業(支援)計画の策定過程で市町村の意向を確認しながら、 都道府県が対象地域を定める方向です。

市町村全域を一括して指定するだけでなく、 同じ市町村内でも人口減少の状況などが異なる場合には、 一部地域のみを対象とすることも想定されています。

どんな地域が対象になるのか

2026年6月29日の第135回介護保険部会で示された素案では、 現在の特別地域加算などの対象地域を基本としつつ、 75歳以上人口に着目した新たな指標として、次の考え方が示されています。

  • 75歳以上人口密度が5人/km²未満
  • 75歳以上人口が1,000人未満で、かつ人口が減少している
まだ最終確定ではありません これは2026年6月時点で示された「素案」です。 最終的な指定基準として確定したものではなく、今後の制度設計を確認する必要があります。

「どこで何を決めるのか」も分かれている

特定地域に関する制度は、介護給付費分科会だけで全てを決めるわけではありません。 厚生労働省は、検討内容によって議論する場を分けています。

検討する内容 主な議論の場
特定地域の対象範囲・基準 介護保険部会
特定地域サービスの対象サービス 介護給付費分科会
人員配置基準・包括的な評価 介護給付費分科会
特定地域居宅サービス等事業の制度設計・事業費・上限など 介護保険部会

今後この制度を追うときには、 介護給付費分科会だけを見ていればよいわけではないことにも注意が必要です。

島根県|217の訪問介護事業所のうち16事業所が1年間で廃止

では、なぜ新しい制度が必要なのでしょうか。

島根県が提出した資料を見ると、その背景が具体的に見えてきます。

島根県では、松江市と出雲市の中心部を除き、 県土の9割以上、人口の6割以上が中山間地域です。

71.5% 2019年調査
求人に対する採用充足率
58.1% 2025年調査
求人に対する採用充足率
16事業所 2025年度中に廃止した
訪問介護事業所

2025年4月1日時点で、島根県内には217の訪問介護事業所がありました。

そのうち2025年度中に16事業所が廃止。 11事業所では「人員確保が困難」であることが廃止理由として挙げられています。

都市部であれば、一つの事業所が撤退しても、 近隣の別事業所が利用者を引き継げる場合があります。

しかし、人口が少なく、住宅が広い範囲に点在する地域では事情が違います。

一つの事業所の撤退が、 その地域で訪問介護を利用できるかどうかそのものに影響する可能性があります。

「介護をしている時間」だけでは見えない移動コスト

中山間地域では、利用者宅から次の利用者宅まで移動するだけでも時間がかかります。

島根県の調査では、中山間地域の訪問介護事業所は、 その他の地域と比較して1日あたりの訪問回数が少ない傾向が示されています。

山間部の事業者からは、 午前2件、午後2件程度が現実的で、 午後に3件回ろうとすると昼に事業所へ戻ることも難しい、 といった現場の声も示されています。

冬季になれば、移動条件はさらに厳しくなります。

介護職員が働いているのは、利用者宅で身体介護や生活援助をしている時間だけではありません。

利用者宅から利用者宅へ移動する時間、キャンセルによる空き時間、 遠距離を走るための車両費や燃料費なども、サービスを提供するために必要なコストです。

しかし現在の出来高払いを基本とする介護報酬では、 こうした「サービスとサービスの間」に発生するコストは評価されにくい構造があります。

通所介護にもある「送迎距離」という地域差

移動の問題は訪問介護だけではありません。

島根県は、通所介護についても、 中山間地域では送迎コストが割高になることを指摘しています。

訪問介護には特別地域加算がありますが、 通所介護には同じ仕組みはありません。

そのため島根県内では、出雲市、雲南広域連合、大田市、隠岐の島町など、 距離に応じた自治体独自の支援制度を設けている地域があります。

すでに起きていること
全国共通の介護報酬だけでは埋めきれない「地域固有のコスト」を、 自治体が別の制度や財源で補っている地域があります。

人口2,855人|川本町の訪問介護が示す現実

島根県川本町は人口2,855人。 65歳以上人口は1,292人、高齢化率45.25%です。

町の約80%が山林で、可住地は約7%しかありません。

町内の社会福祉法人・川本福祉会が運営する訪問介護では、 2026年7月の利用者は9人、延べ訪問回数は110回。

訪問介護員は3人、常勤換算では2.5人です。

753万円 2025年度
訪問介護事業収益
900.1万円 2025年度
訪問介護事業費用
▲147.1万円 2025年度
訪問介護事業の収支

ここで注意したいのは、 この147万1千円の赤字は法人全体の収支ではなく、 訪問介護事業単体の2025年度実績であることです。

赤字については、法人がこれまで積み立ててきた基金(積立資金)を取り崩して補填しています。

さらに2026年度(令和8年度)は、人件費増加などによって 赤字が200万円程度まで拡大する見込みとされています。

原資料では、 「令和8年度以降もこのまま赤字が継続すれば、5年程度で基金が枯渇」 するとされています。

28.6km ヘルパー1人あたり
1日の平均移動距離
約40分 ヘルパー1人あたり
1日の平均移動時間
9人 2026年7月
訪問介護利用者数

利用者が少なくなったからといって、職員を単純に減らせばよいわけではありません。

サービスを一件でも残すなら、 職員、管理体制、車両、事業所など一定の運営基盤は必要です。

人口減少によって需要は縮小する。 しかし、サービスを残すための固定的なコストは同じようには減らない。

ここに、人口減少地域の介護サービスが抱える構造的な難しさがあります。

海を渡って介護する|長崎県西海市

さらに極端な地理的条件が示されたのが、長崎県西海市です。

江島 平島
人口 67人 95人
高齢化率 70.1% 73.7%
本土からの距離 19.6km 31.5km
船の所要時間 約60分 約108分
民間船 1日1便 1日1便

