介護保険料「13段階」、第10期で見直しを検討|65歳以上の第1号保険料
2026年9月18日、厚生労働省は第136回社会保障審議会介護保険部会を開き、65歳以上の人が支払う「第1号保険料」のあり方を議論しました。
現在、国が示している標準的な所得区分は13段階です。
今回、第10期介護保険事業計画に向けて、高所得者の標準乗率と、住民税非課税から課税の段階へ移った際の保険料上昇をどう緩和するかが論点として提示されました。
ただし、「13段階を14段階や15段階に変更する」と決まったわけではありません。誰の保険料が、いくら上がるのかも、現時点では決まっていません。
そして今回の「介護保険料」は、介護サービス利用時の「1割・2割・3割負担」とは別の仕組みです。
最初に結論|今回は「2割負担」の話ではない
介護保険では、「負担」という言葉が複数の制度で使われています。
| 第1号保険料 | 利用者負担 | |
|---|---|---|
| 何のお金? | 介護保険制度を支えるための保険料 | 介護サービス利用時の自己負担 |
| 主な対象 | 65歳以上の第1号被保険者 | 介護保険サービス利用者 |
| いつ払う? | サービス利用の有無とは別 | サービスを利用したとき |
| 所得との関係 | 所得段階などで保険料が変わる | 原則1割、一定以上所得は2割・3割 |
| 今回の議論 | こちら | 別の議論 |
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「65歳以上の介護保険料を所得段階で分ける話」と、「介護サービス利用時の2割負担対象を広げる話」は別です。
まず、何のお金について議論しているのかを分けることが大切です。
65歳以上が支払う「第1号保険料」とは
介護保険では、65歳以上を「第1号被保険者」、40~64歳の医療保険加入者を「第2号被保険者」としています。
介護保険では、給付費の50%を公費、残る50%を保険料で支えることを基本としています。
保険料50%は、第1号被保険者と第2号被保険者の人口比を基礎に分けられています。
現在の第9期、2024~2026年度では、第1号側が23%、第2号側が27%です。
23%は、単なる固定値ではありません。
第1号・第2号被保険者の人口比を基礎として、計画期間ごとに法令上設定される割合です。
第1号保険料は、市町村がその地域で必要になる介護サービス量や給付費などを見込み、3年間の介護保険事業計画ごとに設定します。
現在の第9期の全国の保険料基準額は、加重平均で月額6,225円です。
第8期の6,014円から、全国平均では3.5%上昇しました。
6,225円は全国の市町村の「基準額」を加重平均した数字です。
実際の基準額は市町村によって異なり、さらに本人の所得状況などによって乗率が変わります。
なぜ介護保険料は13段階あるのか
介護保険制度が始まった2000年当初、第1号保険料の標準段階は5段階でした。
背景にあるのは、「同じ金額を全員に求めるのではなく、負担能力に応じて負担を分ける」という考え方です。
第9期では、第1号被保険者内の所得再分配機能を強めるため、高所得者の段階を増やして標準乗率を引き上げる一方、低所得者側の標準乗率を引き下げました。
現在の13段階を大きく3つに分けると
| 区分 | 主な課税状況 |
|---|---|
| 第1~第3段階 | 市町村民税が世帯全員非課税の人など |
| 第4・第5段階 | 本人は非課税だが、世帯に課税者がいる |
| 第6~第13段階 | 本人が市町村民税課税 |
標準乗率では、第5段階が1.0、第6段階が1.2、最上位の第13段階が2.4です。
第13段階は、合計所得金額720万円以上が国の標準です。
ただし、この「13段階」だけを見ても、低所得者の実際の負担は分かりません。
第1~第3段階には「公費による負担軽減」もある
低所得者の保険料負担は、所得段階だけで調整されているわけではありません。
第1~第3段階では、公費による追加の軽減措置があります。
| 所得段階 | 標準乗率 | 公費軽減後の最終乗率 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 0.455 | 0.285 |
| 第2段階 | 0.685 | 0.485 |
| 第3段階 | 0.690 | 0.685 |
厚労省資料では、第1~第3段階に位置する世帯全員非課税層は、65歳以上全体のおよそ3割です。
この低所得者軽減には公費が投入され、2024年度予算では国費595億円とされています。
低所得者の場合、所得段階に加えて「公費軽減が適用されるか」も実際の負担に影響します。
この仕組みが、今回の「課税化に伴う上昇緩和」を理解するうえで重要です。
第10期で論点になった「課税化に伴う上昇」とは
