苦情とカスハラはどう違う?|介護・福祉現場で考える判断のポイント

学びの整理 情報確認:2026年10月8日

「怒っている家族」は、カスタマーハラスメントなのでしょうか。

答えは、 それだけでは判断できません。

介護や障害福祉のサービスに問題があれば、 利用者や家族が説明を求めたり、改善を求めたりすることがあります。

その声は、ときにサービスの問題を明らかにし、 本人の権利を守り、 支援を改善するための大切な情報になります。

一方で、 暴力、脅迫、侮辱、長時間の拘束などまで、 「利用者本位だから」と職員が受け入れ続ける必要はありません。

大切なのは、 「何を求めているのか」と「どのように求めているのか」を分けて考えること です。

最初に押さえたいこと
  • 苦情のすべてがカスハラになるわけではありません
  • 要求内容が妥当でも、要求の方法が許容範囲を超える場合があります
  • 障害を理由とした合理的配慮を求めること自体はカスハラではありません
  • 認知症などの症状として現れた言動は、機械的にハラスメントと判断しません
  • 判断や対応を現場職員一人に任せない仕組みが重要です

結論|苦情とカスハラは同じではない

2026年10月1日から、 カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になりました。

介護施設や障害福祉事業所なども対象です。

ただし、 厚生労働省の指針は明確に、 「顧客等からの苦情の全てがカスハラに該当するわけではない」 としています。

「厳しいことを言われた」=「カスハラ」 ではありません。

サービスに問題がある場合、 利用者や家族が説明や改善を求めることは当然あり得ます。

その内容を確認し、 必要であれば支援やサービスを改善することも、 福祉事業者の大切な役割です。

しかし、 正当な要求が含まれていたとしても、 そのために暴力や脅迫などが許されるわけではありません。

カスハラの3つの要素

厚生労働省の指針では、 職場におけるカスタマーハラスメントを、 次の3つの要素で説明しています。

1
顧客等の言動

1つ目。 顧客等の言動であること。

2
許容範囲を超える

2つ目。 その言動が、労働者が従事する業務の性質などに照らして、 社会通念上許容される範囲を超えていること。

3
就業環境が害される

3つ目。 その言動によって、 労働者の就業環境が害されること。

この3つの要素を、すべて満たすものがカスタマーハラスメントです。

つまり、 相手が利用者や家族であっても、 それだけでカスハラになるわけではありません。

また、職員がつらい思いをしたというだけでも、判断はできません。

その言動が「社会通念上許容される範囲」を超えているかどうか。

ここが、苦情とカスハラを分ける大きなポイントになります。

福祉でいう「顧客等」とは

指針でいう「顧客等」は、 商品やサービスを買う人だけを指す言葉ではありません。

顧客には、今後サービスを利用する可能性がある人も含まれます。

また、取引の相手方や、施設の利用者など、 事業に関係を持つ人も含まれます。

厚生労働省の解説資料でも、 施設の例として、駅や病院、学校などとともに 福祉施設が挙げられています。

福祉の現場に置きかえると、 たとえば次のような人が考えられます。

  • 施設・サービスの利用者
  • その家族
  • 利用を考えて問い合わせをする人
  • 施設の近隣住民
  • 取引先の担当者

介護や障害福祉の現場では、 職員が毎日向き合う相手の多くが、 この「顧客等」にあたります。

だからこそ、 「顧客等の言動だから」というだけで身構えるのではなく、 その言動の中身を見ていく必要があります。

苦情はなぜ必要なのか

福祉サービスにとって、 苦情は「なくすべきもの」ではありません。

社会福祉法第82条は、 社会福祉事業の経営者に対して、 常に、その提供する福祉サービスについて、 利用者等からの苦情の適切な解決に努めることを求めています。

利用者や家族の声は、 支援の中で見落としていたことに気づくきっかけになります。

本人が言葉にしにくい不安や不満を、 家族が代わりに伝えている場合もあります。

厚生労働省の指針も、 顧客等からの苦情の全てがカスハラに該当するわけではないとしています。

客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、 いわば正当な申入れであり、 カスハラには当たりません。

苦情を受け止めることと、職員を守ることは、対立するものではありません。

正当な苦情はきちんと受け止める。

そのうえで、許容範囲を超える言動からは職員を守る。

この両方が、福祉事業者には求められています。

「要求内容」と「要求方法」を分ける

苦情とカスハラを考えるときは、 2つの面を分けて見ることが役に立ちます。

1つは、「何を求めているのか」という要求の内容です。

もう1つは、「どのように求めているのか」という要求の方法です。

厚生労働省の指針でも、 社会通念上許容される範囲を超えているかどうかは、 「言動の内容」と「手段や態様」に着目し、 総合的に判断することが適当であるとしています。

この考え方を、現場で話し合うときの目安として、 福祉教育ラボが表に整理しました。

この表は、福祉教育ラボによる説明のためのモデルです。 法令や指針が定める分類ではありません。 実際にカスハラに当たるかどうかは、 個別の状況を踏まえて、組織として総合的に判断します。

説明モデル(FEL) 要求の方法が相当 要求の方法が許容範囲を超える
要求の内容が妥当 正当な苦情・申入れとして受け止める。内容を確認し、必要なら改善する 内容は受け止めつつ、方法については組織として対応を検討する
要求の内容に無理がある 丁寧に説明し、できないことはできないと伝える カスハラに当たるかどうかを組織として確認し、対応する

たとえば、ケアの不備を指摘して改善を求めること自体は正当です。

しかし、その指摘のために大声で威圧したり、 何時間も職員を帰さなかったりすれば、 方法の面で許容範囲を超えるおそれがあります。

このとき、 「内容が正しいから、どんな方法でもよい」とはなりません。

反対に、 「方法に問題があったから、内容も聞かなくてよい」ともなりません。

どんな行為が問題になる?

