通所介護の44.8%が赤字|WAM調査、増収でも費用増が上回る

福祉教育ラボ|制度・ニュースメモ

WAMが2024年度の通所介護5,976事業所を分析したところ、赤字事業所は44.8%でした。経年比較では、同一4,855事業所で収益が1.7%増えた一方、費用は2.4%増加。数字の背景から、通所介護の経営を考えます。

最初に結論|「赤字44.8%」だけでは、通所介護の現在地は見えない

独立行政法人福祉医療機構(WAM)が2026年10月9日に公表した「2024年度 通所介護の経営状況について」では、分析対象5,976事業所のうち 44.8%が赤字 でした。 [1]

ただし、2024年度は「売上が減ったから利益が減った」だけではありません。

同一事業所で比べると収益は増えています。それ以上に費用が増えたことで、収益性が低下しました。さらに黒字・赤字事業所の間には、利用率で10.0ポイントの差がありました。

まず、今回の数字を3つに分けて整理
2024年度の全体値

5,976事業所を分析。

赤字事業所割合は44.8%。

経年比較

両年度のデータがそろう4,855事業所で比較。

赤字割合は43.3%→45.5%。

読み方に注意

利用率と赤字には関係がみられます。

しかし「利用率を上げれば必ず黒字になる」という因果関係を示した調査ではありません。

増収したが、それ以上に費用が増えた

2023年度と2024年度の両方でデータがそろう4,855事業所を比較すると、1事業所当たりのサービス活動収益は6,080万5,000円から6,184万2,000円へ増えました。

増加額は103万7,000円、率にすると1.7%です。

一方、サービス活動費用は5,924万6,000円から6,066万7,000円へ増加しました。

増加額は142万円、2.4%です。

同一4,855事業所でみた2024年度の変化
+1.7% サービス活動収益
+2.4% サービス活動費用
-24.6% サービス活動増減差額
1.9% サービス活動増減差額比率
前年2.6%
2023年度と2024年度の両年度で比較可能な同一4,855事業所のデータです。 [1]

その結果、1事業所当たりのサービス活動増減差額は155万9,000円から117万6,000円へ減少しました。

金額では38万3,000円、率にして24.6%の減少です。サービス活動増減差額比率も2.6%から1.9%へ0.7ポイント低下しました。 [1]

「44.8%」と前年比較は、同じ母集団ではありません

44.8%は2024年度の5,976事業所全体の値です。前年比を考えるときは、WAMが経年分析に用いた同一4,855事業所の43.3%→45.5%を見る方が適切です。

何の費用が増えたのか

まず、人件費です。

従事者1人当たり人件費は364万4,000円から373万7,000円へ増加しました。年間9万3,000円、2.6%の増加です。 [1]

WAMは、人件費増加の背景として、2024年度介護報酬改定による処遇改善や最低賃金の引上げなどを挙げています。

人件費率は66.9%から67.3%へ0.4ポイント上昇しました。

経費率も25.6%から26.0%へ0.4ポイント上昇し、そのうち水道光熱費率は4.6%から4.8%へ0.2ポイント上昇しています。

WAMは、2023年度には通年で適用されていた電気・ガス料金への政策支援が、2024年度には8か月間へ短縮したことも影響した可能性を指摘しています。 [1]

通所介護では、人件費だけでなく、送迎車両、燃料、光熱費、食事、建物維持など、さまざまな費用が発生します。

一方、介護サービスの価格は、公定価格である介護報酬によって決められています。

厚生労働省も2027年度介護報酬改定に向けた「基本的な視点(案)」で、介護サービスは公定価格であるため、物価や賃金の上昇によるコスト増を事業者が自ら価格へ反映することが難しいという構造を示しています。 [5]

黒字と赤字を分けた大きな違いは「利用率」

では、黒字事業所と赤字事業所では何が違ったのでしょうか。

黒字事業所 3,296件 利用率 75.1%

利用者1人1日当たりサービス活動収益は9,558円。

赤字事業所 2,680件 利用率 65.1%

利用者1人1日当たりサービス活動収益は9,490円。

利用率の差は10.0ポイントです。

一方、利用者1人1日当たりのサービス活動収益の差は69円でした。

WAMは、黒字・赤字事業所の収益差には利用率の違いによる影響が大きいと分析しています。 [1]

黒字事業所と赤字事業所の主な違い
項目 黒字事業所 赤字事業所
事業所数 3,296件 2,680件
利用率 75.1% 65.1%
1人1日当たり収益 9,558円 9,490円
1事業所当たり収益 6,734万1,000円 5,465万2,000円
従事者1人当たり人件費 358万7,000円 385万2,000円
人件費率 60.0% 76.9%