江島・平島への訪問介護や居宅介護支援は、 基本的に本土から社会福祉協議会の職員が船で渡って提供しています。

市営船の運航時間によっては、 実際の介護サービスそのものが短時間でも、 職員は半日または1日拘束されます。

さらに民間船を利用した場合には、 出航時刻の関係で日帰りできず、 2日間の拘束になる場合もあります。

「30分の介護サービスだから30分分を評価する」という考え方だけでは、 人口減少地域や離島で実際に発生しているサービス提供コストを捉えきれません。

「保険あってサービスなし」という問題

保険あってサービスなし 長崎県西海市の提出資料で示された地域課題

介護保険料を支払い、要介護認定を受け、 制度上は介護サービスを利用できる状態にある。

それでも、その地域にサービスを提供する事業所や人材がなければ、 現実にはサービスを利用することができません。

介護保険制度を考えるとき、 「制度として給付が存在すること」と 「実際にサービスへアクセスできること」は同じではありません。

人口減少が進むなかでは、 この二つの距離がさらに広がる可能性があります。

月額の「包括報酬」は解決策になるのか

そこで検討されている一つの方法が、 特定地域サービスにおける包括的な評価です。

出来高払いだけではなく、月単位の定額払いなどを選択可能にすることで、 キャンセルや利用回数の増減に左右されにくくし、 事業所経営の予見可能性を高める考え方です。

西海市からも、この仕組みへの期待が示されています。

ただし、定額にすればすべて解決するわけではありません。

利用者側のリスク

採算を確保できる水準で定額報酬を設定した場合、 利用回数が少ない人では現在より自己負担が増え、 必要なサービスの利用を控える可能性があります。

制度設計上のリスク

定額収入が得られる場合、 サービス提供量を減らすほど事業者の収益が増えるという インセンティブが生じる可能性があります。

川本町は、 事業所の運営基盤を守ることと、 住民が負担感なくサービスを利用し続けられる給付設計を両立するよう求めています。

「サービスを減らすほど利益が出る」仕組みにしてはいけない

包括報酬については、国会の附帯決議でも重要な指摘がされています。

利用が少ないほど事業者の収益が増える構造が生じ得ることに留意し、 サービスの質や量、介護保険制度の公平性・公正性が損なわれないよう、 丁寧に制度を検討することが求められています。

事業所経営を安定させるだけでは不十分です。

必要なサービスが実際に提供されたのか。
質や量をどう確認するのか。
利用者の負担は適切なのか。

包括報酬には、経営安定とサービス保障の両方を見る仕組みが必要になります。

国会も「移動コスト」と財政支援を求めている

附帯決議では、中山間・人口減少地域について、 移動時間などにかかるコストや、 人材確保に必要な賃金水準を踏まえ、 事業継続が可能となる報酬体系を検討することも求めています。

