ICFはなぜ介護・福祉の共通言語なのか|医学モデルと社会モデルから生活を考える

FUKUSHI EDUCATION LAB | 学びの整理

「歩けるか」だけでは、その人の暮らしは見えてこない。

ICF(国際生活機能分類)は、身体の状態だけでなく、「何をしているか」「何に参加したいか」「周囲にどのような環境があるか」を関連づけて生活機能を捉えるための枠組みです。

WHOは、健康や健康関連状況を記述する共通言語の確立をICFの目的の一つに掲げています。ただし、同じ用語を知るだけで連携が成立するわけではありません。本人の希望と具体的な生活場面を、異なる立場の人が持ち寄って対話することが重要です。

1.ICFは、なぜ「共通言語」なのか

脳卒中後に歩行が不安定になった人がいるとします。医師・看護師は身体状態や転倒リスクに、リハビリテーション専門職は移動能力に、介護職は日常生活に、相談援助職は家族や社会資源に目を向けるかもしれません。どの視点も大切です。しかし、情報が個別に並んだままでは、「本人がどんな生活を送りたいのか」が見えにくくなります。

視点が分かれた報告

「歩行が不安定です」

身体機能の説明として重要でも、それが日々の暮らしや本人の希望にどう結びつくかは分かりません。

生活機能に結びつけた共有

「買い物に行きたいが、玄関の段差が障壁になっています」

身体の状態・活動・参加・環境・本人の意向を結びつけることで、関係者が次の支援を考えやすくなります。

ICFは、専門職の視点を統一して一色にするものではありません。異なる観察を生活機能という枠組みで整理し、本人や家族を含む関係者が話し合うための共通の見取り図です。WHOの日本語版を掲載した厚生労働省も、保健医療従事者・研究者・政策立案者・一般市民などの間のコミュニケーションを改善することを目的に挙げています。

2.ICFの全体像を図でつかむ

ICFの正式名称は International Classification of Functioning, Disability and Health(国際生活機能分類)です。2001年5月22日、第54回世界保健総会で承認されました。生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」から捉え、健康状態や背景因子との相互作用を考えます。

健康状態

病気・けが・健康上の状態など

生活機能(互いに影響し合う3つの視点)

心身機能・身体構造筋力、痛み、記憶、身体の構造など
活動歩く、着替える、料理をするなど
参加家庭や地域での役割、生活場面への関わり

背景因子(生活機能に影響する条件)

環境因子段差、手すり、家族、支援者、制度、社会的態度
個人因子年齢、生活歴、価値観、ライフスタイルなど
WHO・厚生労働省のICFの考え方をもとに、福祉教育ラボが説明用に再構成した模式図です。矢印は一方向の因果関係ではなく相互作用を表します。WHO公式の分類図をそのまま転載したものではありません。

「活動」は課題や行為の遂行、「参加」は生活・人生場面への関わりを意味します。環境因子には、物的な環境だけでなく、支援者の存在や制度、社会の態度も含まれます。一方、個人因子はICFの枠組みには含まれますが、分類コードとしては体系化されていません。

ここが重要です。 身体機能が変わらなくても、手すりの設置や移動支援によって活動や参加の可能性が変わることがあります。逆に、段差や周囲の態度が生活の障壁になることもあります。ICFは、一つの要素だけを原因と決めつけないための視点です。

3.医学モデルと社会モデルを、どう結びつけるのか

障害を考える際には、「本人の身体状態に働きかける」視点と、「社会の側にある障壁を見直す」視点があります。どちらか一方だけでは、生活の全体像を十分に捉えられないことがあります。

MEDICAL MODEL

医学モデル

障害を個人の健康状態などに関わる問題として捉え、治療・訓練・専門職による介入を重視する見方です。

例:痛みの治療、歩行能力の評価、リハビリテーション

SOCIAL MODEL

社会モデル

障害を主として社会がつくり出した問題として捉え、物理的・制度的・態度的な障壁の変更を重視する見方です。

例:段差の解消、移動手段の確保、参加しやすい仕組み

ICF:生物・心理・社会的なアプローチ身体の状態を無視せず、同時に環境や社会的条件も考えます。医学的支援を否定するものでも、社会環境だけですべてを説明するものでもありません。

この関係を深めたい方は、障害の社会モデルの用語解説も参照してください。

4.事例で考える――「歩ける」と「外出できる」は違う

次は考え方を説明するための架空の事例です。ある人は施設内で短距離なら介助なしで歩けます。しかし、地域の道路には段差があり、一人での外出を控えています。本人は「近所のお店に買い物に行きたい」と話しています。

環境が障壁になる場合

施設内では歩けるのに、外に出られない

玄関や道路の段差、移動支援の不足などによって、本人が希望する買い物への参加が難しくなっています。

環境を調整する場合

外出の選択肢が広がる可能性

段差への対応、移動手段、同行者の有無を検討することで、身体機能が同じでも外出の選択肢が増える場合があります。

一つの事例をICFで整理すると

心身機能・身体構造歩行の安定性、疲れやすさなど
活動屋内歩行、屋外移動、買い物という行為
参加本人が望む地域での暮らしや関わり
環境因子・個人因子段差、移動支援、同行者/本人の生活歴や価値観など

