パートの社会保険「月8.8万円要件」が撤廃|106万円の壁はどう変わる?

福祉ニュース 制度施行:2026年10月1日 確認日:2026年10月6日
2026年10月1日、パートやアルバイトなど短時間で働く人が健康保険・厚生年金保険に加入する要件の一つだった「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件が撤廃されました。いわゆる「106万円の壁」に関係する変更です。

ただし、「106万円の壁がなくなった=すべてのパート職員が社会保険に加入する」わけではありません。介護・福祉の職員と管理者の双方が押さえておきたいポイントを整理します。
この記事の結論
  • 2026年10月1日、短時間労働者の「月額8.8万円以上」という賃金要件が撤廃されました。[1]
  • 週の所定労働時間20時間以上、企業規模、学生ではないこと、2か月を超える雇用見込みなどの要件は残っています。[2]
  • 企業規模要件は2027年10月以降、段階的に縮小され、2035年10月に撤廃される予定です。[2]
  • 「130万円の壁」は別の制度に関係するため、今回の改正でなくなったわけではありません。[4]

1.何が変わったのか

日本年金機構は、令和7年年金制度改正法に基づき、短時間労働者が社会保険に加入するための要件のうち、「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件を2026年10月1日に撤廃したと公表しています。[1]

2026年9月まで

一定の短時間労働者について、週20時間以上などの要件に加えて「所定内賃金が月額8.8万円以上」であることが加入判断の一つでした。

2026年10月から

「月額8.8万円以上」という賃金要件を撤廃。加入判断では、週の所定労働時間や企業規模など、残る要件を確認します。

月額8.8万円は年額に換算するとおよそ106万円になるため、この賃金要件は一般に「106万円の壁」と呼ばれてきました。

ここは誤解しやすいところです

「年収106万円を超えなくても、すべてのパート・アルバイトが社会保険に加入するようになった」という変更ではありません。今回なくなったのは、複数ある加入要件のうち「月額8.8万円以上」という賃金要件です。

2.なぜ8.8万円要件がなくなったのか

背景にあるのが、最低賃金の上昇です。

厚生労働省は、最低賃金が時給1,016円以上の地域では、週20時間働くことで月額8.8万円という賃金要件を満たすことになると説明しています。全国の最低賃金が1,016円以上となったことを踏まえ、賃金要件が撤廃されました。[3]

制度変更の見方

今回の改正は、10月1日を境に突然「8.8万円未満の人を大量に加入対象へ変えた」というより、最低賃金の上昇によって実質的な意味を失っていた賃金要件を、制度上も外したと捉えると理解しやすくなります。

3.現在も残っている加入要件

2026年10月以降も、短時間労働者が社会保険の適用対象となるかは、賃金以外の条件を確認する必要があります。

主な確認ポイント
  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 対象となる企業規模で働いていること
  • 原則として学生ではないこと
  • 2か月を超えて雇用される見込みがあること

なお、フルタイム労働者の所定労働時間・所定労働日数の4分の3以上働く人は、短時間労働者への適用拡大とは別に、従来から社会保険の適用対象です。[2]

「週20時間」は、原則として就業規則や雇用契約書などに記載された週の所定労働時間で判断します。残業時間を単純に足して判断するものではありません。[2]

4.最低賃金の減額特例という例外

今回の制度変更には、限定的ですが重要な例外があります。

最低賃金の減額特例許可を受けている場合

最低賃金法第7条に基づく「最低賃金の減額特例許可」を受けている人で、所定内賃金が月額8.8万円未満となる短時間労働者は、原則として社会保険の加入対象外です。

ただし、本人の希望に応じて任意に加入することができます。厚生労働省は、この任意加入について事業主の同意は不要としています。[1][3]

多くの職員に直接当てはまるものではありませんが、「月8.8万円要件は例外なく完全に消えた」と説明してしまうと不正確になるため、事業所側は知っておきたいポイントです。

5.企業規模要件は今後どう変わるか

もう一つ重要なのが、企業規模要件も今後なくなっていくことです。

2026年10月時点では、原則として従業員数51人以上の企業等が適用拡大の対象です。その範囲は今後、次のように段階的に広がります。[2]

時期 短時間労働者の適用拡大対象となる企業規模
2027年9月まで51人以上
2027年10月から36人以上
2029年10月から21人以上
2032年10月から11人以上
2035年10月から企業規模要件を撤廃

「従業員数」は単純な職員総数ではありません

ここでいう企業規模の「従業員数」は、事業所に在籍する全員を単純に数えるものではありません。厚生労働省は、現在の厚生年金保険の加入対象者を基準にするとしています。法人の場合は、原則として事業所ごとではなく法人全体で判断します。[2]

小規模な福祉法人・事業所も「まだ先」とは限りません

現在51人未満で対象外の法人でも、2027年10月には36人以上、2029年10月には21人以上へと対象が広がります。採用・勤務時間・人件費・職員説明を考える際には、今の基準だけでなく次の基準も見ておく必要があります。

6.「130万円の壁」とは別の話

「106万円の壁がなくなった」という表現から、「130万円の壁もなくなった」と受け取ってしまうことがありますが、両者は別の仕組みです。

よく使われる呼び方 主に関係する制度 今回の改正
いわゆる106万円の壁 短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の適用 月額8.8万円の賃金要件を撤廃
いわゆる130万円の壁 健康保険の被扶養者、国民年金第3号被保険者など 今回の8.8万円要件撤廃とは別