「利用率を上げれば黒字になる」とは限らない

ここは慎重に考える必要があります。

今回のデータでは、黒字事業所と赤字事業所の間に利用率の差が確認されています。

しかし、これは 「利用率を上げれば必ず黒字になる」 ことを証明したものではありません。

赤字事業所では、従事者1人当たり人件費が黒字事業所より26万5,000円高く、人件費率も16.9ポイント高くなっています。

ただし、人件費率は「人件費を収益で割った割合」です。収益が小さければ、同じ人件費でも割合は高くなります。

WAMも、赤字事業所の人件費率が高い背景について、収益の少なさと従事者1人当たり人件費の双方が影響していると整理しています。 [1]

事業所経営を見る際には、利用率だけではなく、登録者数、利用者単価、人員配置、人件費、稼働日数、送迎範囲、光熱費や給食費、地域の人口や介護ニーズ、周辺事業所との関係などを分けて見る必要があります。

黒字へ転換した事業所では利用率が6.2ポイント上昇

WAMは、2023年度から2024年度にかけて黒字・赤字が変化した事業所についても分析しています。

赤字 → 黒字 504事業所 65.2% → 71.4%

利用率は6.2ポイント上昇。1事業所当たりサービス活動収益は603万2,000円増加しました。

黒字 → 赤字 611事業所 70.2% → 66.6%

利用率は3.6ポイント低下。1事業所当たりサービス活動収益は353万3,000円減少しました。

WAMは、こうした利用率の変化が黒字・赤字転換の一因となっている可能性を指摘し、登録者数や利用率の状況を踏まえた取組が重要だと整理しています。 [1]

ただし、ここでも「利用者を増やせばよい」という単純な話ではありません。

地域でどのようなサービスが必要とされているのか。利用者本人や家族は何を求めているのか。ケアマネジャーから見て、どのような役割を任せられる事業所なのか。

サービスの質と地域ニーズへの対応が、結果として利用率にもつながっていきます。

通常規模型では赤字事業所が48.3%

事業所規模別の赤字事業所割合と利用率
規模 赤字割合 利用率
地域密着型 40.6% 74.6%
通常規模型 48.3% 68.9%
大規模型Ⅰ 30.5% 74.2%
大規模型Ⅱ 27.7% 76.8%

最も赤字割合が高かったのは通常規模型で、半数近くが赤字となっています。

サービス活動増減差額比率も通常規模型が1.1%と最も低い結果でした。 [1]

WAMは、通常規模型について、利用者単価ではなく利用率に課題があると整理しています。

ただし、この結果から「大規模化すれば黒字になる」と結論づけることはできません。地域の人口構造、定員、建物、人員配置、送迎距離、提供するプログラムなど、経営条件は事業所ごとに異なります。

2026年度の「+2.03%」をどう読むか

今回のWAM調査は、2024年度決算を分析したものです。

その後、2026年度には介護報酬の期中改定が行われ、全体の改定率は+2.03%となりました。 [4]

ただし、この「+2.03%」を、通所介護の基本報酬が一律に2.03%引き上げられたと理解するのは正確ではありません。

厚生労働省の「令和8年度介護報酬改定の概要」では、内訳として、

  • 介護分野の職員の処遇改善分 +1.95%(2026年6月施行)
  • 基準費用額(食費)の引上げ分 +0.09%(2026年8月施行)

が示されています。 [4]

+0.09%の食費は、通所介護の基本報酬ではありません

ここでいう食費の基準費用額は介護保険施設等に関する仕組みです。通所介護の基本報酬へ+0.09%が直接上乗せされるという意味ではありません。

したがって、2026年度の+2.03%を、そのまま「通所介護の経営収入が2.03%増える改定」と読むことはできません。

2027年度介護報酬改定では何が議論されているのか

厚生労働省は「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」で、物価や賃金の上昇が続き、さまざまな経費が増加していることを基本認識として示しています。 [5]

そのうえで、事業者の経営状況や介護分野の賃上げ状況などを把握し、物価・賃金の上昇等を介護報酬へ適切に反映して経営の安定を図り、処遇改善につなげる方向を示しています。 [5]

一方、介護保険制度の安定性・持続可能性を確保するため、報酬評価の適正化・重点化や体系の整理・簡素化を進める必要性も示されています。 [6]