「能力」と「実行状況」の違い

ICFでは、活動と参加の領域について、標準的な環境で課題を遂行する能力(capacity)と、現在の環境で実際に行っている実行状況(performance)を区別できます。

比べる視点能力(capacity)実行状況(performance)
評価する環境標準的な環境実際の生活環境
何を確かめるかその課題を遂行できるか生活の中で実際にどう行っているか
事例に引きつけると一定の条件下でどの程度移動できるか現在の地域環境でどのように外出しているか

注:これは評価の考え方を理解するための例です。ICFの「能力/実行状況」は、「できるADL/しているADL」と機械的に同義とはいえません。評価する課題・場面・環境を確認する必要があります。

支援を考えるときには、筋力や歩行訓練だけでなく、歩道の状況、移動支援、同行者、そして本人がどこへ行きたいのかまで確認します。何を優先するかは本人との対話によって決めます。これは「自立支援」と「できることを増やす」は同じではないという視点にもつながります。

5.介護過程や多職種連携では、どう使うのか

ICFは介護過程の手順そのものを定めたものではありません。以下は、ICFの視点を介護過程にどう生かせるかについて、福祉教育ラボが実践に引きつけて整理したものです。

STEP 01

情報収集

病名やADLの可否に加え、活動・参加・環境、本人の望みを幅広く把握します。

STEP 02

解釈・関連づけ

生活上の困難を能力不足だけに帰さず、本人の状態と環境の相互作用を検討します。

STEP 03

統合化・課題の明確化

集まった情報をつなぎ、本人が望む暮らしと支援上の優先課題を整理します。

STEP 04

計画・実施・評価

機能面だけでなく、本人にとって意味のある活動や参加の変化も確かめます。

会議での伝え方を変えてみる

情報が一つだけの場合

「歩行能力が低下しました」

身体状態の情報として重要ですが、生活上の意味はまだ分かりません。

生活を含めて共有する場合

「屋内は移動できますが、玄関の段差が障壁になり、希望する買い物に行けていません」

できること・していること・環境・本人の希望がつながります。

専門職が同じ分類語を使うだけでなく、具体的な生活場面と本人の意向を共有することが大切です。また、ICFの項目をチェックリストとして埋めることに終始したり、本人の語りを専門職の用語へ置き換えすぎたりすると、生活の固有性を見失うおそれがあります。

共通言語とは、違いを消すための言語ではありません。 専門性や経験の異なる人が、同じ人の暮らしについて対話するための言語です。分類の枠組みと、本人との関係形成・意思決定支援は、補い合うものです。

6.教育現場で、共通言語をどう学ぶか

筆者の授業での経験から、外国人受講者を含む介護福祉士養成の授業では、専門用語を暗記するだけでなく、一つの生活事例を「身体の状態」「活動」「参加」「周囲の環境」に分けて話し合うことが、ICFの意義を考える助けになります。

受講者の背景や国籍によって理解の仕方を一般化することはできません。異なる経験を持つ学習者が、同じ事例から異なる視点を出し合うこと自体が、共通言語の必要性を学ぶ機会になります。

授業・研修で使える問い

「外出できない」と聞いたとき、何を確かめますか?

  1. 本人は、どんな場所に行き、何をしたいのでしょうか。
  2. 身体機能・活動・参加について、何が分かり、何が分からないでしょうか。
  3. 阻害因子と促進因子になり得る環境は何でしょうか。
  4. 本人の意向を尊重しながら、どの職種と何を相談しますか。

ICFについて、よくある3つの疑問

Q.ICFは障害のある人だけの分類ですか?
いいえ。ICFは健康状態に関連した生活機能を幅広く記述する枠組みであり、障害のある人に限定されません。
Q.ICFを使えば、多職種連携が自動的にうまくいきますか?
いいえ。共通の見方を提供しますが、本人の意向の確認、職種間の対話、具体的な支援の調整が必要です。
Q.個人因子もICFの分類コードで評価しますか?
個人因子は背景因子の一つですが、ICFの分類コードとしては体系化されていません。個人の価値観などを一律に分類しないことも大切です。

まとめ|ICFは「人を分類して終わる」ものではない

ICFの価値は、人を一つの見方だけで判断しないことにあります。病気や障害をみる視点、日常の活動をみる視点、参加の機会をみる視点、環境をみる視点を結び、本人が望む暮らしを中心に考える。その対話を支えるとき、ICFは介護・福祉の共通言語として働きます。

「何ができないか」だけで終わらず、「どんな暮らしを望み、何がその可能性を支え、何が妨げているのか」を問い続けること。そのための見取り図として、ICFを活用していきたいと考えます。

一次資料・参考資料

資料確認日:2026年10月16日。図・比較・事例は、一次資料をもとに福祉教育ラボが解説用に構成したものです。生活事例は架空であり、特定の人を示すものではありません。