そのため、自分の働き方を考えるときは、「年収だけ」を見るのではなく、勤務先の企業規模、週の所定労働時間、雇用期間、扶養の状況などを分けて確認することが大切です。[4]

7.社会保険に加入すると何が変わるか

社会保険への加入というと、「保険料が引かれて手取りが減る」という点が注目されやすいですが、変わるのは負担だけではありません。

加入によって変わる主な保障
  • 厚生年金に加入し、基礎年金に加えて厚生年金を受け取る仕組みになります。
  • 健康保険では、一定の要件を満たした場合、病気やけがで仕事を休んだときの傷病手当金があります。
  • 出産のため仕事を休んだ場合には、一定の要件のもとで出産手当金があります。

厚生労働省も、手取りの変化だけでなく、年金や医療保険の保障が充実することを社会保険加入のポイントとして案内しています。[5]

「社会保険に入ると損か得か」という一つの問いだけではなく、現在の手取りと将来の年金、病気や出産時の保障まで含めて考える必要があります。

8.介護・福祉事業所の管理者が確認したいこと

介護・障害福祉・高齢者福祉の事業所では、常勤、非常勤、短時間勤務、登録型など、さまざまな勤務形態の職員が働いています。

今回の改正を機に、法人本部・管理者・人事労務担当者は、次の点を一度整理しておくとよいでしょう。

  • 法人全体で、企業規模要件の判定に使う厚生年金保険の加入対象者数を確認する
  • 短時間職員の「週の所定労働時間」を雇用契約書・労働条件通知書等で確認する
  • 「月8.8万円以上」を加入判断の条件として使い続けていないか確認する
  • 学生に該当するか、2か月を超える雇用見込みがあるかを確認する
  • 通常の労働者の4分の3以上働く職員について、別ルートで適用対象になっていないか確認する
  • 最低賃金の減額特例許可対象者がいる場合は、今回の例外措置を確認する
  • 2027年10月の「36人以上」への拡大を見越して対象者・事業主負担・職員説明を準備する
管理者が避けたい説明

「106万円を超えたら社会保険に入る」「106万円を超えなければ入らない」という説明だけでは、2026年10月以降は制度を正しく伝えられません。週何時間働くのか、勤務先がどの規模なのかを含めて説明する必要があります。

9.職員側が確認したいこと

働く人の側では、これまで「106万円を超えないように働く」という年収を基準とした就業調整を意識していた方もいると思います。

賃金要件がなくなったことで、対象となる企業等では、社会保険への加入を考える際に「いくら稼ぐか」だけでなく、「週何時間働くか」がより重要になります。

働き方を考えるときの4つの問い
  • 自分の週の所定労働時間は何時間か
  • 勤務先は現在、社会保険の適用拡大の対象となる企業規模か
  • 社会保険加入で毎月の手取りと将来の保障はどう変わるか
  • 扶養や家庭生活との関係で、自分はどの働き方を選びたいか

個別の加入要件や被扶養者認定は、勤務先の状況や加入している健康保険などによって確認が必要です。制度の一般論だけで自己判断せず、勤務先、日本年金機構、加入している健康保険等に確認してください。

10.福祉教育ラボの視点――「壁」を一つ減らすことと、選べること

介護・福祉の現場には、短時間で働く人がたくさんいます。

子育てをしながら働く人、家族の介護と両立する人、体調に合わせて働く人、学びながら働く人。それぞれに生活があり、「働けるだけ長く働けばよい」と単純には言えません。

だから今回の制度変更も、「人手不足だからもっと働いてもらえる」という視点だけで見るのではなく、制度を知ったうえで、自分の生活と将来に合わせて働き方を選べるかという視点から考えたいところです。

手取りはどう変わるのか。将来の年金はどう変わるのか。病気や出産のときの保障はどうなるのか。そして、自分はどのように働きたいのか。

制度は、その人に代わって答えを決めるものではありません。けれど、制度が分かりにくいことで選択肢が見えなくなることはあります。職員にも管理者にも、まず「何が変わり、何が残っているのか」を正確に知ることが、選べる働き方への一歩になります。

まとめ

2026年10月1日、短時間労働者の社会保険加入要件から「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件が撤廃されました。

ただし、週20時間以上という労働時間要件や企業規模要件などは残っています。「130万円の壁」も別の制度です。また、最低賃金の減額特例許可を受けている人には、限定的な例外があります。

さらに企業規模要件は、2027年10月から段階的に縮小され、2035年10月には撤廃される予定です。

介護・福祉の現場でも、「106万円」という一つの数字だけで働き方を考えるのではなく、働く時間、保障、生活との両立、そして本人が望む働き方を一緒に見ていくことが、これまで以上に大切になりそうです。

一次資料・参考資料

  1. 日本年金機構「2026(令和8)年10月に社会保険の短時間労働者に係る賃金要件が撤廃されました」(2026年10月1日更新)
    公式ページを確認する
  2. 厚生労働省「パート・アルバイトの方への社会保険の適用について|社会保険適用拡大特設サイト」
    公式ページを確認する
  3. 厚生労働省「制度変更(令和8年10月)」
    公式ページを確認する
  4. 厚生労働省「『年収の壁』への対応」
    公式ページを確認する
  5. 厚生労働省「適用拡大Q&A|社会保険適用拡大特設サイト」
    公式ページを確認する

※本記事は2026年10月6日時点で公表されている厚生労働省・日本年金機構の情報をもとに整理しています。個別の加入要件や被扶養者認定については、勤務先、日本年金機構、加入している健康保険等へご確認ください。

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