9月18日の資料では、近年の公的年金支給額の引上げに伴い、住民税非課税者の段階から課税者の段階へ移った際、介護保険料の引上げ幅が大きいことが国会などで指摘されていると整理されています。
ここで注意したいのは、「第5段階から第6段階へ移ることだけ」が問題とされているわけではないことです。
厚労省の「検討のイメージ」では、
という3つの層をまたいだうえで、「課税化に伴う上昇緩和を含めた標準段階の見直し」が示されています。
例えば、本人非課税から本人課税へ移れば、第5段階の標準乗率1.0から第6段階1.2へ移る場合があります。
一方、第1~第3段階には公費軽減があります。
課税状況が変われば、単に段階が上がるだけではなく、公費による軽減の対象から外れることも関係します。
所得や課税状況が変わったときに、段階制と公費軽減が重なり、実際の負担がどう変化するのか。制度全体の設計が問われています。
なぜ今、「課税化」が論点になっているのか
厚労省資料では、公的年金額が近年上昇していることも示されています。
| 年度 | 改定率 |
|---|---|
| 2023年度 | +2.2% |
| 2024年度 | +2.7% |
| 2025年度 | +1.9% |
| 2026年度 | +1.9% |
年金改定率の対象に注意
資料に掲載されている国民年金額は、各年度における67歳以下の人の老齢基礎年金満額です。
68歳以上では改定率が異なる年度があるため、第1号被保険者全体の年金が一律にこの率で増えたと読むことはできません。
また、「年金額が上がったのだから、生活に余裕が生まれた」と直ちに判断することもできません。
2025年12月の介護保険部会意見では、委員から、最近の物価高騰に対して年金生活者の所得はそれに比例して増えていかないため、年金生活者の所得水準に応じて負担段階を適切に見直すべき、という趣旨の意見も示されています。
介護保険部会で示された複数の意見の一つです。
同じ議論では、
第1号被保険者間の所得再分配をさらに強化すべき。
年金生活者の所得水準に配慮すべき。
保険料をこれ以上増やすのは難しく、公費負担割合を増やすべき。
といった、異なる方向からの意見も出ています。
つまり第10期の議論は、単純な「値上げか、値下げか」ではありません。
もう一つの論点|高所得者の乗率をどうするか
第10期では、「高所得者の標準乗率の見直し」も論点として提示されています。
現在、国の標準では最上位の第13段階が2.4です。
しかし、実際には国より細かい段階を設定している市町村もあります。
| 段階数 | 保険者数 |
|---|---|
| 15段階 | 123 |
| 16段階 | 63 |
| 20段階 | 9 |
つまり今回の議論は、「国が突然13段階より増やそうとしている」というより、すでに自治体ごとに進んでいる多段階化や高所得者への乗率設定も踏まえて、国の標準をどうするかという議論でもあります。
第13段階の乗率を何倍にするのか。
720万円という所得基準を変えるのか。
13段階そのものを何段階にするのか。具体案はまだ示されていません。
高所得者の負担を増やすと、なぜ基準額に影響するのか
高所得者の保険料を増やしても、介護に必要な費用そのものが減るわけではありません。
一方、第1号被保険者全体で必要な保険料収入を所得段階ごとに分担するため、高所得層の乗率を高く設定すれば、保険料基準額を抑える方向に働きます。
2006年改正時の資料では、課税層の段階を増やし、標準割合より高い割合を設定することは、保険料基準額の算定上「保険財政の支え手の力を増やす」ことになり、結果として保険料基準額を下げることにつながる、という趣旨の説明がされています。
必要な保険料総額を、誰がどの程度分担するのかという一つの制度設計です。
第9期では「保険料の再分配」と「公費の使い方」も連動した
第9期で9段階から13段階へ多段階化し、第1号被保険者内の所得再分配機能を強めた際、低所得者負担軽減に使われていた公費の一部、約382億円が、介護従事者の処遇改善などを含む「介護に係る社会保障の充実」に活用されました。
これは、「高所得者から多く取ったお金を、そのまま処遇改善へ回した」という単純な話ではありません。
保険料の多段階化によって制度内部で所得再分配への対応を強めたことを踏まえ、公費の使い方も組み替えられた、という関係です。
そもそも、なぜ今また保険料を見直すのか
背景には、介護保険制度の規模そのものの拡大があります。
介護費用の総額は制度創設時から約4倍になっています。
必要な介護サービスを維持するには財源が必要です。
一方で、保険料を際限なく上げることもできません。
低所得者の負担をどう抑えるか。
高所得者にどこまで負担を求めるか。
所得区分をまたいだときの急激な負担変化をどうするか。
公費をどの程度投入するか。
第1号と第2号被保険者の負担をどう考えるか。
「13段階」という階段そのものも将来変わる?