したがって、「経営が厳しいので、2027年度は一律に大幅なプラス改定になる」と決まったわけではありません。

具体的な改定率、通所介護の基本報酬、加算、算定要件などは、今後の介護給付費分科会で検討されます。

福祉教育ラボの視点

「44.8%が赤字」の先を見る

「通所介護の赤字事業所44.8%」。

非常に大きな数字です。

しかし、この数字だけを見て「介護報酬が低すぎる」、あるいは「事業所の経営努力が足りない」と、どちらか一方に結論づけると、今回の調査が示している構造を十分に捉えられません。

同一事業所比較では、収益は増加しました。利用率は69.6%から70.3%へ上昇し、利用者1人1日当たりの収益も9,443円から9,536円へ上昇しています。 [1]

それでも、費用の増加が収益の増加を上回りました。

同時に、黒字事業所と赤字事業所の間には利用率で10.0ポイントの差がありました。

つまり今回の資料からは、

  • 公定価格でサービスを提供する制度側の構造
  • 人件費や物価上昇という外部環境
  • 利用率や登録者数といった個々の事業所経営

少なくとも、この三つを一緒に考える必要があることが見えてきます。

そして利用率も、単なる「営業成績」ではありません。

その地域で暮らす高齢者に、どのような通所介護が必要なのか。本人や家族が何を求めているのか。ケアマネジャーがどのような支援を任せたいのか。

認知症支援、入浴、食事、リハビリテーション、社会参加、家族支援など、その事業所だから提供できる価値は何なのか。

必要とされる支援を提供することと、その支援を続けられる経営をつくることは、本来切り離せないものです。

2027年度介護報酬改定を見る際にも、「何%上がるのか」だけではなく、 地域で必要な通所介護を、どうすれば持続可能な形で残していけるのか まで考える必要があります。

今後、確認したいこと

今後の確認ポイント
2027年度介護報酬改定の全体改定率
通所介護の基本報酬
各種加算・減算
物価・賃金上昇の反映方法
人員配置や生産性向上の評価
事業所規模別の評価
地域の介護需要
地域のサービス提供体制

なお、今回のWAM調査は、WAMの融資先事業所から報告されたデータを分析したものです。

全国すべての通所介護事業所を対象とした悉皆調査ではなく、設立後1年未満の事業所も分析対象に含まれていません。

また、介護予防・日常生活支援総合事業など、事業所で一体的に実施される介護予防サービス等も含まれます。 [1]

WAMの2024年度調査では、通所介護5,976事業所の44.8%が赤字でした。

しかし、経営悪化を「利用者減」や「人件費増」の一つだけで説明することはできません。

同一事業所では収益が1.7%増える一方、費用は2.4%増加しました。

また、黒字・赤字事業所では利用率に10.0ポイントの差が確認されました。

制度としての公定価格、物価・賃金という外部環境、地域で選ばれるサービスづくり。この三つを切り離さずに見ることが、通所介護の持続可能性を考えるうえで重要です。

一次資料

本記事は、WAMおよび厚生労働省が公表した一次資料をもとに整理しています。

  1. 独立行政法人福祉医療機構(WAM)|「2024年度 通所介護の経営状況について」 2024年度の通所介護5,976事業所の経営状況、同一4,855事業所の経年比較、黒字・赤字別、規模別、黒字転換・赤字転換事業所の分析を確認できます。 WAM公式リサーチレポート(PDF)を確認する
  2. 独立行政法人福祉医療機構(WAM)|「SC Research Report」 WAMが公表しているリサーチレポート一覧です。 WAMリサーチレポート一覧を確認する
  3. 厚生労働省|「令和8年度介護報酬改定について」 令和8年度介護報酬改定の概要、審議報告、告示・通知等の公式掲載ページです。 厚生労働省公式ページを確認する
  4. 厚生労働省|「令和8年度介護報酬改定の概要」 改定率+2.03%、うち処遇改善分+1.95%、基準費用額(食費)+0.09%などを確認できます。 令和8年度介護報酬改定の概要(PDF)を確認する
  5. 厚生労働省|「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」資料1 公定価格と物価・賃金上昇、経営安定、人材確保、制度の持続可能性など、2027年度改定に向けた基本認識を確認できます。 資料1・本文PDFを確認する
  6. 厚生労働省|「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)概要」資料2 2027年度介護報酬改定に向けた基本的な視点を1枚で整理した概要資料です。 資料2・概要PDFを確認する
注意:WAMの44.8%は2024年度の5,976事業所全体の赤字割合です。経年比較は同一4,855事業所を対象に行われています。また、WAMの融資先を対象とした分析であり、全国すべての通所介護事業所を対象とした悉皆調査ではありません。