さらに、特定地域の負担が著しく増えないよう、 調整交付金の機能強化や 地域医療介護総合確保基金の拡充など、 財政支援措置も幅広く検討するよう求めています。

川本町が求めている、 「保険料や自治体財政への跳ね返りを防ぎながらサービスを維持する」という問題は、 一自治体だけの要望ではありません。

国会の附帯決議にも、同じ方向の課題認識が表れています。

移動コストは「特定地域だけ」の問題ではない

さらに附帯決議では、 特定地域以外の訪問系サービスについても、 利用者宅間の移動コストなどを考慮した包括的な評価が可能か検討するよう求めています。

訪問サービスの移動問題は、離島や過疎地域だけに発生するわけではありません。

郊外や面積の広い自治体でも、 利用者宅が分散していれば同じ問題が起こります。

人員基準を緩めれば解決するわけでもない

もう一つの柱が、人員配置基準の弾力化です。

人口減少地域では、必要な専門職を採用しようとしても、 そもそも地域に人材がいない場合があります。

そこで特定地域サービスでは、 管理者や専門職の常勤・専従要件、 夜勤要件などを含め、 地域の実情に応じて人員配置基準を弾力化できる仕組みが設けられます。

しかし、現場側も単純に 「人員基準を緩めてほしい」 と求めているわけではありません。

川本福祉会は、配置基準を柔軟にする場合でも、 サービスの質と安全性、職員への負担への配慮が必要としています。

西海市も、基準を緩めるだけでは質を維持できず、 ICTや介護テクノロジー、事業者間連携などと組み合わせる必要があるとしています。

「人がいないから基準を下げる」で終わらせるのではなく、 少ない人材でも安全性とサービスの質を維持できる仕組みを作れるかが問われています。

今回の論点は「地域区分」とは違う

ここは特に混同しないようにしたいところです。

介護報酬には、地域ごとの人件費差を報酬単価へ反映する 「地域区分」という仕組みがあります。

しかし、今回の「特定地域サービス」は地域区分とは別の制度です。

地域区分 特定地域サービス
主に見るもの 地域による人件費差 人口減少・地理条件などサービス提供構造
問題の例 地域による賃金水準の違い 利用者減少、長距離移動、離島、人員確保、固定費
考え方 1単位単価へ地域差を反映 基準・報酬・サービス提供体制そのものを柔軟化

今回問題になっているのは、 単に「地方では人件費が違う」ということではありません。

  • 利用者が少ない
  • 住宅が広い地域に分散している
  • 一件あたりの移動距離が長い
  • 離島では船で移動しなければならない
  • 少ない利用者のためにも一定の人員・事業所を残す必要がある

こうしたサービス提供構造そのものの違いを、 制度がどう評価するかという議論です。

2027年度介護報酬改定で、これから見るべき6つのポイント

第267回介護給付費分科会は、制度の最終決定を行った会議ではありません。 現場や自治体、関係団体から課題や要望を聞く「関係団体等意見交換会」です。

今後は、次の点を確認していく必要があります。

  1. 特定地域の最終的な指定基準
    75歳以上人口密度など、6月時点の素案が最終的にどう整理されるのか。
  2. どの介護サービスが対象になるのか
    訪問・通所・施設など、具体的な対象範囲をどこまで広げるのか。
  3. 人員配置基準をどこまで弾力化するのか
    常勤・専従要件や夜勤要件を含め、質・安全とのバランスをどう取るのか。
  4. 包括的な評価をどう設計するのか
    月額等の報酬水準、利用者負担、出来高払いとの関係をどうするのか。
  5. サービスの質と量をどう担保するのか
    包括報酬がサービス削減へのインセンティブにならない仕組みを作れるか。
  6. 既存の地域加算とどう整理するのか
    特別地域加算や中山間地域等における小規模事業所加算と、 新しい特定地域サービスをどのように併存・整理するのか。
FUKUSHI EDU LAB|福祉教育ラボの視点

人口減少地域の介護を考えるとき、 「効率」だけでは解けない問題があります。

利用者が100人いる地域と、 10人しかいない地域では、 同じ介護サービスでも経営条件は大きく異なります。

しかし、利用者が10人になったからといって、 その10人に介護が必要なくなるわけではありません。

むしろ、代替する事業所が少ない地域ほど、 一つの事業所がなくなったときの影響は大きくなります。

2027年度介護報酬改定で問われているのは、 単に「地方の介護報酬を高くするか」という問題ではありません。

どこに住んでいても、必要な介護につながることができる。

人口が減少していく社会のなかで、 その介護保険制度の機能を、どのような仕組みなら残していけるのか。

一方で、サービスを残すために利用者負担が重くなったり、 基準の緩和によって質や安全性が損なわれたりすれば、 それも制度の目的とは違います。

事業所を残すこと。
働く人を守ること。
利用者の負担を抑えること。
必要なサービスの質と量を守ること。

今回の「特定地域サービス」の制度設計は、 この四つをどう両立するかという議論でもあります。

まとめ

2026年の法改正によって、 中山間・人口減少地域に対応する「特定地域サービス」はすでに法定されました。

2027年度介護報酬改定では、 その制度を実際に動かすための対象地域、対象サービス、人員基準、 包括的な報酬などが具体化されていきます。

島根県川本町や長崎県西海市から示された現実を見ると、 問題は「人口が少ない」ということだけではありません。

利用者が少なくても、移動、人材、事業所、車両など、 サービスを届け続けるために必要なコストは残ります。

その地域差を介護保険制度がどこまで引き受けるのか。

福祉教育ラボでは、今後の介護保険部会・介護給付費分科会で、 「特定地域サービス」が具体的にどのような制度へ落とし込まれるのか、 引き続き確認していきます。

一次資料・参考資料

  1. 厚生労働省 「第267回社会保障審議会介護給付費分科会」
  2. 厚生労働省 第267回資料|島根県提出資料
  3. 厚生労働省 第267回資料|川本町提出資料
  4. 厚生労働省 第267回資料|川本福祉会提出資料
  5. 厚生労働省 第267回資料|長崎県西海市提出資料
  6. 厚生労働省 「第135回社会保障審議会介護保険部会」
  7. 厚生労働省 第135回介護保険部会 資料1「社会福祉法等の一部を改正する法律(報告)」
  8. 厚生労働省 第135回介護保険部会 資料3「特定地域(中山間・人口減少地域)の考え方について」

※本記事は2026年9月18日時点で確認できる厚生労働省資料等をもとに整理しています。 今後の審議により、対象地域、対象サービス、人員配置基準、報酬体系などが変更・具体化される可能性があります。