厚生労働省の指針では、 社会通念上許容される範囲を超えた言動の例として、 次のようなものを挙げています。

言動の内容が問題になる例

  • そもそも要求に理由がない、またはサービス等と全く関係のない要求
  • 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
  • 対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求
  • 不当な損害賠償要求

手段や態様が問題になる例

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害など)
  • 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要など)
  • 威圧的な言動
  • 継続的、執拗な言動
  • 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)

介護や障害福祉の現場では、 訪問先や居室など、 職員が一人になりやすい場面があります。

暴力や暴言、長時間の拘束などが起きたときに、 職員一人が我慢して対応し続ける形にしないことが大切です。

合理的配慮はカスハラではない

障害のある人が、 障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めること。

社会的障壁を取り除くために必要な配慮を求める意思を示すこと。

厚生労働省の指針は、 それ自体はカスタマーハラスメントには当たらないとしています。

また、カスハラ対策を講じる際には、 障害者差別解消法に基づく、 不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供義務に 留意する必要があるとしています。

「要望が多い」「対応に手間がかかる」という理由だけで、 合理的配慮の求めをカスハラとして扱ってはいけません。

合理的配慮の求めには、 まず内容を確認し、 どのような対応ができるかを本人と話し合うことが大切です。

そのうえで、求め方が暴力や脅迫などに及ぶ場合には、 方法の面について、ほかの場合と同じように組織として対応します。

認知症・障害特性はどう考える?

福祉の現場で特に難しいのが、 認知症などの症状として現れる言動です。

介護現場向けにまとめられた厚生労働省老健局の資料は、 次のように示しています。

認知症等の病気または障害の症状として現われた言動(BPSD等)は、 「ハラスメント」としてではなく、 医療的なケアによってアプローチする必要がある。

たとえば、認知症のある人が、 不安や混乱から職員に強い言葉を向けることがあります。

その言動を、機械的に「カスハラ」と決めつけないことが大切です。

一方で、同じ資料は、 認知症等の病気または障害に起因する暴言・暴力であっても、 職員の安全に配慮する必要があることには変わらないとしています。

症状によるものであっても、 職員が一人で危険を抱え続ける形にはしないことが大切です。

たとえば、ケアの方法を見直す、 複数の職員で対応する、 医療職や専門職に相談する、 といった対応が考えられます。

本人への支援と、職員の安全確保。 その両方を、状況に応じて組織で考えていくことが求められます。

また、カスハラ対策の指針でも、 消費者の心理や障害特性などについての資料の配布や研修の実施によって、 労働者の顧客等への理解を深めることが、 望ましい取組として示されています。

障害福祉の現場でも、 障害特性への理解を前提にして考えることが大切です。

老健局の資料は、 ハラスメント対策は介護職員を守るだけでなく、 利用者にとっても介護サービスの継続的で円滑な利用にもつながる 重要な対策だとしています。

職員一人に判断させない

カスハラ対策でもう一つ重要なのは、

「これはカスハラなのか」

という判断を、対応した職員一人に任せないことです。

厚生労働省の指針では、事業主に対して、

  • 相談窓口をあらかじめ定めること。
  • そのことを労働者に周知すること。
  • 相談窓口の担当者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにすること。
  • カスタマーハラスメントが発生した場合には、事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
  • 被害を受けた労働者への配慮措置を適正に行うこと。

などを求めています。

つまり、
現場職員がその場で一人ですべてを判断し、
一人で対応し続ける仕組みにしないことが重要です。

たとえば、

気づく。
記録する。
共有する。
管理者や相談窓口で確認する。
組織として対応を判断する。
必要に応じて外部機関とも連携する。
そして対応後に振り返る。

という流れを、あらかじめ組織として決めておくことが考えられます。

これは職員を守るためだけではありません。

個々の職員によって対応が大きく変わることを防ぎ、
利用者や家族に対しても、組織として一貫した対応を行うことにつながります。

福祉教育ラボの視点|「利用者の声」と「職員を守ること」を両立させる

「カスハラかどうか」の判断を、組織で引き受ける

カスハラ対策が義務になると、 「この人はカスハラだ」と判断する場面が増えるかもしれません。

けれども福祉の現場では、その判断がとても重い意味を持ちます。

利用者や家族は、サービスを簡単に選び直せないことがあります。

本人の生活や命に関わる支援を受けている人もいます。

だからこそ、声を上げた人を、 すぐに「困った人」として扱わないことが大切です。

一方で、職員の安全や尊厳を守ることも、 良い支援を続けるための前提です。

職員が暴力や暴言を我慢し続ける職場では、 支援の質を保つことはできません。

要求の内容と、要求の方法を分けて見る。
本人の疾病や障害の特性を理解する。
判断を一人に任せず、組織として考える。

この3つを大切にすることで、 「利用者の声を聴くこと」と「職員を守ること」は、 両立させることができるのではないでしょうか。

カスハラ対策は、利用者を遠ざけるための仕組みではありません。

利用者と職員が、安心して関わり続けるための仕組みとして 考えていきたいと思います。

※本記事は2026年10月8日時点で公表されている厚生労働省の資料と法令をもとに整理しています。