9月18日の資料では、中長期の論点として「現行の階段方式を含めた第1号保険料制度のあり方」そのものについても検討が必要とされています。
ただし、第10期から階段方式を廃止すると決まったわけではありません。
厚労省は、
保険料額の更正が増えることによる自治体の事務負担。
標準化を進めている市町村システムへの負荷。
調整交付金制度との連動。
保険料の対価である給付額との関係。
などの課題があるため、中長期的な検討が必要としています。
第10期の当面の見直し論点と、制度全体の将来論は分けて読む必要があります。
第10期は2027年度から
現在の第9期介護保険事業計画は2024~2026年度です。
第10期は2027~2029年度となります。
各市町村では、第10期計画の作成に向けた準備が進められています。
今後、国の標準段階や標準乗率について具体案が示されたときが、次に確認すべきポイントです。
今回、何が決まり、何がまだ決まっていない?
- 現在の国の標準は13段階
- 第9期の全国平均基準額は月6,225円
- 第10期で高所得者の標準乗率が論点になった
- 課税化に伴う上昇緩和を含む標準段階見直しが論点になった
- 階段方式そのものは中長期的な検討課題
- 第10期の新しい段階数
- 各段階の所得基準
- 各段階の標準乗率
- 720万円の境界を変更するか
- 各市町村の実際の保険料額
「65歳以上の介護保険料が○円上がる」
「13段階から○段階になる」といった具体的な変更内容は、まだ確定していません。
福祉教育ラボの視点|「負担能力に応じる」と、そこには境界が生まれる
所得に応じて介護保険料を変えることには理由があります。
全員に同じ金額を求めれば、所得の低い人ほど生活に対する負担は重くなります。
そこで、負担能力に応じて段階を設ける。
さらに低所得者には公費を入れて負担を軽くする。
一方、高所得者にはより高い乗率を設定する。
制度としては一定の合理性があります。
しかし、段階をつくれば、そこには境界線ができます。
境界の少し下にいる人と、少し上にいる人。
実際の所得差は小さくても、保険料の計算上は別の段階になることがあります。
今回の「課税化に伴う上昇緩和」は、その境界で生じる負担の変化をどう扱うかという問題です。
そして難しいのは、境界だけを滑らかにしても、介護財政の問題そのものがなくなるわけではないことです。
介護に必要なお金は残ります。
誰かの負担を軽くしたとき、別の所得層で支えるのか。
第2号被保険者が支えるのか。
公費で支えるのか。
あるいは給付のあり方をどう考えるのか。
次の問いが生まれます。
だから、第1号保険料を見るときには、「私はいくら払うのか」という問いだけでなく、必要な介護を社会として、どのように支え合うのかまで見る必要があります。
第10期で問われているのは、「13段階を何段階にするか」だけではありません。
負担能力の違いを制度へどう反映しながら、必要な介護と制度の持続可能性を両立させるのか。その設計そのものが問われています。
まとめ|第10期の論点は「13段階の数」だけではない
2026年9月18日の第136回介護保険部会では、第10期の第1号保険料について、
高所得者の標準乗率と、
課税化に伴う上昇緩和を含む標準段階の見直し
が論点として提示されました。
現在の国の標準は13段階。
第9期の全国平均の保険料基準額は月6,225円です。
一方、低所得者には所得段階だけでなく、公費による保険料軽減も行われています。
つまり介護保険料は、「13個の階段」だけでできているわけではありません。
所得再分配。
公費。
第1号と第2号の負担。
自治体ごとの設定。
複数の仕組みを重ねながら成り立っています。
そして今回の議論は、介護サービス利用時の1割・2割・3割負担とは別です。
似た「負担」という言葉ほど、何のお金なのか、誰が払うのか、何を基準に決めるのか、どこまで決まっているのかを、一つずつ分けて確認することが制度を理解する第一歩になります。


